ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十六話【一掃の魔法】
- 2025.09.03
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「なんだよ!!20倍どころじゃねえだろ!!」
離れていたはずなのに痛いほどの爆風に煽られるタウン。
「これほどなのか!?」
地面に伏せて耐えるハルザート。想定外の威力に驚きを隠せない。
数秒経つと、ようやく収まる嵐のような爆風。爆発の煙と砂埃が周囲を包み続ける様子を気まずそうに見つめる湖張。
「・・・少しやり過ぎたかも」
「ひょっとして今までって全力で撃ってなかったのです?」
ラナナが近づいて引きつった顔で問いかけてくる。今まで何度も覇王爆炎弾は見てきたのだが、過去に類を見ないほどの破壊力であった。当然の様に彼女的にとってもこの威力が想定外だった雰囲気だ。
「うん、だって危ない技でしょ?周囲に迷惑を掛けちゃうから毎回、手加減はしていたんだよ。
でもまあこの結果は自分でも少し驚いてはいるけれども・・・。
実は毎日、隙間時間を見つけては力の流れをより上手くできるように修練を積んでいたのだけれどもさ・・・最近、何かコツを掴んできたかなと思ってはいたけれどもさ・・・さらには今回は十分に技の準備が出来たから威力が高まったのもあるけれどもさ・・・こんなにもなるんだ」
「その様子ですと、ご自身でも予想外です?」
呆れ顔のラナナ。苦笑いの湖張。
「いつもって動きながら準備をしているから、どうしても威力は下がっちゃうんだよね。まあそこは今後の修練次第で下げずに済むかもしれないけれども。
ただ落ち着いて十分に準備してから撃ったのなんて、それこそウンバボの修練場でやった以来だったから自分でもここまでとは知らなかったよ。」
「あーつまりずっと技の強化を怠らなかった結果という事ですね」
納得したような反応をしつつ、煙の中を見るラナナ。
「流石に倒せましたよね?」
「分からないよ。良く分からない魔物だもん」
「確かに油断は禁物ですよね」
二人がやり取りをしていると、少し離れた位置でゼンが魔法で突風を起こし魔物の周囲を包み込む。
するとそこには体のいたるところにひびが入っている魔物が地面に横たわっていた。
「おいおい、アレを食らっても消滅していないのかよ。どれだけ硬いんだよ」
そうぼやきながらゼンに近づくタウン。すると難しい顔で言葉が返ってくる。
「そうだね、僕たちの常識の範疇の外にいる存在かもしれない。その一方で今の湖張君の技。あれくらいじゃないと神話の世界には入れないという事かな」
「やべぇ女だよな、やっぱり」
「・・・君も大概だけれどもね」
「そうか?」
少し呆れた表情を見せるゼン。
「とにかく落ち着いたら今回の件についてレドベージュ様の見解を伺いたいかな」
「そうだな」
そうこうしている間に遠くからハルザートが走ってくる。しかし何かしら警戒をしているかのような硬い表情であった。
「どうした?」
勝利が確定したような状況であるにもかかわらず様子がおかしかったので問いかけるタウン。すると魔物を見つめながら返答をするハルザート。
「何か嫌な予感がする。まだ油断はするな」
「というと?」
少し離れた位置にいる湖張に向かって声をかけるハルザート。
「湖張、もう一度技の準備だ!」
「え!?何で!?」
驚きの表情を見せる湖張。そしてラナナに話しかける。
「とりあえず集まろう」
「はい」
魔法で宙に浮いて素早く近づく二人。レッド君も同様に集合する。
「どういう事?何でもう一度?」
「まだ終わっていない可能性がある」
「え?」
「どう思います?」
レッド君に問いかけるタウン。すると魔物を見つめるレッド君。
「・・・確かに妙な感じはするな」
彼がそう言った直後、木の板が割れたような音を数多く鳴らしながら、魔物の全身に入っていたヒビがさらに細かくなる。
そして破片となって全身が砕け散ったと思うと、体の中から数えきれないほどのこぶし大の黒い虫のようなものがわらわらと広がる。
そして蜘蛛の子を散らすように広範囲に広がっていく。
「何あれ!?」
気持ち悪い物を見るような驚きの表情を見せる湖張。すると魔物をジッと見ていたレッド君が答える。
「あれは小型化した黒い魔物のようだ。中に小さい魔物が大量にいたという事か?
