ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十三話【メーサ神の剣】
- 2020.12.27
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「すごい!全部片づけちまった!!」
湖張たちが考察をしている一方で、魔物を一匹残らず倒し切った状況に対して、町人達から歓声が沸き上がる。
先ほどまで手も足も出なかった魔物の群を、次から次へと討伐した姿を見れば
そうなる事は必然と言えば必然ではあった。
そしてその場に集まった大勢の人々の注目の中でメーサ教の騎士達はゆっくりと町人達に近づき、
大きな声で訴えかける。
「皆様、ありがとうございます!
大勢の方の祈りが届き、魔物を倒す事が出来ました!
これもまた、メーサ神のご加護でございます!」
その話を聞くと、町人たちは周囲の人同士で確認を取り合う。
「祈ったから倒せたのか?」
「お前、祈ったのか?」
「いや、祈ったというか・・・まあちょっと頭に思い浮かべた感じか?」
「俺はガッツリ祈ったぜ!!」
周りの話に耳を傾けると、人により対応は様々である。
ただ、多くの人々は何かしらの形でメーサ神の事を頭に思い浮かべていた様子である。
「ふむ、こうやって何気ない信仰のような事から始めさせる手口なのかもしれぬな」
レドベージュが周囲の様子を見つつ分析をすると、難しい顔をしながら腕を組んで湖張が反応する。
「何だろう、皆は好意的な雰囲気だけど、私は胡散臭さしか感じられないのは、性格がひねくれているからなのかな?」
「いえ、私も湖張姉さまと同じです。まあ私たちは前情報があったので信じられないというのはあると思いますよ」
「そうかなあ。私は前情報が無くても胡散臭いと感じると思うよ」
「まあ私も同じですけどね・・・」
湖張とラナナが冷めた様子でやり取りをすると、レドベージュは再び話を始める。
「二人はそう感じるのかもしれないが、実際のところは奴らが脚光を浴びている事に間違いはない。
この流れをしっかりと頭に入れておいて今後は・・・」
突然、会話を止めて上空を見上げるレドベージュ。その様子に不安を感じ彼の視線の先をすぐさま見上げる二人。
「気を付けろ!」
大きな声で注意を促すレドベージュ。あまりにも唐突の事であったがため、具体的な内容は発せられなかった。
というのも、視線の先に映ったのは急降下してくる巨大な茶色い鳥の魔物だったからである。
体長が4m程の魔物は、硬い魔物の亡骸を踏みつけるように舞い降りると、人々に睨みを利かせた後に耳が痛くなるほどの奇声を上げる。
「あれは・・・ひょっとしてロダック?」
話に聞いていた魔物と特徴が似ていたので湖張がそう呟くと、隣で頷くラナナ。
「はい、間違いありません。ロダックです。それにしても物凄いタイミングで現れましたね」
「出た・・・ロダックだ!」
突然の襲来で町人達も当然のように狼狽する。
ましてや先ほどの魔物とは違い、前々から危険な魔物という事が知れ渡っている様子なので恐怖を感じている可能性もある。
それを裏付けるかのように、何人かの町人は無意識のうちに後ずさりをしていた。
しかしその時である、町人の一人が突然メーサ教の騎士に向かって大きな声で訴え掛ける。
「騎士様!メーサ神にもう一度祈るから、そいつをやっつけてください!!」
その声が周囲に響くなり、他の町人達からも討伐を懇願する声が次から次へと上がり始める。
「・・・ひょっとしてこれもメーサ教が仕組んでいるの?」
湖張が驚いた表情でそう呟くと、レドベージュはメーサ教の騎士をジッと見つめながら反応をする。
「いや、そう言うわけではなさそうだ。ロダックは恐らくイレギュラーであろう。
あの騎士達、何やらうろたえている様にも見える。・・・しかしこうなっては引くに引けない状況なのであろうな」
レドベージュの話を聞くなりメーサ教の騎士達を見ると、確かに慌てて三人で話をしている様にも見える。
しかし町人達の視線も気にしている様子で、その場から引こうともしていない。
