ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第三十四話【少女の駆け引き】
- 2020.08.15
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「ラナナ・ショコラさん?」
警戒されないために少し距離を置いて立ち止まる湖張。
するとその声に気が付いてゆっくりと顔を向ける少女。
2m程の距離まで近づき彼女の顔を正面から見ると、青い瞳と整った顔立ちが目に入ってくる。
その可愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿に、改めて見とれそうになってしまう。
「・・・どちら様ですか?」
高く澄んだ声でそう反応をするラナナ。彼女の表情は少し警戒をしたものであった。
それを感じ取ったので、湖張は警戒心を少しでも解いてもらうために、優しい表情で自己紹介を始める。
「突然ごめんなさいね。私の名前は湖張。水芭蕉 湖張。そしてこちらが・・・」
そのタイミングでレドベージュの紹介をしようとすると、
彼は両手を広げながら急に50cm程浮き上がり、体をほのかに光らせつつ目の前にある地面の花を咲かせ始める。
「我は天将レドベージュ」
「!?」
「ちょっと何やっているのよ!?」
レドベージュの相変わらずといっても良い自己紹介方法によって
先ほどまでの穏やかな雰囲気が消し飛び、いつもの調子になる湖張。
「自己紹介だが?」
「何であなたは毎回花を咲かせようとするの?しかも回を重ねるごとに演出が過剰になっていない!?」
「いや、湖張の祖父には効果的ではあったではないか」
「あれはおじいちゃんだからだよ!胡散臭いから!本当にそれ、胡散臭いから!!」
特に話を進めるプランを頭に描いてはいなかったものの、あまりにも想定外の展開であったために参ってしまう湖張。
ここからどうやって話を進めるのか頭を痛めつつ、ラナナがどのような雰囲気になっているのか恐る恐る彼女の顔を見ると、
真剣な目でこちらを見つめている顔が目に入ってくる。
(参ったな。完全に警戒されちゃっているよ)
心の中でぼやく湖張。次の手はどうするべきか必死で頭を回転させ始める。
「私を赤き聖者にとお考えなのですか?」
「え?」
どうするべきか考えている間に、突然そう切り出してくるラナナ。
しかも伝えたい内容は何一つ伝えていないにも関わらず、いきなり核心を突いてくるので戸惑ってしまう。
「あ・・・えっとそうなんだけど、何で分かったの?」
彼女がどうしてそう判断できたのか分からなかったので、ポカンとした表情でついそう聞いてしまう湖張。
するとラナナはレドベージュに顔を向けて話し始める。
「天将レドベージュ様が人と共に行動する時は、赤き聖者として旅をしていると考えられます。
また、赤き聖者は過去の記録からして、一人だけという事はありません。
しかしながら現在、湖張さん・・と言いましたよね?
湖張さん一人しかメンバーをお見受けできません。ですので今後増える可能性は大です。
その中で私に話しかけてきたという事は、私をメンバーに加えようとされているのかと推測できました」
「・・・ほう」
感心するレドベージュ。
その一方で湖張は目を丸くしている。
「・・・えっと、なるほど・・・。
でもちょっと待って、その理論は分かったけれど
いきなり天将レドベージュと名乗られても信じられるものなの?
私が言うのも何だけど、神話の登場人物・・・しかもリビングアーマーが天将レドベージュと言って
信じられるものなの!?」
勧誘する立場の湖張が何故か止めるような事を話すと、
今度は顔を湖張に向けるラナナ。
「確かに天将レドベージュ様は神話の登場人物で
空想上の存在と考えている人も多くいます。
しかしながら最近の研究結果によると、天将レドベージュ様は実在するという考えが濃厚になってきています」
「え?そうなの?」
「はい。更には、神話上では身長の高い赤髪の男性として語られていますが、
実はそうではなく、赤く背の低いリビングアーマーであるのではないかという研究もあるのです。
そして先ほどの魔法に関しても天将である事を感じさせるものでした」
「先ほどの魔法?」
湖張が首を傾げるとラナナはレドベージュが咲かせた花の元で膝をついて左手をそっと花に添える。
「先ほど、この花を咲かせたじゃないですか?
