ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十九話【真面目な青い騎士】
- 2025.10.12
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
目が覚めると見慣れない部屋の中で、ベッドにうつ伏せで倒れこんでいる事に気が付くハルザート。ハッとして上半身を起こすと頭痛に合わせて倦怠感が襲ってくる。とても気持ちが悪い。
一瞬、魔物にやられて担ぎ込まれた病院かと思ったが、すぐさまタウンの家に泊まっていた事を思い出す。
少しずつ記憶をたどる。すると昨夜、湖張たちと食事をした事を思い出すが、何をどうして今に至るかがハッキリとはしない。湖張やタウンたちが賑やかに会話をしていた中で机に張り付きながら見ていた場面を断片的には思い出すが、何を話していたのかは全くである。そう言えば最後、ゼンが魔法で浮かせて部屋に連れてきてくれた気もしなくはないが、定かでは無かった。
「そうだ、行かなくては・・・」
ベッドに座り込みうつむきながら立とうとするが、中々にしんどい。今日は新たな魔物の討伐に出立しなくてはいけないのだが、残った酒が足を引っ張る。
「何をやっている・・・」
額に手を当てて自省する。しかし昨夜の光景が再び頭に過ると、うっすらと笑みがこぼれる。
「・・・まあ、たまにはな」
そう呟いた後に、立ち上がりカーテンと窓を開ける。すると明るい光とさわやかな風が入ってくる。部屋から見える街は人の通りが多くはない。雰囲気的にどうやらまだ朝の様子だ。深呼吸をした後に部屋に置いてあった鎧に着替え始める。
「行くか」
体調は優れない。だが自らの仕事を全うしなければならない。その思いを力に変えて、ゆっくりと扉を開ける。ゆっくりと廊下を歩く。そしてゆっくりと階段を降りると、そこには白い半袖のワンピースに青いリボンで二つ結びにしたラナナが誰かを待っていた。
「あれ?起きられたのです?」
意外そうな表情のラナナに心もとない足取りで近づくハルザート。
「ああ、醜態をさらしてしまったな」
「んー別に良いんじゃないですか?むしろアナタの人となりが少し分かった気がするので良かったと思いますよ?」
意外にも優しく接してきたので少し戸惑う。しかしいつもとは違う柔らかい彼女の雰囲気から、その言葉には偽りがないとも思える。意味のある醜態だったのかともしれないと整理する。
「そんな鎧を着て、まさかもう出立する気なのです?」
眉をひそめて問いかけるラナナ。頷くハルザート。
「ああ、北の方にある村に魔物が出ていてな」
「そんな二日酔いの様子で?」
「大丈夫だ」
「駄目ですよね?」
「だがこれが私の仕事だ」
「真面目ですねぇ・・・」
腕を組んで呆れ顔のラナナ。そしてさらに話しかけてくる。
「今日くらいは休んでも良いのでは?タウンさんにも魔物の件をお願いしているのですよね?」
「だが全てではない」
鼻でため息をつくラナナ。
「ちなみに今日、私たちはお休みです」
「そうか、それも良いだろう。ゆっくりとすると良い」
「なのでこれから湖張姉さまと街を観光します」
「フィルサディアは栄えている、色々と楽しめるだろう」
「アナタも来ますか?」
そう言われると驚きの表情を見せるハルザート。頭の中で今まで好戦的だった小型犬が急に友好的になった様を思い描く。何故こうなったのかがハッキリとはしないが、険悪では無い事は少し嬉しく感じる。
「・・・いや、それでもだな」
それも悪くは無いという思いが頭を過ぎるが、それでも仕事は大切と心に言い聞かせ何とか言葉を発するハルザート。ジト目のラナナ。
「ちなみに湖張姉さまのワンピース姿、どちゃくそカワイイですよ?」
「・・・何が言いたい?」
「どちゃくそカワイイと言いたいのです」
数秒の間が空く。と、そこに横から人の気配が近づいてくる。
「あれ?起きてる・・・大丈夫なの?」
白いワンピースに白いサンダルを身に纏った湖張が近づいてくる。窓から入り込んでくるそよ風に髪を小さくなびかせる姿は、普段見せる強さなのど微塵も感じさせず、可憐という言葉が適切だと感じさせられる。
「・・・」
言葉を失うハルザート。見とれているのかもしれないと感じるのは、隣にいたラナナが声をかけた後であった。
