ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第三十一話【宴会二日目】

           

「ほら!たくさん食べてよ湖張ちゃん!!」
魔物を退治した後は、日も沈まない時間から村人たちは集まり酒を飲み始めていた。
料理を担当する者も酒を飲みながら調理と危険な事を平然とやってのけている。
村の子供たちも酒こそ飲んではいないが場の雰囲気に飲まれて、はしゃぎ回っている有様であった。
現在の湖張は、そんな賑やかな村民たちに囲まれて苦笑いの連続である。

「えっと、もうお腹いっぱいなんですけど」
次から次へと運び込まれる料理に困惑をしながら酔っ払いの相手をする湖張。
流石に酒は飲めないので食べる専門にしていたら、この状態である。

「いやー本当に強いね、湖張ちゃんは」
酒を片手に目の前に座った中年の男が、しみじみとそう話してくる。
すると隣に座っていた若い男も頷きながら話に続く。
「だよな!本当に強いよ!!このままこの村の守護神として住み込んでほしいくらいだ!」
「あはは、それはちょっと・・・」
顔が真っ赤になった酔っ払いの相手に難儀している湖張。
その中でさらに困りごとの追い打ちをかけるかの如く、宿屋の主が再び料理をてんこ盛りで持ってきた。

「おう、いっぱい食べとくれ!」
満腹状態だと、見るだけで辛くなる光景が皿の上に展開されている。
もはやこの宴の席は苦行の場でもあった。

「そういえばレッド君も凄いな!あんな身なりで身軽に動き回るし、
魔物の尻尾もぶった切っていたもんな。魔物は固かったのに、嘘のようだったよ」
料理をテーブルに置いた後に、腕を組んで宿屋の主がそう言うと、ハッとした顔で湖張はジッと宿屋の主を見つめる。

「あれ?そう言えば何処に行ったのかな?」
周りの騒がしさに流されて忘れていたが、先ほどからレドベージュの姿が見えていない事に気が付く湖張。
すると少し慌てるそぶりを見せて立ち上がると「ちょっと気になるので探してきます!」と言って、
逃げるようにその場を離れた。
正直なところ、さほど心配ではなかったのだが、その場を離れるのにはもってこいの理由だったので利用したようなものでもあった。

宿屋の食堂を出ると、朝と同様に道端でも飲んだくれている村人が複数人おり、当然の様に話しかけられる湖張。
しかしレッド君を探している事を伝え、そそくさとその場を離れる。

「一体どこに行ったのかな?」
そこまで広い村ではなかったので、適当に外を歩いているだけで見つかると考え、ゆっくりと見渡しながら歩く湖張。
そうこうしているうちに魔物と戦った畑付近に差し掛かると、倒れている魔物のそばにレドベージュの姿を見つけた。

「何をしているの?」
レドベージュにそっと近づき話しかけると、彼は顔を上げて湖張を確認した後に、再び視線を魔物に移す。
「うむ、魔物の調査といったところだな」

恐らくレドベージュはずっとここで魔物を調べていたのであろう。
見たことが無い魔物と言っていたので、気になっていたのだと推測できる。
「何か分かった?」
「そうだな、妙であることは分かった」
「妙?」
「うむ、まず我は尻尾を切断し湖張は体を深く切った。
なのに出血の量が少なすぎる」
「あー、それ私も思った。おかしいよね」
「それにあの固さ、生物としては異常だ」
「そう、それも変だよね。覇王の団扇で切ってもあの程度だったんだよ。
レドベージュと最初に戦った魔物は真っ二つにできたのに、この魔物はそうならなかったもの」
「ふむ、やはり湖張の一撃は手加減をしていたというわけではないのだな?」
その問いに少し固まる湖張。
「あー、いや、流石に思い切りやると周りに被害が出そうだから加減はしたかな?」
「ふむ・・・」

そうやり取りをすると、しゃがみ込んで魔物の皮膚に触れるレドベージュ。
「ひょっとしたらこの魔物、人の手が加えられたものかもしれないぞ」
「どういう事?」
「うむ、この魔物の皮膚だが、妙な魔法が込められているようだ」
そう言うと、指先から10cm程の長さである光の刃を発生させ、
魔物の皮膚の小さなサンプルを切り落とすレドベージュ。

「それをどうするの?」
「一応とっておく。今後の資料になりそうだからな」
「なるほどね」

そのタイミングで立ち上がり、宿屋の方を見るレドベージュ。
「さて、相当盛り上がっているようだが今日も今日とて色々あって疲れてたであろう。
こっそり部屋に戻って休むとするか?」
「うん、そうしたいけど・・・帰る途中に見つかっちゃって、また宴の席に戻されちゃうんじゃない?」
苦笑いでそう言うと、レドベージュは人差し指を立てて、内緒話をするかのような素振りを見せる。

「うむ、そう思ってだな、実は部屋のバルコニーに通じる扉の鍵を開けておいた。
そこから部屋に入れば気づかれないであろう?」
「え?いつの間に!?」
驚いた顔を見せる湖張。

「うむ、魔物を退治した後、宿屋の主がお礼にとバルコニー付きの特上部屋に変えてくれたであろう?
そして昨日宿泊をした部屋から荷物を移動した時に、こうなる事を予想して開けておいたのだ」
「流石だね。でもどうやって二階にあるバルコニーに入り込むの?」
「そこは潜入捜査の練習を兼ねて気合だな」
「何それ、そこはノープランだったの?でも、それはそれで面白そうだね。
・・・って部屋を変えたタイミングで風呂に入ってこいと促したのは、ひょっとしてこの為?」
「うむ、折角潜入に成功しても、汗が流せないのは気持ち悪かろう?」
「はー、恐れ入ったわ」

そうやり取りをすると、息を潜めて宿屋を目指す二人。
今現在は日が沈み終わる寸前で、バルコニーへの潜入に協力するかのように闇が周囲に広がり始めていった。

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