花を咲かせるという方法は二つあります。
一つは花の時間を進める事。
しかしながら時間を操る魔法は不可能とされています。
それはいかに天将といえど無理な物は無理なはずです。
すると二つ目の方法が濃厚になります。
それは花の成長速度を早める事です。
植物の成長速度を早める魔法というのは、実際に考えられているものです。
というのも、飢餓で苦しむ地域において農作物を効率よく大量に育てるには
成長を早める事は有効と考えられるからです。
しかしながら、成長を早める魔法というものは植物だけではなく動物にも流用できると考えられます。
そうなると倫理的に良くない部分が出てきます。
また、成長を早めるという事は老化も早めるという事。
悪事に転用は容易にできそうです。
なのでそういう側面もあるので結局のところこの研究は進められていないという現状があります。
しかしその中でこちらの方は、ありそうでない魔法を平然とやってしまいました。
そうなると人の世の理から外れている存在、つまり天将レドベージュ様と判断出来るかと思います」
(この子すごい・・・)
心の中でそう呟く湖張。
「ふむ、流石だな。物凄い観察力だ」
感心するレドベージュ。そしてラナナはその様子をジッと見ている。
「・・・とは言ったものの、ここまでは私が勝手に推理を一方的に話しただけで
ひょっとしたらお二方が私の話に合わせているだけかもしれない可能性がありますね」
一呼吸置いた後に、そう発言するラナナ。
「へ?」
「いえ、あまり人は疑いたくは無いのですが何せ女の一人旅なので、そう簡単に人を信じないよう両親と先生に強く言われているのです。
なので私の推理を確定にするために一つ質問をさせてください」
「え?」
「大丈夫です。本当に天将レドベージュ様でしたら簡単な内容ですから」
そう言ってレドベージュを見つめるラナナ。湖張も同様に彼に視線を移す。
「・・・良かろう。何が聞きたいのだ?」
少し考えた後にそう答えるレドベージュ。
するとラナナは一呼吸置いた後に口を開く。
「赤き聖者の初代メンバーの名前を教えてください」
「初代メンバー?」
ラナナの質問に対して内容を確認するかのように呟く湖張。
一方レドベージュは微動だにせず、ラナナを見つめる。
「・・・」
普段ならば話しかけると少し考えることはあっても、割と早く答えるレドベージュであったが
今回の質問に関しては、その限りではなかった。
また質問をしたラナナも微動だにせず、ジッとレドベージュを見つめたままであった。
「・・・まあ良かろう。アルスとカルタス、そしてフレーナもだな」
その答えを聞くなりラナナは目を大きく見開き、先ほどまで見せていた硬い表情が一瞬にして消える。
「すごい!本当に天将レドベージュ様なんですか!?」
レドベージュに駆け寄り、跪いて視線を彼の高さに合わせ、大きな声で確認をするラナナ。
その様子は少し興奮をしているようであり、先ほどまでの冷静な分析をしていた少女の面影が消えてしまっている。
「うん?」
その様子の変化に戸惑う湖張。
「すごい!本当にすごい!」
レドベージュの前で何か大発見をした時の様な笑顔を振りまくラナナ。
「・・・あの、ちょっと良い?名前を聞いただけで本物のレドベージュだって判断が出来るものなの?」
何故そうなったのか理解が出来なかった湖張がラナナの横で中腰になり顔を覗き込むようにして聞くと
彼女は湖張に顔を向けて答える。
「そうなんですよ、実は去年の夏に見つかった遺跡の中に初代赤き聖者の事が記された石板が出てきたのです。
そこに赤き聖者の名前が記されていて一人はアルスさんだと読めたのですが、
もう一人の名前は最初の文字以外が削れていて読めなかったのです。そして最初の文字は『カ』でした。
そしてこの話は、まだ一部の人間しか知らない未発表の研究内容なのです!」
興奮気味に少し早口でそう話すラナナ。すると湖張は視線を少し上に向けて考えた後に納得をした表情を見せる。
「あーそういう事か」
「そうです、アルスさんの名前自体も一部の学者しか知り得ない情報ですし、
頭文字が『カ』で始まるもう一人の名前も答えられた。この二つの条件を満たした答えを出した事は偶然とは言えない一致です。
それにフレーナさんという聞いたこともない方の名前も出てくるなんて、本当に凄いですよ!」
「ふむ、我のテストをするついでに自分の知りたい情報まで引き出したという事か。
これはしてやられたな」
レドベージュがボソリとそう呟く。するとラナナは両手を振り焦った様子で否定をする。
「あ、違うんです!決して騙そうとしていたわけじゃないのです!
