ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百五十一話【タウンが見つけたもの】

           

「ごめん、待たせちゃったよね」
湖張たちが食事をしている最中に姿を現すゼン。そろそろ食べ終わりといったタイミングであった。
この日は何気ない会話をしつつの食事であったが昨夜と違い酒は入っていなかった。そのせいか少し落ちついてはいた。

「おつかれさん。まあ待ってはいたが食事をしていたんだ、待ちくたびれてはいないぜ」
タウンがそう声をかけると、彼の隣に座るゼン。そしてチウルが立ち上がり話しかける。

「ちょっと待っていてね、スープを温めてくるよ」
「いや、大丈夫だよ。それよりも仕事の話があるからさ」
ゼンがそう断りを入れると不機嫌な顔を見せるチウル。

「駄目だよ。折角作ったんだから」
「おら、良いから食えよ」
騒ぎが大きくなる前に皿に料理を盛るタウン。そしてゼンの前に置く。
「スープは明日の朝、俺が頂く。ただテーブルの上の料理は食べろよな」
そう伝えた後にチウルの方を向くタウン。

「それで良いだろ?」
「しょうがないなー」

そのやり取りに小さくため息をついた後に料理を口に運ぶゼン。そしてタウンに話しかける。
「まずはタウンから話をしてよ。僕は食べながら聞くからさ」

「そう言えば仕事の話があるのでしたっけ?」
ラナナが問いかけると頷くタウン。そして真面目な顔に変わる。

「今日は無理言って滞在してもらってすまなかった。実は伝えたいことがあってね」
「話を聞こう」
レドベージュがそう返すと頷くタウン。

「昨日、メーサ教の施設が山の中にあっただろう?そこであるものを見つけたんだ」
そう言うと緑色で手のひらサイズの鱗を取り出すタウン。

「これだ。恐らくはグリーンドラゴンの鱗だと思う」
驚きの表情を見せる赤き聖者たち。レドベージュは差し出された鱗を手に取るとジッと見つめる。

「うむ、これは紛れもなくグリーンドラゴンの鱗だ」
「それって!?」
湖張が驚きを伝えると、タウンは頷く。

「ああ、ここでアイツが思い浮かぶよな。とっ捕まえたあの特務」
「・・・と追っている黒いローブの人たちですね」
ラナナが続くと腕を組んで再び頷くタウン。

「そうだ。拾ったものは鱗だが、掴んだものは逃げた奴らの尻尾かもしれない。」
「じゃああのローブの人たちはメーサ教だというの?」

湖張が疑問を投げかけると軽く頷くタウン。
「その可能性はある。だがその話の前に皆に聞きたい。・・・ハルザートは悪い奴か?」

その言葉の直後、沈黙が流れる食堂。各々が思考を巡らせはするものの、即答はしなかった。だが今までの事を思い返し湖張は首を横に振る。

「私は悪い人だとは思えない」
真剣な顔で湖張がそう伝えると、ため息の後に小さく右手を上げるラナナ。
「私も同意見です。始めは正直いって気に食わない人でしたが、悪い人とは思えませんでした」

二人の意見を聞いた後にレドベージュに視線を向けるタウン。そして問いかける。
「レドベージュ様の意見をお聞きしても?」
「ふむ、我もあの者は悪人ではないと感じている」

「・・・ですよね。俺もゼンも同意見です。仕事柄、多くの悪党共を見てきた経験上、アイツはそっち側ではないと感じています。そもそもあの洞窟を始めに見つけたのはハルザートですし、教団の施設である事、そして技術部である事も包み隠さず伝えてきました。恐らく本当にグリーンドラゴンの件は知らないのでしょう」

「確かにそうだよね」
湖張が同意を見せると、視線を彼女に移し更に話を続けるタウン。

「それに一昨日の夜に湖張も言っていただろう?メーサ教の全てがヤバいというわけではないって。北の村のロダックの件は俺も報告を受けている。それを踏まえても悪い奴では無いって思えてな。だから鱗を見つけた時、真っ先に注意が必要だと感じたんだ」
「どういう事?」

