ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六十話【雨の日の宿屋】
- 2020.11.30
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者
石造りの魔法生物を倒してから二週間。
一行は元居た場所から東を目指して移動をしていた。
このくらい離れてくると、天標が深く根付いている地域ではなくなってきており
何を信仰するのかではなく、信仰すること自体が自由な雰囲気であった。
とは言ったものの、あれからはメーサ教と遭遇することは無く特に目ぼしい情報も得られないでいた。
そんな中で本日は強い雨が降り続いており宿屋で足止めをされている状態である。
「よく降るよねー」
宿屋に隣接する食堂で昼食を取りながら窓を見つめて、そうぼやく湖張。
今の町には昨日の昼頃から到着しているのだが、強い雨のせいで本日も同じ宿に宿泊する事になっていた。
午前中は部屋で各自が自由に過ごしており、今は気分転換も兼ねて食堂で昼食を取っている形である。
強い雨の為に外を出歩く事もしていなかったので、久々に何も気にせずゆっくりと時間を使えた。
「うむ、まあたまにはこの様にゆっくりと過ごすのも悪くなかろう。
幸い部屋も広めであったのだ。さほど息苦しさも無かろうて」
ぼやく湖張を見ながらレドベージュがそう言うと、湖張は頬杖をつきながらサラダをフォークでつつく。
「まあそうなんだけどね。確かに有意義ではあったかな?」
「そういえば湖張姉さまは何をなさっていたのです?」
湖張が有意義と言ったので、気になったラナナ。
というのも、午前中の湖張は部屋で形稽古の様な事をずっとしていたのだが、
途中で動きを止めたり、何かを考えながらやっていたので、少し様子が違うと感じていたからであった。
「うん?ああ、確かに何か変な動きをしていたかもね。
あれはまあ技の練習かな?今まであまり使わなかった技も取り入れた方が良いのかなと思っていたから、練習をしていたの。
今のままだとまだ実践では使えそうにないからね。
そう言えばラナナも何か魔法の練習をしていたようだけどあれは?」
今度はラナナの行動に対して聞き返す湖張。すると彼女はパンを皿に置いて答える。
「私も同じようなものですよ。
放つまでの時間を短縮するために色々と試していたのです。
威力を下げずに速度を上げる効率化は、今日みたいに落ち着いて考えながら理論立てしないと出来ないので、
私も有意義な時間を過ごせていますね」
「ふむ、二人とも感心だな。でも休めるときに休むことも重要ではあるぞ?」
ラナナも魔法の研究をしていたと聞くと、レドベージュが休むよう促してくる。
確かに毎日長距離を歩いて旅をしているので、彼としては今日は体を休めて欲しいのかもしれない。
「そうだね、じゃあ午後は何も考えずに昼寝でもしようかな?」
特に気を使ったわけでは無いが、たまにはゆっくりとするのも良いとも思えてきたので湖張がそう言うと、
レドベージュは「うむ、それが良かろう」と頷く。
と、その様なやり取りをしていた時である。
今日の様な大雨の日は宿泊客しか来なさそうな食堂に一人の男性客が入ってきた。
最初はこのような日でも客がくるのかと思っただけであったが、いざその客の姿を見ると一瞬固まってしまう。
何故ならば、その男性客はメーサ教のローブを身に纏っていたからだ。
「レドベージュ、あれ」
小声で確認を取る湖張。
「うむ、あの色のローブ。そして紋章・・・メーサ教徒だな」
「え!?」
落ち着いた様子である二人の会話を聞いて、小声で驚きを表現するラナナ。
彼女にとってメーサ教徒に遭遇することは初めてとなるので当然なのかもしれない。
そして男性客に怪しまれないように気を使いながら様子を見ていると、
食堂の店員はその男性を見るなり気さくに話しかけ始める。
「おお、久しぶりじゃないか!こんな大雨なのに良く来たよな。
・・・にしても何だよ、その格好は?」
幸いにして、湖張たちの席から2m程の距離で会話を始めたので、会話が聞き取れそうである。
店員の雰囲気からすると、どうやら男性の知り合いのようだ。そして服装について何も知らない様子から
この町にはまだメーサ教が普及していない事が判断できる。
「ああ、実はこの町には野暮用で一昨日から戻ってきていたのだけれども、色々と忙しくってね。
ただ今日はどうしてもここのランチが食べたくてさ。我慢できなくって来ちゃったよ」
「そうかいそうかい、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
「それでこの服装だよな?これはメーサ教っていう宗教の服なんだよ」
「なんだそりゃ?それにお前って神様を信じるタイプだったっけ?」
「いや、そうじゃなかったんだけどさ、何か凄いの見ちまってよ・・・奇跡っていうの?
