ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六十一話【学食にて】
- 2026.03.05
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
現在は昼前の時間帯。湖張は一人、学食の大きなテーブルに座っている。もうしばらくすると昼休みに入った多くの学生たちが訪れる事もあり、少し早い昼食を取っていた。
ラナナが師と再開をしてから既に1日が経過している。彼女は話が終わった後、すぐにアルサキエナの習得に専念し始める。湖張は邪魔をしてはいけないと思い、町を散策したり人気が無い場所で鍛錬をしたりと、一人の時間を過ごしていた。
「相席、よろしいですか?」
目の前に人の気配を感じると顔を上げる湖張。そこにはトレーを両手で持ったラナナの師の姿があった。突然の事で少し慌てはしたが、すぐさま「あ、はい!もちろんです」
と伝えると、相変わらずの落ち着いた雰囲気でゆっくりと着席をする。トレーには3つのパンとスープが乗せられていた。
「失礼いたしますね。湖張さん・・・ですよね?」
「はい」
「そう畏まらないでください。そんなに怖く映りますか?」
「いえ、そんなんじゃ・・・そう言えばラナナは?」
「彼女はまだキリが悪いそうです。そう言って何も食べない事も昔からよくありました。相変わらずのようですね」
「あはは」
苦笑いを見せる湖張。続けて師は話しかけてくる。
「ですが時折、休憩がてらに今まであった事を教えてくれるのですよ。貴女の話も多く聞きました。仲良くしてくださっているようですね」
「いえ、むしろラナナが良くしてくれている感じがします」
「彼女は貴女が同じ赤き聖者で嬉しかったようですよ。思えば学校では同年代の人はいませんでしたからね。年が近い同性の友達が欲しかったのかもしれませんね」
「あー」
少し納得を湖張が見せると、師は目の前のパンに人差し指を軽くチョンと触れる。それをジッと見る湖張。
「いかがなさいました?」
「いえ、何でパンの中心だけを温めているのかなって」
「ほう、凄いですね」
感心した表情を見せる師。疑問の表情を見せる湖張。
「え?何がですか?」
「よくパンの中心だけを温めたと分かりましたね」
「え?いや、だって・・・」
「今の魔法は感知されないくらいに魔力の放出を押さえました。普通の人では魔法を放ったことが分からないはずです。それに複雑な放ち方をしたので、それが一体何の魔法なのかも判断がつきにくいはずです。それを温めた、しかも中心部だけと分かるのは相当ですよ」
「え?」
そこで小さな笑みを見せる師。
「ああ、すみませんね。ラナナ君から貴女の魔法の才がとんでもないと聞いておりまして。試すような事をして失礼しました」
「あー、まあ別に構いませんけれども・・・。でもダラの学生でしたらこのくらいは出来るのではないのですか?」
「いえ、そうでもありませんよ。気づく学生の方が少ないです」
「そうなのです?」
「ええ、ラナナ君が言っておりました。出会った初日に目の前でサンダークロスを何度も放たれて驚いたと」
「あーそういえば初日はそうだったかも。サンダークロスはダラの卒業生でも扱えない人が多いのでしたっけ?」
「はい。貴女はどうやってその魔法を学びましたか?」
「あー本に書いてあった・・・だった気が。すみません、小さい頃だったので覚えていないのが本音でして・・・」
その答えに驚きと困惑が混ざり合ったような笑みを見せる師。
「小さい頃ですか。本当に貴女はとてつもない才をお持ちですね」
「とはいっても、ラナナには到底及びませんよ。あの子は本当に凄いです。知識も凄いですし」
謙遜する湖張。すると師はスッと真面目な表情に変わり問いかける。
「貴女でもエマシデンシは解析できませんか?」
想定外の唐突な質問内容に一瞬戸惑う湖張。しかしすぐさまため息交じりに返答する。
「分かるわけないじゃないですか、あんな複雑な魔法。最初の方から意味の分からない魔法の組み合わせですよ」
「意味は分からなくても組み合わせている一つ一つの魔法は理解できるという事ですか?」
「・・・何か難しい事を言っていますね。様々な魔法をいくつも重ねているのだろうなという事は分かりますが、逆に言えばそれだけです。全く分からないという言葉の方がピッタリですよ。安心してください」
「・・・なるほど、失礼致しました」
今の質問から、師はエマシデンシの事を本当に恐れていると感じ取れた湖張。今まで気にしてはいなかったが、実はとんでもない魔法だったのだと改めて感じながらパンを一つまみ口に入れる。
「ラナナは大丈夫ですよ。ここぞという時にしかエマシデンシは使いませんし、あの魔法の危険性も理解しています。それにもし悪い奴らが狙ってきたら私とレドベージュがぶっ飛ばしますから。それにユカリも常にしがみ付いていますし」
少しでも安心できるような事を伝えたかったが、良い言葉が出せなかったのか、少し失敗したのを誤魔化す様な笑顔を見せる湖張。
すると師は少し穏やかな表情を見せる。
「お願いします。彼女はとても賢く、そして力もあります。ですがたった一人では集まった人の悪意に抗いきれないでしょう」
(ここでも組織の怖さのようなものがあるんだ)
返された言葉からタウンの話を思い出し、心で呟く湖張。
身近な存在のラナナに、思いもよらなかった危うさがあったと気付くと、
すぐには会話を繋げる言葉を見つけられなくなった。
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