ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百三十四話【アッシャー宅】

           

「・・・豪邸の部類・・・だよね?」
日が暮れ始めた街の中にある塀で囲まれた広めの敷地内にそびえ立つ大きな家の前でそう呟く湖張。その隣で家をジッと見つめるラナナとレドベージュ。
ユカリは小さくなってラナナの左腕にしがみ付いている。

「流石はアッシャーの末裔。権力は放棄しても財力はあるという事でしょうか」
家を見上げながらそう呟くラナナ。その言葉にタウンは頭を掻きながら反応する。

「いや、別にそっち方面で優遇されているってわけじゃないぞ?
ただ単に先祖代々、一兵卒からスタートはするものの出世をして、結局上の立場になってしまったという事を繰り返していたら、広い敷地の家が手に入るまで財力が溜まっていたというだけだ」

タウンに視線を移す湖張。
「あーそう言えば一兵卒からスタートする習わしなんだっけ?」
「そうだ、良く知っているな。まあ知っていても不思議は無いか」

山の一件が終わった後は、フィルサディアにすぐさま戻り城門近くの詰所のような場所でゼンによって簡単な調書を取られた。その間、タウンの姿は無かったのだが一時間ほどすると何事も無かったかのようにひょっこりと姿を現した。本来であれば取り押さえた特務の尋問や逃がした他の仲間の調査等といった国と騎士としての仕事があるはずなのだが、その部分は他の者に託し、早々に切り上げる事にするタウン。
赤き聖者との情報交換の方に主眼を置いているが故であった。
今はゼンも連れて自宅の前に辿り着いたところである。

タウンは扉をゆっくりと開けると、明るく照らされた広間が見えてくる。
「さあ、入ってくれ」
そう言葉を残し家の中に入るタウン。彼について行くと、剣の稽古が出来そうなくらいの広間が視界に広がる。上階に通じる階段も見え、中に入っても広い家なのだと感覚的に分かる作りであった。

「食堂に向かえばいいのかい?」
ゼンが問いかけると振り返り頷くタウン。
「ああ、家にこの件を伝えるよう部下にお願いはしておいたから準備は出来ているはずだ」

「あ、もう準備済みなんだ」
湖張がやり取りを聞いてそう呟くと、反応するタウン。
「そりゃそうだ、何ていったって重要なお客様だからな」
「ちょっと、どういう事よ!?」
タウンが笑顔で答え終わった直後、右側から女性の高い声が響き渡る。
驚きながら声がした方を慌てて向く一同。するとそこには茶色い髪を一つに結んだ小柄な女性が怒りと悲しさを合わせたような表情でこちらを見ていた。

そしてズカズカと早歩きで近づいてくるなり、タウンに問い詰める。
「なんで浮気なんてするのよ!?」
「はぁ!?なんだそれ!?」

「・・・え?」
いきなりの二人のやり取りに目が点になる湖張。お構いなしに攻防は続く。

「こんな可愛い子たちを連れ込んで!最低!」
「違う違う!そんなんじゃないって!何を言っているんだ!そもそもゼンもいるだろう!?」
「二人いるじゃない!ゼン君の女の子もいるのでしょう!?」
「ちげーよ!!」

妙な展開になってきたので、呆れ顔のラナナ。とりあえずゼンに問いかける。
「・・・えっと、あの人は?」
苦笑いで答えるゼン。
「タウンの婚約者のチウルだよ」

「やだー、婚約者だなんて!」
ゼンの言葉が耳に入るなり、言い争っていたタウンの事は放っておき頬に手を当てて、恥ずかしそうな顔を見せながらゼンの背中をバシッと叩くチウル。当然のように痛がるゼン。
この切り返しの激しさにまたしても目が点になる。

「ちょっと待て!婚約なんてした覚えねーぞ!?」
慌てて否定に入るタウン。それに頭を抱えるゼン。
「いや、そろそろ覚悟を決めなよ。早く結婚しなって」
「何だよそれ!そもそもお付き合いすらした記憶ねーぞ!?」
その言葉に詰め寄るチウル。
「ひどい!じゃあいつになったら結婚するの!?」
「何でその返しになるんだよ!?そもそも、まだ王子に浮いた話が無いんだ。俺が先を越すのは無礼に値するだろ!」
「また王子を出しにして言い逃れる」
「ゼン、オメーは黙ってろ!」

「・・・何なの、この展開」
呆れ顔の湖張とラナナ。その様子に気が付くと咳払いをした後、落ち着いた様子でチウルに語り掛けるタウン。

「あのな、こちらの方々はおもてなしをしながら国防上で重要な意見交換をしなければならない大切な客人なんだ。要するに仕事だ。だから大人しくしておこうな?」
そう伝えられると、つまらなさそうな顔を見せるチウル。納得がいっていなさそうである。そこで更に追加の情報を伝えるタウン。

