ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百三十三話【先輩】

           

タウンに迫る光の塊。すぐそこに危機が迫っている。しかしあまりにも一瞬の事でどうすることも出来ない。ほんの一瞬の出来事なのだが、タウンにとってはとても長く感じられる光景であった。

しかしそんな彼に迫る光はもう一つあった。それは右方向から高速で迫る小さな山吹色の光弾であった。目にも止まらない程に速く、しかもタウンは気づいていない。

湖張の放った覇王爆炎弾がタウンの目の前まで差し掛かる頃には、山吹色の光弾はタウンの右腕らへんに命中し、もの凄い勢いで彼を横方向に弾き飛ばす。
その結果、タウンは覇王爆炎弾を回避する事ができた。しかしながらあまりにも乱暴に弾かれたため、タウンは何度も地面にぶつかりながら転がってしまう。

(今度は何!?)
予想外の光に困惑しながら光弾が飛んできた方向に視線を向ける湖張。すると10メートル程離れた位置にはタウンと同じ年齢ぐらいに見受けられる、赤毛で色白の魔法使いらしき男性の姿があった。
魔法使いは湖張を確認した後、地上から数センチの位置を浮遊し、長いローブをなびかせながら滑るようにタウンに近づく。その途中で、もう一度湖張を横目に見る魔法使い。しかし湖張に対して攻撃を仕掛けることも無く、そのままタウンに向かっていく。相手は何も仕掛けてくる事は無く、何者なのかすら分からなかったこともあり、その行動に湖張は何もせず様子を伺う事にした。

「いよう、ゼン。期待通り早かったな」
倒れた身体を起こし、その場であぐらをかくタウン。その様子にため息を一つついた後に、仕方がない者を見るかのような表情を見せるゼンと呼ばれた魔法使い。

「まったく。一応は無事かい?」
「ああ、助かったぜ」
「迂闊だぞ。あんな余裕のある離れ方とスムーズな着地、そしてあからさまな反撃の姿勢を見せているのに特攻をするなんて。思わず彼女が技を出す前に、君を弾き飛ばす魔法を放ってしまったよ」

タウンの大丈夫そうな様子を確認すると、呆れ顔で話かけるゼン。
すると苦笑いで答えるタウン。
「いや、何かしら反撃を仕掛けてくるのは分かってはいたが、大した技じゃないと踏んでいたんだよ。だから技を弾き飛ばして、そのまま制する予定だったが、予想以上の技だった」
「珍しく見誤ったね」
「それだけ予想外の相手だったということだな」
そう聞くなり湖張に視線を移すゼン。そしてタウンに問いかける。

「彼女は?」
「ああ、何だろうな?まあ、さすらいの正義の味方ってところじゃないのか?」
「なんだよそれ?」
「俺が聞きてえよ」
「・・・二か月ぶりに遠征から帰ってくるなり、いきなり大部隊を連れて山登りをするからついてこいと言った結果のこの状況。もう少しまともな説明の責任はあると思うけれども?」
「だから分からないんだって」
タウンの言葉に苦い顔を見せるゼン。そして呆れながら問いかける。

「じゃあ何でその正義の味方と戦っているんだい?悪にでもなり下がったのか?」
「そんなんじゃねえよ」
そう言うなり離れた位置にいる槍使いの特務を指さすタウン。

「あの胡散臭い特務が言うには、お嬢さん方はグリーンドラゴンを狩っていたらしい。だから話を聞くために同行を求めたが拒否られた」
そう聞くと、槍使いに視線を移すゼン。

「あの人は確か・・・」
「そう、あの口うるさい貴族の部下だろう?もし特務の言い分を聞かずに思うままの行動を取ったら、いちゃもんを付けられるからな。王子に迷惑をかけてしまうだろう?」
するとタウンに視線を戻して問いかけるゼン。
「つまり、あのお嬢さんはグリーンドラゴンを狩っていたわけではなさそうだけれども、特務が言う事を一応は聞かないと後々面倒だから、とりあえず戦ってみた。という事でいいかい?」
「そう、理解が早くて良いな。まあお嬢さん方の実力を見てみたいというのもあったけどな」

