ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十七話【再びのアッシャー家】
- 2025.09.06
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「おう、ちょっと待っててな」
フィルサディアの入り口である街の門を通り過ぎたところで皆に告げるタウン。
小走りで入口のそばにある兵士用の小さな詰所に入っていく。
「どうしたのかな?」
不思議そうな目で詰所を見る湖張にゼンは答える。
「今日は直帰するからその旨を城に伝えるようお願いしているのだと思うよ」
「あーなるほどね。ゼンさんは良いの?」
「僕の分も言ってくれているよ。気が利かないやつでもないでしょう?」
「確かにそうかも」
そうこうしている間に再び小走りで戻ってくるタウン。
「悪いな、さすがに一言も無しの状態で帰るのはまずいからな」
「ほんとだ」
湖張の反応にクスクスと笑うゼン。そんな事には気にせずタウンは先に進む。
今はもう日が落ちそうなタイミングで、街の中にも帰路につく人影が多くみられる。
暗くなる前に戻れた事を良かったと話しながら道を歩く。
家や食事処から香る料理の匂いが空腹を感じさせてくると、先ほどまで戦っていた事など忘れてしまいそうである。
「タウーン!」
遠くで呼ぶ声が聞こえる。声の主はアッシャー宅の前で待っているチウルであった。
右腕を大きく上げ振っている。その姿を確認するとタウンは振り返り優しい顔で皆に伝える。
「悪い、少しここで待っててな」
全員をその場で止め、また小走りで駆け寄るタウン。そしてチウルの手を両手で握る。
「あらあら、仲が良い事で」
ニマニマしながらその様子を離れた位置で見ているラナナ。
「あれが話に出ていた幼馴染か?」
湖張の顔の高さまで屈み問いかけるハルザート。頷く湖張。
「うん、そうだよ。可愛らしい人でしょ?」
「・・・もう少し近づかないと分からん」
「なに返答に困っているのよ」
ハルザートをからかった後にジッと遠くの二人を見つめる湖張。
(・・・何だろう、この違和感)
「ふむ」
湖張が心の中で呟いた直後にレッド君が何かを理解したような独り言を漏らす。
「どうかした?」
不思議そうに問いかけられると「いや、何でもないさ」と簡単に返してくる。
その一方、家の前でタウンは皆に背を向けた状態でありチウルに顔を向けてはいたが、彼女の目を見ず、後ろに視線を向けているような表情である。
「青い鎧の騎士が見えるだろ?あれがハルザートだ。だが悪い奴では無い。今夜、家に泊める。飯も一緒に食う。赤き聖者の事は知らせていない。二人の名はそのままで良いが、レドベージュ様じゃなくてレッド君な」
端的に要件を伝えると、チウルはつまらなさそうな顔を見せる。
「・・・分かった」
そう言ってタウンの手を解こうとするが、彼は逃がさずギュッと握り続ける。
「それと今日、ジュエルソードに助けられた。ありがとな」
視線を自分に向けられた後にそう伝えられると、ぱぁっと明るくなるチウル。
「式はいつにする!?」
「何でそうなるんだよ!!」
慌てて全力で手を振り払うタウン。そして後方の皆に大きな声で呼びかける。
「悪い、もういいぞ!家に入ってくれ!」
「・・・良いのかな?」
チウルがタウンの背後からしがみ付いているので戸惑うが、ゼンは気にせず進み始める。
「ああ、二人はいつもあんな感じだから気にしなくて良いよ。むしろ昔からだから」
「そうなのです?」
「そうだよ。だから遠慮する事なんて無いよ」
そうこうしているうちに集まる一同。家を見上げるハルザート。
「本当に・・・豪邸だな」
「だろ?遠慮なく泊まれるだろ?」
「だがやはり気は使わせてもらうぞ」
「固いねえ。まあ入ってくれよ」
