ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第十四話【食べ物の足が早い町】

           

二人が町に入ると、長閑な街の様子が目に入ってくる。
買い物に出ている女性、走り回って遊ぶ子供たち、屋台で食事を提供している男性など
特に問題は感じられない空間が目の前に広がっていた。

案の定、すれ違う人々は”レッド君”を不思議そうに見るが、無反応を貫くレッド君。
特に子供たちの興味の目は強く、恐る恐る触ってくる子もいたがレッド君は反応をせずに黙々と湖張の後をついていった。

このようにレドベージュが喋れない状況だったので、とりあえず宿を借りて話をしようと考える湖張。
そこで宿屋まで急ぎ足で向かう。

「いらっしゃい・・・なんだか変わったお客さんだね?」
宿屋に着くなり、宿屋の主が予想通りの反応をする。

「すみません、宿をお借りしたいのですが宜しいですか?
あ、ちなみにこの子はレッド君といって、パペットという自動人形です。
まあ私の後をついて来るからくり人形だと思ってください。
どうしましょう?二人分の宿泊料を払えば良いですか?」

あまり話を伸ばしたくなかったので、聞かれる前に答える湖張。
「ああ、・・・何かよくわからないけど人形なのだろう?大きな荷物だという事にするよ。一人分で良いよ」
店主が苦笑いでそう答えると「ありがとう」と言って宿泊料金を支払う湖張。
そして、そそくさと借りた部屋に入る。

「うちの村では大したことなかったけど、この町ではちょっと目立っちゃうね」
肩の力を抜いて疲れたように湖張がそう言うと、レドベージュもうなずく。

「まあ村は湖張の事を知っている住人ばかりだから、我を不思議に思っても
警戒することは無かったのだろう。まあ堂々とした素振りで設定を守っていたら
問題は無かろう。いずれ慣れるさ」
「結局は慣れかぁ」
先が思いやられるとでも言わんばかりの雰囲気でぼやくが、その様子を気にすることもなくレドベージュは窓の外を見つめる。

「何か見えるの?」
その様子を不思議に思った湖張が尋ねると、レドベージュは首を横に振る。
「いや、実は背丈が足りなくて窓から空しか見えぬ」

「・・・椅子でも持ってこようか?」
笑いをこらえながら椅子を手にかける湖張。
つまらなさそうに首を横に振るレドベージュ。
「いや、結構だ。それより湖張よ、少し早いが昼食を取りに行かないか?
宿屋の食堂ならばこの町の様子を聞けるかもしれぬ」

レドベージュがそう提案すると、仕事に取り掛かるのだと理解する湖張。
椅子から手を放して、小さく頷き荷物から財布を取り出す。
「分かった。早速仕事に取り掛かるってことね?
でも何か穏やかな雰囲気だけど、悪者とかいないんじゃない?」
「そうならそうで構わないさ。むしろそちらの方が望ましい。
しかし平穏の中にも悪が芽生えている事もある。調べるに越したことはないさ。
・・・それに妙な違和感を感じる」

「え?違和感?」
レドベージュが不穏な事を言うので、少し固まる湖張。
「いや、ただ単にそんな気がするだけかもしれん。敏感になりすぎているだけであろう。
ただの取り越し苦労になるかもしれんが、調査だけはしておこう」

「そっか、じゃあとにかく誰かとコンタクトをとってみよう」
部屋の鍵を右手に持ち、左手で扉の方を指さす湖張。
「そうだな、さっそく行動に移すか。ただ基本的に我は喋らないからよろしく頼むぞ?」
「そうだよね。まあ人とのコンタクトを取るための私だもんね。任せといて」
「いや、それだけではないのだが・・・。まあ頼る所は湖張しかおらぬ。すまんな」
「いいのよ。その代わり好きな物は注文させてもらうよ?」

どさくさに紛れてちゃっかり良い物を食べようとする湖張。
しかしレドベージュはにこやかな雰囲気を出していた。
「ああ、その位は良かろう。何か楽しみが無いとつまらないしな。
ただ食べ過ぎて動けなくなるのは無しだぞ?」
「分かってるわよ。一応これでも武芸者の端くれ、そこら辺は弁えてるつもりだよ」

そう言って部屋の扉を開ける湖張。
その後ろをレドベージュはレッド君になり、静かについていった。

湖張たちの部屋は宿屋の二階にあり、階段の近くにあった。
他に宿泊客は居ないようで、実質貸し切り状態である。
ただまだ昼前という事もあり、これから夜にかけて他の宿泊客が入ってくる可能性もあった。

扉に鍵をかけて階段を下りると丁字路になっており右に行けばロビーと出口が、
左に行けば食堂になっていた。

食堂に入ると、昼食には少し早い時間ではあったが客はそれなりにいた。
宿屋の入り口とは別に食堂専用の入り口があるようで、宿泊客ではなくても
町民が利用する食事処としても経営しているようである。

食堂内ではギターの練習をしている吟遊詩人や
世間話に花を咲かせている婦人たちがお茶を楽しんでいた。

「結構人がいるね」
レドベージュについつい話しかけてしまうが、今はレッド君である事を思い出す湖張。
今の発言は独り言に変化させる。

周囲を見渡すと、普通のテーブル席が多くあったが、
カウンター席もあることが目に付く。

また、カウンターには店員と思われる細身の中年男性が立っており、そこならば話が聞けるのではないかと考える。
またレドベージュは座ることが出来ないので、カウンター席の方が都合が良い気もする。
よって湖張は店員の目の前の席を選んだ。

「こんにちは。食事をしたいのだけれども、メニューはありますか?」
明るい雰囲気で話しかけると、店員は笑顔でメニューを差し出す。

「はいどうぞ・・・といいたいところなんだけれど、実はサラダは出せないんだよね」
「え?そうなんですか?品切れですか?」

サラダを出せないという話が妙に引っ掛かった湖張。
仕込みが大変な料理だったら話が分かるが、サラダはそんな仕込みが必要な物とは思えない。

「そうだね、まあ品切れかな?」
「そうですか。結構人気なんですね」
「いや、そういうわけでもないんだ」
少し困り顔の店員。その様子を見ると、一度レドベージュを見た後、店員に話を深く聞く。
「何かあったのですか?」

湖張が突っ込んで聞くと、店員は腕を組んで話をし始める。
「実はね、最近食べ物が良く腐るんだよ。
確かに暖かい日は続いているけど、それでも異常なくらいの早さなんだ。
だから生で食べる物を提供するのが怖くてね。
火を通した物だけの提供にしているんだよ」

その話を聞くと、レドベージュがさっき違和感と言っていた事を思い出す湖張。
これは調べる必要性があると感じる。

「あの、お金払いますから良ければその腐った野菜を分けてもらえませんか?
実は私、野菜には詳しいから何か原因がわかるかもしれません。
あ、あとこのスープとパンください」

咄嗟にそのフレーズが頭に思い浮かび発言する湖張。
ただ腐った野菜だけを注文するのもあれだったので、美味しそうなスープとパンを注文する。

「いや、さすがに腐った物にお金は頂けないよ。
どうせ捨てるだけだからタダで持って行ってくれ。それで何か分かるんだったら願ったり叶ったりだしな。
それとスープとパンだけど、ちょっと待っててくれな」

そう言うとキッチンに入っていく店員。
自分の目の前から店員の姿が隠れた事を確認すると、レドベージュに目を向けてコクンと一つうなずいて合図を送る湖張であった。

ピースキーパー赤き聖者014話

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