その答えが返ってくると、周囲を見渡すゼン。すると数十人の騎士達が壁になって見る事が出来なかったが、何かと戦っている様子を窺うことが出来る。そして視線はそのままでタウンに問いかける。
「他も騒がしいようだけれども?」
「ああ、もちろん他にもいるぜ。へんてこなリビングアーマーと小生意気な小娘。・・・そしてユカリだ」
「ユカリ!?」

驚いた表情をタウンに見せるゼン。それに呆れ顔のタウン。
「やっぱその反応だよな?何故かユカリが一緒なんだよ」
「本当にユカリなのかい?」
「ああ、あれは間違いなくユカリだと思うぜ?」

そのタイミングではじけ飛ぶ騎士達。ユカリが回転をしながら突進をした結果のようだ。動きを止め、騎士達がいた場所にゆらりと立ち尽くすユカリ。

「・・・間違いなくユカリだね」
「だろ?」
ユカリの姿を確認するゼン。いかにも予想外の存在を見ましたという表情をしている。
「何でユカリがこんな場所に?確かに生息地帯は近いけれども、山に入ったという目撃例は聞いたことが無い。それにこの状況からしたら彼女たちに味方をしているようにも思え・・・ええ?!」

分析中、急に声を上げるゼン。その様子に不思議そうな表情のタウン。
「どうかしたのか?」
「・・・何で彼女がここに?」
「あ?知り合いなのか?」
ゼンが予想外の反応を見せるなり驚きの表情を見せるタウン。一方ゼンは少し怖い顔を見せる。

「もう一度聞く、彼女たちはグリーンドラゴンを狩ってはいないのだね!?」
勢いのあるゼンの様子を見ると何かを感じたタウン。そして後方にいる部下を一人呼ぶ。

「被害の状況は?」
駆け寄ってきた騎士にそう尋ねると、ハッキリとした声で答えが返ってくる。
「ハッ、確認が取れているだけで負傷者が46名です。たった今ユカリに飛ばされた者は数に入っておりません!」
「やられすぎだろ・・・で、死者は?」
「ゼロです。気絶はしてはいますが不思議と全員軽傷ではあります」

その答えを受けた後、ゼンに答えるタウン。
「確実に白だな。まあ俺は下手したら無事では済まなかったが、ギリギリ助かるくらいには加減されていたようにも感じる。それに戦う前に俺らを殺めるなとも言っていた。あいつらは悪人じゃあないな」
その答えを聞くなり慌てるような素振りを見せるゼン。

「この場は僕が預かる。いいね?」
左手を小さく上げて答えるタウン。
「はいはい、どうぞ。・・・で、知り合いなのか?」
「ダラの長い歴史の中でも、稀に見る才女だ」
「小生意気なだけじゃないのかよ?」
「それは君の接し方が悪いだけだ。彼女は良い子だよ」

そう返すなり左手を広げ大きな声を上げるゼン。

「戦闘中止!武器を収めてその場で待機!」
ゼンの指示が響くなり、ピタリと攻撃を止める騎士達。
「君も良いね?!」
離れた位置の湖張にも大声で伝えるゼン。それに小さく頷く湖張。そして上空に滞空している鉄扇を手元に戻す。

「・・・何でこんなところに!?」
ゼンの声が聞こえ、彼の姿を見たラナナは驚きの表情を見せる。周囲の騎士達も仕掛けてこなくなったので、手を下ろし戦いを止める。

「ラナナ・ショコラ、ラナナ・ショコラじゃないか!?」
大声で呼びかけるゼン。

「知り合いなのか?」
ラナナの横で問いかけてくるレドベージュ。それに頷くラナナ。
「はい、ダラ魔法学校での先輩です。私がお世話になった先生の研究室に所属されていました。ひょっとしたらこの状況を打開できる可能性があります」
ゼンの顔を見たラナナは少しホッとしたような表情を見せるが、すぐさま困ったような表情も見せる。

「ですが納得をしてもらうために、アナタの事を伝えないといけないかもしれません」
するとレドベージュは小さく頷く。
「なに、構わんさ。我の事を話しても大丈夫な相手と考えるのであろう?我はラナナを信じている。最善の手と思うならばそうすると良いさ」
「・・・ありがとうございます」

