ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第七十一話【穴をくぐると】
- 2021.02.06
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
部屋の奥にある大きな穴をくぐると、すぐさま広く天井の高い空間が目の前に広がった。
穴は洞窟のような通路だと思っていたのだが、そうではなかったらしい。
この広さならばウンバボの忠告通りに、この場で戦えそうである。
「修練鳥といいましたよね?大体の大きさは教えてもらえましたが、実際のところどんな感じなのでしょうか?」
隣で話しかけてくるラナナ。すると湖張は彼女に顔を向けて返事をしようとするが、前方から何かが迫ってくる様な気配がしたので
その動作を止める。
前方をジッと見つめる湖張。そして耳を澄ますと微かに何かが羽ばたく様な音が聞こえる気がする。
「早速現れたようだよ」
湖張がそう呟くと、慌てて前方に視線を移すラナナ。するとそこには虹の様な色合いをした1m程の派手な鳥が5羽、ゆっくりと飛んで近づいて来ている姿があった。
「あれが・・・修練鳥です?」
「随分とまあ派手な色合いだね」
そう言うなり手を前方にかざす湖張。そして彼女の手が輝き出すと左手で上空に光の玉を放り投げ、右手で前方に光の玉を発生させる。
「まずは私から仕掛けるよ。サンダークロス!」
彼女の声と共に上空の光の玉と目の前の光の玉から雷が修練鳥にめがけて交差するように降り注ぐ。
複数の敵を相手にする事になったので、湖張は先手必勝で全体にこの魔法を仕掛け、様子を見る事にした。
すると不可解な事が目の前で起こった。魔法は全ての修練鳥に決まったのだが、そのまま力なく落ちたのは2羽だけで
残りは何事もなかったかのように羽ばたいている。
挙句の果てには魔法がきっかけになったのか、先ほどまでのゆっくりとした速度ではなく、敵意を剥き出しにした速い速度で迫り始める。
「え?あれ?」
3羽の元気な姿を見て戸惑う湖張。そうこうしている間にどんどん修練鳥は距離を狭めてくる。
「今度は私が!フレイムフェンス!」
右手を薙ぎ払う様にして魔法を放つラナナ。すると横に並んで飛んでいる修練鳥の真下から柵の様な形をした炎が一気に立ち上がり、突き刺すように燃え上がる。
すると今度は1羽だけが撃ち落されるが、残りの2羽は何事もなかったかのように突進をしてきた。
「うそ!?」
この状況に今度はラナナも戸惑いを見せる。そうこうしている間に間近まで到達する修練鳥。
とその時であった、数歩前に出た湖張はラナナの前に位置取り、右の拳で真正面から修練鳥を突いて3mくらい前方に突き飛ばす。
すると残った1羽は当然のように湖張に襲い掛かってくる。
そこで湖張は体を回転させて避け、その勢いを利用して左の手刀で修練鳥に攻撃を仕掛ける。
すると見事攻撃は決まり、2m程弾き飛ばした。しかし湖張の様子には少し違和感が感じられる。
「・・・いったーい!」
そう叫びながら右手で左手を抑え、その場にうずくまる湖張。
「湖張姉さま!?」
心配そうに駆け寄るラナナ。しかし湖張は抑えていた右手を離し、近場に打ち落した修練鳥を指さし必死に声を振り絞る。
「とどめ!・・・お願い、とどめ!!」
