ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第六話【森での会話】

           

「待て待て待て待て!敵ではない!敵ではない!!」
「うそーっ!このリビングアーマー喋った!?」

出会って早々、いきなり臨戦態勢の湖張に慌てるリビングアーマー。
その一方で本来喋るはずもない魔法生物であるリビングアーマーに驚く湖張。
双方とも想定外のことが起きて思わず大きな声が出る。

「とりあえず待て、我は戦う気は全くない。落ち着いてくれ」
最初に切り出したのは赤いリビングアーマーの方だった。
両手を小さく上げ、先ほどよりはゆっくりの口調で相手を落ち着かせるように話しかける。
低めの男性のような声だったせいか、より落ち着きを感じる。
その様子に応じるよう、湖張も少しトーンダウンして相手を窺うように受け答える。
「・・・そうなの?あなたもさっきのリビングアーマーと同じく
この団扇の力を試すための仕掛けじゃないの?」

そう言って覇王の団扇を取り出す湖張。するとリビングアーマーはその団扇をじっと見る。
「それはゴルベージュの軍配か?・・・そうか、ここはその軍配にまつわる洞窟か。
ああそうか、そういう事か・・・」

何かを知ってそうな口ぶりのリビングアーマー。
それを怪しげな目で覗き込む湖張。

「えっとさ、あなた何者?」
警戒しながらも、とりあえずは戦闘態勢を解いた湖張に少し安心するリビングアーマー。

「そうだな、少し話をしたい。
とりあえずこの洞窟を出ないか?ここでは落ち着かないだろう」
「・・・分かった。とりあえず出ようか」

特に敵意は感じられなかったので、その提案に乗る湖張。
そして二人は特に会話をしないまま、洞窟の出口を黙々と目指した。

洞窟を出ると、通路の明かりが一斉に消える。
火の玉は律義にも出るまで待っていてくれたようだ。

「さてと、ここらで良いか」
洞窟の傍らにあった腰をかけられそうなほどの適度な大きさの岩がある場所に移動するリビングアーマー。
「まあ立ち話もあれだ。腰でもかけると良い」
「私は良いわ。あなたが座ってよ」
「いや、我はこんな身なりだからな。ここに座ることは出来んよ。
むしろ疲れは知らぬ体だから立とうが座ろうが変わらんよ」
足が短いリビングアーマーは首を横に振る。確かに彼がここに座るには苦戦しそうであるし
座るメリットもなさげである。

「ひょっとして私のためにここに移動したの?」
「まあそんなところだな」
ちょっとした気配りをするリビングアーマーに意表を突かれるが、それを表情には出さない湖張。
「じゃあ折角だからお言葉に甘えようかな」
湖張がスッと腰を掛けると、リビングアーマーは話を始める。

ピースキーパー赤き聖者006話

「では早速、話を始めるとしよう。まずは自己紹介からだな。
我が名はレドベージュ、この星の天将なり」
このタイミングで何故か強めの横風が吹き、リビングアーマーの背中についている
深紅のマントが綺麗になびく。まるで決めポーズでも取っているかのようである。

ピースキーパー赤き聖者006話-2

「・・・はい?」
(そんな事をキリっと言われても困るんですけど・・・)
そう困惑しながら頭の中でぼやく湖張。

天将レドベージュといえば天帝ゴルベージュと同様に、神話の中に出てくる神の側近の名前である。
先ほど洞窟で自分の団扇はその神の側近から人に託された物である事を聞いたばかりなのに、
今度はまた別の神の側近の名前が出てきたのである。
神話について詳しくは無くてもこの名前も聞いたことがあったので、動揺は免れなかった。

「何なの今日は・・・ベージュ祭り?」
「・・・何のことだ?」
何とか振り絞った言葉はとても意味が分からない物であった。
当然レドベージュも首をかしげる。

しかし何でも良いので言葉を発したことは悪くはなかった。
止まった思考と言葉が動き出すきっかけにはなる。

「ちょっと待って、えっと、何から話せばいいのかな?
・・・うん思いつく事をとりあえず口に出していこう」
片手で額を抑えながらそういう湖張。
そしてレドベージュをジッと見つめる。

