ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十七話【陽気な旅人?】
- 2021.01.10
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
町に入ると、建物と建物の間から大きな湖が覗いて見える。
この町はとても賑やかで、人が楽しそうに行き来をしている。
「あれ?ここってひょっとしたら夏に訪れたいと騒がれている人気の観光地じゃないですか?」
湖を見た途端にポカンとした表情で呟くラナナ。するとレドベージュは頷いて答える。
「うむ、その通りだ。気付いていなかったのか?」
「・・・はい。でも確かに昨日の町から更に東を目指すとなるとそうなりますよね。
あーずっと魔法の事を考えていたから気づきませんでしたよ」
ため息をついた後に苦笑いを見せるラナナ。その様子を見て湖張は周囲を見渡す。
「あーここって有名な観光地だったの?」
「そうですよ。大きな湖で遊べる真夏に人気の観光地です。
一度は来てみたいと思ってはいましたが、まさか今日来るとは思いもしませんでした。
よりによって泳ぐにはまだ寒い時期に来るとは・・・」
「あー時期を間違えちゃった感じ?」
「はい。とは言っても、泳げなくても周辺の観光スポットは色々とあるので、年がら年中観光客はいるんですけどね」
ラナナの言う通り、泳げない時期だというのに観光客と思われる人々が大勢見られ活気に満ち溢れた町だと感じられる。
そしてその様子を見ると、湖張はレドベージュに話しかける。
「ねえレドベージュ。一日か二日でいいからさ、この町にちょっと滞在しない?
ラナナはこの町に来たいと思っていたんだよね?
そうしたらさ、泳げないけどちょっと観光しようよ。最近は研究に根を詰め過ぎているから頭を空っぽにしてリフレッシュした方が効率上がるんじゃないかな?」
「うむ、そうしよう」
湖張の意見を聞くなり、即採用するレドベージュ。その流れに戸惑うラナナ。
「え?そんな、お仕事そっちのけで観光なんてまずいのでは?」
「いや、最近は休日なしの旅であったではないか。湖張の意見ももっともだからな。しばらくゆっくりするぞ?」
「そうそう、たまには遊びに行こう。きっとおいしい物もあるよ」
レドベージュの話に湖張も続くと、しばらく考えた後にニッコリと笑顔を見せるラナナ。
「分かりました・・・そうしましょう!ちなみにここでは湖でとれる魚がとても美味しいらしいですよ」
普段通りの柔らかい表情をラナナが見せると、心なしか少し安堵する湖張。
と、その時であった。後ろから誰かが近づいてくる気配を感じる。そして振り返ると、
陽気そうな雰囲気で旅人と思われるような身なりをした20歳前後の男性が突然話しかけてきた。
「やあやあ、元気しているかい?君たちはこれから用事があるのかな?」
ニヤニヤしながら軽快に近寄ってくる男性。その軽いノリに思わず言葉を失ってしまう湖張。一方ラナナは今さっきまで見せていた良い笑顔が一瞬で消え失せ、物凄く不機嫌な表情になる。
「ナンパなら結構です。私の姉さまにこれ以上近づいたら魔法で焼きますよ?」
「私の!?というか焼く!?」
色々と突っ込みどころ満載なラナナの発言に目を丸くして慌てつつ驚く湖張。
その一方で発言主であるラナナといえば、まるで人に唸る子犬の様な雰囲気である。
(あー参ったな)
変な人が近づいてきた事よりも、ラナナの雰囲気に頭を抱える湖張。
どうしたものかと頭を悩ませつつレドベージュに助けを求めるかのように視線を移すと彼はジッと旅人を見つめており、何故かその姿に違和感を感じた。
「これこれ、初対面の人に物騒な事を言うでない。旅の方もすまなかったな。それでどのようなご用件かな?」
そう感じている中、ラナナをなだめ始めるレドベージュ。
よりによって軽い男性を受け入れるかのような発言をしたのは少し意外であった。
しかしラナナの様子は変わらず臨戦態勢である。
「お構いなく。私たちはこれから三人で観光に行くのです。御機嫌よう」
ツンとした態度でこの場から立ち去ろうとする雰囲気を出すラナナ。
とその時であった、旅の男性は両手を広げてにやけた顔をやめて話しかけてくる。
「観光でしたら実は普通の人は知らない穴場があるのですよ?
過去に存在した数多の豪傑が修行をし、未熟な部分を克服した修練場が」
「修練場?」
旅人の言葉に興味を示す湖張。その様子を見るなりラナナは湖張の手を引いてその場を去ろうとする。
「行きますよ!」
更にグイっと手を引かれその場から離される湖張。
「ちょっとちょっと、そんなに引っ張らないで。ちゃんと歩くから!」
「ダメですよ湖張姉さま。観光地には変に浮かれた人も多いので無視しないと!」
「あー・・・うん」
そうやり取りしながら、旅人から離れていく二人。しかしレドベージュはその場からすぐには動かなかった。
「レッド君!」
大きい声でラナナが呼びかけると「やれやれ」と一言残しゆっくりとその場から立ち去ろうとするレドベージュ。
そして旅人に向かい「まあ考えておこう」と残すと、先に行った二人の後を追い始めた。
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