何とかそう伝えると、ラナナは少し怖い顔をして修練鳥に手をかざす。
「許せない・・・メガトン!」
相手は魔法生物と聞いていたからか、遠慮なく至近距離で強力な魔法を放つラナナ。
その結果、無慈悲にも跡形なく修練鳥は吹き飛んだ。
「大丈夫ですか、湖張姉さま!?」
湖張の真正面の位置で、しゃがみ込み心配そうな眼差しで覗き込むラナナ。
すると安心させるためか苦笑いを見せて答える湖張。
「うん、大丈夫だよ。治癒の魔法も使ったし打ちどころも悪いわけじゃないから痛みは引いたよ」
「そうですか・・・」
そう答えると、ため息をついてからそのままの姿勢で話しかける湖張。
「それにしても何だったのかな、今の。
最初に叩いた鳥は普通の鳥の様な感触だったけど、次の鳥を叩いた時は物凄く硬かった。
まるで鋼鉄に手刀を決めた感じだったよ」
「え?でも同じ修練鳥ですよね?」
「うん、でも本当に痛かった。柔らかさが全然違ったよ」
「そう言えば私の魔法も効くのと効かないのに別れましたよね。
最初のサンダークロスだってそうです。何か変ですよ」
「うん、そうだよね。一体どういう事なんだろう・・・って噓でしょ!?」
そう言いながら驚きの表情を見せる湖張。
というのも奥の方から再び5羽修練鳥がゆっくりと飛んできたのだ。
「・・・ラナナ、今度はアナタがサンダークロスを撃ってみてもらえる?」
「え?」
「ちょっと実験をしたいんだ」
ゆっくりと立ち上がり湖張がそう言うと、実験と言う言葉に興味を示したラナナは素直に魔法を放つ姿勢を取る。
「行きます、サンダークロス!」
先ほどと同じように魔法を放つラナナ。するとやはり修練鳥は2羽だけ落ちただけで残りは何事もなかったかのように接近をしてくる。
「よしラナナ、撤退」
「え!?」
「ごめん、連戦はキツイ」
「そうですね、一度仕切り直しましょう」
そう言ってその場から走って立ち去ろうとする二人。
と、その時であった、修練鳥は口を大きく広げると、輝きの強い光が湧いて出てくる。
「え!?何?!」
不穏な気配を感じた湖張が振り返ると光を自分たちに向けて放ってくる修練鳥の姿が目に入ってくる。
そして次の瞬間、湖張たちの足元に光がぶつかった直後、激しい爆発がその場に生じて強い爆風が二人を襲った。
「のわぁぁぁ!」
「いやぁぁぁ!」
その強さに吹き飛ばされる二人。しかし方角が良かったのか、入って来た穴にスッと入るかのように飛ばされ、
ウンバボ達が待つ安全な部屋に強制的に戻される形となった。
「ふむ、大丈夫か?」
爆風に飛ばされた事と地面に転がったことが合わさり、砂埃まみれになった二人に近づいて様子を窺うレドベージュ。
するとゆっくりと二人は起き上がり、その場に座り込む。
「何なのあの鳥!魔法が効いたり効かなかったり、柔らかいかと思ったら硬いし!」
今まであった事を文句を言うかのように訴えかける湖張。するとウンバボが近づきながら答える。
「修練鳥、見た目は皆同じだけど、中身は全部違う。効く魔法は全部バラバラ。硬さもバラバラ。
魔法効くのもいれば効かないのもいる。全部特性が違う」
「え?」
「じゃないと修練にならない」
その言葉を聞くとレドベージュに視線を移す二人。
「と、いうわけだ。見た目では判断できないので中々難しい戦いかもしれぬな。
だがそもそも相手の力量は見ただけでは判断出来まい?