そうやり取りをしている間に目の前まで近づいてくるゼン。そしてゆっくりと話しかけてくる。

「どうしてこんなところに?」
「お久しぶりです、ゼン先輩」
「ああ、久しぶりだね。それでどうしてこんなところに?君は先生に言われて見聞を広める旅に出ていたはずだろう?」
ゼンの問いに苦笑いを見せるラナナ。
「私より先に卒業されているのに良くご存じで」
「最近先生に会ったからね」
「そうでしたか、先生はお元気でしたか?」

そう問いかけると少し考えた後に答えるゼン。
「・・・まあね。それで何でこんなところに?」

苦笑いを見せるラナナ。
「はい、その旅の途中でグリーンドラゴンが傷ついている事を知り、ここにきているのですよ。そして犯人を取り押さえたところで王国の騎士達に嫌疑をかけられました」
返答の内容にため息のゼン。

「はあ、まあそうらしいけれどもさ。それでも君の旅はこんな冒険をするものでは無いだろう?何でこんな危ない事を?」
そう問われた時点で、はぐらかす事は無理だと判断したラナナ。そして周囲を見渡す。

「どうしたのだい?」
問いかけるゼン。すると何かを見つけたのかラナナは近くにある巨大な岩まで小走りで近づくとその下でしゃがみ込む。草が生えていない部分が大半を占める場所ではあったが、岩の下には小さな花がいくつか咲いていた。その内から、まだ咲いていないつぼみを一つ摘んで戻り、レドベージュに差し出す。

「すみません、例の魔法をお願いしても良いですか?」
ラナナがそう依頼すると、そっとつぼみを受け取るレドベージュ。そして茎を握り、つぼみが見える状態でゼンの目の前に差し出す。ここでラナナはゼンに話しかける。

「あまり広めたくは無い事をお伝えします。周りに悟られないような素振りと発言でお願いします」
ラナナの言葉が終わったタイミングでレドベージュはつぼみに魔法を掛け、ゼンの目の前で花を咲かせる。その結果、ゼンは目を丸くして驚きの表情を見せるがラナナの頼みもあり、声を出す事は無かった。

「先輩なら、この魔法の意味が分かると思います」
黙ってラナナに視線を移すゼン。信じられないものを見たかのような表情を見せる。それはまるで、どういう事かの説明を求めているかのようでもあった。
ラナナは続けて言葉を伝える。

「こちらは天将レドベージュ。そして私は赤き聖者として共に正義のための旅をしております」
大きなリアクションがとれず、ぐっと堪えてはいたのだが、驚きのあまり目を大きくすることは制御できなかったようだ。そして右手を額に当てて、頭を抱える素振りになる。

「君は将来、どんな偉業を成し遂げるのかと楽しみにしてはいたのだけれども、神話の世界にまで到達するなんて飛躍しすぎだ。予想が出来るわけがないだろう?」
何とか絞り出した言葉に苦笑いを見せるラナナ。

「私だって予想できませんでしたよ」
「それに近くにいる魔物はユカリだろう?」
「はい、何故か好かれちゃいまして・・・。ちなみにユカリは幻獣でした」
「・・・待ってくれ、ユカリは幻獣だったのかい?それが君に懐いたのかい?」
「はい、理由は不明ですよ?」
「理解が追い付かない・・・黒髪の彼女も赤き聖者なのかい?」
「はい!とっても強いのですよ!」
「・・・知っているよ。タウンから一本を取っていたからね」

そこまで話すと抱えている手を解いて、しっかりとした表情で騎士達に指示を出すゼン。

「その特務を拘束しろ!彼女たちは犯人じゃない!」
「ああ!?何を言っているんだ!?」
反論をしようとする槍使い。しかし彼の言う事など聞かずタウンの指示で待機をしていた騎士は槍使いを押さえつける。

「離せ!こんな事が許されるとでも思っているのか!?」
「あーうるせえよ」
暴れる槍使いのそばに、いつの間にか立ち上がっていたタウンが近づき話しかける。

「うちのゼンがお前が犯人だと言ったら、もうお前は犯人なんだ。何かしらの根拠があるのだろうぜ?」
「何だよ、それは!?」
「はいはい、後は牢屋で聞いてやるよ。おら、うるさいからさっさと連れてけ」