「メーサ神よ!我らに力を!」
そうこうしている間に、一人の騎士が槍を天に掲げてそう叫んだ後、ロダックに対して突進を仕掛ける。
そしてその姿に沸く町人。しかしロダックの目の前までたどり着いた段階で、魔物はその場でジャンプをし、右の足で騎士を蹴り飛ばす。
すると蹴られた騎士は5m程飛ばされて、ピクリとも動かなくなった。
「やっぱりロダックは関係なかったんだ!私たちでやらないと!」
先ほどの魔物を倒した余裕ぶりとは相反して、力なく蹴り飛ばされた様子からそう判断すると、
湖張は慌てた様子で駆け寄ろうとする。
と、その時であった。上空から何やら人影の様な物が急降下してくる。
それに気が付き、進もうとした足が止まる湖張。そして次の瞬間、振ってきた人影は縦方向に豪快な斬撃を繰り出した。
その後、おぞましい量の血しぶきが上空めがけて吹き上がり、ロダックは力なく倒れこんだ。
どうやら一撃で討伐が終わったらしい。
そして再び湧き上がる歓声。心なしか先ほどより大きく感じる。
「・・・え?」
突然の展開で呆気にとられる湖張。レドベージュとラナナも何もできずに行方を見守るだけの状態である。
「ハルザート様!」
ロダックを倒した人影に駆け寄るメーサ教の騎士達。その人影は同じように鎧を身に纏ってはいるが、色は青く
ヘルメットはしていない。どうやらメーサ教の騎士で知り合いのようだ。
長い銀髪が特徴的で、見た目は20代前半といった若さなのだが他の騎士から”様”付きで呼ばれていることから位が高い存在なのであろう。
先ほどの腕前からも位が高いという事は判断が出来る。
ハルザートと呼ばれた騎士はゆっくりと剣を鞘にしまうなり、駆け寄った二人の騎士の対応をせずに、
吹き飛ばされた騎士の下へ速足で向かう。
そして跪き倒れている騎士の様子を見るなり、群衆に向けて大声で呼びかける。
「すまない、この中に医者か治癒魔法が使える者はいないか?まだ息がある。助けたいのだ」
その声が人々に届くなり周囲を気にしだす群衆。見渡す限り、該当する者はいないようだ。
と、その時である。
「はいはーい、私は魔法が使えますよー!」
手をピンと上げて大きな声で返事をする湖張。
突然の事でラナナは驚いた表情を見せると、湖張は彼女に顔を向けてうっすらと笑みを浮かべる。
「接触のチャンスだよ。行くよ、二人とも」
「やっぱり治癒魔法も使えるのですね・・・いえ、もう何も言いません」
「あはは、でもきっとラナナ程ではないから、手に負えなかったら手伝ってね」
小声でやり取りをしながら倒れている騎士の元に向かう三人。
そしてハルザートと目が合うと、彼は軽く一礼をする。
「すまない、診てもらえるか」
謙虚な姿勢と透き通るような青い瞳を見ると、悪い人間ではないのではないかと感じられる。
しかしながら第一印象で判断することは危険なので判断材料には含めない事にし、
早速怪我人の様子を見る湖張。
「・・・大丈夫、何とかなると思う」
手を当てて治癒魔法をかけ始めると、騎士の体はうっすらと黄色い光を放つ。
「う・・・ううう」
暫くすると意識が戻ったようで、今まで全く動かなかった騎士から苦しそうな声が聞こえ始める。
しかし、その苦しそうな声はすぐさま落ち着いた呼吸に変わり、表情も穏やかになっていく。
「大丈夫そうか?」
心配そうに湖張に問いかけるハルザート。その言葉を投げかけられてから数秒後に魔法を止める湖張。
そしてハルザートの目をジッと見つめた後に返事をする。
「とりあえずは大丈夫。だけどあくまで今は応急処置を施しただけですよ。
町の病院や宿屋のような落ち着いたところでしっかりと処置をしたいです」
その言葉を聞くとハルザートはすぐさま立ち上がり町人達に訴えかける。
「すまない、病院か宿屋に案内してもらえないか?この者を治療したい!」
すると町人たちは魔物を倒してもらった恩を返すかの如く一斉に行動をし始める。
「とりあえず宿屋に運び込むぞ!ここからだとそっちの方が近い!」
「誰か担架を持ってこい!」
大きな声でその様なやり取りをしている中で、湖張も立ち上がりレドベージュに話しかける。
