ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十話【戦略魔法】
- 2026.02.22
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
何と返して良いのか迷いながらも、言葉を発するラナナ。
「はい。ですが・・・」
「赤き聖者として必要な力だった。ですよね?」
自らの言い分を伝える前に師の目の勢いが少し弱くなり、理解を示すような雰囲気になると、ラナナは簡単な答えだけを返す。
「・・・はい」
そこで持ったままの手紙に目を移す師。そしてもう一度読み直す間を取った後に伝える。
「失礼、少し見た目が騒がしくなります」
頭の高さより少し上の位置からパッと手紙を手放すと、青白い炎が急に発生し、瞬く間に手紙は焼失して光の粒になって消えてしまった。
「え!?」
「ゼン君は手紙の内容を私以外には見せられないと判断したのでしょう。全文を表示した後に私の手から離れたら焼失し形に残らない安全装置を仕掛けていたようです。実際に手紙の最後には手を離したら手紙を燃やすと記載されておりました」
「それが他に書いてあった事ですか?」
懐疑的な様子のラナナ。表情を変えずに答える師。
「まあそうですね。ですがそれだけではありません。そんな目をしないでください。ちゃんと伝えますから。ただ、どうしてもエマシデンシが関わってくる事ですので確認を取りたかったのですよ」
「エマシデンシが・・・ですか?」
「ええ、エマシデンシです。私にとっては、とても重要な事なのです」
「・・・危険な魔法だからですか?」
少し気まずそうな目に変わるラナナ。師は表情を変えない。
「ええ。ですがここで前提のお話をします。私は貴女を信頼しています。ですので貴女の判断を尊重しますし、否定する気はありません。ただこれから心が痛む話になるかもしれませんが、今から伝えておきます。気にはしなくて大丈夫です」
そう伝えられると、さらに硬い表情になるラナナ。それを確認するとレドベージュに視線を移す師。
「レドベージュ様、戦略魔法をご存じですか?」
「人に力が必要な時に人を守る力としてダラで研究されている強力な魔法とラナナから聞いている」
そう伝えられると、師は目を閉じて「そうですか」と返し数秒の間、沈黙する。何かを考えているようにも思える。
次の言葉をラナナはじっと待っていると、目を開き話を再開する師。
「私はですね、戦略魔法が大嫌いなのですよ。戦争のための魔法と思っておりますので」
「戦争・・・なのか?」
レドベージュが聞き返すと、ラナナは師に対して意見をする。
「ドラゴンズディストラクションに備えての研究と私は聞いています」
表情を変えない師。
「ええ、そういう名目ですよね。ですが考えてみてください。そもそもドラゴンズディストラクションがあったかどうか我々は分かっていないではないですか。それに対する力の準備など馬鹿げています」
そう伝えられるとレドベージュに視線を移すラナナ。世間一般ではドラゴンズディストラクションの真実は知られていないので、どう接するべきか迷ったが故に確認を取りたい思いからだった。
その中で師は話を続ける。
「ですが私的にはドラゴンズディストラクションが実際にあったかどうかなどは重要ではありません。その名のごとく戦略に使える魔法をいくつも研究している点が危険な流れと見ていますので。ダラは魔法の最高峰です。高度な頭脳と力、才能を持つ者を多く輩出し続けています。故に様々な利権や金が絡んでくる事も事実。貴族が便宜や大金をちらつかせ、力や人材を手に入れているという事案が過去にいくつもあります」
「そんな!?」
ラナナは信じられないといった顔を見せる。
「残念ながら事実ですよ。そして更に言いますと、ダラと関りが強い貴族には好戦的で武力による外交も辞さない思想・・・タカ派とでもいうのでしょうね。その数が多いです。そして最近はとある隣国との関係が悪化しつつあります」
「ふむ、確かに隣国との関係が崩れつつあることは事実だが・・・つまり戦の準備としての戦略魔法と考えているのか?」
レドベージュの言葉から恐怖を感じ取った表情を見せるラナナ。