部下の騎士にそう指示し、槍使いを退場させるタウン。そしてゼンのいる方向にゆっくりと歩きだす。

「ラナナ!」
一足先に駆け足で近づく湖張。どうやら話に決着がついたようなので穏やかな表情を見せている。
「無事ですか?湖張姉さま」
「うん、大丈夫。ちょっと・・・いや、だいぶ大変だったけど。それより、そちらの方は知り合いなの?」
ゼンをちらりと見た後に問いかける湖張。すると小さくうなずくラナナ。

「はい、ダラに通っていた時の先輩です。・・・その、赤き聖者の事を伝えました」
「あー・・・でもまあそれで丸く収まるなら良いか」
そこで再びゼンを見る湖張。そして問いかける。

「よく赤き聖者という事を信じる事ができましたね?」
「ああ、あんな凄い魔法を見せられたら嫌でも信じたくなるよ」

そう返ってくると、薄い目でレドベージュを見つめる湖張。
「離れていたから良く見えなかったけれども、ひょっとしてまた咲かせたの?」
「うむ、湖張はそういう反応だが見る人が見れば物凄い魔法なのだぞ?」
「はいはいそうですか」
嬉しそうなレドベージュに呆れ顔の湖張。
そうこうしている間にタウンがゆっくりと近づいてくる。

「はいはい、おつかれさん」
今までの事など何も無かったかのような素振りのタウン。片や湖張は先ほどまでの激闘もあり、警戒の表情を見せる。

「ああ、もうやる気はないからそんな顔はしないでくれ。ぶっちゃけ、こちらとしてもこれ以上の手合わせは丁重にお断りをしたい」
両手を小さく上げ、参ったような素振りを見せるタウン。そしてゼンに話しかける。

「で、何が決め手でお嬢さん方が潔白だと判断したんだ?まさか根拠は俺の予想だけってことはないよな?」
そう問われると少し考えるゼン。そしてレドベージュに申し訳なさそうな表情で問いかける。

「申し訳ありません、彼にも伝えてよろしいでしょうか?彼は今この場の責任者であり、ラガース王国の王子にも近い存在です。今後、何かのお力になれるとも思います」
そう伝えられるとレドベージュは小さく頷く。

「うむ、まあ良かろう。我らとしてもなるべく穏便に収めたい。それが最善の策ならばそうすると良い」
その言葉を聞くなりタウンをジッと見つめるゼン。そして伝え始める。

「いいかいタウン、こちらのお方は天将レドベージュ様で、彼女たちは赤き聖者だ」

「・・・」
しばらく沈黙をした後に腕を組んで首を傾げるタウン。そして再びゼンを見つめ言葉を発する。

「悪い・・・いや、俺はお前の事を信頼しているし、ゼンが言うのだからそうなのだろうとは思うが・・・あれ?頭を打ったのは俺の方だよな?いや、打っていないよな?あれ?」

そう言った後にもう一度考える素振りを見せるタウン。そして再び話しかける。

「どうしてまた神話の住人を引っ張り出したんだ?」
「理由を知りたいかい?」
「ああ、その判断材料について大いに興味関心があるな」
「もの凄い魔法を見たんだ」

ゼンがそう答えると、レドベージュはそそくさと巨大な岩の下に行きつぼみを持ってくる。そしてタウンの前でフワッと花を咲かせて見せる。

「・・・」
無言のタウン。何かを必死で考えている様子だ。
「いやあ、これは何度見ても凄い魔法だ。まさに奇蹟だね」
「そうですよねー」
その近くで腕を組みながら感心したように発言をするゼンとラナナ。その姿を見て、この二人は何を言っているんだと言わんばかりの表情を見せるタウン。

「これがもの凄い魔法・・・なのか?」
「ああ、凄いだろう!?」
「これが天将様の証なのか?」
「ああ、間違いないだろう!?」
目を輝かしながら答えるゼン。それに少しの間だけ言葉を失うタウン。

「・・・いや、単なる手品だろ、これ?」
苦しい顔を見せながらそう発言をすると、湖張は腕を組みながら何度もうなずく。
「うんうん、やっぱりそう感じるよね」
「いや、お前がそれを言うのか?」
「いや、私だって未だに花を咲かせる意味が分かってないから」