これも修練のうちだ。この場で学ぶことは今後に生きるだろう」
「なるほどね、その場のとっさの判断も必要という事ね。まあいっか」
そう言って立ち上がる湖張。そしてラナナに手を差し伸べると様子を窺うように話しかける。
「立てる?大丈夫?」
「はい、問題ないです。着地と同時に防護の魔法を掛けたので、打ち付けられた痛みはありません」
そう伝えると湖張の手を掴んで立ち上がるラナナ。どうやらラナナも問題ないらしい。
「じゃあもう一度行こうか」
問題なさそうなので、湖張はそう発案すると一つ頷くラナナ。
するとウンバボは二人に近づいて手をかざし始める。
「少し待つ。元気そうでも一応癒しておく」
そう言うなり彼の手から光で出来た鳥の羽の様な物が数多く放たれ、二人を包み込む。
すると不思議な事に、疲労感が消えて妙に体が軽くなった感じがする。
また、転んだ時についたかすり傷も癒えている事に気が付いた。
「え?何これ・・・すごく元気になった感じがする!」
そう言いながら両手を見つめる湖張。
「二人の傷を癒して体力も回復させた。疲れも取れるから、これでまた全力出せる」
「そんな事が出来るのですか?」
ウンバボの話を聞くと、驚いた表情でそう尋ねるラナナ。
「そうだ。でもいっぱいは出来ない。
ウンバボの元気を分けているだけ。やりすぎるとウンバボ倒れる」
「・・・なるほど、体力を回復させているのではなく、自らの体力を他者へ譲渡しているのですね。
そういう魔法はありますけれども、こんなに手軽には出来ないですし、効率も悪く大して回復はしなかったはず。
やはり天の魔法は凄いですね」
真剣な顔で分析をするラナナ。独り言の様な話を近くで聞いていた湖張は少し何かを思い出すかのような素振りをした後、
ウンバボに話しかける。
「あの、もう一度さっきの魔法掛けてもらって良いです?」
「まだ疲れが残っているのか?」
「あ、いやそう言うわけじゃないけど・・・ただもう一度あの魔法を見てみたいなと」
そう言われると、ウンバボは再び湖張に対して魔法を掛け始める。
するとその間、湖張はジッと何かを考える様な素振りで魔法を浴びている。
そして数秒後、ウンバボの魔法が終わると、湖張はそっと目の前に手をかざし始める。
「えっと・・・こうかな?」
そう呟いた後、魔法を使い始める湖張。すると手のひらから一枚だけ光の羽が現れて、すぐさま消えていった。
「あーやっぱり駄目か。何か分かりづらいんだよね。難しいかも」
左手で頭を掻くと、再び魔法を放とうとする湖張。
その様子を見てウンバボは目を丸くしている。
「お前、この魔法真似するつもりか?」
「うん、これは凄い魔法だよ。体力の回復・・・じゃなくって譲渡かな?
これは今後、絶対に役立つと思う。だって傷が塞がっても体力がなくなっていて助からないケースだってあるでしょう?
だけどこの魔法なら助けられるかもしれない。だから使えた方が良いかなって」
湖張がそう言うと、ラナナは苦笑いを見せる。
「流石湖張姉さま。この魔法も習得しようとするのですね。
でも確かにおっしゃる通りです。この魔法で助かる命はきっとあります。これは有用ですよ」
そう同意を示すと、今度はラナナも魔法を放つ準備を始める。
すると彼女の場合は光の羽の形はしていなかったが、花びらの様な形のものが2枚ほど現れて舞い落ちた。
「すごい!2枚出た!」
「いえ、でも形が違います。これは本当に難しいですね」
魔法を習得しようとする二人をジッと見つめるウンバボ。
そしてレドベージュに近づいて話しかけてくる。
「ウンバボの魔法を覚えようとした人間、今までいない。変わった娘たち」
「うむ、そうかもしれんな。ここを訪れる者は基本的により強くなろうとする者だからな。
人を癒す事には考えが及ぶまいて」
「でもこれは天使の魔法。使えるか分からない」
「・・・そうかもな。だが意外と大丈夫かもしれんぞ。少し見守るとしようではないか」
「確かにそうかもしれない。教えてもいないのに少しだけ出来てる。この娘たち本当に凄い」
レドベージュとそうやり取りをすると少し考えてからウンバボは再び湖張たちの下に近づき話しかける。
「お前たち、今日はこの魔法の練習をするのか?」
二人の様子を窺いながらウンバボがそう問いかけると湖張とラナナはアイコンタクトの後に頷き合い確認を取る。
「ええ、そうしようかな。問題ないよね?」
湖張がウンバボにそう確認を取ると、彼は首を縦に振る。
「それは構わない。ここは思う様に修練を積む場所。目的は守護者を倒すことだけじゃない。
だけどお腹が減るのは良くない。そろそろお昼。ウンバボお弁当作ってくる。
安全なここで魔法の練習しているといい」
そう伝えるなり、足早にその場を立ち去るウンバボ。
お弁当という単語に少し反応しそうになるが、今はそれよりも目の前の魔法に集中したい気持ちの方が勝っていたので、
すぐさま練習を始める湖張。今まで簡単に覚えられた魔法とは違い難しさがあったので、やりがいの様な面白味も感じていた。
「よし、頑張るぞ!」
そう一つ呟くと、湖張の手は黄金色に輝き始めるのであった。
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