ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第二十一話【夜中の過ごし方】

           

「・・・意外とぐっすり眠れた」
窓から朝の光が差し込み、部屋が明るくなっている。
鳥の声も聞こえ始め、いかにも天気の良い平和な朝という雰囲気が感じ取れた。
そんな中ベッドから上半身だけを起こし、半分しか開かない瞳で目の前の壁をボーっと見る湖張。
昨夜はレドベージュと会話をした後、数少ない手荷物に入っている寝間着として使う甚平に着替えてから早々に眠ってしまった。
意外とポジティブな思考になっていた事と、一日中動き回って疲れていた事でよく眠れたようだ。

「よく眠れたか?」
湖張が起きたことに気が付いたレドベージュが横から話しかけてくるので、顔だけ向ける湖張。
「おはよう、おかげさまで良く眠れたよ」
「そうか、それは良かったな。ではまずは着替えだな」

そう言うと、レドベージュは綺麗に折りたたまれた法被をベッドの上に置く。
「あ、綺麗にたたんでくれたんだね?ありがとう」
お礼をしつつ法被を広げる湖張。すると不思議なことに気が付く。

「・・・あれ?何か綺麗になってない?」
昨日は一日中歩いていたのでそれなりに汗もかいていたはずなのだが、
特に臭いもなく、まるで洗濯をした後のような心地よい肌触りでもあった。

「ああ、湖張が眠っている間に昨日着ていた服の汚れを魔法で落としておいたぞ。
下手に水で洗濯するより綺麗になっているはずだ。
清潔に保たないと病気の元だし、年頃の娘なのだから綺麗にしていたいであろう?」
「え?」
慌てて法被が置かれていたベッドの上をもう一度確認をする湖張。
すると洗濯されたであろう下着まで綺麗にたたまれていた」

「えええええ!?ちょっとそんなの悪いよ!!」
いくら遠慮がいらないような流れにされていても、流石に天将という存在に洗濯のような事までさせるのはとても気まずかった。
それに、下着まで他人に洗ってもらうのは気恥ずかしさもある。
しかし当の本人は何も考えていない様子だ。

「いや、遠慮することは無い。我は眠らないのだ。そのくらいの仕事があった方がむしろ時間を潰すのにちょうど良い」
「いやいやいやいやいや・・・」
頭を抱えて困惑する湖張の様子に首をかしげるレドベージュ。

ピースキーパー赤き聖者021話

「ふむ、何か不都合でもあるのか?」
「何かって・・・そうだなぁ」
何と伝えるべきか頭の中で言葉を選ぶ湖張。確かにレドベージュは親切心からここまでやってくれたのだろうが
それに甘えるのも違うと思うし、やはり何かと恥ずかしさがある。ここはどうにかして夜中に洗濯をし続けてもらう流れを止めたいところである。

「わかった、兎にも角にも洗濯はありがたかったけど、流石に気まずいから!
レドベージュは私の事を年頃の娘として扱ってくれているよね?乙女的には汚れ物を預けるのが少し恥ずかしいから!」
「・・・ふむ、確かにそうかもしれんな。配慮不足であった。すまぬな」
とりあえず素直に伝えてみたところ、すんなりと受け入れてくれたので一安心である。
しかし、レドベージュの使った汚れを落とす魔法はとても興味深い物である。
というのも荷物を最小限にして出た旅なので、着替えは殆どない。
よって、この洗濯の魔法はとても重要なのではないかと感じる。

「ねえレドベージュ、その汚れを落とす魔法って簡単?」
「うむ、簡単だぞ?」
期待通りの答えが返ってくる。それならばこの件に関しての解決策は見えてきた。
「じゃあ私に教えてよ。かなり便利そうだし、自分の物は自分で洗いたいよ。
この荷物が少ない旅において、かなり役立つ魔法だよ」

湖張の要望を聞くと、少しキョトンとするレドベージュ。
彼にとっては予想外のお願いだったのかもしれない。

「うむ、それは構わないぞ。そうだな、確かにそっちの方が良いかもしれないな。
では朝食後、チェックアウトする前にこの部屋で教えよう。
そんなに難しくはないから湖張なら直ぐに使えるであろう」
「じゃあお願いするね、ありがとう」

そう言うと法被を持ちながらジッとレドベージュを見つめる湖張。
「む?どうしたのだ?」
「そういえばレドベージュって男なの?」
昨夜は特に気にすることもなく寝間着に着替えたのだが、急にその辺りがどうなのかが気になる湖張。
すると再びキョトンとするレドベージュ。