信じ込ませなければいけない立場の湖張が賛同してくるので、思わずツッコミを入れるタウン。そして大きなため息をつく。

「なあゼン、まあお前が言うのだからこちらさんはその赤き聖者なのかもしれないが、そもそも赤き聖者なんて実在するのかよ?」
「ああ、もちろん」
「いや、もちろんってお前・・・」
「確かに神話の世界だから作り話と思うかもしれないけれども実際の所、赤き聖者と天将レドベージュ様は実在するんだ。これは遺跡や過去の文献を研究することでほぼ確定事項だとされている」
「そんな話、聞いたことないぞ?」
「そりゃそうさ。まだダラ内部、そして一握りの研究者や権力者しか知らない話だからね。ちなみに王子はこの話を知っているはずだよ?」
「そうなのか?そんな事は聞いたことないぞ」
「君は王子ともう少し学問の話をするべきだ」
「それはお前の役目だろ・・・まあそんな事はどうでも良い。じゃあとりあえず赤き聖者だとするぞ?それと特務が犯人という事はどう結びつくんだ?」

その問いに不思議な顔を見せるゼン。
「いや、赤き聖者が悪い事をするはずないだろう?」
「いやいやいや、まあそうかもしれないが、今重要な事は特務の野郎が黒という証拠が有るか無いかという事なんだ!」

そうタウンが伝えると、ラナナがゼンの横から話しかける。

「あの、証拠が必要なのですか?」
その問いに答えるゼン。
「ああ、そうなんだよ。というのもあの特務の人はね、とある口うるさい貴族の配下なんだ。その特務が君たちが悪人と言っているのにも関わらず、それを無視して証拠もないのに君たちの言い分を聞くとなると少々面倒事が起きそうなんだ。捜査の手順がおかしいだの、不当なやり方だのと言いがかりをしてきて、僕やタウンを配下に置いている王子に迷惑をかけてしまうかもしれない。本当はタウンもどうやら最初から特務を疑っていて君たちは悪くは無いと思っていたようなんだけれども、この事があるから少し荒っぽい事をする必要があったようだよ」

「あー」
その話を聞くなり腕を組んで納得を見せる湖張。そしてタウンに話しかける。
「ひょっとして大人しくついて行っても悪いようにはしませんでした?」
「当たり前だ。お前らは暴れ過ぎだ」
その答えに苦笑いを見せる湖張。頭をかくタウン。

「でもまあお前たちの気持ちも分からなくはない。あのまま俺たちに連れて行かれたら特務の良いようにされると考えるのも普通だからな。城の兵士に悪人と決めつけられたら、申し開きをしても聞いてもらえないと思うもんな。でも参ったな。これじゃあ結局、王子に迷惑が掛かるかもしれないぜ?」
その言葉を聞くと、少し考えた素振りを見せるラナナ。そして提案をする。

「そうしましたら、その特務さんをボコボコにしましょう。きっと自供が得られますよ」
「お前、見かけによらず激しいのな」
冷静にツッコミを入れるタウン。かわいい顔と素振りで誤魔化すラナナ。

「ふむ、では戦う前に伝えた通り麓の研究所にいる者に話を聞くと良い。我らがグリーンドラゴンを保護するために山に入った事を証言してくれるであろう」
レドベージュがそう告げると、腕を組んで考えるタウン。表情は苦い。

「うーん、まあその線はアリなのだが・・・でも証拠としては弱いよな?赤き聖者様方の話は聞けても、特務がグリーンドラゴンを狩っていた証拠は得られないだろう?」
「それは私たちの証言じゃダメなの?」
悩むタウンに問いかける湖張。しかしタウンは首を横に振る。

「それは駄目だろう?そもそも研究員の発言だって正確性を問われたら怪しいぞ?もしあんたらがアリバイを作るために知らないフリして研究員と接し、挙句の果てにグリーンドラゴンの居場所を聞き出そうとしていた、といちゃもんを付けられても、それを切り返すものは無いだろう?」
「何それ、疑いすぎだよ」
「まあ言いたいことは分かるけれどよ、面倒くさい事に屁理屈の塊なんだよ。貴族連中は」

