ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第四十三話【早朝の出発で】

           

夜が明けて日が昇り始める早い時間に宿屋の扉がゆっくりと開く。
そこには湖張たちの姿があった。
というのも目指す塔は近い位置とはいえ、目的地への到着を午前中にするにはこの時間から出発しなくてはならなかったからだ。
しかしながらラナナは相当楽しみで有った様子で、直ぐに目が覚めてしまったようだ。
今日の早起きは特に問題がなさそうである。

「何か面白い荷物の持ち方だね」
宿屋を出るなり、ラナナに話しかける湖張。
というのも、彼女も旅をしていたので手荷物があるのだが
それらは革製のトランクで一つにまとめられている。

そしてそのトランクなのだが宙を浮いており、ラナナの腰付近の高さに位置している。
また紐が付いており、彼女はそれを犬の散歩のように引いて歩いているのである。
「ええ、荷物を持つと疲れますので、こうすると楽なのですよ」
笑顔でラナナが返答すると、湖張はペットの様なカバンをジッと見つめる。
「でもそれって常に魔法を使っているのでしょう?疲れない?」
「いえ、そんな事は無いですよ?
一度浮遊の魔法をかけてしまえば1時間は浮きっぱなしですし、さほど魔力も使いません。
私から言わせれば手に持つ方が疲れますね」
「あー確かに手に持つ事も力を常に消費しているね。すると変わらないか」

湖張が納得するようにそう言うと、今度は自分の荷物をジッと見つめる。
「えっと・・・多分こうかな?」
自分の手荷物に魔法をかけ始める湖張。すると彼女の荷物も同様に宙を浮き始めた。
「ほう」
それを見て感心するレドベージュ。一方ラナナはキョトンとした顔で湖張の様子を窺う。

「あれ?湖張姉さまもその魔法を使えるのですか?」
その質問に対して首を横に振る湖張。
「ううん、今日が初めて。さっきラナナが使っていた魔法を見てたら多分こうかなって思ってやってみたら出来ちゃった」
苦笑いで湖張が答えると、ラナナは難しい顔をしながら腰に手を当てる。
「何度も聞きますが、湖張姉さまって本当に格闘家なのですか?」
「そうだよ。ラナナだって見ただけで魔法を覚える事あったのでしょ?それと同じじゃないかな?」
「そう言われると・・・まあそうですね。似た者同士という事にしておきましょうか」
「そうそう」
湖張の返しを聞くと、何となく納得した素振りを見せるラナナ。
そして自分の荷物を見てから再度湖張に話しかける。

「ちなみにこの魔法は他にも仕掛けがあるのですよ。
湖張姉さま、私の荷物を引っ張ってみてください」
「うん?ラナナの持っている紐を引っ張れば良いの?」
「ええ、それでも良いですし、取手でもどこでも良いですよ」

そう言われると、カバンの取手の部分を握りしめて持ち上げる湖張。
しかし不思議な事にその荷物はびくともしなかった。
「あれ?え?嘘?動かない?何で?」
その反応を見て小さく笑うラナナ。
「ふふふ、実はこの魔法には仕掛けがあって、術者である私にしか移動が出来ないのですよ。
なので盗難防止にもなっているのです」
「へー!!それは便利だね!確かにただ浮かせているだけだったら
持って行ってと言っているようなものだもんね」
「はい、湖張姉さまも是非やってみてください」
「うん、そうしよう」

そう言うなり自分の荷物に再び魔法を掛けなおす湖張。
そして成果を試すため、ラナナに荷物を引っ張ってもらうと、ピクリとも動く事はなかった。
「お?成功したようだね?」
湖張がニカっと笑うと、ラナナは再び呆れ顔を見せる。
「湖張姉さまって・・・」
「ほらほら、その続きは言わないの。ラナナだって見ただけで覚えたのでしょう?」
「はあ、まあそうですね・・・特に問題もなく決して悪い事でもありませんし」
「そうそう、それで良いの。
ところでさ、今日は長い杖を持っているけど本当はそれがラナナの武器というか、魔法の補助具というかそんな感じなの?」

昨日は手ぶらでダイアント退治をしていたので気づかなかったが、
今日は荷物を持っての移動という事もあり、必然的に彼女の持ち物を見る事になる。
その中にラナナの背丈とほぼ変わらない程の長さのある銀色で細い金属製と思われる杖があった。
杖の先端にはエメラルド色の宝玉の様なものが付いており、いかにも魔法使いが使いそうな杖と言った感じである。

「はい、この杖があると魔法の威力が上がったり、魔法を撃っても疲れを軽減する効果があるのですが、
長くて手荷物になるので、あまり活用はしていないのが本音ですね。
本当は必要ないと思っていましたし、持つとしても片手で持てる小さいタイプの方が良かったのですが、
先生がどうしてもこれを持っていきなさいと言って譲ってくれず、そのまま押し通されてしまいました」
「ああ、だから昨日は何も持っていなかったんだ?」
「はい、でもまあ先生も心配されたが故なのでしょうけどね」
苦笑いでラナナが答えると、今度は杖までも浮かせて移動し始める。

「それにこうすれば両手も使えますし、問題はあまりありません」
ニコっとそう語るラナナ。その姿を湖張はジッと見つめる。
「うん、なるほど」
何かを納得したような素振りを見せると、今度はレドベージュに話しかける。

「ところでレドベージュ、今日の予定はどうする?
とりあえずまたあの賑やかな村に行ってから塔を目指す?
それともこのまま塔に向かっちゃう?」
「うむ、あの村に寄ってからだと昼までには塔には着かない。
なのでこのまま塔のある南西に向かって歩くぞ。
その後はまたあの賑やかな村に移動して一泊するとしよう」
「賑やかな村です?」
「あー・・・うん、賑やかな村だよ。
まあ行ったら分かるよ」
遠い目で湖張がそう言うと、ラナナは不思議そうな顔で「そうですか」と答えた。

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