ただ咄嗟の流れでしたので、それしか頭に思い浮かばなかったというか・・・。
とにかく安心してください。赤き聖者として知り得た知識は他に公表するつもりは全くありません。
あくまで自らの知的好奇心を満たすのみです」
「赤き聖者として?それって仲間になってくれるという事?」
ラナナの発した言葉の中に注目すべき内容が入っていたと気づいた湖張は、早速その言葉を拾い確認を取る。
すると首を縦に振るラナナ。
「はい、そうしようかなと。
というのも私、魔法学校を卒業したのは良いのですが、まだ年も若いので少し見分を広めてくるようにと
先生に言われておりまして、一人旅の最中だったのですよ。
本来でしたら卒業と同時に、その先生の下で研究者にでもと考えていたのですけどね。
なのでどちらにせよ旅はしばらく続けなくてはいけないのです。
それでしたら赤き聖者として一緒に旅をした方が良いのかなと。
そして何より、目の前に神話の世界があるのです。飛び込まない手はありません」
目を輝かしながら答えるラナナ。
「だって。案外あっさりと交渉が成立して良かったねレドベージュ」
湖張がレドベージュに視線を向けながらそう言うと、彼は少し何かを考えている様子であった。
「そうか、だが良いのか?赤き聖者の旅は危険を伴ったり、見たくないものも見なくてはならない可能性もあるのだ。
誘っておいて何だが、そう簡単に判断しても大丈夫か?」
念を押すように確認を取るレドベージュ。一方ラナナは意外とあっけらかんとしている。
「ええ、平気です。
むしろそういう事を体験するために旅に出るよう先生から言われていると理解していますので」
綺麗な笑顔でそう答えると、レドベージュはまた少し考えた素振りを見せる。
「そうか、分かった。これからよろしく頼む。
ただ、もし辛い事があったり赤き聖者を辞めたくなった時は遠慮せずに言うのだぞ。
特に引き留めることはせぬ。赤き聖者によって人生を無駄にすることは無い」
レドベージュがラナナに向かってそう言う姿は、何となくだが悲しげに感じ取れた湖張。
そう感じていると、彼は湖張の方に顔を向ける。
「湖張よ、これは湖張に対しても言っているのであるからな。
辞めたいときは素直に打ち明けてくれ。二人は幸せになる権利がある」
「どうしたの?何か悲しそうだよ?」
レドベージュの言葉を聞くと、思わずそう言ってしまった湖張。
すると彼は少し驚いた様子を見せるが、すぐさま「そんなことは無い」と一言だけ返してくる。
そして数秒の間だけ沈黙が続くと、レドベージュはラナナの方を向いて話かけてくる。
「・・・ちなみに先ほどの話の補足となるが、フレーナだが正式には赤き聖者ではない」
「え!?どういう事です!?」
その話に食いつくラナナ。恐らくレドベージュは会話の雰囲気を変えたかったのかもしれないと感じ取れる話題の振り方であった。
「フレーナは成り行きで我らと行動を共にするようになったのだ。
なので赤き聖者というわけではない。ただ我らの大切な仲間ではあった。
よって赤き聖者の名誉メンバーといったところだな」
「なるほど、だから記載がない存在だったのですね」
「うむ、そうだと考えられるな」
レドベージュとの会話が落ち着いたと感じると、湖張はラナナに近づき、右手を差し出す。
「さてと、じゃあ改めてになるけど湖張よ。よろしくね」
