ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第三十五話【汚れた水】
- 2020.08.23
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
ラナナとの合流後、これからの話を立ち話ではなく落ち着いてする事となったので、
とりあえず宿屋に向かう事となった。
この街にはいくつもの宿があったのだが、ラナナは既に部屋をとっているとの事だったので
湖張たちも同じ宿をとることにした。
ラナナの部屋は一人部屋だったので今日は別の部屋を借りる予定だったのだが、
宿屋の受付にラナナが掛け合い、二人部屋に変更してもらう事ができた。
初対面の相手でも気にせず、いきなり同部屋でも抵抗がないラナナの姿勢を見ると、
先ほど言っていた『不思議と心が許せそう』という言葉は本当だったのだと感じられる。
部屋には出店で買った昼食も持ち込むことにした。
話をしながら昼食も取ろうという事になったからである。
またレドベージュも話に加わるとなると、人目が気になるので外食は避けたかったというのもあった。
買ってきたものは厚切りベーコンとレタス、そしてトマトを挟んだパンで、
搾りたてのオレンジジュースもついてきた。
パンからはみ出している分厚いベーコンが食べづらそうではあったが、美味しそうでもある。
また宿屋の食堂でボトルに水を入れてもらい、ジュースが無くなっても大丈夫なように準備もしておいた。
そして買ってきた昼食を部屋の丸テーブルに並べると、三人は輪になるような位置につき会話が始まる。
「じゃあ早速いただきましょうか」
湖張がそう言いながらパンを手に取ると、ラナナはオレンジジュースを飲もうとするが口に含む前にレドベージュを見つめる。
「レドベージュ様は椅子に腰を掛けないのですか?」
湖張とラナナは椅子に座っているが、レドベージュは当然のように立ったままであった。
湖張にとってはそれが当たり前の姿ではあるが、ラナナにとっては初めての事なので気になるようだ。
「うむ、湖張と最初に出会った時も座らないのかと聞かれたが、その気遣いは無用だ。
というのも我は体の構造上、椅子に腰を掛けることが難しい」
「ああ、なるほど」
その答えに納得をするラナナ。続けてレドベージュが話しかけてくる。
「それとこの事も湖張と最初に会った時に話したが、我に様はつけないで欲しい。また話し方も敬語にする必要はない」
「え?でもそれは畏れ多いのでは?」
「湖張と同じような答えだな。だが仲間に目上のようなイメージを持って欲しくはない。あくまで対等に扱って欲しいのだ」
その話を聞くと、心配そうな表情で湖張を見つめるラナナ。
「ああ、大丈夫だよ?実際のところ私はそんな風に接しているし、すぐ慣れるよ」
湖張が安心させるように、ほのかな笑顔で答えると、ラナナは「そうですか」と言ってジュースを口にする。
その様子を見ると、レドベージュは話を再開させる。
「さて、話を続けるか。まず我々の設定からだな」
「設定ですか?」
ラナナが不思議そうな表情を見せると、湖張がうっすらとした笑みで横から話しかける。
「ほら、敬語になっているよ?」
慌てる素振りのラナナ。
「あ、いえ・・・えっとこの話し方は意図的ではなくって普通というか・・・
とにかく私はこういう感じですので、お気になさらず」
「そうなの?」
「はい」
「ならいっか」
「はい」
「話を続けていいか?」
「ああ、話を遮ってごめんね」
「なに、構わんさ。それで設定というのはだな、我という存在の事だ。
というのも我はリビングアーマーではないか?
