ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第三十話【芋を食べる魔物】
- 2020.08.02
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
それから30分ほど村に向かって歩いていると、迎えの二頭立て馬車が湖張たちの目の前に到着した。
「さあ、乗った乗った!」
湖張たちの元への道案内の為に馬で馬車と並走してきた先ほどの男性がそう言うと、
馬車の中から宿屋の主が手を差し伸べてくる。
「あれ?馬車に乗っていたのですか?」
「ああ、この馬車はうちの宿のものだからな。
さあ、出してくれ!」
二人が馬車に乗り込むなり、出発の合図を出す宿屋の主。
すると馬車は急ぎ足で走り出す。
「悪いね湖張ちゃん。山賊だけじゃなくって魔物退治までお世話になろうとしちゃってさ」
気まずそうに宿屋の主がそう言うと、気にさせまいと湖張は首を何度か横に振って答える。
「良いんですよ、気にしなくて。
むしろレッド君のテストに持ってこいです。それに丁度良かったですよ。
というのもお昼のパンが美味しかったので、お礼をしたいと思っていたのです」
笑顔で湖張が答えると、宿屋の主は腕を組んで気難しい顔をする。
「いや、あのパンは山賊退治のお礼だからな。
それにお礼をされちゃ、こっちが貰いすぎだ。
・・・よし、今日も宴会だ!魔物を倒したら湖張ちゃんを持て成すぞ!」
真面目な顔をして宴の提案をする宿屋の店主。
すると馬車の御者が半笑いで振り返りながら話に混ざってくる。
「何言ってるんだよマスター。朝から宴会だって話だったじゃないか」
「お、そうだったか?がっはっは!」
「何言ってんだか」
良く見るとこの馬車の御者は出発前に駆け寄ってきた酔っ払いだった。
どうやら酒は抜けているらしい。
「・・・」
とりあえず宴会に結び付けてくる村人に言葉を失う湖張。
しかしながら緊張感があるんだか無いんだか分からない村人の様子を見ると、
深刻な状況ではないとも思えてくるので、それはそれで良いかとも思えてくる。
そうこうしている間に村に到着する一行。
湖張たちも何だかんだで村の近くまで移動してきていたので、乗車時間は大してなかった。
馬車が村に入るなり、数人の村人が走り寄ってくる。
するとその場で馬車が止まったので、下車して村人たちに顔を見せる湖張。
「ごめんね湖張ちゃん。今日は観光だったんだろう?」
心配そうに40過ぎと思われる女性に話しかけられると、優しい表情で首を横に振る湖張。
「いえ、良いんですよ。見たいものは見ましたし。
それより魔物は何処にいますか?」
問題の魔物の居場所を聞くと、女性の隣にいた若者の男性が村の奥の方を指さす。
「あっちです。案内します!」
「お願いします」
そう言うと若者は小走りで移動し、魔物の場所まで案内を始める。
湖張たちも同じ速度でついてくと、程なくして畑が広がっている場所に到着した。
そこの畑には、多くの村人が集まっており、何かをじっくり観察しているようである。
「あそこです!」
若者がそう言って、畑の中を指さす。
するとそこには見た事もない魔物が芋を美味しそうに食べていた。
その容姿は体に厚みがあり、頭部が丸いトカゲが鶏のように二足で立っている感じで、
立ち上がっている時の高さは1m50cm程である。
翼と牙と角のない小型の竜といっても良いのかもしれないが、
そこまで仰々しい物ではない。
色は紺色で竜の様な小さな手もついており、長い尻尾が特徴的である。
「あれかな?」
「はい、あいつです!」
若者に確認を取ると、ジッと魔物を見つめる湖張。
そして少し考えた後、周囲に集まっている村人に対して話し掛ける。
「すみません、これからあの魔物と戦いますが、魔物が暴れて皆さんに被害が及ぶ可能性があります。
なので今の倍以上の距離を開けて、今すぐ離れていただけませんか?」
そう言って村人に距離を取るよう促す湖張。
実際のところは、村人の巻き込まれが怖かった事はさることながら、
距離を開けることによってレドベージュと会話が出来るとも考えた上での発言であった。
そして村人たちは湖張の指示を素直に実行に移し、遠巻きにしてその行く末を見守っている。
「あの魔物、見た事ある?」
村人たちには声が届かない位置関係だと判断できたので
顔は向けずに、魔物を見つめながらレドベージュに話しかける湖張。