明るく照らされた広間と上につながる階段が目に入ると立ち止まるタウン。チウルに問いかける。
「湖張たちの部屋は?」
「一階の一番広い客室だよ」
「そうか、じゃあハルザートは二番目に広い客室だな。二階だが良いよな?」
少し慌てた素振りのハルザート。
「いや、私は狭い部屋で良い。そこまで持て成されなくても・・・」
「馬鹿言っているんじゃねえよ。どうせ空いているんだ、何処使っても変わらねえよ」
そう言って遠慮し続ける男の姿をジッと見るタウン。
「そう言えばお前、着替えは?」
「いや、持ってはいない・・・」
「うわぁ・・・」
物凄く嫌な表情を見せるラナナ。苦笑いの湖張。
「まあ一人旅だもんね。極力荷物を少なく・・・だよね?」
気まずそうなハルザート。
「ああ、これでも街や村にある教団の施設に寄っては、着替えと洗濯はしているぞ」
「でもその間は不潔なままですよね?野宿とか普通にしていますよね?そしたら着替えていませんよね?」
湖張の陰に隠れて確認を取るラナナ。更に気まずそうな顔になるハルザート。
と、その時であった。チウルが右手の人差し指を立ててハルザートに話しかけてくる。
「気にしなくて良いよ。ちょっとそのままね」
円を描くように指を回し、最後は壁の方に指を向ける。
「!?」
驚いた表情を見せるハルザート。問いかける湖張。
「どうしたの?」
「体が・・・スッキリした感じがする」
「え?」
不思議そうな表情を見せていると、にっこりとするチウル。
「ほら、皆も」
次から次へと指を回しはじめる。
「え!?」
湖張に向かって行われると、ハルザートが言った通り、体全体の汚れが取れてスッキリした感覚になる。その直後、何かが飛んで行ったように感じる。その方向を見ると壁際にある大きな観葉植物の鉢があった。
「すごいね、見えているの?」
不思議そうな顔で見つめてくるチウル。そこにラナナが問いかける。
「体中の汚れをあの鉢の中に放り込んだのです?」
「すごい!当たり!良く分かったね!!」
驚いた表情を見せるチウル。そこにタウンが割り込んでくる。
「おらおら、魔法使いどうしはココから理論だとか何だとか話が長くなるんだろ?付き合いきれねえ。とりあえず来いよハルザート。部屋に案内する。あと俺の服を貸してやるから着替えろ」
慌てるハルザート。
「いや、さすがにそこまでは」
「そんな鎧で飯が食えるかっての!おら、体の汚れはもう無いんだから遠慮するな!楽な恰好でゆったりと飯食って寝ようぜ。その方が明日からの仕事がはかどるってもんだ。良い仕事をするには休める時にしっかり休む。だろ?」
「・・・分かった」
しぶしぶ了承するハルザート。
「チウルは食事の準備をお願いして良いか?ゼンは悪い、三人を客室に案内してくれ」
そう言って二階に上がる二人。チウルはニコニコとしながら奥に下がっていく。
「じゃあ僕らも行こうか」
三人を客室に案内すべく移動するゼン。そこにラナナが問いかけてくる。
「さっきのチウルさんの魔法。見たことがありませんでした」
「そうだろうね。便利だろう?」
「はい・・・実は私たちも洗濯の魔法といいますか、体の汚れまで落とす魔法は使えるのですが、系統が全く別です。ですのでこんなやり方があったのかと少し新鮮な気持ちですね」
そう聞くと、何かを試すような表情で問いかけてくるゼン。
「魔法の出来についてはどう感じた?」
少し難しい顔をするラナナ。正直に答える。
「素晴らしい魔法ではありますよ。・・・でも言葉は悪いですが、少し大味というか、大雑把な作りではありました」
「そうだね。でもそれは“わざと”大雑把にしているとしたら?」
立ち止まりラナナをジッと見るゼン。
「わざと?」
「複雑で繊細な魔法にすると、確かに無駄は無いよ。余分な力を使わなくて済む。
でも使える人が限られちゃうだろう?それだったら無駄があっても簡単に使える方が多くの人に使ってもらえる。