それなのに考えて会話をするという事はかなり特殊な事なのだ。
なので人前では会話は基本的に行わないようにしている。
そして我はリビングアーマーを作る技術を応用した自動人形『パペット』で
湖張とラナナはパペットを操る技師『パペットマスター』として運用試験の旅をしている設定だ」
そこまで聞くと頷くラナナ。
「なるほど、確かにリビングアーマーを連れているのも珍しい光景ですものね。
パペットマスターという設定は有りですね」
そのタイミングで今度は湖張が話始める。
「それで名前についてだけど、流石にパペットに対してもレドベージュと呼ぶのは少し良くないと思うから、
人前では『レッド君』と呼ぶことにしているから」
「レッド君ですか?」
「そう、レッド君」
そのタイミングでレドベージュを見つめるラナナ。すると彼は「別に構わんさ」と一言だけ返す。
「あはは、でもまあレッド君とした方が何かと良いですね」
そう言ってからパンを口にするラナナ。そして何かを考えている様子も見せる。
「どうかしたの?」
湖張がラナナに対してそう聞くと、彼女は湖張を一度見た後に視線をレドベージュに移してジッと見つめる。
「あの、その設定ですが少し追加しても良いですか?」
「追加?」
「はい、というのも私の通っていた学校ではリビングアーマーに会話をする機能を付けて
無人で顧客応対をさせる研究を行っている研究室があるのですよ。
その技術をレッド君にも利用しているという設定をつければ
人前でも喋れるのではないでしょうか?ずっと黙っているのも時にはやり辛くはありませんか?」
その提案を聞くと、湖張とレドベージュは見つめあう。
「それ良いんじゃない?正直なところ私一人だけで会話を進めるのは中々大変だったし、
あの爆発した家の時だって、レドベージュが舌戦に参戦してくれた時はとても助かったよ」
「爆発?舌戦?」
湖張の話の中に出てきた気になる単語を口に出すラナナ。
その様子を見ると苦笑いで湖張が答える。
「ああ、確かに物騒な言葉だから気になるよね?その事は後で教えてあげるよ。
それでレドベージュはどう思う?私は賛成かな」
「うむ、良いと思うぞ。我もたまに言葉が出そうになって危なかった事が何度かあるからな」
「なら決まりだね」
湖張がそう言ってからパンを口に運ぶと、レドベージュは次の話題を始める。
「では次の話だ。ここでラナナが加わったので我々の戦術について打ち合わせをしておこう」
「戦術ですか?」
「うむ、今までは湖張と二人旅で戦闘になっても何となくで対処していた。
しかしここで三人になるのだ。それぞれの特性を知った上でどう動くかを決めておいた方が効率が良くなるであろう
まあ戦術というよりは、戦闘における簡単な取り決めだな」
レドベージュがそう言うと、湖張は賛同するように一度頷く。
「確かにそうかもね。今までは思い付きで行動していたけど基本的なポジションは確認しておいた方が良いかも」
「なるほど、分かりました」
納得をした反応を見せる二人。
「とはいったものの、ここで決めた事をがっちり守る必要は無い。
結局のところその時その時で状況が変わるので臨機応変に対処になってしまうと思うが
それでも基本的なスタンスは決めておこうというだけだ。
それで考えている流れだが、我は見ての通り鎧だ。なので痛みもなく傷ついても直すことが出来る。
よって戦闘になった時は、我が接近し相手を抑え込む。
そして湖張とラナナは後方から魔法で援護をして欲しい」
特に二人に目を合わせるのではなく、淡々とそう語るレドベージュ。
その話を聞いた湖張はパンを置き少し前のめりになる。そしてその顔は不服そうである。
「ちょっと待って、それは異議あり。
確かに私は魔法で援護が出来るけど、それはちょっと違うと思う。
私は主に格闘技を専門にやってきた格闘家なんだよ?
それに今までの戦いを見ても、私の方がレドベージュより歩幅が広かったり
身軽な恰好をしている分、素早い動きが出来ていたじゃない?
だから私が最初に接近して相手をかく乱、それと同時にラナナが魔法で援護をして
レドベージュが強い一撃で制圧。この流れの方が自然じゃない?」
そう反論すると、レドベージュは湖張を見つめる。
「しかし最初に飛び込むのは危険であるぞ?」
「いや、そんなのは赤き聖者になった時点で覚悟の上だよ。
それに危険を和らげるための打ち合わせなんじゃないの?