そう言ってニカっと笑顔を見せる湖張。
するとラナナも微笑みながら右手差し出し握手をする。
「ラナナです。よろしくお願いします、湖張姉さま」
「・・・うん?姉さま?」
急に姉さま呼びされたので目を丸くする湖張。一方そう呼んだラナナも少し戸惑う顔を見せる。
「え?あれ?赤き聖者となる者は義兄弟の契りを交わすのではないのですか?」
「ええええええええ!?」
突然とんでもない事を言うので、大声を上げて驚く湖張。
一方ラナナも自分の言ったことが違うのか不安になり目が泳いでいる。
そして二人は事実を確認するためにレドベージュに視線を移す。
「・・・いや、そんなことは無いぞ」
レドベージュにとってもこの展開は読めなかったのか、少し困惑しているようだ。
「あれ?じゃあ、あの記述は何だったのだろう?」
左手を口に当てて考え込むラナナ。するとレドベージュが首を傾げながらラナナに話しかける。
「ああ、ひょっとしたらラナナが見た記述は二代目達の事を記した物かもしれんな。
確かにあの者たちは義兄弟の契りを交していたな」
「じゃあやっぱり義兄弟の契りは交すものなんですか?!」
「・・・そうなの?」
「いや、二代目だけだ」
「あー・・・」
そう言って湖張を見つめるラナナ。
「まあいいです。湖張姉さまはおいくつです?」
「うん?一応17歳だけど?」
「なるほど、ではやはり私よりは姉さまですね」
「え?その呼び名は続行なの?」
「嫌ですか?」
「・・・いや、別にいいけど」
「そうですか!」
そう言うとニコっと明るく笑顔を見せるラナナ。
どうやら間違いを認めたくないのか、このまま姉さま呼びをしたい様子である。
「ねえラナナってさ、さっきまで物凄く硬いイメージだったのに、
今は妙にやわらかいというか、明るいというか・・・急にどうしたの?」
雰囲気が大分変っているので、ついそう聞いてしまう湖張。
すると彼女は苦笑いで答える。
「きっかけとしては、やはり神話の世界が目の前に現れて舞い上がってしまった事ですけど・・・
実は私、元々はこんな感じなのですよ。
ただ、女の一人旅なので隙を見せないために、そして学校では周りが自分より年上ばかりだし、
ライバル視をしてくる人も多かったので隙の無い振る舞いをするよう心掛けていたのです。
でも赤き聖者は正義の集まりなのですよね?
なので隙の無い振る舞いをしなくても騙されないと思ったので素を出しているだけです。
・・・とまあ、そうは言っても初対面なのにそれもどうかとも思えますが、何ででしょうね?」
そう言うと二人をジッと見つめるラナナ。
「不思議と心が許せそうな気がした。それが本音かもしれませんね」
少し恥ずかしいセリフだが何気なくそうラナナが言うと、湖張は微笑んで答える。
「そっか。まあ信じてもらっても大丈夫だと思うよ。
レドベージュも天将なのに良い意味でユルイし」
「またそれを言うのか」
「やっぱりそうなんですね?私の勘って結構当たるんですよ」
可愛らしい笑顔でラナナがそう言うと、何故かその場の雰囲気までもがにこやかになってしまう。
最初はどうなるか分からなかったが、案外とどうにかなるものだと暖かい雰囲気の中で安堵する湖張であった。
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