「はい、そう考えております。私から言わせればドラゴンズディストラクションなど方便です。例えばエマシデンシ、一人で千人を一度に吹き飛ばす魔法です。確かに強力な魔法ですが、戦略という言葉を使うには少し規模が小さいです。ですが何故、戦略魔法なのか。想像してみてください。この魔法を放てる者が10名いたとしましょう。単純計算で一度に1万人を。十回放てば10万人となります」
手を組んで厳しい表情を見せる師。
「エマシデンシの放ち方が簡略化され、それこそ使用難度が下がると100人の魔導士が扱えるようになります。一度に10万人。十回放てば100万人を飛ばせます。こうなると戦略として使えると思いませんか?」
「そんな!?」
信じられない、信じたくないといった視線をラナナに向けられると、師は顔の厳しさを解き小さく息を吐き答える。
「このような魔法がある事を公表することで、威圧的な外交ができます。まさに戦略ですね。褒められたものではありませんが」
「そんな・・・私はそんな事の為に」
手が震え始めるラナナ。すると師は少し優しめの視線を向ける。
「先ほども伝えた通り、気にしなくて良いですよ。あくまで今の話は放ち方が簡略化されたらです。ゼン君の手紙にもありました。エマシデンシを目の当たりにしたが、複雑化されすぎて全く理解が出来なかったと。彼は天才の部類です。それでも理解ができないのです。エマシデンシは簡略化されてこその完成です。貴女はまだ完成させていないのですよ」
その言葉を聞くと、両手で膝に掛かっているコートをギュッと掴み苦しそうに話すラナナ。
「・・・危険な魔法だとは理解していました。だから絶対、他の人にはやり方が分からないようにしました。制御も難しくして、敢えて無駄な魔力の流れも組み込んで、解析しても分からないように、私にしか分からないコツみたいなものも組み込みました。でも・・・それでもエマシデンシを、戦争の道具を作ろうとした自分の罪は消えません」
「貴女はドラゴンズディストラクションから人を守るためと聞いていたのでしょう?そして赤き聖者として必要な力と思ったからここまで進めたのでしょう?自分を責めてはいけません。それに先ほども伝えた通り、完成はさせていないのです。ですよね?」
そこでレドベージュに視線を移す師。その眼差しから察する天将。
「ラナナよ、お主に非は無い。罪もない。天将がそう判断した。大丈夫だ」
「・・・ずるいですよ、こんな時だけ天将ぶるのは」
納得を完全にしてはいない表情のラナナだったが師は話を続けようと切り出す。
「さて、実はまだ話には続きがありましてね。正直なところここは序盤です。何故、ここに私がいるか・・・を語っていませんよね?」
立ち直り切れていない疲れた表情のラナナが師をうつむきながら視線だけを何とか向ける。
内容的に気になるが、どのような事が話されるのか怖くもある。しかし師はむしろ真逆の穏やかな表情を見せていた。
「覚えていますか?私が貴女の村に訪れて、貴女に合った時の事を。見ただけで爆破の魔法を習得し、そして応用させて高度な魔法に発展させましたよね。とても驚かされましたよ」
過去を懐かしむかのような雰囲気で伝えられると、ラナナは顔をゆっくりと上げる。
その様子を確認した後に師は話を続ける。
「あの時、私は確信しましたよ。貴女はきっと偉大な魔法使いになると。そして人の世に大きく貢献するだろうと。だから大切に才能を育てなければならない。そう思いました。
ですから二年間、定期的に村に通い、貴女とご両親に入学を勧め続けました。最後は半ば強引に入学していただきましたけどね」
そこで一呼吸を置く師。
「入学後、貴女は期待通り多くの魔法、多くの学問を習得しました。そして何より、楽しそうに学んでいた姿を見せてくれました。それが一番、教師として嬉しかった事です。貴女は学校生活、いかがでしたか?」
そう問われると目を合わせて返答するラナナ。
「・・・私も学ぶ事が楽しかったです」
素直な気持ちを伝えると、安心したような顔を見せる師。そして寂しそうな顔に変わる。
「そうですか、安心しました。そして謝らなくてはなりません」
「どういう事ですか?」
「私はね、貴女のような学問を愛する人に戦争の手伝いをさせる事が許せなかったのです。本当は私のような教職者が忌まわしい事から守らねばならなかったのですが、力不足でした。私一人ではダラという大きな流れに逆らう事が出来ませんでした」
「そんな!先生のせいじゃありません!」
ラナナが大きな声で返す。師は動じずに続ける。