「安心しろ、それに金髪の女性がいるだろう?そちらはゼンの後輩だ」
「ゼン君はその子を狙っているという事?」
「チゲーヨ!」
大声でツッコミを入れるタウン。

これには思わずゼンも苦笑いを見せた後に否定をする。
「それは違うってチウル。でも実際の所、要人のおもてなしという事は本当なんだ。だから、ね?」
そう説得されると、少し考えるチウル。そしてタウンに発言する。
「分かった、じゃあ私も食事会に参加する!」
「・・・何も分かってねえじゃないか」

「まあ良いではないか」
またひと騒動になりそうな流れだったのを感じ取ったレドベージュが話に入ってくる。
「え・・・いや、でもそれはまずいのでは?」
タウンが驚いた顔でそう伝えるが首を横に振るレドベージュ。
「我は別に構わんよ。むしろ我らを招いたことで、お主の今後に影響が出る方が困る」
「今後って・・・」
頭を掻くタウン。彼の様子の傍らでチウルはジッとレドベージュを見つめる。

「喋った・・・。リビングアーマー?」
近づいて更にジッと見つめる。そしてレドベージュと視線が合う。
「ひょっとして、レドベージュ様?」
「!?」

彼女の発言に驚く一同。慌ててタウンが問いかける。

「おい、何でそれを!?」
「何でって、喋るリビングアーマーと言ったらレドベージュ様じゃないの?」
「え!?」
「だって最新のダラの研究ではレドベージュ様は会話をする赤いリビングアーマーとされているよ?」
「だからってそんな直ぐに信じ込めるものなのか?」
「え?学問は嘘をつかないよ?」

「あの、あの人は一体?何でダラの、しかも一部しか知らない研究結果を知っているのです?」
ゼンに小声で問いかけるラナナ。すると苦笑いで答えるゼン。
「ああ、ソディット教授は覚えているだろう?彼女は教授の娘さんだよ」
「え!?」
「だからその伝でダラの研究には目を通している。しかも彼女自身も結構やり手の魔法使いでね。ダラは出てはいないけれども、エディア魔法学校は卒業している。しかも成績は常に上位10名以内ときたものだ」

その言葉に驚きを見せるラナナ。
「それって、めちゃくちゃ優秀じゃないですか!?ダラの卒業生でもかなわない人、多いですよ」
「そうだね、エディアはここフィルサディア内にある魔法学校だ。確かにダラは最難関の魔法学校だけれども、エディアも決して悪いわけではない。寧ろエディアの上位成績者はダラの学生をも凌ぐからね」

そう伝えた後にチウルを見て再び苦笑いを見せるゼン。そして話を続ける。
「教授も籍を置いている事もあり、ダラへの進学を薦められていたのだけれどもね、ダラはココから遠いだろう?だから寮生活になるのは必須だ。そうなるとタウンと離れ離れになるから行かなかったんだよ。だからここからでも通えるエディアに進学したんだ」
「・・・えー」
呆れ顔のラナナ。

「まあそれだけタウンの事が好きなんだよ。昔からね」
「・・・先輩も旧知の仲なのです?」
「んーまあそうなるかな?ちなみに教授もそのお陰で単身赴任になっているね」
「・・・えー」
さらに呆れ顔のラナナ。
「・・・まあ教授も一人で好き勝手に出来るから別に良いらしいよ?」
「そんなものなのです?」
「まあ家庭ごとにそれぞれの在り方はあるという事だよ」

ラナナとゼンのやり取りなど気づかないまま、しばらくジッとレドベージュを見つめ続けているチウル。そしてタウンに話しかける。

「それじゃあお母様の所に行って私もお手伝いしてくるね。タウンは食堂で待っていてね」
今までの揉め事が全く無かったかのような様子のチウルは小走りで奥に消えていく。
その後ろ姿を見送ると申し訳なさそうな素振りでレドベージュに謝るタウン。

「なんだかすみません。アイツ、不思議な性格をしていて思い込んだらそのまま突進してしまうんですよ」
「うむ、そのようだな」
「しかも質が悪い事に妙に知識だけは凄くて」
「うむ、我も初見で見抜かれたのは初めてだ。天才の部類かもしれぬ。大切にするのだぞ」
「大切って・・・」
ため息のタウン。昼間の切れ者の姿が今では嘘のようである。

「まあ良いか。皆には悪いが少し調子が狂うかもしれない。少し付き合ってくれ」
急に疲れた顔になったタウンはそう言い残して、ゆらりと食堂に向かっていった。

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