ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百五十話【託された赤いペンダント】

           

ハルザートと挨拶を交わした後、湖張とラナナは街に出かけていた。今まで訪れた町や村とはわけが違い、人も店も建物も何処まで続くのかというくらいに並んでいる。
昨夜、タウンから朝食の誘いがあったのだが、ラナナは折角なので有名な軽食を出してくれる店が近いのでそこに行きたいと伝える。

甘い果実のソースがかかったパンとサラダ、絶妙な香りをもつお茶を楽しんだ後は、大きな噴水がある広場、記念碑、見世物小屋、そして王城の前などを観光した。
始終ラナナは楽しそうで、機嫌が良かった。知識が豊富な才女とされてはいるが、湖張は彼女のこういう面を多く見ているので凄味より親しみの方が強い。

田舎育ちだった湖張にとっても賑やかで華やかな街並みは圧巻であった。しかし忙しく、そして窮屈にも感じた。それでもこのくらい人が集まるという事はより強い魅力か理由があるのだろうと思った。

そうこうしていると日が暮れ始め、タウンの家に戻る二人。
すると入り口からすぐに入った広間でレドベージュが歩いている。

「あれ?ひょっとして待っていた?」
湖張が慌てたように話しかけると首を横に振る返事が返ってくる。」
「いや、そんなことはないぞ。今は食事の準備を終え、広間の植木の手入れをしていたのだ」
「・・・食事の準備?それに植木?」
首を傾げる湖張。

「ああ、今日もチウルが着て色々と家の事をやっていたからな。我も手伝っていたのだ」
「そうなんだ」
「うむ、ここまで広いと色々とやりがいがあって楽しかったぞ」
「レドベージュって家事が好きだよね」
「うむ、そうかもしれないな。それに作業しながらタウンやゼンについて話を聞いていた」

「そうなのです?」
不思議そうに問いかけるラナナ。
「うむ。あの二人の腕前は実に興味深い。今までの生い立ちを聞いてみたくなってな」
「結果、どうでした?」
「とっても良い関係性を築いてきたようだな。それでいて善行も多いようだ。楽しい時を過ごさせてもらった」
「確かに先輩は昔から落ち着いていて優しかったですね」
「昔からそんな感じだったそうだぞ」

そう言うなり植木を覗き込むレドベージュ。
「ふむ、この土には少し栄養を与え過ぎだな。しばらくはここに清潔の魔法は無しだな」

「レドベージュ様!!」
奥からエプロンを手で広げてチウルが走ってくる。顔はキラキラしている。

「凄いですコレ!身に付けていると跳ねた油を弾いて、さらにはそのまま鍋に帰っていきます!!」
「うむ、今日の礼だ。使っているエプロンに防御魔法を掛けておいた。ついでにシミも落としておいたぞ」

そう伝えると急に落ち着いてエプロンを見つめるチウル。そして申し訳なさそうに答える。
「ありがとうございます。でもその魔法、効果期間はどのくらいですか?」
「うむ、落ち込む事は無いぞ?軽く100年はもつであろう」
その答えを聞くと、余計に心配そうになるチウル。

「あの、申し訳ないのですが1年ほどに短縮できますか?天将様が手を加えられたものとなると秘宝扱いです。誰かに知られたら争いの元になりそうです」
「ふむ、そこまで思うのか。聡いのだな。だが心配はせずとも好いだろう。ここの家の者は全て善人と見た。それに人の家のエプロンなど外に知れる事も無かろうて。そもそも我自体が実在するとは世間では知られてはいない。言った所で信じてはくれまいて」
「・・・それもそうですよね!じゃあこのまま使いますね!」
パアっと明るい表情に変わる様子を見ると頷くレドベージュ。

「やっぱりレドベージュが手掛けた服って物凄い価値があるのかな?」
二人のやり取りを聞いていた湖張がラナナに問いかける。頷くラナナ。
「そうですよ。前にも言ったじゃないですか。このワンピースだって物凄い貴重品ですよ。
なにより湖張姉さまの普段着、あれで軽く城が建ちますからね?」

「そうなの?」
その会話を聞いたチウルが興味津々で聞いてくる。頷くラナナ。
「そうですよ。湖張姉さまの服は日和紗で、しかもレドベージュの保護魔法が丁寧かつ豪勢に盛り込まれています」
「えー!すごい!!」
「ふむ、何ならお主の服もさらに一着、何か魔法をかけておくか?」