そこでため息のタウン。参ったような顔を見せてはいるが、何か妙案が無いか考えを巡らせているようにも見える。と、その時であった。急に上空を見上げるユカリ。

「ギュー!ギュー!ギュー!」
前脚を上空に挙げながら声を上げ始める。
その様子が不思議に思えた一同はゆっくりと上空を見上げる。すると全員の表情は驚愕へと変わる。

「う・・・そ?」
そう呟く湖張。彼女の視線の先には体長が長く太い首と尾を持った20メートル以上と見られる巨大なグリーンドラゴンが、巨大な二枚の翼を羽ばたかせ、ゆっくりと降下してきている姿があった。

「総員、退避だ!振り向かず一目散に逃げろ」
グリーンドラゴンから視線を外さず、見上げたまま部下に指示を出すタウン。
その言葉が周囲に響くなり、騎士達は蜘蛛の子を散らしたかのように慌ててその場を離れる。しかし数人の騎士達は指示通りには動かず、タウンのそばに駆け寄ってくる。

「何をなさっているのですか!早くお逃げください!!」
大声で訴える部下の騎士。しかしタウンはその場を離れようとはせず、落ち着いた素振りで答える。

「バーカ、俺まで逃げたら空からいいようにやられちまうだろ?しばらくは押さえとくから、お前らはさっさと逃げてくれ」
「そんな!」
「いいから、この部隊は王子に無理を言ってピース以外の騎士から編成した隊なんだ。直属の部下じゃないから誰か死んじまったらちょっと厄介でな」
「だからと言って!!」

納得をしない騎士を見るなり、ため息交じりの笑みを見せるタウン。
「泣かせるねえ。でも大丈夫だ。俺だって死にたくはない。頃合いを見て逃げるつもりだ。それにゼンもいる。どうにかなるさ」
「僕は逃げちゃダメなんだね?」
苦笑いのゼン。呆れ顔のタウン。

「あったりまえだろ!お前もピースなんだ、一肌脱げよ」
「はいはい」
そう答えるなり騎士に話しかけるゼン。

「さあ、行ってくれ。君たちが行ってくれないと支障をきたす」
そう告げられると数人の騎士達は顔を見合わせた後に姿勢を正し一礼をする。
「分かりました、どうかご無理をなさらず!」

撤退を始める騎士達。彼らの後ろ姿を確認するなり、再びグリーンドラゴンに視線を戻すタウンとゼン。

「さてと、ゆっくり降りてきてはいるが、どうしたものか」
そう呟きながら今度はレドベージュに視線を移すタウン。どうやら天将の出方を窺っているようだ。するとその視線に気づいたレドベージュはタウンに話しかける。

「ふむ、まずここは我に任せては貰えぬか?」

その言葉を聞くなり、静かに問いかけるタウン。
「・・・何か策でも?」
「話をしてみよう」
「話が通じるのか?」
「うむ、この竜とは面識がある。話が分かる相手だ」
「面識があるのか?」
「うむ、ラガースのグリーンドラゴンは天との繋がりがあるからな」

声には出さなかったが、二人のやり取りに目を大きく開けて驚きの表情を見せるゼン。
その様子をジッと見つめるラナナ。
「やっぱり驚きますよね?」
「・・・当然だよ」
「でもまあ交渉は失敗する可能性もありますけどね」
「え!?」

先日のグリーンドラゴンでは話が通じず戦う羽目になったので、ボソリと不吉な事を告げるラナナ。冷静を保とうとしていたゼンであったが、さすがに声が出てしまった。
地上付近までグリーンドラゴンが舞い降りてくると、翼による風圧が周囲に降り注ぐ。その時タウンは思わず顔を背けたくはなるのだが、視線を外し隙を作る事をどうしても避けたいので、何とか耐え忍ぶ。

そうこうしている間にグリーンドラゴンは着地をし、ちょっとした振動が足から伝わる。そして巨大なこの山の主は長い首をゆっくりと下ろし、頭部に生える巨大な角と共にレドベージュのそばに顔を近づける。

「ご無沙汰しておりますな、レドベージュ様」
「うむ、久しいな」

低く、重みのある男性の様な声で話しかけてくるグリーンドラゴン。レドベージュは落ち着いた様子で話に応じる。

「・・・どうやら今回は話が出来そうですね」
ラナナは小声で湖張に話しかける。頷く湖張。
「その様だけれども・・・本当にしゃべるんだね」
「はい。貴重ですよ、このシーンは」
目を輝かせ始めるラナナ。今日も彼女の好奇心は絶好調のようである。

