ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四話【林の狙撃手】

           

ただでも曇り空で明るさが絞られている中、周囲の木々によって日の光はさらに遮られている林の中。昼間だというのに薄暗く、そして冷ややかな風が小さく流れてくる。
全くと言っていい程に気配がない空間。
幸いにして一帯を覆う草木の背丈は低く、難なく歩いて進むことが出来る。草をかき分けて進む必要は無かった。
ただ自分達が踏み進む草木の音が不気味に聞こえる事が難点である。

所々に大き目の岩が転がっており、苔が生えている。見たところ、湿度が高い空間のようだ。所々地面もぬかるんでおり、湿度の高さを物語っている。
滑りやすくなっているので注意が必要である。

その事を危惧したのか、はたまた靴が汚れる事が嫌なのか、魔法で浮いて滑るように移動をし始めるラナナ。
しばらくして足元を凝視した後に浮き始めたので、恐らくは後者の理由なのであろう。

そうこうしながらも林の中を突き進む一行。
何時デスピエロが襲ってくるかが分からなかったので警戒しながらではあったが
進行速度は決して遅くは無かった。

「どのくらいでここを抜けられる?」
小声でレドベージュに問いかける湖張。
「まだ三分の一といったところだ。何事も無く抜けたいのだが・・・」
「そうだよね、何かこの空間は不気味だから早く出たいよ」
そう伝えて会話を終え再び周囲を警戒し始める湖張。

と、その時であった。左の方向から何かの気配を感じ取る。
「左!?」
声を上げて気配の方向に体を向けながら、全員に注意を促す湖張。
すると次の瞬間、自分たちの方向に向けて赤黒く拳ほどの大きさの光弾が高速で飛んでくる。

「避けて!」
その声が発せられるのと同時に全員が四方に散ると、光弾は誰にも命中しないまま奥の木に命中し、メキメキと音を立てながら巨木を一本倒してしまう。
そして休むことなく追撃するかのように湖張に向かってもう一発の光弾が同じ方向から飛んでくる。
「湖張姉さま!」
「隠れて!」
慌てて声を掛けるラナナに対し、光弾を避けながら指示を出す湖張。
そして全員が周囲の木や大きな岩に身を潜め、周囲の様子を窺う。

「むう、大丈夫か!?」
全員に声を掛けるレドベージュ。しかしその直後、レドベージュが隠れている木に何処からともなく飛んできた光弾が命中する。
そして再び木が倒れそうになると、慌てて近場の大きな岩に身を隠すレドベージュ。

「何処から狙っているの!?」
光弾が飛んできた大体の方を見渡す湖張。しかし木々や大きな岩が邪魔をして狙撃手を見つけることは出来なかった。

(このままじゃダメだ、気づかないうちに反対側に回り込まれて狙われたら一溜りもない・・・急いでどうにかしないと)

湖張は現状を早急に打開しなければ危険と判断するなり、ラナナの方を向いて大きな声をかける。

「見ていて!」
「え!?」
突然の言葉にどのような意図をもっていたのか理解ができなかったラナナは険しい困惑の表情を見せるが、そんなことはお構いなしに横方向に飛び出す湖張。

すると彼女を狙って奥の方から赤黒い光弾が飛んでくる。
それを移動する速度を上げて紙一重のところでかわす湖張。
そして目の前の大きな岩に隠れる。

「まったく無茶をしおって」
湖張の飛び込んだ岩にはレドベージュが身を潜めており、ため息交じりに話しかけてくる。
「だって仕方ないじゃない。このままだとジリ貧でやられるだけだよ。
それに今ので敵がどの辺りにいるかは分かったはず。光弾の発生元にいるわけでしょう?」

その言葉を聞くと少し驚いた様子を見せるレドベージュ。
「相手の位置を特定する為に飛び出したのか?そうか、だからラナナに見ていてと伝えたのだな?」
「そうだよ」
「そうか・・・だがその意図が伝わっていれば良いのだが」
そこで少しムスっとする湖張。
「仕方がないじゃない、大声で詳しく伝えたら相手にもバレちゃうでしょう?」
「まあそうではあるのだが・・・」
「で、レドベージュはどの辺りに敵がいるのか分かった?」
ラナナに見ているように伝えていた中で、突然自分にも成果を期待され、一瞬戸惑うレドベージュ。しかし小さくため息をついた後に光弾が飛んできた場所に目を移す。