「いや、見た事は無いな。新種かもしれん」
「そうすると生態は分からない、つまりは危険かどうかも分からないって事だよね?」
「うむ、その通りだ」
そのタイミングで一呼吸入れて考える時間を作る湖張。
「さて、どうしようかな。追っ払う?それともここで退治する?」
「うむ、悩みどころだな。無駄な殺生は避けたいが、ここで追い払ったとしても
また村に戻られた挙句、誰かが被害を受けては元も子もない」
「じゃあ退治する方向で良いね?」
「うむ、止むを得まい」
そう決まると、湖張は左手を開いて魔物に向ける。
「弓矢が刺さらなかったようだから、とりあえず魔法で先制するね」
「うむ、それでも倒しきれない場合は我が突貫しよう。
どのくらい硬いか確かめるために、初手は様子見であえて軽く斬りかかるので
もし弾かれても慌てなくて良いぞ。
ただ、数回攻撃した後に相手を怯ますことが出来た時は攻撃を仕掛けても良いからな」
「分かった」
湖張はそう返事をすると臨戦態勢の表情に変わり、その強い眼差しを魔物に向ける。
「サンダーボルト!」
湖張の左手が強く光ると、そこから発生した雷撃が魔物に刺さる。
瞬く間の出来事に村人から驚嘆の声が上がり、その場は盛り上がりを見せるが、魔物は少しよろけただけで健在であった。
「魔法もさほど効かないようだね」
「うむ、その様だな」
そうやり取りをしていると、魔物は魔法を撃った湖張を敵視し、走って向かってきた。
「では次は我の番だな」
抜剣して魔物に向かって走り出すレドベージュ。
そして魔物との距離が3m程になると、左手から光の玉を飛ばし、魔物の頭に命中させる。
すると小さな爆発が発生し、魔物は怯み立ち止まった。
その隙にレドベージュは軽く飛び上がり、爆発によって生じた僅かな煙が残る中
上から下へ剣を振り下ろす。
すると頭頂部に斬撃は命中するが、硬い物を棒で叩いた時の様に剣はそのまま弾かれてしまった。
「む?やはり硬いな」
着地と同時にそう呟き、再び左手を魔物に向けて光の玉を放ち、反撃の隙を与えないレドベージュ。
すると再び爆発が起き、魔物は一瞬怯むがやはり無傷のようである。
その隙に1mほど後退して間合いを開けようとするレドベージュ。
しかし魔物は開けられた間合いを詰めるかのように数歩進み、反時計回りに体を回転させて
尻尾で薙ぎ払ってくる。
「あああ!?」
その様子を見ていた村人たちが声を上げるが、湖張は動じず、その瞬間を見逃さないかのようにジッと動きを見つめている。
そして尻尾がレドベージュに到達する直前に、彼は目にも止まらぬ速さで剣を斜め右下から左上に切り上げた。
すると叩きつけるために薙ぎ払われた尻尾は鈍い音を立てた後に宙を舞い、大地に落下した。
「グギャァァァ!!!」
魔物が尻尾を切断された痛みの為か大きな声を発する。
しかしよろけながらも、倒れることは無く必死で二本の足で踏ん張り立っていた。
「今だ!」
レドベージュが言っていた攻撃を仕掛けても良いタイミングは今だと判断した湖張は
覇王の団扇を逆手に持って魔物の懐まで飛び込み、一気に間合いを詰める。
(前のように思い切り斬ったら被害が出るかもしれない)
魔物の目の前に到達する間にそう考える湖張。
以前のように覇王の団扇を振るうと、周囲までも切り裂いて畑や農作物がボロボロになり損害が大きくなると心配してしまう。
そこで力を抑えながら右から左へと魔物を切りつけると、
魔物の体には大きな切り口が開き、そのまま倒れこんだ。
「うおお!やったか!」
魔物が斬られ、倒れた様子を見た周囲の村人が勝利を感じ取り歓喜の声を上げ、走り寄ろうとする。
「まだ近づかないで!」
左手をかざし、村人たちが近づかないよう静止を促す湖張。
手ごたえはあったが、まだ確実に仕留めたとは言い切れないので確認が必要だと考えたからだ。
魔物は少し離れた位置からではあったが、ピクリとも動かず決着はついたかには思える。
その中でレドベージュが近づき魔物の様子を窺い始め、しばらくすると軽く頷いた素振りを見せる。
どうやら魔物の退治は完了したようだ。
それを確認すると、村人たちがいる方向に体を向ける湖張。
「お待たせしました、もう大丈夫そうです」
先ほどまで見せていた強い表情ではなく、優しい笑顔でそう報告すると、
村人たちから大きな歓声が沸き上がった。
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