ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百三十六話【山の麓へ】

           

その後の食事会は、何気ない話を交えつつ進んでいった。
タウンは完全に仕事モードの硬い姿勢を解き、気さくな面を大きく表し始め愉快な会になっていた。
今までの抜け目のなさから、それが場を和ませるための計算された振る舞いなのかは分からなかったが、空気が柔らかくなったことは事実であった。

話が弾んだこともあり、予想よりは長居してしまった一同。帰り際に翌日は宿の前で待ち合わせをして北の山へ向かう約束をつける。

一夜明け支度を終えた後に宿を出ると、約束通りタウンとゼンの姿があった。
更には後方にチウルの姿も見える。

「おはようさん、準備は良いか?」
右手を挙げて挨拶を話してくるタウン。湖張は軽くうなずく。
「おはよう。準備は大丈夫。今日はチウルさんも行くの?」
確認を取る湖張に不思議そうな顔を見せるタウン。当の本人であるチウルは右手を小さく振って否定を見せる。

「私は行かないよ。お見送り。あとコレ!」
そう言って布で包まれた両手サイズの物を手渡される。

「これは?」
不思議そうな表情で問いかける湖張に笑顔を見せるチウル。
「お弁当。荷物になるといけないから小さめだけれども、多分美味しいよ」
「え?いいのです?」
「いいよ。ラナナちゃんと一緒に食べてね」
「ありがとうございます」

どうやらもう変な疑いは掛けられていないようで、にこやかに接してくるチウル。
その姿にタウンが小さな笑みを見せた後に全員に声をかける。

「それじゃあぼちぼちと行きますかね」

「気を付けてね」
タウンに近づき声をかけるチウル。タウンは彼女の頭にポンポンと触れると一声かける。
「なるべく早く帰る」
そう伝えて歩き出すタウン。チウルは手を大きく振って見送る。

「てっきりチウルさんも一緒に来るのかと思った」
タウンの横に来て話しかける湖張。渋い顔を見せるタウン。
「いや、あいつは城に勤めているわけじゃないからな」
「でも魔法が得意なんだよね?」
「まあそうだけれども、あんなのでも一応わきまえているからな。今頃、晩飯を何にしようか考えていると思うぜ」

そう言った後に少し考えるタウン。
「あ、今晩も家に来てくれ。チウルがきっと大量に飯を作っている」
「・・・へ?」
「良いですよね?」
後ろに振り返りレドベージュに確認を取るタウン。
「ふむ、良いのか?」
「ええ、むしろそうしていただけた方が助かりますね。料理を無駄にしたくないので」

そのやり取りの中、不思議そうな顔で質問をする湖張。
「今日も晩御飯を作る約束をしていたの?」
それに遠い目のタウン。
「いや、していない。が、俺とゼンがアンタらと一緒に出掛けたんだ。昨日みたいに戻って晩飯を食べると頭の中で変換されているに違いない」

苦笑いの湖張。
「そういうもの?」
「ああ、あいつはそういう奴だ」
「・・・でもタウンさんのお家だよね?」
「そうだな」
「昨日の話だと、まだお付き合いすら進んでないんだよね?」
「そうだな・・・いや、言いたい事は分かる。
良く分からないだろ?正直なんでこうなっているのか俺もよく分からない。
だが家の連中もチウルだけには好き勝手やらせやがる。しかもニコヤカに・・・。」

「二人はどういった関係なのです?」
後方からラナナが問いかけてくる。とてもニタニタした顔で。一方タウンはつまらなさそうな顔を見せる。

「なんだよ、その嫌な顔は。近所の幼馴染だ。何故か昔から家に来ては好き勝手している」
「それだけです?」
「それだけだ」

そのタイミングでチラリとゼンに視線を移すラナナ。すると何かを含んだ小さな笑顔を見せて答える。

「まあ幼馴染であることは間違いないよ。僕は10歳くらいの時に学校でタウンと出会ったのだけれども、その時からチウルは彼の近くにいたからね」
「うわぁ一途ですね」
「逆に言えば誰も入り込めないだけかもね」
そこで笑いが起こると「うるせーぞテメーら!」とタウンが振り返る。

そして少し考える素振りを見せると湖張たちに違う話題を振る。
「そうだ今日はお前ら、うちに泊まっていけ」
「は?」
物凄く不服そうな顔を見せるラナナ。ため息のタウン。

「本当にお前って露骨に顔に出すのな。
昨夜みたいに飯食ってから宿に戻るのも面倒だろ?
・・・ぶっちゃけて言うと昨日チウルに怒られた。
夜遅くにオンナノコを外に出すなんて非常識だって」

「いや私たち、そんな心配されなくても平気だよ」
苦笑いの湖張に頷くタウン。
「ああ、俺もそう思う。でも相手はチウルだ」
「・・・」
「理解してくれ」

真顔で訴えかけてくるタウン。ラナナはゼンをチラリと見る。
すると苦笑いのゼン。

「まあタウンの家は広いし客室もあるから快適だと思うよ。
・・・実は僕もその件に関してチウルにさっき怒られたから、泊まってくれると助かるかな」

「まあ先輩も困っていますし、仕方がないですね」
ラナナがそう伝えると困った顔を見せる湖張。

「あーならいいけれども、荷物は宿に置いたままだよ」
「お、その荷物はまとめてはいるか?」
「うん、カバンに入れている。いつでも出発できるようには心がけているからね」

そう聞くと少し嬉しそうな顔を見せるタウン。
よし、そうしたら町を出る時に通過する門に衛兵がいるから城に伝言をお願いしておくな。部屋の荷物を俺の家に運ぶように」
「は?」

「まあ遠慮するな。そっちの方が楽だろ?一応は俺、結構偉いんだぜ?」
「そんな事、許されるの!?」
「平気平気。宿のキャンセル代もこっちで持っておくな」
「そこまでする!?」

その問いに冷めた顔で視線を逸らすタウン。
「ああ、帰ってからの心の平穏の為に・・・」

彼の表情から何かを察する事が出来た湖張。素直にうなずくことにする。
しかしながら暖かい日差しがさしており、周囲の雰囲気はとても穏やかなではあった。

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