「ここで我に振るのか。まあ大体の場所は掴んだ・・・だが完全ではないし、この間にも移動をしているかもしれん」
「そっか、じゃあもう一度飛び出すからしっかり見ていて」
そう言うなり、再び飛び出そうとする湖張。しかしレドベージュは慌てて彼女の手を掴み静止させる。

「待て待て!早まるでない!!」
「なんで?このままじゃダメでしょう!?」
「そうなのだが・・・それだったら我が行く」
「え?」
「我の方が硬いのだ」
「・・・まあそうなのだろうけどさ」
「とにかくだ、そんな進んで危険なことをするでな・・・なんだ!」
レドベージュとの会話の途中で、後方から物凄い力の流れを感じる二人。
すぐさまその方向を見ると、巨大な光の塊を目の前に生成しているゴルベージュの姿が目に入ってくる。

「ここで遊んでいる暇はない」
そう言うなり、光の塊を前方に放つゴルベージュ。どうやら潜んでいそうなところ全てを消し飛ばすようだ。

「馬鹿者!何をする!」
そう言うなり湖張の体を掴んで横に飛び、回避を行うレドベージュ。
「ラナナ!?」
この状況の中でもラナナの事を案じて呼びかける湖張。
すると、円形の防御壁を展開しながら上空に飛ぶ彼女の姿が目に入った。
「悪く思うな」
周囲の木々に呟く様に謝罪をした直後、デスピエロが潜んでいたと思われる一帯を吹き飛ばすゴルベージュの魔法。
激しい爆風が周囲の木々をなぎ倒し、あっという間に砂埃が舞う更地が出来上がる。

「・・・これは環境破壊だよ」
「うむ、天帝としてはあるまじき行為だな」
半分呆れながら湖張がそう言うと、レドベージュも同じ様な雰囲気で答える。
そして肝心のデスピエロはどうなったかを注視すると、
砂埃の中からダイヤ型の防御壁に包まれて攻撃をしのいだ姿が視界に入ってくる。

「あれを耐えたのか・・・流石だな」
レドベージュがそう呟き終えると、防御壁を解除して巨大な鎌を身構えるデスピエロ。
視線の先にはゴルベージュを映しているようだ。

「ほう、この状況でもまだやるのか?」
戦意を喪失していないデスピエロに感心をするゴルベージュ。
そして小さなため息をついた後に言葉を続ける。

「だがな、狙撃ならばこちらも得意な者がいてな」
そう呟いた直後、上空から光の矢が高速でデスピエロを打ち抜き力なく地面に倒れ込ませる。
打ち抜いたのはゴルベージュの攻撃の際に上空に退避したラナナであった。

「あんなのが上空から降って来られても反応は出来ないよね?」
恐ろしい攻撃だと感じながら湖張がそう言うと、隣で頷くレドベージュ。
「うむ、ラナナが敵では無くて良かったな」
そう言いながら上空のラナナに視線を移す。
彼女はゆっくりと下降をし、ゴルベージュのそばに着地をした。

「良くやったな」
ラナナに労いの言葉を掛けるゴルベージュ。
一方ラナナは左手をデスピエロに向けてかざす。

「ここで捕縛をしませんか?情報を入手するべきです」
彼女の提案に首を横に振るゴルベージュ。
「いや、それは叶わないだろうな」
「え?」
ゴルベージュがそう答えると、倒れていたデスピエロは昨日同様、地面に沈んでしまった。どうやら逃げられたようだ。

「また逃げられてしまいましたね」
腰に手を当てて残念がるラナナ。しかしゴルベージュは気にすることなく
再び進み始める。

「今は情報を収集する必要はなかろう。
とにかく先を急ぐぞ」
周囲を調べることも無く、何事も無かったかのように先を急ぐゴルベージュ。
天帝がそんな雰囲気だった為、今の戦いについての会話をしないまま一行は先を急ぐのであった。

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