ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百五十九話【207号室】
- 2026.01.03
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
朝を迎えるなり、一行は支度を簡単に済ませると目的地である隣町へ早々に向かった。
訪問先の学校は、魔法学校の最難関であるダラ魔法学校の関連校ではあるのだが、主に私生活に活用できる魔法を教えており、学費さえ払えれば誰でも入学できるため難易度はそれほど高くない。
学費とはいっても決して高いわけでもなく、教材費くらいのもので気軽に学べる場であり、ダラの慈善事業的な意味合いがあるようだ。ラナナ曰く、国からも補助金が出て運営費に充てているらしいが詳しくは知らないとの事だ。
それ故に教師陣も本校とは違い、魔法研究の第一線で活躍するような者はおらず、それなりに魔法が扱える程度の魔法使いばかりである。
故に競争も無く成果も求められない穏やかな校風が漂う学校になっていた。
「ここですね」
207号室と記された小さなプレートが貼ってある扉の前で呟くラナナ。
彼女を先頭に湖張とレドベージュは続いている。
幸い本日も天気は良く、移動するのには困らず順調に目的地まで到着していた。
「ほら、入る前に深呼吸」
湖張が少し緊張気味のラナナの背中にそっと触れて伝えると、スゥっと空気を吸うラナナ。そして三度ノックをし扉を開ける。
「失礼します」
覗き込むようにして部屋に入ろうとするラナナ。しかし動きが固まり、驚きの表情を見せる。まるで鼓動が止まったかのような感覚になったが、それは一瞬だけの事であった。
すぐさま硬直は解け、扉を大きく開け、早歩きで部屋に入り込む。
「何で先生がここにいるのですか!?」
部屋に入ると多くの書物が平積みされている大きな木製の机に、60歳くらいの男性が予想外の来訪者に驚きを隠せない表情を見せていた。鼻の下の整えられた白い髭が特徴で紳士的な雰囲気を出している。
「ラナナ君・・・君こそ何でこんな所に?1年は旅をするように伝えていたはずですが?」
そう問われると左手で右腕をギュッと掴み、視線を一度逸らして答える。
「旅は・・・しています。今もその最中です」
そして再び視線を師に戻し話を続ける。
「フィルサディアでゼン先輩に会いました。そして手紙を託されここに届けるようにと言われました」
「ゼン君が?」
師が再び驚いた眼を見せる。ラナナは話を続ける。
「先輩はここに先生がいる事は教えてくれませんでした。ただ手紙をここに届けるようにと仰いました。私のためとも言っていました」
そう伝えると手紙を差し出すラナナ。師と呼ばれる男性はゆっくりと手紙を受け取り封を開ける。そして椅子に座りさっと目を通すとラナナに視線を移す。
「先輩は何と?」
師が言葉を発する前に問いかけるラナナ。すると師は目を閉じ小さくため息をついた後に答える。
「宿題を片付ける時・・・だそうです」
「宿題・・・ですか?」
難しい顔を見せるラナナ。すると師は言葉を付け足す。
「簡単にそう書いてありますね。ただもう一文だけ記載があります。貴女の許可を得られるのであれば今のラナナ君に何があったのかを代わりに伝えると」
「許可・・・ですか?」
すると手紙を少し上にかざす師。
「この手紙には魔法がかけられていますね。ラナナ君の同意に反応して文字が浮かび上がるのかもしれません」
そう伝えられると一度レドベージュに視線を移すラナナ。すると頷くレドベージュ。師もこのタイミングで不思議な赤い存在を見つめるが、すぐさまラナナが返答したので視線を戻す事となる。
「私は構いません、お願いします」
その言葉が手紙に届くと、フワッと一度だけ青く光る。すると今まで余白だった部分にびっしりと文字が浮かび上がる。
その文字に目を通し始める師。そしてものの数秒後、穏やかそうであった目を大きく開きレドベージュに視線を移す。そして再び手紙に視線を戻すなり続きを読み、そして左手で額を押さえる。
そして手紙を手に持ったまま立ち上がりレドベージュの前に速足で移動するなり深々と頭を下げる。
「知らなかったとはいえ、レドベージュ様の御前で非礼を。お許しください」
ラナナは自分の許可が必要だった時点で予想はつけてはいたが、師の行動から手紙には赤き聖者について記載されていた事を確信する。
するとレドベージュは手を小さくかざし師に対して制止を促す。
「構わぬ。そんなに畏まらないで欲しい。むしろラナナはお主の指導の下で旅をしていたのだが、我が便乗し赤き聖者の旅に付き合ってもらっているのだ。謝らねばならぬは我の方だ」
湖張はその言葉に少しはっとし、ラナナの斜め後姿を視界の中心に移す。
(そうだ、違和感なく旅をしていたけれども、ラナナは元々、別の理由で旅をしていたんだった。無期限では無く)
誰にも悟られる事なく湖張が心でそう呟き終わるタイミングで師は一行を扉の横に位置する面談スペースに案内をする。
「大したおもてなしは出来ませんが立ち話もあれです。お掛けください」
「うむ、だが我は椅子には座れぬ。我は立っているが三人は座って欲しい」
「いえ、そんなレドベージュ様だけなどと畏れ多い」
するとラナナは声をかける。
「大丈夫ですよ。お掛けになってください。レドベージュは気を使われることを好みません」
「うむ、その通りだ」
そう伝えられると腰を掛ける師。向かい合うソファーにラナナと湖張も腰を掛けると、レドベージュはラナナの隣に立つ。そしてラナナが話を切り出す。
「手紙には私が赤き聖者になった事の他に何が書かれていましたか?」
「そうですね・・・」
考え事をする師。ラナナは更に問いかける。
「宿題とは何の事ですか?」
内容を聞くことに少し怯えつつも、強い眼差しで問いかけるラナナ。
すると師は彼女の目をジッと見つめ少し怖い表情で問いかけ返す。
「エマシデンシ・・・完成させたのですね?」
問い詰めるような師の眼差しに、𠮟責されるのではと感じたラナナは一瞬だけ小さく身を震わせた。
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