ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百五十七話【立ち寄った村の跡】

           

日が明けた早朝、湖張はマスターに宿と食事の礼を言う事に合わせて、兄弟子宛に伝言をお願いした。内容はいたってシンプルで「さっさと村に帰って芭蕉心拳を継ぐように」のみであった。マスターからは「それだけかい?」と拍子抜けをされながら聞き返えされるが、特に付け足す事はしなかった。

そして次の目的地に向かうために酒場を後にしようとしたところで、マスターから呼び止められる。
何かと思い振り返ると少し神妙な面持ちでこう伝えてきた。「最近、魔物が異様に多いので道中は気を付けて欲しい」という内容であった。

港町を発ってからというもの、確かに魔物との遭遇が多く、今までの旅とは少し違う雰囲気を湖張たちは感じていた。ほとんどの魔物は見かけても警戒をされるだけでそのままやり過ごす事は出来たが、中には襲い掛かってくる事もあり、戦いながらの旅路となっていた。そして四日後、一行はとある村に辿り着いた。しかしそこは村とは呼べない状態であった。

「何なの・・・これ」
目の前に広がる光景は、破壊尽くされた廃墟であった。人の気配は全くなく、ただただ凄惨で、悲しくなる空間がそこにはあった。

「・・・なんでしょう、この違和感。こんな風になったのは最近じゃないですか?時間の経過を感じられません」
ラナナが崩れた家の近くに散らばる瓦礫を見ながらそう言うと、レドベージュは周囲を見渡す。

「うむ、ここには村があり、人が住んでいたはずだ。廃墟では断じて無かったはずだ。それに・・・」
レドベージュが言葉を止める事を不思議に思いながらも、周囲の事が気になり見渡す湖張。

「・・・あれって」
湖張の視線の先には砕かれて半分ほどの大きさになっていた木の扉があった。そこには赤黒い液体が大量に浴びた跡がある。そして同じような悍ましい跡は至る所に残されていた。その光景に戦慄する。

「もっと奥を調べよう」
動揺を抑える様に湖張がそう言うと、更に先へ進む事にする一行。周囲は二つ、直径2メートルほどの穴が空いており、何かが飛び出してきたような痕跡がある。

「ねえ、この穴って謎の黒い魔物の仕業に思えない?」
過去に二度見た黒い異形の魔物の事を彷彿させられ、湖張がそう問いかけると頷くレドベージュ。ラナナも同意の様子を見せる。

「うむ、似ているな。ここにも出たという事か?」
「するとこの村はあの魔物に!?」
「・・・かもしれぬ」

ラナナが惨劇を想像し悲しそうな表情を見せる。少し沈黙が続く中、先に進む。

そして一行は目の前の光景に数秒間、言葉を失った。

「何・・・これ」
少し声を震わせながら小さく呟く湖張。彼女たちの目の前には瓦礫が無く、開けた土地に両手で抱えられそうなほどの石が、少し土が盛られた上に等間隔で並べられていた。その数はざっと見積もっても100は優に超えていた。
土は最近盛られたような雰囲気で、この場が作られたのはつい最近であることは容易に想像が出来た。

「・・・お墓?」
怖さを紛らわすように、ラナナが湖張の袖をギュッと掴み震えるような声を出すと、その単語に動揺したような表情を湖張が見せる。
荒れ果てた村。数多くの新しい墓。そして凄惨さを想像させる数々の赤黒い跡。
何があったかを想像すると、背筋が凍り、胸が潰されそうになる。