衛生面は人にとって重要な要素だよ。チウルはそこを考えて、あえて無駄があっても簡単な清潔の魔法を考えたんだ」
「・・・」
話を聞いて驚きの表情を見せつつ言葉を失うラナナ。さらにゼンは話を続ける。
「さらに驚くことにさ、魔法のコンセプトに関しては全くの無駄が無いんだよね。さっきの魔法はね、体中の汚れを一転に集めて、目に見えないほどに圧縮をするんだ。それを地面に埋めて解き放つ。すると汚れは土の中に散らばるだろう?人にとっては汚いものだろうけれども、土にとっては栄養を与えるようなものだ」
「・・・すごい」
「そう、すごいんだよ。そしてこの魔法はラガースの軍隊にも大きな影響を与えつつあるよ。兵たちの衛生面に関して物凄い革命だったんだ。遠征地で病気になったら軍が傾くからね。清潔さを保つ事が一つの課題だったのだけれども、一気に解決できているんだ」
「チウルさんって物凄い人・・・いえ名前を残すレベルじゃないですかそれ!?」
そこで呆れた顔になるゼン。
「そう、そうなんだよ・・・。本当に勿体ない。実はこの魔法がもとで王国からも研究者として声がかかっているし、多額の報奨金の申し出もあったのだけれどもさ・・・タウンとの時間が減るからヤダとか訳が分からない事を言って断ったんだよね。報奨金なんていらないから、代わりタウンに地方勤務をさせないでと王子に直訴させてと言う始末だし・・・。そもそも学生時代の成績だって本当はもっともっと上を目指せるのに興味がない事には力を入れないんだよね」
唖然とした表情のラナナ。ゼンは肩を落としながら話を続ける。
「実はそれだけじゃなくてね・・・」
「まだあるのです?」
「さっき、青い剣を地面から出しただろう?」
「・・・はい」
「あれもチウルが作ったんだ」
「あーアレ、なんかすごかったよね。魔物の防御壁も斬っていたし」
湖張がそう呟くと、頷くゼン。
「そう、あれに関しては実はもう無茶苦茶な話でね・・・」
「確かに意味が分からないですよね、地面から剣が出てくるなんて」
同意を見せるラナナ。するとゼンは眼鏡を直して先に進み始める。
「いや、これは本人から聞いた方が良いかな。僕から伝えるにはあまりにも勿体ない話題だよ」
「えー、勿体ぶらずに教えてくださいよ!」
彼の後を追うラナナ。そうこうしている間に部屋につく。
「さて、ここが君たちの部屋だよ」
扉の中は10人くらいが宿泊できる程に広い部屋であった。
ベッドだけではなくテーブルにソファー、食器棚にはグラスや高そうな酒が入っている瓶が収納されている。本棚には歴史書や図鑑、料理のレシピ本など統一性は無かったが、誰でも何かしらで暇が潰せそうな内容の物を選んで置いているようであった。
「ハルザートじゃないけれどもさ、ちょっと広すぎやしない?」
呆れる湖張。
「半分でも広いですよ、これ」
呆れるラナナ。
「まあ半分は面白がってやっているよね、タウンも」
ゼンも呆れ顔でそう伝える。そして湖張たちの荷物が机の傍にあることを確認すると扉に向かう。
「そうしたらさ、準備が整ったら昨夜、食事をとった部屋に来てくれるかい?」
「あ、待ってくださいよ!」
立ち去ろうとしたゼンを引き留めるラナナ。
「どうしたのだい?」
「いや、迷子になりそうで・・・」
「あはは、大げさだね。じゃあ皆で一緒に行こうか。着替えは平気かい?」
「じゃあ上着だけ置いていきます。湖張姉さまは?」
「私は平気。チウルさんに洗ってもらったし」
「分かった。じゃあ行こうか。レドベージュ様もよろしいですか?」
「うむ」
三人の確認を取ると扉を開けて案内を再開するゼン。
広さには面を食らったが、二日目ともあり少し慣れてきた感じがした。
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