「えっとまずあなたは天将レドベージュと言ったけど、
あの神話に出てくるレドベージュ様という事?」

頷くレドベージュ。
「うむ、確かにその通りだ」
(その通りって・・・)
心の中でそう突っ込む湖張。思わず目が細くなる。

「とは言っても中々信じることは難しいだろうな」
信じてもらえないことは想定済みだったのか、レドベージュは落ち着いた素振りを見せる。
「そりゃそうでしょ!?急に神話の登場人物が、
ましてや神様の側近が目の前に現れても信じられないって!!」

素直に湖張がそう答えると、レドベージュは少し考える素振りを見せる。
「さて、どうすれば信じてもらえるか・・・。
そうだな、例えば先ほどお主は私が喋ったことに対して驚いていたな。
生きている鎧であるリビングアーマーは戦闘用の魔法生物だ。
喋る必要性はないし、ましてや我のように考えて受け答えができるような能力は
高度すぎて簡単には作れない。なので本来リビングアーマーは喋らないものだが、我はその能力を持っている。
これはかなり特殊な事だ。それで信じてもらえないか?」

「信じるも何も・・・それを言ったら洞窟にいた火の玉の仕掛けだって私と会話していたし・・・。
それ以前に神話に出てきたレドベージュ様って
赤毛で色白、そして背が高い男の人って書いてあったはずだけど、
あなたはリビングアーマーじゃない?」

疑いの眼差しの湖張。
「ああ、そうだな。しかしそれは神話を作った者が人々が親しみやすいように
我を擬人化したのであろう。実際のところ我はこのようなリビングアーマーだ。
まあ普通のリビングアーマーではない。
魔力が尽きることなく、永遠に生き永らえる永久リビングアーマーだがな」

「何か説得力に欠けるな・・・。他に何か無いの?」
腕を組みながら疑いの目を向けていると、レドベージュも短い腕を組むような素振りで考え込む。

「・・・そうだな。ではこれはどうだ?」
そう言って地面にしゃがみ込むレドベージュ。そして地面に手を当てると指先にあった草の先端にある蕾が一気に花を咲かせた。
「どうだ?この花を咲かせる奇跡。天の者という気になってくるであろう?」

「単なる手品じゃないの!!」
自慢げに言うレドベージュを一蹴する湖張。
「お主、信仰心のかけらも無いな?」
「何か私を悪者みたいに言っていない?」

疑いの眼差しを向けることをやめない湖張に困るレドベージュ。
「いや、信仰は自由だ。それについてどうこう言うつもりはないが・・・。
ではこうしよう。その団扇についての話をしてやろう」
「それさっき洞窟で聞いた」
「・・・むぅ。ではどうすれば信じてもらえるのだ?
いっそのこと、天より神々しく降りてくれば良かったか?」
「そんなの魔法使って派手に降りてくるだけでしょ?」

「・・・」
表情がないはずのリビングアーマーなのに、何故か不貞腐れているのだと感じ取れる。
とは言ったものの、彼の大きな青い目には瞳のようなものが映っているのだが、
それが移動したり大きさが変わっているように見える。
その動きは視線の先が分かるだけではなく、感情も表しているようにも思える。

「わかった、じゃああなたが天将レドベージュ様だとするじゃない?
その天将様が私に何の用なの?」

相手が不貞腐れるのも気まずいし、話が進まなくなると思ったので次の一手を切り出す湖張。
するとレドベージュはため息をついたような気がした。

「まだ信じてはいないようだが、まあ良かろう。我も早く本題に入りたいと思っていたのだ。
まず聞くが赤き聖者の伝説は知っているか?」
レドベージュがそう尋ねると、湖張は首を縦に振る。

