ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百五十三話【船が着いた港町】

           

穏やかな海が続き、航海は予定通り目的地の港に到着することが出来た。
船旅が終わる事を少し寂しく思う湖張ではあったが、
今度は船の上から見る活気あふれる港町に心が躍り始める。

背伸びをしながらゆっくりと下船をするラナナに「早く早く!」と急かす姿を微笑ましく見守るレドベージュ。ラナナは苦笑いで「その役、今日は逆なのですね」とつぶやいた後に、足を速めて湖張に追いつく。

「話には聞いていたけれども、凄いねここの街。船に乗った所とは違って物凄く賑やかだよ!」
「ええ、行の町はフィルサディアが比較的に近いですからね。どうしてもそっちに賑やかさが取られてしまいます。でもここは港を中心に栄えていますから」
楽しそうに見渡す湖張。山や森に囲まれた村の出身である彼女にとって、海に囲まれた世界はまだ新鮮に感じ取れた。

「今日はこの街に滞在するとしよう。宿を取ったら自由に見て回るが良い」
レドベージュにそう伝えられるとラナナは両手をポンと合わせて提案をする。

「そうしたら宿を探しながらお昼ご飯のお店を探しましょう。海沿いのお店は何処も絶品の魚介類を提供してくれると聞いたことがあります」
「良いね!」
「まあ良かろう。あまり食べ過ぎるでないぞ」

話がまとまると港の門を出て左折し、海沿いの店を探し始める。
幅が広く整備された道の左側には海が広がり右側にはいくつもの店が並ぶ。
時折、漁で使う小舟が停泊できる場所がいくつもあり、自分たちが乗ってきた大型船以外も利用が出来る港町の様子だ。

道から海を覗いて見ると、透明な水の中に小さな魚が泳いでいる姿が目に入る。
その姿を湖張は嬉しそうにラナナに伝えると、彼女もその場にしゃがんで楽しそうに観察をする。

「ねえレドベージュ、あの魚も食べられるの?」
「まあ食べられぬ事は無いが・・・楽しみ方はそこなのか?」
「え?何か間違えた?」
レドベージュへの答えに少し戸惑うものの、それでも楽しそうな湖張。
そんな彼女の手を引いてラナナは先へ進みだす。

「さあ、早くお店を見つけましょう」
「宿もだよね?」
「まずはご飯ですよ」

数多くの店が並ぶ道。何処の店が良いのかは全く分からなかったが、何処の店からも美味しそうな焼き魚の匂いが漂ってくる。
海沿いではなく、店沿いに移動をして進むと、多くの店に目移りしてしまう。

しかしそんな中、少し異常な光景を目の当たりにする。
というのも目の前の店が3件ほど、強い力で押しつぶされたのか、ボロボロに壊されていた。

「あれ?どうしたのかな?」
店だったと思われる場所の前で立ち止まる一行。
そこには瓦礫の片づけをしている二十歳前後の男性の姿があった。

「事故ですか?」
何か事件性のようなものを感じたので赤き聖者の仕事の一環として男性に尋ねる湖張。すると彼は手を止めて困った顔で答える。

「ああ、イガザンが出てね。御覧のあり様だよ」
「イガザン?」

聞いたことが無い名前が出てきたので不思議そうな顔をしてラナナを見ると、顎に人差し指を当てながらラナナは答える。

「イガザンというのは魔物ですよ。体調は2メートルくらい。白くて10本ほど足があります。とても柔らかいです。足には骨も無く軟体ですね。頭にひし形のヒレが付いています。陸上でも1時間くらいは活動できます。足を巧みに使って地上でも移動するのですよね。肉食で割と好戦的ですが普段は海にいて問題はありません。ただとある事が起こると厄介です」

「とある事?」
「焼き魚を食べる事です。焼き魚の独特の香りと味を覚えるとそれを求めるようになります。」
「・・・うん?」

理解が追い付かなくなる湖張の表情に苦笑いのラナナ。
「まあそうなりますよね。でも実際の所、何かのはずみでイガザンが焼き魚の味を覚えると常にそれを求めます。結果、焼き魚なんて人しか作れませんので人の住む場所が常に襲われ続けます」

「お嬢ちゃん、良く知っているね」
感心したように男性がそう言うと「あはは」とこれまた苦笑いで返すラナナ。そこに湖張が再び男性に問いかける。

「するとここも焼き魚の味を知ったイガザンに襲われたという事ですか?」
腕を組んで頷く男性。
「そうなんだよ。うちは焼き魚を専門に扱っている店だったのだけれどもこの有様だよ」
「イガザンはどうなりました?」
「それがさんざん暴れた後に海に逃げちまったんだ」
「海に?するともう大丈夫?」

湖張が背の方向にある海を見ながらそう呟くと、首を横に振るラナナ。
「いえ、文字通り味を占めちゃったのでまたこの街に現れては焼き魚を食べに来ると思います」
「じゃあ退治しないと駄目な案件じゃない?」
その言葉を聞くと頷く男性。同意の意思を見せた後に話し始める。

「そう、そうなんだよ。こんな時にアディットがいてくれれば良いのに、肝心な時にいなかったんだよな」

「・・・アディット?」
急に血の気が引いたような顔になる湖張。思わず名前を復唱する。
その様子に気づいたラナナは男性に問いかける。

「あの、アディット・・・とは?」
にこやかに答える男性。

「ああ、数か月前にふらりとやってきた格闘家でね、凄い強いんだ!イガザンではないが、ここら辺に現れた魔物だけでなく小悪党どもを一人でやっつけてくれてね。今じゃこの街のちょっとした守り神みたいなもんだよ」

「・・・格闘家?」
顔を引きつらせながら湖張が問いかけると男性は更に答える。
「ああ、何て言ったかな?芭蕉心拳?そんな感じの格闘術を使うんだ」

芭蕉心拳の名前が出たので驚きの顔で湖張を見るラナナ。
その直後、勢いよく怒りに近い表情で男性に食いつく湖張。

「ちょっと!その人は何処!?」
突然の事で戸惑う男性。

「え!?・・・ああ、だから今は何処にいるか分からないんだ。でも酒場に良く出入りをしているから、そこなら何か分かるかもしれない」
「酒場は何処!?」
「あっちだよ」

「・・・分かった。ありがとう」
そう言って指し示された方向へズカズカと歩き出す湖張。ラナナは男性に一礼すると湖張に走り寄る。

「ちょっと湖張姉さま、突然どうしちゃったのです!?」
「・・・兄弟子だ、間違いない」
「え!?」
「まったく、何でこんな遠くまで来ているのよ!村に帰って芭蕉心拳を継いで・・・おじいちゃんを安心させないといけないのに!」

珍しく怒りを露わにする湖張に戸惑うラナナ。チラリとレドベージュを見ると「とりあえず酒場に向かってみるか」と言葉が返ってくる。

今まであったのどかな観光気分が一気に吹き飛んだ良く晴れた昼下がりであった。

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