「・・・え?」
右に五つ離れた墓石の前に供えられている薄汚れたぬいぐるみに気が付く湖張。そこから想像されることにより、胸が詰まる。

「立ち去るぞ二人とも。もう見るな」
レドベージュが二人の前に立ちこの場から押し出そうとする。湖張は小さな抵抗を見せる。

「でも・・・私、まだ何もできていない」
「残念だがここで出来る事はない。行くぞ」
「でも・・・」
「もう見るな、深手になる。今は何も考えるな」
「・・・」

固まる湖張。するとラナナが掴んでいた袖をそのまま後方に引っ張る。

「行こう。・・・落ち着きたい・・・です」
何とか言葉を絞り出したラナナの様子を見ると、しっかりしなくてはと感じ冷静さを取り戻す湖張。そして来た道を帰ろうとする。

「君たちは一体?」
背後から若い男性の声が問いかけてくる。視線を移すと、軽装の兵士が3人近づいてきていた。

「我々は旅の者だ。この村に立ち寄ったのだがこの有様でな。日が出ているうちに隣の町まで行きたい。すまぬが通してくれぬか?」

珍しくレドベージュが率先して初見の相手に話をする。二人の心情を考えての事であった。
すると当然のように兵士はレドベージュの存在に驚きを見せる。

「鎧が喋った・・・」
話がややこしくなると思ったレドベージュ。するとタウンから預かった王子の手紙を兵士に差し出す。しかしその直後に兵士は顔を緩め話しかけてくる。

「まあいいか。旅の人なのだろう?だったら先を急いだ方が良い。・・・ってその手紙は?」
「ラガース国、王子直筆の手紙だ。ピースの者と知り合いでな。旅で何かあった時に王子とゆかりがある事を証明したい時に出すよう言われている」

その言葉を聞くと驚いた表情を見せる兵士たち。
「それは失礼した。無礼をお許しください」
「む?手紙を見ぬのか?」
「滅相も無い。王子の書簡に振れるなんて畏れ多い。それに元々あなた方をどうかしようなんて気はございませんでしたよ。ただこんなところで人を見たので、どうしたのか気になりましてね」

特に何もしてこないと感じ取れると、先を急ごうとするレドベージュ。
「ふむ、そうであったか。すまぬが先を急がせてもらうぞ」
「ちょっと待って!」

このタイミングで声を上げる湖張。そして兵士に尋ねる。
「ここで・・・この村で何が起こったのですか!?」
そう問われると顔を見合わせる兵士たち。そして村の残骸を見つめながら答えが返ってくる。

「二週間ほど前の事だよ。突然、地面から黒く巨大な魔物が這い上がってきたらしいんだ。そして村人たちを次から次へと襲ったらしい」
「黒い魔物が・・・」

「そう、あっという間だったらしいよ。数人は何とか逃げられたそうだけれども、ほとんどが犠牲になったそうだ。隣の町まで逃げ延びた村人が通報したのだけれども、国の兵たちが駆け付けた時には魔物の姿は無く、荒れ果てた村だけが残っていたんだ」

そう言うと墓を見つめる兵士。
「犠牲者が多く碌な事は出来なかったけれどもさ、せめて安らかにという思いでここに眠ってもらう事にしたんだ。今は有り合わせの石だけれども、どうにかして欲しいと申請はしているよ」

「そうでしたか・・・」
悲しそうな顔を湖張が見せると、村の外の木々を見ながら兵士が話す。

「この村にはね、守り神がいるという言い伝えがあったのだけれども、守ってもらえなかったようだね。残念だよ」
その言葉に対して不思議そうな表情をラナナが見せると、兵士は変な話をしてしまった自分をあざけ笑った後に三人に対して言葉を伝える。

「本当は君たちを隣の町まで送ってあげたいけれども、こんな事があったからね。自分たちもこの周辺の哨戒任務中なんだ。さっき言っていた通り、明るいうちに町に向かった方が良い。それにこの村にいると寂しい気持ちになるからね」

そう伝えられると、レドベージュは二人の背中にポンと触れて合図をする。

「先を急ぐとしよう」
そして兵士たちに向かって話しかけるレドベージュ。
「気にかけてもらってすまなかった。貴殿らも十分に気を付けてな」
「ええ、良い旅を」
その返答が返ってくると歩き出す一行。湖張は突然の出来事で気持ちが乱れてしまったが、今はとにかく先へ進む事に意識を向ける事にした。

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