「さて、このタイミングで降りてきたという事は、どのような意図があってのことなのだ?」
最初に切り出したのはレドベージュであった。するとグリーンドラゴンは答える。

「天将様へのご挨拶でございます。挨拶も無しにただ上空から見ているだけなのは無礼と思いましてな」
「ふむ、我らの事を見ていたのか?」
「はい、ずっと見ておりましたよ」

その言葉を聞くと少し首を傾げるレドベージュ。疑問を抱いたからだ。
「仲間が襲われていたというのに静観をしていたのか?」
その問いに落ち着いた様子で答えるグリーンドラゴン。

「ええ、この程度の危機から脱せられぬようではこの先、この若い竜の未来はありませぬので極力手は出しませぬ。魔物に襲われようが人に襲われようが危機を招く存在に差はありませぬ。それにレドベージュ様のお姿が見えましたし、王国の騎士達の姿も見えました。人の世がどのように動くのかも興味がありましてな」

そう告げ終わるとタウンに目を向けるグリーンドラゴン。その巨体故に通常ならば恐怖に近い圧力を感じるのだが、国の代表として試されていると察し、タウンは臆することなく平常心を装い落ち着いた様子でジッと見つめる。

「我が主、ラガース王国王子はグリーンドラゴンとの共存を重要視されている。この度の不穏な動きも良しとせず、故に我らを派遣された。ラガース王国としては貴殿らと敵対する意思はない」
そう返すと竜は長い首を上方に移動させ、見下ろす位置からタウンに問いかける。

「では何故レドベージュ様に刃を向けた?」
「自分たちは貴殿と違い知らない事だらけだ。こちらが天将様だなんて知るわけがないし、天との仲など知る由もないであろう?我らは自分たちの持つ情報を基に疑わしいものに対して全て対処をする。それだけグリーンドラゴンを守りたいという熱意を持っていたが故の行動と理解していただけると助かる」
毅然とした姿勢で答えるタウン。しばらくタウンを見つめるグリーンドラゴン。まるで何かを試しているかのような視線であった。

「まあ良いではないか。話を聞くと、この者にも事情があり致し方無かったのだ。我らは気にはしておらぬ。我の顔に免じて丸く収めてはくれぬか?」
レドベージュは二人の間に入ってそう伝えると、グリーンドラゴンはゆっくりと視線を天将に向ける。

「相も変わらず人に対してお優しいお方だ。・・・ご安心ください、別に人を責めるつもりはございませぬ。ただ、少しこの者を試してみたくなりましてな」
再びタウンに視線を移すグリーンドラゴン。するとタウンは両手を小さく上げて苦い顔を見せる。

「戯れは遠慮願いたい」
タウンがそう端的に伝えると、グリーンドラゴンは心なしか小さく笑みを見せたような表情になる。
「腕が立つだけでなく度胸もある。面白い男だ。名は何と申す?」
「タウン・アッシャーだ」
「・・・アッシャーの者か。ふふ、相も変わらず楽しませてくれる」
「というと?」

何かを含んだ事を口に出すので問いかけるタウン。するとグリーンドラゴンは目を細めた後に答える。
「気にするな。独り言だ」

その答えを聞くなり小さくため息を一つつくタウン。そして問いかける。
「そうですかい。まあそれは良い。ところで一つ聞きたい事がある。空からずっと成り行きを見ていたと言ったな?そこで貴殿から、こちらの天将ご一行が犯人ではないという事の証言を得る事は可能か?」
「それを得てどうする?」
「人の世は面倒事が多いと理解していただけると助かる。丸く収めるためには貴殿の証言が必要なんだ」

するとグリーンドラゴンはゆっくりと瞬きをする動作を見せた後に返答する。
「まあ良かろう」
その答えを聞くなり、気まずそうな表情を見せるタウン。

「更にもう少しお願いを増やさせて欲しい。ここにいるゼンが山頂に上る最中に貴殿は犯人が誰かを伝えたという事にしてはくれないか?使いに託したでも良いし魔法か何かで伝えたでも良い。とにかく犯人を拘束する前に確定した証拠が有ったかどうかが重要なんだ」

その願いに小さくため息をつくグリーンドラゴン。
「・・・それも良かろう。では小さな子竜を使いに出した事にしておこう」
「助かる。・・・と、いう訳だ。良いな?ゼン」