「貴女ならそう言うと思いました。ですが至らなかった事も事実。そして宿題の部分はここが大きく関わってきます」
「どういう事ですか?」
「本来、学生が卒業する季節とはだいぶずれてラナナ君は卒業したじゃないですか?実はですね、私が勝手に卒業の手続きをしました」
「え!?」
驚きの表情のラナナ。
「貴女はとても優秀でした。卒業に必要な単位は既に足りており、後は私の検定だけでした。論文も過去にいくつか提出されておりましたので、それを卒論扱いにさせていただきました。それで事務的には卒業にしても問題ありません」
「何でそのような事を!?」
ラナナが疑問を投げかけると、一呼吸した後に師は答える。
「エマシデンシです。エマシデンシの完成がいよいよ見えてきたので、それを防ぐために。ですからダラから距離を置く必要があったので卒業をさせ、旅に出てもらう事にしました。そしてその間に今後どうするかを決めるつもりでした。それが宿題です」
「今後?」
「卒業したとしても、ダラはエマシデンシの完成の為に、そして次の戦略魔法の研究の為に貴女に接触をするでしょう。貴族も絡んできているのです。そう簡単には自由にはなれない可能性があります」
「そんな!?」
怯えるような表情を見せるラナナ。師は落ち着いた口調で続ける。
「私は考えました。どうすれば貴女が穏やかに暮らせるかを。そこで出した答えが王子を頼る事です。王子の善良な噂はよく耳にします。そして幸いなことに教え子にゼン君がいました。彼は貴女の事を知っていますし、王子直属の部隊であるピース所属で尚且つ信頼を得ていると聞いていました。ですから貴女を王子直轄の魔法使いとして傍に置いてもらえないか相談をしておりました」
「え!?」
突然の展開で今度は驚きの表情に変わるラナナ。
「王子の傍という事は城の中。タカ派の貴族も同じ敷地内にはいるでしょうが、王子の息がかかっているのでしたら無暗に手は出せないでしょう。そう考えたのでゼン君を呼び相談もしました。するとどうにか力になってくれると言ってくれましたよ」
「そんな話、聞いていませんよ!?」
慌てるラナナに申し訳なさそうな笑みを見せる師。
「ええ、そうでしょう。まだ王子自身から了承を頂いておりませんし。ですが最大の懸念もあります。それはもし戦争になった時はどうしても巻き込まれてしまう事です。当然ですよね、国の問題からは逃げられない王族の直轄なのですから。ゼン君もそこは危惧していました」
師の言葉に固まってしまうラナナ。
「先ほどもお伝えした通り、隣国と少し揉め始めております。そう簡単に戦争にはならないでしょうが、楽観視もできません。ですからこれが答えで良いのか迷ってもいました。しかし先ほど、もっと良い方法を見つけられた気がします」
師はそう伝えると、希望にすがるような目でレドベージュに視線を移す。
「レドベージュ様、どうかラナナ君を守っていただけませんか?レドベージュ様でしたら彼女をかくまう事も、あるいは他の国に連れ出す事も出来るのではありませんか?彼女の力は人を守るために使う事はあっても、人を殺めるために使ってはなりません。私の勝手な考えなのですが、どうか・・・どうかお救いを」
「先生・・・」
悲しそうな顔で師を見るラナナ。レドベージュは頷く。
「ふむ、だが良いのか?我はラナナを赤き聖者として悪との戦いの旅に同行してもらっているのだ。日々、危険に晒しているのだぞ?時には人とも対峙する事もあろう。」
ゆっくりと首を横に振る師。
「私が恐れているのは、戦争に飲まれる事です。レドベージュ様の旅は世のための聖なるものですよね?」
「そんな大層なものでもない」
「そうですか?各地に残るレドベージュ様の記述は、どれもこれも素晴らしいものです。私はそれらが偽りに思えません。そうでしょう?」
そこでラナナに確認を取る師。小さく頷くラナナ。
その様子を窺うと今度はレドベージュが問いかける。
「ふむ。お主が願うように我も人間同士の戦の為に力を使っては欲しくないと思う。だがお主の思い、そして我の考えで判断してはいけないとも考える。ラナナ自身の意思を一番に尊重はしたい。天の施設で暮らしてもらう事も可能ではあるし他国へ連れ出す事も可能だ。生活基盤は用意しよう。だが本人が望まぬのならば無理強いはせぬ」
「私の考え・・・ですか?」
「うむ。お主も他人に人生を決められるのは好ましくなかろう。両親の事もある。そう簡単には決められなかろう。今すぐ決める必要はない。しばらくは旅を共にし、それから答えを出せば良い」