「よし、じゃあ私たちも宿屋に向かって治療の続きをしよう。
レッド君はこの騎士さんの槍を持ってくれる?荷物をここに置きっぱなしじゃまずいもんね」
そう言ってウィンクをし、合図を出す湖張。
するとレドベージュはあたかも命令を聞く操り人形かのように無言で飛ばされていた槍を持ち上げてジッと見つめた後に、そそくさと移動をし始める。
そして槍を担いだレッド君とすれ違うかのように担架を持った男性二人が全速力で倒れている騎士の下にやってきた。
「よし、優しく乗せるぞ!1・2・3!」
手際よく担架に乗せられるメーサ教の騎士。この二人組は運び出す事に慣れている様子だ。
「すみません、私も少ししてから行きますので、それまでに鎧を脱がせてベッドの上に寝かせておいていただけますか?」
湖張が担架組にそう伝えると、近くにいたメーサ教の騎士のうちの一人が話に入ってくる。
「それでしたら自分が鎧を外しましょう。同じ物を身に着けているので、私の方が鎧の作りを知っているから脱がせやすいはずです」
その言葉を聞くと、担架組の一人が頷いてから返答をする。
「分かった、そうしたらあんたも来てくれ!」
そうやり取りをするなり慌ただしく運び出される負傷した騎士。
湖張たちを置いて一足先に宿屋に向かって行った。
そしてこのタイミングでゆっくりと立ち上がるハルザート。
その後、二歩ほど湖張に近づき話しかけてくる。
「手を煩わせてすまない。後で他の物から礼をさせてもらおう」
そう言って頭を下げるハルザート。その様子を見ると、湖張は首を横に振る。
「良いんですよ。元々は魔物を退治するために負傷したじゃないですか。
助ける理由は十分ですよ。・・・それにしてもアナタは相当な手練れのようですね。
これもメーサ神に祈ったから強くなれたのですか?」
先ほどロダックを一撃で倒した姿から尋常ではない強さを持っていると判断が出来たので今後の脅威になるかもしれないと思える。
そこで会話をして少しでも情報を引き出してみようと考えた湖張。
しかし期待とは裏腹にハルザートは「さあな」と静かに一言だけを返す。そして湖張の目をジッと見つめるハルザート。
「炎を思わせる様な美しい深紅の瞳だな」
突然キザなセリフを真顔で放つハルザート。その雰囲気が気に入らなかったのか、ラナナは眉間にしわを寄せる。
しかしながら当の本人である湖張にとっては特に気になるような事では無かったので淡々とした雰囲気で反応する。
「そうなんですよね、珍しいんですよこの瞳の色って。だからたまに言われるんですよ」
「・・・君は魔法使いか?」
湖張の言葉を聞くと少し考えた後に質問をしてくるハルザート。しかし魔法使いではないので首を横に振る湖張。
「いえ、さっきは魔法で治療をしましたけど、実は格闘家ですよ」
湖張が苦笑いでそう答えると再び少し考える間を持つハルザート。
「・・・そうか。瞳や髪の色に赤系の色が現れる者は魔法の力が強いと聞いたことがあるが、魔法使いというわけでは無かったか。
それは失礼した」
そう言うと、彼の近くにいたもう一人のメーサ教の騎士に話しかけ始める。
「私は次へ行く。後は頼んだ。そしてこの女性にしっかりとお礼をしてくれ」
「分かりました」
ハルザートがそう指示を出すと、騎士は姿勢を正して返答をする。
そして彼は再び湖張に話しかける。
「すまないが私は次の目的地に急がなければならない。
この後もあの負傷した者を任せても良いか?」
「次の目的地・・・ですか?」
「ああ、まだ他にも強力な魔物に怯えている町があるようだからな」
湖張の質問に対する答えを聞くと、この人間は本当に悪くはないのではないのかとも再び思えてくる。
しかしながら何かと如何わしいメーサ教に属しているので信頼は置けない。
そう感じながらも湖張は気持ちを表情に出さずに笑顔を見せる。
「はい、任せてください」
「すまない。後は頼んだ」
そう言うと反転し背中を見せてその場から離れようとするハルザート。
しかし3歩進んだ後にその場に立ち止まり振り返らずに声を掛けてくる。
「そう言えば名を聞いていなかった。私はハルザートだ」