「詳しくは知らないよ?ただ、簡単な概要を知っているだけ。
確か世に悪者が多く現れる気配があったとき、天将レドベージュ様が地上に降り立ち
数人の仲間を地上から探し出し、赤き聖者として共に悪者を退治するお話・・・ちょっと待って」

話をしているうちに何かに気がついた湖張。
握りしめた右手を口元に当て、恐る恐るゆっくりとレドベージュに目を移す。

「何となく察したようだな」
「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!」
「そう、お主には赤き聖者として我と共に戦ってほしいのだ」
「あーもう言っちゃった!心構えが出来てないのに核心に触れちゃった!!」
両手で頭を抱えながら元気に戸惑う素振りを見せる湖張。
困っているのか喜んでいるのか判断がつかない彼女の様子を
レドベージュはポカン不思議そうに見つめる。

「嫌なのか?」

確認するように問いかけるレドベージュ。
不思議な物を見つめる様な目を見ると、頭を掻きながらため息交じりに返す湖張。

「嫌とかそうじゃなくってさ・・・。
えっと・・・本当にレドベージュ様なの?」
「うむ、その通りだ」
そう言うなり、また足元の蕾を花咲かすレドベージュ。
「いや、それはもういいから!!」
「ちょっとした奇跡だと思うのだがな・・・」

「・・・何で私なの?」
何とか言葉を絞り出す湖張。するとレドベージュは湖張を見つめる。
「覇王の団扇についての話は聞いたと言ったな?
その話の中で、ゴルベージュから軍配を授かった武闘家の話は聞いているだろう?」
うなずく湖張。

「その武闘家は本当によく正義のために戦ってくれた。
だから天界としても信頼が出来る人間のうちの一人であった。
そしてお主の使う芭蕉心拳はその武闘家の技だった。
なので現在における芭蕉心拳の使い手も信頼が置けるのではないかという意見が出てな」

「すると、当時の武闘家さんが良い人だったから、その延長で私って事?」
首を横に振るレドベージュ。
「そんなことは無い。芭蕉心拳の使い手という事はあくまで切っ掛けにすぎん。
芭蕉心拳を通じてお主を知り、そして色々と調べさせてもらった。
するとどうだ、武術もさることながら心の面も申し分がなかった。
水芭蕉湖張を赤き聖者に是非とも迎え入れたいと考えたのだ」

「・・・そういえば私はまだ名乗ってないのに、名前を知っているのね」
「これでも天の者だからな。名前くらいなら直ぐに調べがつく」
「本当に天将様なの?」
「そうだ」

考え込む湖張。
自分の名前くらいだったらどうにかすれば直ぐに調べがつきそうではあるが、
それでもなんとなくレドベージュは嘘は言っていないような気になってきていた。
覇王の団扇の伝説についても知っている様子だったのでなおさらその様な気になってくる。

ため息をつく湖張。
「もう何なのよ今日は。頭が追い付いていかない。
大体赤き聖者って一体どんな事をするの?」
「基本的には悪の気配を追って旅をして、その先々で悪を斬る」
「なんか物騒だね」
「そうだな、言葉にすると物騒だな。だがこれも必要なことなのだ。
とはいっても実感が沸かないだろうから一つ体験してみるか」

そう言うとレドベージュは小さな笛を湖張に渡す。
「これは?」
「そうだな、犬笛というものを知っているか?」
「犬笛?あの人には聞こえないけど犬には聞こえる笛?」
「そうだ。これから話すことに大いに関係があるものだ」

笛を手渡すために近づいていたレドベージュは数歩離れてから話を続ける。
「まず聞くが最近村の農作物はどうだ?」
今までの話とは関係性がない唐突な質問に首をかしげる湖張。
「え?・・・何でまた?」
「農作物にまつわる被害は聞いていないか?」