するとうつむき少し沈黙をするラナナ。そして一言だけ答える。
「・・・はい」
すると少し安心したような苦笑いを見せる師。
「結局、自分では何もできず神頼みそのものとなってしまい情けない限りです。許してくださいね」
「そんな!許すも何も先生は悪くないです!」
「やはりそう言ってくれるのですね。問い詰められるのはダラだけで良かったです」
「え?」
自らをあざけ笑うかの様にさらに苦い笑いを見せる師。
「実はですね、私がここにいるのは貴女を勝手に卒業させた事に対する処罰なのですよ。ダラは本当にエマシデンシが欲しかったようです。相当、腹が立ったのでしょうね。教授の地位を剥奪され、ここで一般魔法を教える講師にさせられました」
「そんなのおかしいです!」
ラナナがいきり立つと、手を小さく上げて制止を促す素振りを見せる師。
「まあまあ、落ち着いてください。話はまだ続きがあるのです。というのも完全に左遷という訳では無いのです。とある条件を達成すると元に戻れるのですよ」
「それは何ですか!?」
ラナナが問いかけると、腕を組んで答える。
「アルサキエナの完成です」
驚きの表情を見せるラナナ。そして強い眼差しで訴える。
「それでしたら私、手伝います!」
首を横に振る師。
「いえ、その必要はありませんよ」
「でも!」
「もう完成していますから」
「・・・え?」
呆気にとられるラナナ。
「でも、おいそれと提出が出来る魔法ではありません。分かりますよね?」
そう問われると、頷くラナナ。困った表情になり視線を外す。
「そう・・・かもしれませんが、でも」
このタイミングでレドベージュに視線を移す師。
「アルサキエナの事はご存じですか?」
「いや、聞いておらぬ」
「そうですか。ではご説明いたします。アルサキエナとは私が長年、理論から作り上げ研究していた魔法です。どういうものかといいますと、簡単に言えば魔力の譲渡です」
「ふむ」
「例えば大きな力が必要な魔法を一人で放とうとしても、魔力不足で扱えない時があります。そこでアルサキエナです。他の者が術者に魔力を譲渡することにより扱えるようになります」
「何故、それが必要と考えたのだ?」
「火山の噴火を凌ぎたいのです」
「火山を?クグアの噴火を懸念してか?」
「はい・・・レドベージュ様がそう仰るという事は、クグアはやはり噴火をする見込みなのですね?」
首を横に振るレドベージュ。
「いや、確定ではない。この話は以前、ラナナから聞いていてな」
「左様ですか」
「それで、噴火を凌ぐとはどういう事だ?」
「クグアが噴火すると、ドラゴンズディストラクションが起こらなかったとしても、この国にも少なからず被害が出ると考えられます。降りかかる灰により水や農作物に影響があるかもしれません。人里が灰で埋もれたら生活にも支障をきたすでしょう。本当でしたら噴火を防ぎたいのですが、自然に抗えるなど思ってもいません。ただ、被害を押さえる事は出来るはずです。例えば降り積る灰を浮遊させ除去する事、そもそも降りかかる段階で弾く事、それらは個人では難しいですが、力を一つにすれば可能性は見えてきます」
「ふむ」
「それに医療にも役立ちます。患者が多すぎて、術者が立てなくなるほどに治癒魔法を使いすぎた場合でも、治癒魔法を使用できない者が魔力を譲渡することによって救える命が増えます。このようにアルサキエナには前向きな可能性があるのです」
「うむ、魔力の譲渡ならば、それも可能であろう」
そこまで会話を続けると、硬い表情に変わる師。
「ですが・・・欠点もあります」
「攻撃魔法への利用による威力の増加か?」
「それもあります。ですが一番の懸念点はそこではありません。研究を進めていく最中、簡単な応用をするだけで譲渡では無く、相手から奪う事もできる事が発覚したのです」
「・・・」
その言葉を聞くと、無言でジッと師を見つめるレドベージュ。続きを待っていると感じると、話が続けられる。
「これはとても危険な事です。体から瞬時に大量の魔力を奪われると急な変化に対応できなくなり、ショック死を引き起こす可能性があります。死に至らなかったとしても、立ち上がる事が出来なくなる可能性もあります。それを戦場で使用したらどうでしょうか?力を奪われ身動きが取れない中、奪われた力を利用されて強力な魔法で殲滅される。何とも汚い戦術です」