急に話を振られたので一瞬反応が遅れるが、すぐさま首を縦に振るゼン。

「分かった。そういう事にしよう」
そのやり取りを見ると、グリーンドラゴンは再び首をレドベージュの近くまで下げる。

「それでは私はここで。良い旅を」
「うむ、お主も達者でな」

レドベージュと軽く挨拶を交わすと、再び飛び上があがるグリーンドラゴン。相変わらずの強い風圧に飛ばされそうにはなるが、今度は敵意が無い事が分かっていたので、先ほどのような固まった姿で耐える事は無かった。

「とりあえずこれで一件落着で良いのかな?」
湖張がそう呟くと、レドベージュは小さく頷く。
「うむ、それで良かろう。ただ逃げた者もいるが、それは国の騎士に託すとしよう」
視線をタウンに移しながら言葉を発すると、腰に手を当てて答えるタウン。

「ああ、それで良いぜ。寧ろこちらで預からせて欲しい」
「そうか、頼んだぞ」

そう伝えると湖張とラナナに話しかけるレドベージュ。
「では宿に戻るとしよう。疲れたであろう?」
「そうだね」
「はい、お腹もすきました」
天将の言葉に頷く湖張とラナナ。するとそのタイミングでタウンが話しかける。

「待ってくれ。申し訳ないがもう少し付き合ってもらえないか?」
「えー」
嫌そうな表情を見せる湖張とラナナ。苦笑いのタウン。

「だからすまないって。何度も言っているが人の世は少々面倒でね。調書だけでも取らせて欲しい」
「・・・まあそれは仕方が無かろう」
「えー」
了承するレドベージュに嫌そうな顔を見せる二人。タウンの苦笑いは続く。

「すまないな。それが終わったら家で食事をご馳走しよう」
「いや、それこそ結構です」
冷たい表情で断りを入れるラナナ。ため息のタウン。

「まあそう言わないでくれ。・・・今回の件だけではなく少し話を聞きたいというのもあってね。ご存じの通り最近魔物の動きが妙でね。それについて話を聞きたい。国を守るために天の持つ情報を教えて欲しいんだ」

話の途中から真面目な表情を見せるタウン。
その様子を窺うなり一考するレドベージュ。そして言葉を発する。
「ふむ、だがその件に関してだが我らもこれといって情報を持ってはいないぞ?天は万能ではない。全知全能ではないのだ」
「・・・だが西の町で謎の魔物を倒した。その時の詳細だけでも教えて欲しい。些細な事でも情報が欲しいんだ。その代わりと言っては何だが、こちらの知っている事もお伝えしよう」

「・・・例えば何をご存じで?」
ジト目でタウンに問いかけるラナナ。すると彼は一呼吸置いた後に答える。
「例えば、突然変異した魔物を生け捕って観察した記録・・・とか?」
その言葉に驚きの表情を見せるラナナ。その様子にうっすら笑みを見せるタウン。

「決まりで良いか?」
タウンがそう訊ねるとレドベージュが答える。
「まあ良かろう。それに食事の約束をする事で調書に掛かる時間の上限もできるであろう」
「あーそれなら別に良いか」
レドベージュの発言に気怠そうな顔で同意を見せる湖張。その様子から仕方が無いかという表情で小さくため息をつくラナナ。

「そうしたら僕もお邪魔して良いかい?久々だしね」
ラナナの様子を見てゼンが話に加わってくる。すると彼女の硬い表情は少し和らぐ。
「あ・・・先輩もいらしてくださるのですか?確かに少しお話したいです」

「だそうだよ、良いよね?」
ゼンは視線をタウンに移して問いかけると、当然のような仕草で答えが返ってくる。
「当たり前だろ。端からそのつもりだ」
「そうしたら急ごう。片付けなければならない仕事が沢山だよ」
「・・・だな」

ゼンの言葉に頭をかいて嫌そうな顔を見せるタウン。事後処理の事が頭に過ると気が重くなるが故に表情であった。

「おし撤収だ。面倒事はさっさと終わらせるぞ」
そう言って動き始めるタウン。それにつられるように一同はその場から立ち去り始めた。

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ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百三十四話【アッシャー宅】
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