光り輝く顔のチウル。
「良いのです?」
「良いぞ?まあお主が気にするようだから人に知られぬ努力は必要かもしれぬがな」
「だったらウェディングドレス!」

「・・・うむ?」
今までにない疑問形を放つレドベージュ。湖張とラナナも呆気にとられる。
「タウンとの式にそれを着るの!」

「・・・ふむ、構わぬが手元にあるのか?」
「あ!?」
うっかりしていたという表情のチウル。と、その時であった。後ろから声がする。

「おい、何か物騒な事を言っていなかったか?
引きつった顔のタウン。物凄く嫌そうな雰囲気を出している。

「タウン、今からドレスを買いに行こう!レドベージュ様がお守りの魔法を掛けてくれるって!」
「待て、いいから落ち着け」
「何で!?」
「理由なら今すぐ10種類くらいは言える自信があるぞ」

いきなり小競り合いが始まりそうな雰囲気になるとレドベージュは二人に近づいて話しかける。だが和やかそうな口調ではある。

「まあ折角の式なのだ。じっくり納得のいくデザインを選ぶ方が良かろう。その時が来たら必ず我はここに訪れる。その時に魔法を掛けるとしよう」
「本当ですか!?」
嬉しそうなチウルに困り果てているタウン。

「ちょっと、レドベージュ様?」
「良いではないか。これをお主に託そう」
そう言って赤いペンダントを差し出すレドベージュ。

「・・・これは?」
不思議そうな顔で受け取ろうとするタウン。しかしその直後、差し出した手を移動させチウルに向ける。

「いや待て、やはりチウルに託すとしよう。このペンダントを強く握りしめ我の名前を呼ぶのだ。すると天に声が届き我を呼んでいる事が伝わるであろう。その時が来たら我が訪れドレスに魔法を施そう。とは言ってもこの国よりさらに離れると届かないかもしれぬ」

「凄い!ありがとうございます!!」
嬉しそうに受け取るチウル。一方ラナナは興味深そうに問いかけてくる。

「そんな事が出来るのです?」
「うむ。なに、そんな難しい事はしておらぬよ。ペンダントからウンバボの所に魔法の便りを飛ばすだけだ。ウンバボに伝われば天経由で我に届く。ただここからあまりにも離れすぎるとウンバボの所へたどり着く前に魔法が尽きてしまうかもしれぬ」
「それでも随分と長距離を飛ばせるのですね」
「まあそこは天将の力だと思って良い」

「・・・ところでチウル、飯の支度は出来ているか?」
話を切り替えるように問いかけるタウン。
「うむ、出来ておるぞ」
チウルの代わりに答えるレドベージュ。嫌な予感が頭に過るタウン。

「その口ぶり・・・レドベージュ様、まさか夕食の支度をされたのですか?」
すると嬉しそうにチウルが話す。
「そうなの!レドベージュ様って料理も上手なんだよ!」
「天将様になにさせているんだよ!」
慌てるタウンに割って入るレドベージュ。

「いや、そのくらい良いではないか。料理は好きだぞ?それに無償で食事に寝泊まりをさせてもらっているのだ。このくらいどうということはない」
頭を掻くタウン。
「しかしですね・・・そもそも今日だって、こちらから滞在をお願いしているのですよ?」

「そうなの?」
タウンの言葉に反応をする湖張。そしてレドベージュに問いかける。
「うむ。実は昨夜、ゆっくり話したいことがあるから滞在して欲しいと言われてな。まあたまには休暇も良かろうと思ったので今に至るというわけだ」
「だから今朝になって急に休みって言ったんだ」
「うむ」

そのやり取りを聞くと、ラナナはタウンに問いかける。
「話って何ですか?」
入口の方を見つめるタウン。

「ああ、それは食事でもしながら・・・と思ったのだがゼンがまだ来ていなくてな。ちょっと遅れると言っていたから先に飯を食べてようぜ。あいつが来たら本題に入ろう」
「随分と勿体ぶりますね」
「まあな。少し難しい話になるんだ。内容が重複するのは手間だろう?」
「難しいのですか」
「お互いの仕事の話だからな」

そう伝えると、チウルに話しかけるタウン。
「悪いチウル。というわけで先に飯で良いか?」
「良いよ」
「ありがとな」

そうやり取りをした後に食堂に案内を始めるタウン。湖張たちは何を話されるのか少し不安になりつつも移動をし始める事にした。

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