それ以来信じても良いんじゃねえかって思えちまったんだよ」
「ああ?奇跡?」
男性の『奇跡』という言葉を聞くなり目を合わせる湖張とレドベージュ。
それが一体、何の事かが気になり、二人の話に集中して静かに聞き耳を立てる。
「そうなんだよ。俺は今、隣の町で働いているのは知っているよな?
そこに小型の竜の様な魔物がたくさん現れて畑を荒らしまくったんだよ。
一匹一匹は農作物を掘り起こすのが下手で大した被害ではないのだけれども、
数が多いと無視できない規模の被害になるんだよな。
だから町中で退治しようという流れになったのだけれども、信じられないくらい硬くて倒せなかったんだ。
でもよ、そんな中でメーサ教の騎士達がやって来てこう言ったんだ。
俺たちが騎士に力を与えるように祈れば、簡単に魔物を退治出来るって」
「は?なんだよそれ?」
「そう思うだろ?俺もそう思ったよ。でもよ、ダメもとで祈ってみたらさ、
あの騎士達はあんなにも硬かった魔物を、まるでやわらかいパンをフォークで刺すかのように、
簡単に槍を刺して倒してしまったんだ。
あれは奇跡以外に何でもないぜ」
「そんな事があるのかよ?嘘だろ?」
「嘘じゃないって!俺はこの目で見たんだらよ!!」
「はー、なるほどな。それでお前もそのなんちゃら教ってのを信じ始めたわけだ?」
「そういうこった。お前もどうだ?」
「いや、俺はそういうのはいいや」
「何だよつまらねえな」
「それより何食べるんだ?久々だからサービスしてやるよ」
一通りの話が終わると、奥の席に案内される信者の男性。湖張たちとは離れた位置に座ったようだ。
その様子を確認するなり、湖張はレドベージュとラナナに話しかける。
「今の話聞いた?」
「うむ、しっかりとな。話に出てきた魔物とは宴会好きの村で遭遇したものと同じような感じがするな」
「やっぱりそうだよね?」
レドベージュの話に湖張が同調すると、ラナナは奥に座った男性をチラリと見てから湖張に視線を戻す。
「話に聞いていた、あの硬い魔物の事ですか?」
「うん、それそれ。本当に硬い相手だったんだよ」
「それをやわらかいパンのように刺していたのですよね?」
「にわか信じがたいけどね」
「だがあの者は嘘をついているようには思えなかったな」
「そうなんだよね。確かにあの人は嘘を言っていないとも思えるよ。ラナナもそう感じたよね?」
「はい」
「・・・するとやはり何かカラクリがありそうだな」
「カラクリですか?」
レドベージュの言葉に反応をするラナナ。すると彼は回収していた魔物の皮膚を机の上に出す。
「これが宴会の村で回収したサンプルなのだが、何かありそうなのだ」
「なるほど」
サンプルを手に取りジッと見つめるラナナ。その間に湖張はレドベージュに話しかける。
「やっぱりあの魔物を使って信者を増やそうとしていた予想は当たっていたのかもね」
「うむ、実際のところあの者は信者になっているのだからな。
きっと魔物もメーサ教が用意したと考えられるな」
「そうしたらさ、明日になって晴れたら隣の町に行ってみようか?」
少し間をおいてから湖張がそう提案をすると、小さく頷くレドベージュ。
「うむ、ここに来てようやく見つけられたからな。
更には実際に魔物を簡単に退治するところも見る事が出来るかもしれぬ」
彼がそう言うと、サンプルをレドベージュの前戻すラナナ。そして手を口に当てながら難しい顔で話に入る。
「そうですね、このサンプルから妙な魔力を感じますし、実際にどのような手口で倒しているのかを見てみたいです」
「要するに胡散臭いという事だね?」
「そんなところですね」
ラナナがそう答えると、コクリと頷き腕を組む湖張。
「よし、じゃあ次の目的地は決まりだね。
後は雨が上がる事を祈りながら今日はゆっくりしましょうか」
「うむ、そうだな。また慌ただしくなるかもしれぬからな」
「そうしたら急いで食べて、お昼寝タイムですね」
「いや、そこは急がなくて良いよ!」
緊張感が有るようで無い雰囲気の会話で食事を進める三人。
その様子は強く振る雨が表現する暗いイメージをかき消すような明るさを感じられるものであった。
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