「その魔法、抗う事は出来ぬのか?」
「もちろん奪われる方も抗う事はできます。それなりの強力な力で弾かれると奪われることはないでしょう。ですが並の人間ではそれも叶わないと思われます」
「そうか。だが見過ごせぬ話ではあるな。アルサキエナも戦略魔法なのか?」
「いえ、戦略魔法という位置づけではございません。ですがそれに近い運用は可能でしょう。ですからアルサキエナはダラとしても欲しい魔法のようです」
「ふむ、だからお主を解雇では無く遠くの地に追いやったわけか。恐らくはエマシデンシの件で戦略魔法の研究の邪魔をする人物と見られたのであろう。そうでは無い事の証明がアルサキエナの提出という事か」
「そうでしょうね」
「どうするのだ?」
レドベージュがそう問いかけると、ラナナは師の答えを真剣な眼差しで待つ。
すると苦笑いと共に答えが返ってくる。
「ここまで懺悔したのです。今更提出するなんて言えませんよ」
「でも、それでは!」
ラナナが申し訳なさそうな顔で訴えると、首を横に振る師。
「良いのですよ。それに私、ここの暮らしは気に入っているのですよ。
学生の皆さん、本当に楽しそうに魔法を学んで行かれます。穏やかに。私がやりたかった事は難しい研究では無く、こういう人の役に立つ授業だったのかと、思うようになりました」
「でも、長年の研究が発表も出来ずに埋もれていくなんて・・・そんなの悲しすぎます」
「では、その無念を誇りに変えていただけますか?」
「え?」
そこで立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出してくる師。そしてラナナの前に差し出す。
「これにアルサキエナの全てを記しています。逆に言えばこの本以外には何も記録が入っていません。これを赤き聖者に献上したいです」
「え?」
「表には出ない、出せない魔法であると理解しております。ですが自分が作り出した魔法が天に、赤き聖者に献上できたとあれば、これほど名誉な事はありません。そして教え子が受け継ぎ、正義の為に役立ててくれたのでしたら教師冥利に尽きます。アルサキエナの危険性を理解した上での有用性、貴女も理解をされているじゃないですか。受け取ってもらえませんか?」
「・・・でも!?」
レドベージュに顔を向けるラナナ。すると頷くレドベージュ。
「受け取ると良い。ラナナが受け取るべき魔法であろう」
「分かりました」
そう言って魔導書を手に取るラナナ。そして数ページ見た後にレドベージュに申し出る。
「すみません、3日・・・いえ2日で良いです。ここに滞在しても良いでしょうか?アルサキエナの習得をしたいです。難しい魔法です。旅をしながら魔導書を読み解くよりも、先生の下で聞けることを聞いておきたいのです」
「構わぬぞ」
「先生も、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。ですが貴女でしたら私に聞くまでもなく習得できてしまうと思いますよ」
「そんな事・・・」
「私は貴女の先生ですよ。そのくらい分かりますって。ですがもし分からに事がありましたら何でも聞いてください」
「その時はお願いしま・・・あっ!」
突然、何かを思い出したかのように声を上げるラナナ。
「いかがなさいました?」
「えっと、アルサキエナ以外の事を聞いても良いですか!?」
「かまいませんが・・・それは一体?」
すると慌てるようにカバンを開けるラナナ。取り出した物はメーサ教の騎士が持っていた槍の先端と皮膚が硬い魔物の皮の一部であった。
「この槍と皮について調べて欲しいのです。私もレドベージュも答えが出せていないのですが、先生なら何か分かるかもしれません」
困った顔を見せる師。
「レドベージュ様でも分からないものを私が分かるとは到底思えないのですが・・・」
「そんな事はないぞ?我も天も万能では無いのだ。知らない事、分からない事だらけさ」
「・・・そうですか。ですが興味があります。詳しく教えていただけますか?」
少し前のめりで聞く姿勢を見せる師。するとラナナは今まであった事を順に話し始めた。
<NEXT→>
-
前の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百五十九話【207号室】 2026.01.03
-
次の記事
記事がありません