「組織というものは厄介なものでね、多くの人間が所属すればするほど、それだけ多くの派閥が出来て、考えが生まれる。そして一部が動いていても自分と接点が無ければ気づかない事も珍しくない。・・・この言い方だと回りくどいか。簡単に言えば、メーサ教の一部がグリーンドラゴンの件に関与しているのかもしれない」

そこで水を一口飲むタウン。そして続ける。

「組織の一部が腐り始めると質が悪い。集団の力は個人ではどうする事もできないんだ。どんなに腕が立つ者でも寝首を掻かれたら一たまりもない。・・・知らされていないメーサ教の施設が利用できている事。逃げたのは二人という事。これだけでも複数人が関与している事は判断できる。その中でアイツが教団に帰った時にあの施設の事や鱗があった事を調べ始め、更には俺たち国の騎士達とつるんで施設を見つけて入ったなんて知られてみろ。いくらハルザートが強くたって潰されかねない」

「だからあの時、ハルザートには見なかったことにしてと伝えたの?」
湖張が驚いた顔を見せると頷くタウン。
「ああ、その時はゼンと相談できていなかったから俺の独断ではあったが・・・とにかく組織がらみで潰さる可能性がありそうだと真っ先に頭を過ぎったんだ。一応は探るなと伝えたが、何かのはずみで誰かに聞くのではないかと心配はしているけれどもな」

タウンの話を聞くと、少し考える湖張。そして問いかける。
「・・・ひょっとしてハルザートを北の離れた村に向かわせたのは、教団の施設から遠ざけるため?確かここの付近に教団の大きな施設があるんだよね?」
正解と言わんばかりに指を向けるタウン。

「ご名答。良いタイミングだったぜ、アイツが持っていた魔物の情報に遠方の案件があった事は。これでしばらくは仮に教団内で調査をやろうとしても出来ないだろう。正直なところ遠かろうが国内であれば兵を派遣する事は出来なくはない。北の村だって例外ではない。色々と融通は利かない事もあるが一応は国の騎士団だからな」

「・・・大丈夫かな、ハルザート」
湖張が心配そうな顔を見せると腕を組んで答えるタウン。
「わからん。だがアイツが離れている間に事を進めて国は既に知ってしまっている状態にしようと思っていた」

「そんな事出来るの?」
湖張の問いかけニヤッとして答えるタウン。

「という訳で早速今日、あの山の中の教団施設に兵を調査の為に派遣した」
「ええ!?」
「表向きはフーギル討伐隊。森の中を探索中に偶然教団の施設を見つけましたというシナリオだ」

「そんな事・・・」
「適当だと思うだろ?でも無くは無い話でもあるだろ?王子だってすぐさま許可してくれたぜ」
「大丈夫かな?」
「問題ない。派遣したのは俺らと同じピース所属の者だ。信頼はおける。それこそハルザートが俺と勘違いしていた両手で剣を操る奴だって調査に行ってきたぜ」
その回答に苦笑いを見せる湖張。そしてレドベージュが問いかける。

「して、何か分かったのか?」
頷くタウン。
「ええ、洞窟の奥に袋に詰め込まれた大量のグリーンドラゴンの鱗がありました」
「他には?」
「黒いローブが二着」
「ふむ・・・以上か?」
「ええ」

タウンの答えを聞くとラナナが顎に手を当てて考えながら話す。
「逃げた黒いローブの人たちはやはりメーサ教と関わりがあると思って良さそうですね。でも何でグリーンドラゴンの鱗が集められていたのでしょうか?ところで牙や角は有りましたか?」

首を横に振るタウン。
「それが見つからなかったんだ。ここからは予想なのだが、牙や角は高額で取引されるから早々に売られたのかもしれない。ただ鱗は大量に採れるし捌きずらいので残っていたとは考えられないか?というのも裏付けになるかどうかは怪しいが、とっ捕まえた槍使いの特務がいるだろ?供述によると純粋に金になるからグリーンドラゴンを狩っていたらしい。ちなみに黒いローブのやつらがメーサ教かどうかは本当に知らない様子だった」
「・・・そうですか。確かに売れ残った線はありえますね。ところで押収した鱗はどうされましたか?」
その問いを投げかけられると、神妙な顔になるタウン。