大丈夫だって、これでも身軽さには自信あるんだよ」
「ふむ、しかしだな・・・」
「どうしたの?何か今日のレドベージュ変だよ?」
心配そうな表情で覗き込む湖張。
するとレドベージュは少しの間、言葉を詰まらせているかのような雰囲気で何も言えなくなってしまう。
「うむ、確かにそうであるな。分かった。湖張の案で行こう」
湖張の勢いに押されたのか、潔く引き下がるレドベージュ。
すると湖張はラナナに視線を移す。
「えっと今は勢いと予想でこう言ったけれど、ラナナって魔法使いという認識で良いんだよね?」
キョトンとするラナナ。
「はい、私は魔法使いで接近戦はあまり得意ではありません。
・・・それより湖張姉さまって格闘家だったのですか?」
「へ?」
「あ、いえ・・・見た目がとても可憐な方だと思っていたのでギャップというか・・・」
表情を変えず、さらりとラナナがそう言うと湖張は赤面し姿勢を正す。
「ちょっと止めてよ、私はそんなんじゃないよ」
「そうでしょうか?」
「そうよ!ほら、早くパンを食べよ・・・ングッ!!」
照れ隠しのようにパンに手を付ける湖張。しかし慌てて食べたせいか咽てしまった。
「大丈夫です?」
「こらこら、慌てるでない。水でも飲んで落ち着くと良い」
心配そうなラナナの傍らでボトルの水をコップに移して湖張の前に差し出すレドベージュ。
するとラナナは少し慌てた素振りで水を自分の目の前に寄せ、
その代わりにオレンジジュースを差し出す。
「ちょっと待ってください、すみませんが今はこのジュースを飲んでいただけませんか?」
咽ながらもジュースを手に取り少しずつ飲んで落ち着こうとする湖張。
一方レドベージュはラナナの行動に対して不思議そうである。
「一体どうしたの言うのだ?なぜ水を下げる?」
レドベージュがそう尋ねると、ラナナは自らの下に引き寄せた水に何かの魔法をかけながら答える。
「いえ、実はここの宿屋のお水って何か酸っぱいというか酸味があるというか・・・
とにかくあまりおいしくないのですよ。なのでこうやって魔法で浄化をしてからの方が良いんです」
「む?そうなのか?」
そう言うとボトルの水を手に持ちジッと見つめるレドベージュ。その間に湖張は復帰したようである。
「ぶはー、苦しかった」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど・・・水が変なの?」
「変というか美味しくないというか・・・何なのでしょうね?」
その答えが返ってくるとレドベージュに視線を移す湖張。
「何か分かった?」
「・・・うむ、微量だが毒が入っているな」
「え!?」
レドベージュが思いも寄らない事を発言するとラナナは目を丸くして驚く。
「あーまた毒かあ」
「また!?」
「うむ、ただこの量だとラナナが言った通り酸っぱいだけで特に害はないな。
とは言ったものの見過ごすことは出来まい」
レドベージュの話を聞くと、湖張は水の入ったボトルを手に取る。
「そっか、体に害は無いんだね?そうしたらこの水と、さっきラナナが浄化してくれた水を飲み比べてみようかな?」
「え!?」
「こらこら、馬鹿な事を言うのでない。わざわざそんな事をしなくても良かろう」
「そう?どのくらい実害があるのか身をもって体験しといた方が良いと思ったけど、まあ良いか」
そう言うとラナナに視線を移す湖張。
「何かさっきから驚かせてばかりだね」
苦笑いでそう言うと、ラナナは引きつった笑いを見せる。
「あ・・・いえ、大丈夫です。
すみません、新入りなもので赤き聖者の活動に驚きっぱなしです」
「あーそうは言っても私だって赤き聖者になったのは、つい最近だよ?
むしろそんなに変わらないかな?」
「え?そうなんですか!?」
「あはは、また驚いた。そうなんだよね、実は。
ただ毎日が濃いというか何というか・・・まあとにかく赤き聖者をやっていると、
毎日何かしらの事があるから直ぐに慣れると思うよ?ね、レドベージュ?」
湖張がレドベージュに話を振るが、彼は何かを考えている様子で直ぐに返事をしなかった。
「うん?どうかした?」
その様子を不思議に思い湖張が問いかける。
「・・・いや、湖張にそう言われて過去を思い返してみたのだが
毎日こんなに様々な事が起きたことは過去にないぞ」
「え?どういうこと?」
「いや、どうもこうも・・・確かに様々な事を赤き聖者は対処してきたが、
今回ほど毎日とっかえひっかえ違う事が起きた事は無いな。
基本的には一つ事件を解決したら数週間は何事もなく旅をしていたイメージだ。
湖張との旅は我にとっても新鮮ではあるな」
「ちょっと、それって何か私が呼び寄せているみたいじゃない?」
「いや、そんな事は出来ないであろう?偶然が重なっているだけであろう」
「ふうん」
不服そうに湖張がパンをかじると、レドベージュは再度ボトルを手に取り水を見つめる。
「さてと、昼食をとったら出かようと思うが良いか?」
「原因の調査に行くの?」
湖張がそう尋ねるとレドベージュは「うむ」と一言だけ返す。
「分かりました、そうしたら急いで食べますね!」
初任務となるので、張り切った様子を見せるラナナ。しかしレドベージュは首をゆっくりと横に振る。
「いや、ゆっくりで良いぞ。そう慌てることもあるまい」
そう言われると、パンをジッと見つめてから再び少しずつ食べ始めるラナナ。
慌てて食べることは止めたようだが、それでも少しくらいは食べる速度を上げているようである。
「さてと、今日はどんな事が起こるのかな」
湖張がそう呟きながらパンの包み紙をたたみ始めると、レドベージュは「さあ、どうだろうな」と一言だけ反応するのであった。
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