「・・・そういえば最近、村に森の動物がよく現れて畑を荒らしていたと騒ぎになっているね。
普段はここら辺にいるはずなのに、人里に出てきちゃっているんだって」
「では何故森の動物は人里に出てきてしまったのだと考える?」

さらに質問をしてくるレドベージュ。少し考えた後に答える湖張。
「なんでだろう?何かしらの原因でここら辺にはいられなくなったから?」
うなずくレドベージュ。
「いい発想だ。お主の言う通り、森の動物は好きで人里に向かったのではない。
この地に居られなくなったのだ」

「・・・何が原因なの?」
恐る恐る尋ねる湖張。するとレドベージュは手渡した笛を指さす。
「答えはその笛にある。試しに吹いてみるといい」

「・・・なんか怖いな」
「不安か?」
「そりゃそうでしょ!」
「まあそうだろうな。確かにいきなり吹くより事前に情報を知ってからの方が良いな。
心構えも必要だし、落ち着いて事情も説明できないかもしれないしな」
「最初からそうしようよ・・・」

振り回され気味の湖張がそうぼやくと、レドベージュは解説を始める。
「実はな、この地に異形の魔物が住み着いたのだ。
なので森の動物は住処を追われ、人里に向かったのだ」

「異形の魔物?」
予想にもしなかった話なので思わず聞き直す湖張。
「そうだ、そしてその魔物とは普通の魔物ではない。
人が作った魔法生物とでも言うべきものなのだ。
なので妙に強力でな。そこらの動物では太刀打ちは出来ないのだ」

「なんでそんなのが?大体なんでそんな事を知っているの?」
立ち上がり数歩レドベージュに近づく湖張。

「実はここに来る途中、良からぬ魔物の研究をしている男を察知してな。
その者をしばいたのだが、その時に数週間前に研究していた魔物を逃がしてしまった事を聞いたのだ。
そしてその時に男から押収したのがその笛だ」

笛を不思議そうに眺める湖張。
「その笛はな、逃げた魔物を制御するための笛だそうだ。
まだ完成品ではないのだが、吹けば魔物が寄っては来るらしい」

「ちょっと、そんな危ないものを私に吹かせようとしたの!?」
冗談ではないといった雰囲気で湖張が怒ると、レドベージュはなだめるように話す。
「まあ落ち着け。吹いたところで直ぐには襲ってこないはずだ。
それにお主の実力を持ってすれば、魔物も怖くは無かろう」

「そんな事分からないじゃない」
少し不貞腐れる湖張。しかしレドベージュはお構いなしに話を続ける。
「どちらにせよ魔物は放ってはおけないであろう?
もともとはこの地にいてはいけない魔物だ。
可哀そうではあるが退治しなければならない」

そう言うと、少し考えた後にうなずく湖張。
「確かにそうだよね。しかも人の手で作られた強力な魔物だったら放ってはおけないね。
今は森の動物だけかもしれないけど、いずれ村の人たちも襲われちゃうかも」
「そう、なので我らでどうにかしなければならない。
悪の行いで人々が困る事を防ぐ事が赤き聖者の仕事なのだ。
力を持つものは力を持たぬ者のために力を使わなければならない」

どうやらこのレドベージュという存在は、話を急展開に持っていくが悪い存在ではない。
少し信じても良いのではないかという気になってきた湖張。
「分かった。じゃあその魔物の退治をやってみようか。
笛を吹けばいいんだよね?」

うなずくレドベージュ。
「心配するな。我もついている。
二人いれば負けはせんさ」

その話を聞くと、意を決して笛を吹く湖張。
笛の音は聞こえなかったが、犬笛と同様と聞いていたので特に疑問を持つことは無かった。

笛を吹いてから周囲を見渡すが、特に変わった様子はなかった。
しかし、いつ魔物が現れるか分からないの状況なので警戒心が強くなる。

「・・・来るぞ」
レドベージュがポツリと呟いて左の方向を向くと、湖張も同じ方向を見つめる。
すると、茂みが騒がしく動き始めた。

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