「最後に聞きますが、やっぱり出立します?」
ほれ見た事かと言わんばかりの表情のラナナに少しだけ考えた後に答えるハルザート。
「ああ、どうしても行かねばならない」
「どこに行くの?」
湖張が不思議そうに問いかけると思わず顔を逸らすハルザート。代わりにラナナが答える。
「仕事らしいですよ。北の方の村に出た魔物を退治に行くそうです」
「大丈夫なの?」
「駄目だと思いますよ、このままだと」
ラナナの答えを聞くとハルザートの顔を覗き込む湖張。
「・・・まだお酒、残っているよね?」
再び顔を背けるハルザート。湖張に視線が合わせられなかった。
「だが仕事があるから休めないのだ」
「真面目だねえ。・・・まだ少しお酒のにおいが残っているのに」
「な!?」
慌てて腕をかぐ素振りを見せるハルザート。それに仕方がないなと言わんばかりの顔をしながら左手をかざすラナナ。
「少し動かないでください」
彼女の手がポワっと水色に数秒光ると両手を見つめるハルザート。驚きの顔を見せている。
「これは!?急に体調が良くなったぞ!?」
「二日酔いを解消する魔法ですよ。父は弱いくせにお酒が好きなので覚えておきました」
「酒臭さも消えたか?」
「問題ないはずです」
感激した表情を見せるハルザート。思わず声が大きくなる。
「君は本当に凄い魔法使いだな!助かったぞ!!」
「こんな魔法で賞賛されても嬉しくないですよ・・・」
「いや、こういう魔法こそが人を幸せにすると思うぞ」
「大げさですよ、それ」
そこで少し多めに息を吐くラナナ。だが呆れているのではなく、小さく笑みを見せながら伝える。
「まあ魔法も使い方次第ということですよね?」
「あ・・・ああ、そうだな」
今まで自分には見せなかったやわらかい表情に戸惑ってしまうが、なんとか返事をするハルザート。昨夜、酒を飲んでからの記憶は曖昧であったが、何かしらが切っ掛けになって機嫌を良くしてくれたのだろうと考える。
そうこうしていると、再び人が近づいてくる気配に気が付く。それはタウンでった。
「お、もう身支度までしているのか?」
意外そうな顔で話しかけられると申し訳なさそうな表情をになるハルザート。
「昨夜は迷惑をかけた」
「なに言っているんだ、楽しかったぜ」
そう伝えるなり腰を手に当てジッとハルザートを見つめるタウン。
「もう行くのか?」
「ああ、それよりも本当に任せて良いのか?」
「当然だ。寧ろすまないな、北の方を任せちまって」
そのやり取りを不思議そうな顔で見る湖張。そして問いかける。
「任せるって何を?」
視線を向けて説明するタウン。
「ああ、昨日の夕方、部屋に案内した時に魔物の情報を聞いていたんだ。約束をしただろう?魔物退治は俺らで引き受けるって。ただ数件、ちょっと離れた北の方に魔物がいるらしいのだが、遠方に兵を派遣となると手続きが結構大変でな。遠征費もかかる。そこで近隣の魔物を国で引き受けて、小回りの利くハルザートに遠方をお願いしようという事になったんだ」
解説の後に続くハルザート。
「むしろ全てを任せるつもりは無かった。気にしなくても良い。それに殆どの魔物の情報は近隣なのだ。そこを全て対処してくれるだけでも助かる」
するとタウンはニヤッとする。
「代わりと言っちゃなんだが、町や村にある国の詰所にはお前の事は伝えておく。宿に食事と言った休憩に様々な情報の提供も出来るようにしておく。ついでに風呂や洗濯もな」
それにつまらない顔を見せるハルザート。
「まったく、人を汚物のように扱うな。ただ、その行為は受けよう。教団の施設がない場所も多い」
「ああ、お互い民の為にが行動理念の一つなんだ。遠慮すんなよ」
そう言ってハルザートの胸にコツンの拳をあてるタウン。
「フィルサディアに戻ってきたら、家に来いよな。また飲もうぜ」
軽く笑みを見せるハルザート。
「あまり飲ませすぎないで欲しいものだな」
ここで彼は湖張に顔を向ける。
「ではそろそろ私は行こうと思う。達者でな」
「うん、ハルザートも気を付けてね」
「特に着替えはちゃんとしてくださいよ」
いたずらな笑顔を見せるラナナに困った顔を見せるも「善処しよう」苦笑いを見せると、青い騎士は次の目的地に向かって行った。
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