「それなのだが、予想外の事が起きてな・・・派遣した者には調査後、何も持ち出さずに陰に隠れて張り込みをするよう伝えていたんだ。するとどうだ、運が良いのか悪いのか分からないが30分もせずに男が二人して洞窟に入っていく姿を見る事ができた」
「それって!?」
「・・・推測だが逃げた黒いローブの者だろう。そこでうちの騎士が洞窟に入ろうとしたところでそいつらに声をかけ事情を聴こうとしたそうなんだ。すると急に目くらましのような光る魔法を放たれ顔を背けると慌てて扉の近くから離れたらしい。その直後だ。洞窟が爆発して騎士達は吹き飛ばされた。その間に男たちは逃走。騎士達に怪我は無かったものの、まんまとしてやられたようだ」

「あーまたその展開か」
湖張が腕を組んでそう答えるとジッと見つめてくるタウン。
「また?」
「いや、前にメーサ教の人が食べ物を腐らせる魔法みたいなのをバラまいていた家があったのだけれども、踏み込んで一悶着したらさ、家を盛大に爆発させられちゃってね。その時もやっぱり逃げられちゃったよ」

「なんだよ、お決まりの手なのかよ」
呆れた顔のタウン。
「大胆な事をやるよね」
「そうだな、お陰で証拠がなくなってしまった。仮に教団に問い合わせてもしらばっくれられたらそれまでだ。本当は片を付けたかったのだが難しくなったな。とりあえずハルザートが言う通りに黙っていてくれることを祈るばかりだ」

「随分とあの人のことを気にかけるのですね」
ラナナがそう言うと、小さく息を吐くタウン。
「まあそう見えるだろうな。実際に気にはかけている。どうも他人事には思えなくてね。さっきも言ったが、組織の一部が腐り始めると質が悪い。例えば俺らとこうやって話す前、国の騎士にはどういう印象を持っていた?」

「まあ正直なところ、魔物に対する対応が遅いとは思ってはいましたよ。寧ろ無関心なのかなとも何度か感じました」
「だろ?そう思うだろ?」

タウンが同意を示すと呆れ顔のラナナ。
「その反応、良いのですか?」
「いや、実際に俺は遅いと思っている。でも俺らはこれでも一生懸命に対応をしているんだ。実際の所、昨日の今日で色々とフットワーク軽く調べているだろう?」

「あーそれは思った。よくこんなに調べられているなって」
湖張が同意を見せると難しい顔を見せるタウン。

「そう、動いてはいるんだ。でも全体ではうまく回っていない。そもそもの話、何故ハルザート、いやメーサ教が握っている魔物の情報を国は把握できていないんだ?普通だったら人里で魔物の情報があれば真っ先に国に報告がくるだろう?」

顎に人差し指を当てて答える湖張。
「そういえば前にハルザートが言っていた。責任を負いたくないから国のお偉いさん達は兵士を派遣しないって」
頷くタウン。
「そう言う事だ。つまり通報はされてはいるが、どこかで止められている。機能不全を起こしているようだ。王子の耳に入れば直属の騎士であるピースを動かせるが、そこまで届かないとそれまでだ」

再び水を口に運ぶタウン。そして続ける。
「俺たちもな、そこには感づいてはいて色々と調査もした事がある。だがその中で一人、行方不明になったやつがいてな・・・」
「ふむ・・・」
レドベージュが反応を見せるとため息をつくタウン。

「あいつは自ら消息を絶つ理由なんてなかったんですよ。という事は不穏な予想は容易に立ちます。ただ、誰が何をしたかは全く分からず。誰も責められず・・・ましてや俺らにはそれぞれ家族や大切な人がいるもんでしてね」
「なるほどな。報復の危険性から不用意には原因を突き止められぬわけか」
「ええ、組織の一部が腐る事による危険性についての例だという事です」

