ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第四十四話【落ち着く塔の空間】

           

「結構急な上り坂じゃない?」
行き先を見つめながらそうぼやく湖張。
と言うのも目の前には手をついて這い上がらないと行けなさそうなくらい急こう配な、
坂と呼んでもいいのか分からないくらいの上り坂が立ちはだかっていたからだ。
街を出てからの道のりは順調で、目的地の塔がある山への麓へは予定通りの時間で到着することが出来た。
そして後は山を登るだけの位置なのだが、この有様である。

「うむ、昔はこんな感じではなかったと記憶しているのだが随分と前の事だ。
ひょっとしたら削れてしまったのかもしれないな」
レドベージュも予想外だったようでそう反応すると、湖張は腕を組みながら首を傾げる。
「坂って削れてこんな風になる?」
「崖崩れかもしれんぞ?」
「あーそういう事か」
その方向で納得をすると、今度はラナナに視線を移す湖張。

「どうしよう、こういう坂は上れる?」
心配そうに確認をする湖張。しかし心配をされた当の本人はキョトンとしている。
「この坂ですか?問題ないですよ?」
そう言うと、三人の足元に魔法を掛けるラナナ。
緑色の光の粒が足元を包むと、弾ける様に消えていった。

「うん?何をしたの?」
湖張が不思議そうな顔で質問をすると、ラナナはニコっと笑顔を見せる。
「飛び上がるための補助魔法です。こういう山道を登る際には浮遊の魔法では
常に飛び続けなくてはならないので魔力を消費しやすいのですが、
この魔法ですとピンポイントで魔力を消費するだけで済むので効率が良いのですよ」
そう言うと、少ししゃがんだ後に大きく飛び上がるラナナ。
5m程の高さを一気に飛び上がり、あっという間に急こう配の坂の上に着地してしまった。

「うわ!何それ!?」
楽しそうな顔で驚く湖張。すると坂の上からラナナが大きな声で呼びかけてくる。
「二人にも同じ魔法を掛けました!ジャンプする力が上がっていますので、同じように飛び上がれますよ!」
そう聞くと嬉しそうな顔を見せる湖張。早速自分も同じように少ししゃがみ、目一杯飛び上がる動作を取る。

「何これ!!すごーい!!」
あっという間に坂道を飛び越える湖張。ラナナの近くに着地すると満面の笑みを見せる。
「喜んで頂けて何よりです」
「これは良いね!」
そうやり取りをしていると、同じようにレドベージュも飛び上がってくる。
「ふむ、これは快適だな」
「この調子なら、塔まで直ぐ到着できそうだね」
「そうだな」

予想外の方法により、その後も順調に坂道を上りきり、あっという間に塔の入り口にたどり着くことが出来た一行。
つい最近来たばかりなので真新しい感じはしなかったのだが、
初めてであるラナナにとっては、隠れていた塔が出現した事や
中に入るなり薄く壁が光る事など、どれもこれも新鮮で最上階に上るまでの間は始終興奮気味であった。

「ここが最上階ですか?この中に話に聞いた彫刻があるのですね?」
「うむ、その通りだ」
レドベージュがそう返した後に目の前の大きな扉を開けると、開けた空間と彫刻が彫られた柱が前方に現れる。
その様子を見るなりラナナは大興奮すると思っていた湖張は彼女に視線を移す。

しかし予想を反して彼女の反応は薄く、静かで穏やかなものであった。

「あれ?何か反応が無いね?ひょっとしたら想像していたものとは違った?」
湖張が心配そうに尋ねると、彼女はゆっくりと首を横に振る。

「いえ・・・そんな事はありません」
そう言うなりゆっくりと彫刻に近づき、1m程のところで立ち止まる。
湖張とレドベージュも無言で彼女の後ろについていくと、視線は彫刻に向けたままラナナが話しかけてくる。
「ただ、何て言うのでしょうか・・・この広間に入って彫刻を見た途端に何か心が静まり返ったというか・・・
落ち着く空間?・・・いえ、違いますね。・・・あれ?」

話の途中で急に涙を流し始めるラナナ。それを見るなり驚く湖張。
「え?どうしたの!?」
「分かりません。何でだろう?あれ?何故か急に涙が・・・」
いくら手で拭っても溢れ出てくる涙。その姿を見るなり湖張はどうにかしないと思うが何をすれば良いか分からず、
とりあえずラナナを優しく抱きしめる事にする。

「よしよし、とりあえず落ち着いて」
「・・・すみません」
湖張の襟元付近を軽く握りしめ何とか落ち着きを取り戻そうとするラナナ。

「あーごめんなさい。落ち着く空間だと思っていたらこれですよ。
落ち着きすぎると自然と涙って出てくるものなのでしょうか?」
1分ほどすると、ゆっくり湖張から離れ何とか復帰するラナナ。

「大丈夫?」
「はい、ご心配をおかけしました。
自分でも本当に何が何だか分かりません。
今までも何かを見て涙を流す事は無かったのですが・・・本当に何なのでしょうね?」
「そっか」

とりあえずラナナはもう大丈夫そうなので一安心した湖張は、レドベージュの様子が気になり彼に視線を移す。
するとラナナの事をジッと見つめてる姿が目に入る。
そして心なしか、その姿はもの悲しそうにも受け取れた。

「どうしたの?」
今度はレドベージュの様子を窺う湖張。
「いや、何も無いぞ」
しかし何事も無いかの様に、あっさりとそう返すと彼はラナナに近づく。

「解説は必要か?」
「そうですね、私の故郷に伝わるリンキ神とリティーさんはどちらですか?」
「こっちだ」
そう言うとリンキ神とリティーが彫られている場所まで移動をする二人。
そしてレドベージュが彫刻を見上げながら「こちらがリンキ神とリティーだ」と簡単に紹介をすると、
ラナナはゆっくりと顔を上げて彫刻を見上げる。

「そう、こちらの方がリンキ神とリティーさんなんですね。
・・・ありがとうレドベージュ」
そのまましばらくの間、無言で彫刻を見つめるラナナ。
神々の彫刻を見つめる彼女の姿は、不思議と神聖な雰囲気を出している様な気がした。

「何だろう、あの子の姿って妙に絵になるよね」
その姿をジッと見つめながら、レドベージュに話しかける湖張。
すると彼は一言「そうだな」と返して、同じようにラナナを見つめていた。

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