ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第十一話【正義のための武術】
- 2020.05.28
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者
「どどど、どういう事じゃ!?」
慌てて立ち上がり、机に両手を勢いよく叩きつけると、部屋中に音が響く。
「どうって・・・うん、とりあえずこちらは天将レドベージュなんだって」
湖張が困ったようにそう言うと、レドベージュはどこからともなく花の蕾を取り出す。
そしてほんのり茎を握りしめた右手を光らせると、ゆっくりと花が咲いた。
「・・・またやっているし」
呆れた顔の湖張。一方老人はその様子を見てプルプル震えている。
「おおおおおおおお!奇跡じゃぁ!!レドベージュ様が奇跡を起こされたのじゃぁあああああ!!」
感激のあまり涙が溢れる老人。引きつる湖張。そしてレドベージュはとても満足そうである。

「なるほど、光る事が重要であったか」
「いやいやいやいやいや」
基本的にレドベージュは鎧なので表情は無いはずなのだが、目の動きと体の動きのせいなのか何故か感情が分かる気がする。今はとても気分が良さそうだ。
「ありがたや!ありがたや!ありがたや!」
老人はその場で跪いて深々と頭を下げる。その様子を見て慌てる湖張。
「ちょっとちょっと!おじいちゃん、何やっているのよ!?」
湖張が起こそうとすると、老人は険しい顔をして湖張を叱責する。
「馬鹿者!レドベージュ様の御前であるぞ!!頭を下げるのじゃ!!」
そう言って湖張を抑え込もうとするが、抵抗をされる。
「待て待て、そんな事はする必要は無いぞ。むしろ頭を上げてはもらえぬか?」
ご機嫌のレドベージュが老人に話しかけると、再びかしこまる老人。
「いえいえ、滅相もございません」
「いや、本当にやめて欲しいのだ。湖張には普通に接するようにお願いをしているくらいだ。
お願いだから頭を上げてくれぬか?」
流石のレドベージュも困りつつあるようだ。それを見て助け舟を出す湖張。
「ほらほら、おじいちゃんがやりすぎちゃっているから、困らせちゃっているよ。
それに話が進まないからとりあえず落ち着いて椅子に座ろう?ね?」
そう言ってゆっくりと老人を座らせる湖張。
そして話を再開させる。
「それでねおじいちゃん、天将レドベージュが私のところにやってきて・・・」
「馬鹿者!!呼び捨てにするなんて罰当たりじゃぞ!!」
「いや、そうして欲しいと頼んだのは我なのだ。こうでなくては困る」
ヒートアップしそうな老人をなだめるレドベージュ。そして呆れ顔の湖張は話を再開する。
「・・・はぁ。それでね、正直なところ赤き聖者にって誘われたんだけど、始めは半信半疑だったの」
「馬鹿者!!天将様を疑う者があるか!!」
(あああ!面倒くさい!!)
話が中々進まないのでいら立ちを覚える湖張。しかしここはぐっとこらえる。
「・・・とりあえず話を聞いて。まあ最初はそうだったのだけれども、色々とやり取りをするうちに私の力も赤き聖者として役に立てるべきなのかなとも思ったのね。だから・・・」
「存分に役立てなさい!」
話の途中で老人が腕を組んでそう言うと、湖張は一瞬固まる。
「えっと・・・うん、じゃあ役に立てるとしよう。そうしたら旅に出るからこの家を空けることになるけど、良いのかな?」
確認をするように湖張が聞くと、うなずく老人。
「もちろんじゃ。存分に役立てなさい。
そもそも我らが芭蕉心拳は正義の拳。世の為人の為に振るうべきものなのじゃ。レドベージュ様もそれを知って湖張を選ばれたのじゃろう?」
遠からずの読みをする老人。それにうなずくレドベージュ。
「うむ、確かに芭蕉心拳の使い手という点は湖張を選ぶ切っ掛けではあった」
その言葉を聞くと満足そうな笑みを浮かべる老人。
「レドベージュ様にお認め頂けるとは、これほどまでにない光栄でございますじゃ。
湖張には私の知る全ての技を託しました。きっとお役に立てると思います」
そう言って湖張を2秒ほど見つめる老人。そしてレドベージュの方を向いて話を続ける。
「湖張は武闘家として育てましたが、妙に魔法の才があるようでしてな。
本を読むだけで、記されている魔法を使えるようになったこともありましてな」
「・・・その様だな」
先ほどの戦闘で放った湖張の魔法を思い出したのか、レドベージュが少しおいてから反応する。
「なので魔導士として育てた方が良いのかとも考えたのですが、武術の才もありましてな。
むしろそちらの方がとても輝かしく思えました。何人もの弟子を育てましたが、湖張ほどの才を持った者はおりませんでした。なので武闘家として、芭蕉心拳の使い手として育て上げました」