ここでラナナに視線を移し話しかける相手を変えるタウン。
「これが他人事には思えないと言った理由だ。俺の直感だと実際の所は末端の信者は純粋に信仰しているのだと思えるし、ハルザートは純粋に正義の為に力を振るっているのだろうとも思える。だがもし組織が、しかも上の方の人間が悪い奴だとおいそれと行動に移せないだろう?」

「・・・どうすれば良いのかな?」
湖張が心配そうにそう呟くと、レドベージュが答える。
「難しいな。とりあえず我らもハルザートがもたらした魔物の情報を元に魔物退治を行うか。メーサ教の情報なのだ。どこかしらで関わる事があるやもしれぬ。その時に何か掴めるかもしれぬ」

するとタウンが手を広げ制止の姿勢を見せる。
「いや、お気持ちだけ受け取っておきます。ここは俺らの仕事、国でどうにかしますよ。それより・・・」
そう言ってゼンに合図をするかのように視線を移すタウン。するとゼンは懐から一通の封筒をラナナに差し出す。

「そのかわりに行って欲しい場所があるんだ。ここから遥か東にある町にダラの関連校で生活に役立つ魔法を専門に教えている比較的に入学しやすい魔法学校があるだろう?そこの207号室で教師をやっている人にこの手紙をラナナ君から直接手で渡して欲しいんだ」

「え?どういう事です?」
不思議そうな顔をしながら受け取るラナナ。すると少し申し訳なさそうな顔を見せるゼン。
「ごめんね、詳しく伝えても良いのかもしれないけれども、僕が出しゃばって良い話でもない気もしてね。でも、このまま見て見ぬ振りも出来ないから」
「・・・何か怖いのですけれども。それにここからだと凄く遠いですよ」

困った顔でラナナが問いかけると苦笑いを見せるゼン。
「そうだよね。だから連絡船のチケットを用意したよ。ここから南に1週間ほど移動すると港町に着くだろう?そこから10日ほど海の旅をすれば東の港に行ける。そこからだったら数日で目的に行けるはずだ」

「海!?船!?」
湖張が目を輝かして思わず言葉を漏らすと一同が彼女に視線を移す。
それを恥ずかしそうにしてうつむく姿を確認するとゼンは微笑ましい様子で机に三枚のチケットを差し出す。
「興味あるかい?」
湖張に優しく問いかけるゼンをジッと見つめて問いかけるラナナ。

「船の手配までしてくださったのですか?」
不安そうな彼女からレドベージュに視線を移すゼン。
「すみませんレドベージュ様。ただ彼女にとって必要な事ですのでどうかお願いできませんか?」

すると湖張とラナナの様子を窺った後に答えるレドベージュ。
「・・・ふむ、良かろう。東の方も見て回るつもりではあった」

その言葉を聞くと一礼をするゼン。これにて話は終わりという雰囲気を出す。するとそれを察したのかタウンが両手でポンと音を立て注目を集める。

「じゃあ難しい話はここまでだ。後は食事の続きを楽しもうぜ。まだ甘いものなら入るだろ?チウルがデザートも作ってくれているんだ。旨いんだぜ」

タウンが話をそう言うと嬉しそうな顔でチウルは奥の部屋にデザートを取りに行く。その姿を穏やかに見送ると目の前の三人に対してにこやかに話しかける。

「何か色々とあったけれども、中々楽しかった。ありがとな。明日、発つんだろ?フィルサディアに来たらまた寄ってくれよな」
それに答える湖張。
「こちらこそ。また機会があったら、そうさせてもらおうかな。それに何か情報もあったら欲しいかな」
「ああ、任せとけ」

そうこうしている間に果物がたくさん載ったケーキを運んでくるチウル。大きめだったので落としそうと感じたのか、慌てて立ち上がり支えようとするタウン。そしてその後は、他愛のない話をして楽しい時を過ごした。

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