その素振りを見るなり再び眉間にしわを寄せるラナナ。
しかし湖張は相も変わらず無表情で返答をする。
「湖張よ、水芭蕉湖張」
「・・・覚えておこう」
そう残して立ち去るハルザート。その後ろ姿をジッと見ながら舌を出すラナナ。
そしてそのタイミングで残っていたメーサ教の騎士が斜め後ろから話しかけてくる。
「すみません、こちらの町の方でいらっしゃいますか?」
「いえ、旅の者ですよ」
「そうでしたか。この度は仲間を助けていただいてありがとうございます。
お礼の方をしたいと思いますので、どうかこちらをお納めください」
そう言うなり如何にもお金が入って良そうな麻袋を差し出してくる。
「あー、別にいらないですよ」
手を前方に広げ、困った顔で拒否をする湖張。しかしメーサ教の騎士は頑なである。
「いえ、そういうわけにはいきません」
「・・・もう、困ったな。そうだ、そうしたらそのお金は私に渡したという事にして
アナタが使っちゃってくださいよ」
湖張がそう言うが相も変わらず手渡す事を諦めない騎士。
(この話を持ち掛けても着服はしないか・・・私利私欲で動いているわけではないんだ)
どさくさに紛れてメーサ教徒の本質を探ろうとした湖張。どうやらこの騎士も悪人ではない様子だ。
「分かりました、今日のところは受け取っておきます。アナタも指示を受けていたものね。
そういえばさっきの人は隊長さんか何か?」
ハルザートに比べてこの騎士は口が軽そうな雰囲気だったので情報収集を再開する湖張。
すると案の定、話に乗ってきてくれた。
「いえ、隊長ではありません。あの方は教祖様の側近にして我々メーサ教が誇る最強の騎士、ハルザート様です」
「最強の騎士?」
「はい、先ほどの腕前をご覧になられたでしょう?その強さ故にメーサ神の剣とも呼ばれております」
「めーさしんのつるぎ?」
「はい、我らの誇りであり憧れでもあります。如何ですか、我らと共にメーサ神に祈りを捧げつつ、あのお方を支えてみませんか?
あのお方の強さと美しさに憧れて入信された女性も多いですよ」
(きた!勧誘だ!!)
「あ、それはいーです。遠慮します」
冷めた目と態度で考える余地もなく断る湖張。すると湖張の腕をグイっと引いてその場から引き離すラナナ。
「それじゃあ私たちは運び出された方の治療に行きます。お達者で!」
ラナナは騎士に顔を向けずにそう告げると、早歩きで湖張の手を引き宿屋に向かい始める。
「ちょっとちょっと、どうしちゃったのよ急に不機嫌になっちゃって!?」
「・・・湖張姉さまに向かってキザったらしいセリフを言うのが何か癪に障るのです!」
「あはは、なんじゃそりゃ」
「駄目ですよ湖張姉さま、あんな男に騙されちゃ!」
「いやいや、それはありえないって。私もああいう人は趣味じゃないよ」
「本当ですか?」
「本当だって!・・・でもあの人が言った事で一つ気がかりな事があるんだよね」
「何ですか!?」
「いや、瞳や髪に赤系の色が現れると魔法の力が強いみたいなこと言っていたでしょ?あれって本当?」
その言葉を聞くと、突然立ち止まるラナナ。
そして湖張の顔のそばまで近づくと、ジッと彼女の瞳を見つめる。
「確かにそういう説はあります。実際のところ私の通っていた学校でも
片目だけ真っ赤な瞳の方がいらっしゃいましたが、人より魔力が高かったです。
それに湖張姉さまの魔法の使い方を目の当たりにしていると、その説は合っているのではないかとも思えてきます。
でも赤毛の方でも魔法がまるで駄目な方もいらっしゃいますので、一概にそうは言えません。
まあ参考程度にと言ったところでしょうか?」
「そっか、そうだよね」
そう言うと、再び歩き始める湖張。
「さてと、じゃあ次は宿屋に戻って治療の続きをしよう。レッド君も多分そこで待っているだろうし」
「そうですね、そうしましょう」
数歩だけ出遅れたので、小走りで近づき湖張の横に並ぶように位置を取るラナナ。
そして二人は再び治療をすべく、ゆっくりと宿屋に戻るのであった。
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