「そうなんだ・・・」
初めて聞く内容に少し驚く湖張。
「湖張よ、お前は強くなった。だがこれからも精進するのじゃぞ?」
老人が湖張に顔を向けてそう言うと、うなずいてから返事をする。
「分かった」
そこで会話が一区切りつきそうになったところでレドベージュが老人に話しかける。
「では湖張は我と旅をすることになるが大丈夫であるか?」
その質問に対してお願いをするように頭を下げる老人。
「当然でございます。どうか湖張をよろしくお願いいたします」
その言葉を聞くと、レドベージュは老人の前の机の上に大きな金の延べ棒をゆっくりと置く。
「無粋な真似で申し訳ないが、これから湖張は天の為に尽力するのだ。報酬が無いわけにはいかぬ。
旅の経費や湖張への報酬は天で賄うから問題ないが、湖張が家を出るのだ。貴殿にも迷惑をかけるであろう。これはせめてもの保証と思ってくれ。
それに貴殿の生活もあるであろう。もし必要であるのであれば天からハウスキーパーでも派遣するがどうだろうか?」
レドベージュの提案に首を振る老人。その表情は硬いものであった。
「折角のご厚意でございますが、これは受け取れませぬ。そして身の回りの事もわし一人で大丈夫でございます。湖張がレドベージュ様に選ばれた。それだけで心が満たされておりますのでご心配なきよう」
その答えを聞くと、レドベージュも首を振る。
「いや、そういうわけにもいかぬ。これは湖張にとっても必要な事なのだ。
貴殿を置いて旅に出るのだ。心配になるであろう?
その中で、せめて不自由しない程の金を持っていると思えれば少しは安心できよう。
赤き聖者として心置きなく旅をするには必要なことなのだ」
「・・・なるほど、そういう事ですか。そう言われると弱いですな。
分かりました。レドベージュ様のご厚意、お受けいたしましょう」
老人がレドベージュの考えはもっともだと納得できたのでそう言うと、金の延べ棒を更にもう一本追加するレドベージュ。
流石に目を丸くする老人。
「・・・レドベージュ様のお考えは理解いたしましたが、更に追加されるとは。さすがにこれは頂きすぎでは?」
「いや、これでいいのだ。湖張もそう思うであろう?」
「・・・え?ああ、うん」
最初に置かれた金の延べ棒だけでも度肝を抜かれていたのだが、更にもう一本追加となって何が何だか分からない状態に陥りかけていた湖張。当然反応も鈍くなる。
金の価値はどのくらいかは良くわからないが、おそらく老人が一生困らないくらいの価値だという事は容易に想像ができる。
「分かりました。ではこれも頂きましょう」
湖張に心配かけまいと考えた老人は追加の金も受け取ることにした。
そうすると、次にレドベージュは湖張に話しかける。
「では湖張よ、さっそく明日から旅に出たいのだが大丈夫か?」
「え?ああ、大丈夫だよ」
そうすると、レドベージュは湖張に数枚の金貨を渡す。
「ならば今日はこれからこの金で旅で必要な物を揃えると良い。
ただ、大荷物にはしなくて良いぞ。むしろ少なくしてほしい。
身動きが取り辛くなるからな。基本的には町から町への移動だ。必要な物はその都度調達すれば良い。それに野宿は不必要にするつもりはないからな」
「え?そうなの?」
てっきり人里から遠のく生活を想像していたので意外だった湖張。
「うむ、というのも我らは人の世を乱す者に対して行動を起こす事を目的としている。
なので人の世に触れていないと、人の世の異変を感じられないであろう?
野宿するくらいなら、町に宿泊する方が情報収集になる。
それに年頃の娘に野宿の強要など気が引ける」
何となく感じてはいたが、レドベージュは紳士的で律義であると思う湖張。
「分かった、じゃあ用意するのは薬とか携帯食料とかそこら辺かな?とは言ったものの、これは大金すぎるかも。
おじいちゃんと二人で半月以上、節約すれば一か月は生活できるよ」
「いや、足りない方が良くないであろう。余ったら返してくれれば良いさ。
それに余った金で晩の食事を豪華にしてもらっても構わない。
「そうなの?」
「うむ、そうすると良い」
「そっか。じゃあさっそく買い物に行ってこようかな。
ついでに夕食の買い物も行ってくるね。明日から出かけるなら
しばらく帰ってこれないんだよね?だったらお言葉に甘えてちょっと豪華にご飯を作るね」
「うむ」
レドベージュが頷く。その雰囲気は何故かにこやかだった気がした。
「じゃあ行ってくるね」
話も一区切りつきそうだったので買い物に出かける湖張。
外はまだ明るく、気持ちの良い風が吹いていて絶好のお出かけ日和である。
その中で旅の買い出しをすると思うと、妙に清々しい気持ちになった。
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