ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十八話【イーサラスを制して】

           

「中々のお手前で」
ハルザートが剣を払って鞘にしまう動作の途中で、後ろから話しかける湖張。
「フッ湖張も随分と腕が立つようだが」
とても小さな笑みを見せながら返すハルザート。
「言ったでしょう、腕っぷしは強いって」
「腕っぷしとは言っても、決して腕力が強いわけではあるまい?」

そう言うなり団扇に視線を移すハルザート。
「随分と変わった武器だな」
「まあね」
「湖張の武術はその武器を使うのか?」
苦笑いの湖張。
「いやいや、これはたまたま。使っている本人だって何で団扇なのか未だに理解できていないもん」
「理解していないのに使っているのか?」
「そりゃそうでしょ、だって団扇だよ?武器に思えないでしょ?」
「まあそうなのだが・・・実際のところ使っているよな?」
「そうだよ?」
不思議そうなハルザート。
「そう・・・だな?」
「そうだよ?」

そこで視線がぶつかると、ほんの少しだけの時間だけ沈黙が流れる。
そして徐々に顔が崩れていく二人。
「フッ、フハハ!」
「ハハハ」
堪えていたようだが、それでも笑いを我慢できなくなり下を向いて笑うハルザート。
この様に感情を表現するのが珍しく感じる。
何が面白いのか分からなかったが、湖張も何故かつられて笑ってしまった。

「もう、何か面白い事を言った?」
「いや、何か面白くてな。すまない、気を悪くしないでくれ」
「別にそんな事はしないけど・・・変な人」
「ああ、確かに変だな」

そう返すと笑う事を止め、町に戻り始めるハルザート。
「さて、町に戻るとしよう。
他の方角からもイーサラスが迫ってきている可能性も無くはない。
町の様子も気になる。気を緩めるには早い」
「真面目だねえ」
「褒め言葉として取っておこう」

そうやり取りをしながら町に歩いて戻る二人。
すると門の前にはレドベージュだけではなく、ラナナとゴルベージュもいる事に気が付く。

「ただいま。二人も気づいたんだ?」
「そりゃ気づきますよ!」
不機嫌そうな雰囲気のラナナ。ハルザートはそれを横目に見ながら湖張に話しかける。

「私は先に中に入っている。またな」
「ああ、お疲れ様」
小さく手を上げて挨拶をするハルザート。それに小さく手を振って答える湖張。
そしてハルザートが背を向けて町の中に入り始めたタイミングで、ラナナは舌を出して威嚇をする。

「・・・何、不機嫌になっているのよ?」
呆れた雰囲気で窺う湖張。その問いに対してジト目のラナナ。
「あんなキザ男と息の合った戦い方をしていたからですよ」
「へ?」
「でもまあ可愛い系の人ではないから別に良いんですけどね!」
「・・・うん?」

よく分からない事を言い始めるラナナに苦笑いで戸惑う湖張。
それを見兼ねたのか、このタイミングでレドベージュが話しかけてくる。
「怪我は・・・まあ無いな。危なげなく事を収めたからな」
頷く湖張。

「うん。やっぱりあの人は強かったよ。
サポートに重視を置いて一歩下がった戦い方をして観察をしていたのだけれども、まあ動きに無駄がないわ。
判断も早いし、全体を見る事が出来ている。
私が作った隙を的確に衝いてくるし、こちらの動きの邪魔をしないようにもしていた。
技も早くて強力だし、数手先まで読んで行動している感じもする。相当な手練れだわ」
「ふむ、その様だな」

湖張の分析に同意を見せるレドベージュ。
それに腕を組みながら頷く湖張。
「うん、そうなんだよ。もう一度言うけど、かなりの手練れ。ありゃ敵に回したら厄介だね。
今日、近くで技を見ただけでは、どうやれば勝てるかのイメージが持てなかったもん。
もう何回かは、あの人の戦いぶりを見てみたいね。制する方法を見つけないと」

「・・・妙に倒す気満々じゃないですか?」
今度はラナナが様子を窺うような表情で湖張に話しかける。
すると湖張はキョトンとした顔で答える。

「うん?そりゃそうでしょ?だって相手はメーサ教の強力な騎士なんだよ?
場合によっては戦う事も出てくるかもしれないじゃない?」
その言葉を聞くとレドベージュが話しかけてくる。

「今日の話を聞く限りだと、そこまで悪人とは思えなかったが、敵対する可能性は捨てきれぬか?」
頷く湖張。

「うん、ハルザート自体は悪人ではないと思う。でも確定じゃないから警戒は解けないよ。
それにあの強さだよ。油断はできないって。だから倒し方も考えておかないと。
あの人と話していると忘れがちだけど、メーサ教は山賊を使って信者を増やそうとしていたりと、随分とあくどい事をしていたじゃない?
食べ物を腐らす事もやっていたし、硬い皮膚の魔物だって怪しい部分は残っている。気を許すには早すぎるよ」

「その割には仲良さげに話していたではないか?」
湖張の話を聞いていたゴルベージュがそう問いかける。その内容にムッとするラナナ。
その中で湖張は澄ました顔で答える。

「そりゃそうですよ。だって友好的にしないと本性は現さないじゃないですか?
それに仲良くしていたら有益な情報も得られるかもしれませんし」

そう聞くと腕を組んで頷くラナナ。妙に嬉しそうである。
「流石湖張姉さま。それで良いのです」
一方ゴルベージュは少し呆れた雰囲気を見せている。
「・・・そうか。恐ろしい娘だ」
「恐ろしいって・・・これも調査の為ですよ。仕事です仕事。
レドベージュではこういう人とのコミュニケーションが出来ないから
その代わりです」
ため息交じりに湖張が反論をすると、ゴルベージュは「そうか」と簡単に返す。
そして団扇に視線を移して、話題を変えてくる。

「それにしても随分と上手に団扇を使いこなせるようになったようだな。
もう少し時間が掛かるものかと思ってはいたが、問題はないようだな」
頷く湖張。

「ああ、おかげさまで団扇の使い方が分かった気がします。
素直に私の心を反映してくれるので、意外と使いやすいですね」
そう伝えると、ジッと湖張を見つめるゴルベージュ。
「いや、そんな単純なものではないのだがな・・・でもまあ使いこなしてはいるから良い。大したものだ」

そう言うなり、イーサラスの下に向かって行くゴルベージュ。そして湖張達に伝える。

「私は一応イーサラスの事を調べてくる。
他の者は町に戻ると良い。もう襲撃はないだろう」

「ふむ、まあ我らは戻るとしよう。ラナナもまだ研究の最中であろう?」
ゴルベージュの言う事に賛同をし、引き上げる事を促すレドベージュ。
確かにもうこの場に留まる理由は無いので、三人は町の中に戻る事にした。

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