「むう、それは考えたことが無かったな・・・。そういう概念は無いというのが本当のところなのだが、
まあ声の性質からすると男か?
・・・ああそうか、すまぬな。また配慮が足りなかったな。窓の外でも見ていれば良いか?」
着替えを見られるのは抵抗があると気づいたので、気を遣うように窓を開けて外を見る事にし、視線を湖張から逸らすレドベージュ。しかし今から着替えるのに、ちょっと待てと心の中で叫ぶ湖張。

「窓を開ける方がダメだから!!」
出会った日は小さな気配りを見せてくれたのだが、今日はイマイチである。
湖張が突っ込むと、レドベージュは慌てて窓を閉める。
「むう、すまぬ」

しょぼくれる彼を見ると、逆に何か悪いことをしている気がしてくる。
思わず出てくるため息の後に湖張は頭をかく。

「はあ、もう大丈夫だよ。特にレドベージュに対して気を使う必要ないんだもんね?
とりあえずこの件に関してはレドベージュも気を使わなくていいや。私も意識しない。
洗濯は自分でやるけど、無理して視線はそらさなくて良いよ」

湖張がそう言うが、それでも視線をそらしながらレドベージュはうなずく。
「そうか、すまぬな。
実は今までの赤き聖者は、男ばかりだったのだ。なので湖張のような年頃の娘とはあまり接していなくて不慣れなところがあってな」

「え?そうなの!?」
思わず大きめの声で反応する湖張。確かに悪党を懲らしめる旅なので腕っぷしの強い屈強の男集団の方がイメージに合うかもしれない。
「うむ、過去に何度かは湖張の様な娘と旅もしたことはあるが、随分と前でな。
その後は男集団と行動をしていたので、やり方がどうも雑になっていたのかもしれぬ。
なのでこれからも至らない部分があるかもしれない。その時は遠慮なく言ってくれ。後学のためにもなる」

「・・・ひょっとして、今までの赤き聖者の洗濯もレドベージュがやっていたの?」
「うむ、実は二代目メンバーの中に汗っかきがおってな。その時から夜中は我が魔法で洗濯をしていた」
その話を聞くと今朝からの流れに納得がいく。レドベージュは気を遣えていなかったのではなく、男集団向けの接し方をしていただけなのだろう。

「ねえ、レドベージュ。何で天将様なのに偉そうじゃないの?やっていることは、まるでお母さんじゃない」
何か甲斐甲斐しいレドベージュが不憫に思えてきたので思わず聞いてしまう湖張。
すると少し考えた後に天井を見上げて答えるレドベージュ。

「なに、命は全てにおいて平等であろう。誰が偉くて誰が偉くないなどないさ。
それに我がサポートすることによって、赤き聖者たちが気持ちよく活動できるのならば、それに越したことは無かろう」
流石天将、達観しているような事を言う。やはり人の物差しでは計れない存在なのかもしれない。
そう感じながら着替えを始める湖張。

「そういえばさ、レドベージュは夜中に何をやっているの?洗濯だけじゃ退屈じゃない?」
着替えながら質問をすると、レドベージュは自分の剣をかざしながら答える。

「うむ、そうでもないぞ?
例えば洗濯もそうだが、この剣や体のメンテナンスも行う。
魔力の蓄積も行っているぞ」

「どういう事?」
「以前、我は魔力が尽きることは無いと言ったが、延々と魔力を放出し続けられるという事ではない。
一定以上放出すると動けなくなってしまう。
そうなったら魔力・・・すなわち魔法の力を貯めなおさなくてはならないのだ。

それで貯め方なのだが、ジッとしてれば良いのだ。
というのも空気中には微量の魔力の素が含まれている。
それを少しずつ吸収することによって魔力が回復するのだ。
また、木々や大地、水の中にも魔力の素が含まれているので、そこから吸収することも可能だな。

そしてこの剣や体だが、やはり強い衝撃が加われば壊れてしまう。
その場合は蓄積した魔力を与えて再生させる。人間の感覚的には傷が再生して治る事に近いのかもしれんな」

「・・・原理とかよく分からないけど、そんな事出来るの?」
何か仕組みを理解すにるには難しそうな事を淡々と説明されるが、要するにゆっくり休めば元気になるという事らしい。

「うむ、まあ普通はそんな事出来ないであろうが、そこは天の使いの特権だと思ってくれ。
ゴルベージュの軍配も形を変えて団扇になっているであろう?
それと同様の原理だ。壊れた体を元の姿に形を変えると考えれば良いな」

「うん、分からない。要するに夜は別に退屈じゃないって事だよね?よしご飯食べに行こう」
難しい話で頭がパンクしそうなので、着替えも終わったことだし話を切り替えるために朝食に行こうと誘う湖張。
「うむ、そうしよう」
湖張の気持ちを理解したのか、レドベージュは難しい話を止めて穏やかな口調でそう答えた。

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