ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第十五話【腐った野菜の分析】

           

食事が目の前に提供されると、黙々と食べる湖張。
村から町まで歩き、程よい運動をした後なので少し早い時間ではあったが美味しく食べられた。

出てきたスープはクリームスープではあるのだが、独特のスパイスが効いており一風変わっていた。
少し舌に刺激を感じるものの、かえってその感覚が癖になる。
また、パンとの相性も抜群で、気が付いたら食事が終わっている程であった。
どうやらこの食堂は当たりのようだ。晩御飯もここで食べようと密かに心に決める湖張。

そうこうしていると、食事をとり終わる頃合いを見て店員が腐った野菜を紙袋に詰めて持ってきてくれた。
流石に気を使ってくれたらしく、食べている最中には持ってこなかったようだ。

「はい、これがご要望の野菜だ。腐った物を渡すのは料理人として気が引けるけどね。
一昨日仕入れたばかりの野菜なのだけれども、この有様だ。買った時は新鮮だったんだけれどね」
苦笑いの店員に笑顔でお礼を言う湖張。
そして食事が美味しかったことを告げて会計を済ますと、そそくさと腐った野菜の袋を持って部屋に戻る。

「さてと、腐った野菜をもらってきたわけだけど・・・ここにきて開けるのを躊躇しちゃうわね」
テーブルの上に紙袋を置くと、それを囲むように見つめる二人。
流石に腐った物を取り出す事は気持ちのいいものではない。臭そうでもある。
「まあそんな事を言っても始まらないからな・・・どれ、我が出してやろう」

臭いには縁がなさそうなレドベージュが袋を開けると、中から腐った玉ねぎとジャガイモが出てくる。
「うわぁぁぁぁぁぁ」

ピースキーパー赤き聖者015話

思わず声を出す湖張。決して顔は寄せない。
ただ、顔を背けてばかりもいられないので、ハンカチで鼻と口を押えながら、見たくもない物を見るかのような素振りで観察をする。
「ふむ、見事に腐っているな。何か気になる所はあるか?」
レドベージュが質問すると、ハンカチを顔から外して後ろ歩きをする湖張。そしてソファーに腰を掛けると、少し考える素振りする。
「・・・気になるも何も、一昨日仕入れたって言っていたよね?
玉ねぎもジャガイモもそんなに早く腐るものじゃないよ。正直言っておかしいよ」

「ふむ、確かに妙ではあるな。仕入先が古い野菜を売ったという事は考えられないか?」
レドベージュの推理に首を横に振る湖張。
「それは無いと思う。だって仕入れる方も料理人なんだよ?
古い野菜なんて見たら分かるよ。だからわざわざそんな外れを仕入れるとは思えないよ」
「そうだな、湖張の考えは正しいと思う」

そう言うと野菜に手をかざすレドベージュ。そしてしばらく静かになる。

「・・・これは・・・なんだ?」
ぽつりとレドベージュが呟くと、不思議そうに湖張が様子を窺う。
「どうしたの?」
「・・・いや、何かごく僅かながら魔力を感じる。しかもこれは・・・」
そう言うと窓に近づくレドベージュ。

「すまぬが湖張、窓を開けてくれないか?・・・それと椅子も頼む」
急にレドベージュが頼みごとをしてくるので、不思議に思いながらも窓を開けて、その近くに椅子を置く湖張。
するとレドベージュは椅子の上に上がり、そこから窓の外をジッと見つめる。

「・・・そうか、さっきの違和感はこれか」
「違和感?」
そう言って椅子から降りて湖張に顔を向けるレドベージュ。
「いや実はな、何か空気が淀んでいると言ったところか?そんな雰囲気を感じていたのだ。
最初は気のせいだと思っていたのだが、この野菜からも同じような淀みを感じたのだ。
それでじっくり確かめて見ると、微細な汚い魔力が空気に混じってこの一帯に舞っているようだ」

「・・・いや、全く淀みなんて感じないんだけど」
小さく驚きながら辺りを見渡す湖張。
「いや、それも無理は無い。我だからこそ感じ取れたと言っても過言ではないぞ。
普通の人間ならば分からなくて当然だ」
「そうなんだ」
「うむ、だがひっくり返せばそれだけ巧妙にカモフラージュされているという事かもしれん」

レドベージュがそう言うと、湖張は腕を組み少し考える。
「・・・それってさ、誰かがその汚い魔力をばら撒いているって事?」
「その可能性は否定できないな。何せこのような物は自然発生するとは思えん」
「いったい誰が何のために?」

湖張が眉間にしわを寄せてそう言うと、レドベージュは首を横に振る。
「分からん。それにまだ誰かの仕業という事も確定したわけではない。
とにかく今は調べてみることが先決だな」
「そうだね、とりあえず外に出てみよう」

そう言うと再び部屋から出る湖張とレドベージュ。
食後の休憩を取ることもなく、二人は急ぐように宿屋の出口を目指した。

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