「そんなのありなの!?」
「何でもありの魔物のようだな」
二人のやり取りに割って入るハルザート。
「そんな呑気な事を言っている場合か!湖張、もう一度あの技を!このままでは散り散りに逃げられる。森の中に入られたら追えなくなるぞ!」
そう言われるものの、少し慌てる湖張。
「待って!流石にちょっと準備の時間が欲しいよ!」
するとラナナが間に入る。
「いえ、ここは私がやります。この状況ですと湖張姉さまの技より私の魔法の方が効率が良さそうです」
「そうなのか?」
ハルザートが問いかけると、ラナナの隣で頷く湖張。
「確かにそうだね、その方が良いと思う」
「はい、でも湖張姉さまにもお手伝いをお願いします」
「うん?」
「私も今回は全力で撃ってみようと思います。こうしている間にどんどん魔物が散っていますので広範囲を巻き込まないと駄目なようですので。
ですがそうなると、ここまで衝撃波が到達します。
なので湖張姉さまは例の防御壁を出して私も含めここにいる全員を守ってください」
納得した表情を見せる湖張。
「あーなるほどね。分かった」
申し訳なさそうな表情のラナナ。
「本来ならばもっともっと距離を取って放つ魔法なのですが、移動している暇もなさそうです。なので巻き込まれることはご了承ください。
私の手から魔法が放たれたら防御壁を展開してください」
頷く湖張。そして全員に伝える。
「皆は私のすぐ後ろにいて!あと念のためにレッド君は音を防いで!」
ここでラナナは三歩ほど前に出る。
「いけるのか?」
彼女の後ろ姿に問いかけるタウン。すると横顔で振り返るラナナ。
「はい、私の考える現状に対する最善の策です」
彼女の姿をジッと見つめるゼン。何をしようとしているのか不安そうではある。
「湖張姉さま、準備は!?」
「いつでも!」
湖張はそう答えて目の前に広げた鉄扇を浮かせ、両手を広げる。
するとラナナは左手の杖を握りしめ、右手を広げ魔物の群れに向ける。そして数秒間の集中が続いた後、右手から直径50センチほどの白い光の球が解き放たれる。
「エマシデンシ!」
魔法の名を口にすると、ゼンの表情が一気に青ざめる。
その事など気付かず、そして構わずに直進をする魔法。以前は人が走る速度と同じくらいであったが、今回は比較にならない程早く、スッと進行していく。
「離れないで!あと光が強いから直視もしないで!」
そう言って湖張は球体の防御壁を展開し全員を包み込むと、レッド君がさらに防御壁の内側に緑色の光でコーティングをする。
そしてラナナの魔法は魔物が崩れた場所まで到達する。
「バースト!」
右手を強く握りしめるラナナ。すると球体は指先程の大きさに縮まった直後、周囲を強い光が包み込む。色を奪われた真っ白の世界が展開されると同時に全てを吹き飛ばすほどの衝撃が襲い掛かる。
強く揺れはするが、その場で耐える湖張の防御壁。
何が起こっているのかなど判断がつかず、どの存在すらも許さないような空間。
魔法で防がれているはずなのだが、貫通して届く程に強烈な遅れてきた爆発音。
「こいつは・・・」
湖張の言った意味を理解し、目を瞑り耳を塞ぐタウン。ハルザートも腕で目を隠す。
しかしゼンは険しい顔で周囲を目を細めながらも観測する。
次第に薄れる光。それに合わせて振動も無くなる。
そして防御壁を湖張が解くと腕を腰に当ててラナナに一言。
「うん、ラナナもやり過ぎ仲間だ」
「それ、反応に困りますよ」
困り顔で答えるラナナ。そのやり取りが聞こえるとゆっくり目を開けるタウンとハルザート。すると周囲は何もない荒れ果てた荒野に様変わりしていた。
「お・・・おい、何だよこれ」
驚愕の表情を見せるタウン。それに腰を当てて答える湖張。
「だから言ったじゃない、必殺の魔法があるって」
「必殺すぎるだろ!」
「・・・これは凄いな。湖張が一点集中に特化した高威力の技を持ち、君が超広範囲を吹き飛ばす事に特化した魔法を持つのか?」
ハルザートが問いかけてくると頷くラナナ。
「はい、その分析は正しいです。まあそんな頻繁に使う魔法ではありませんが」
「エマシデンシ・・・完成させてしまったのかい?」
二人のやり取りを横から入ってくるゼン。少し怖い表情をしている。
それに少し身を震わせるが、すぐさま落ち着いた様子で返すラナナ。
「はい、私の旅には必要な力と思えましたので完成させました」
ゆるがず、しっかりとした青い瞳。その言葉にハッとするゼン。そして額を押さえる。
「・・・そうだよね。そう言われると理解せざるを得ないね」
「ただ自惚れるわけではありませんが、私以外はこの魔法を使えません。
相当複雑に、そして繊細な制御が必要な作りにしています。悪用はされませんよ」
「危険性は理解しているという事だね?」
「はい」
そう答えられると、小さくため息をついた後に何かを理解した表情に変わるゼン。
そしてタウンに話しかける。
「帰ろうか。この様子だと、もう魔物は消滅したよ」
「・・・そうだな、確認するまでもないな」
「皮膚が硬い魔物は良いの?」
このタイミングで問いかける湖張。本来の目的を果たしきれてはいない事を思い出させる。しかしうんざりした顔でタウンが返す。
「あーまあ良くは無いが今日はもう良いだろ?明日以降、こちら側でどうにかしておく。正直疲れた。帰ろうぜ。働きすぎは良くない」
「そうなの?」
「ああ、問題ない。それよりこれ以上、遅くなるとチウルが騒ぎそうだ」
「あはは・・・」
苦笑いを見せる湖張を確認すると、今度はハルザートを見るタウン。そして問いかける。
「なあハルザート、今日の宿は何処だ?」
想定外の問いかけに少し戸惑うが、答えるハルザート。
「いや、取ってはいない。夜には隣の町に向けて移動する予定だったからな」
「だったら俺の家で泊っていけよ。今日のお礼にご馳走もさせてくれ」
更に戸惑いを見せるハルザート。
「いや待て。流石に急に訪問するのはまずいだろう」
「いや、うちはよくある事だぞ?気にすんな」
「いや、気にするだろう。それに夜、移動する予定だ」
「また魔物退治か?」
「ああ、最近は魔物の活動が活発だからな」
「だったらその案件、俺らに任せてくれよ。本来は国の騎士の役目だろ?」
その申し出に更に困惑するハルザート。
「いや、確かにそうなのだが・・・私の仕事でもある」
「一人で回るより、大勢で回る方が手遅れになる事案が激減するんじゃねえか?」
そう伝えられると深い溜息をつくハルザート。しかし直後に小さな笑みを見せる。
「しっかりと魔物を討伐してくれると信用して良いのだろうな?」
強い笑顔で答えるタウン。
「当然だ。今日だってそれなりに信用おいてくれたんじゃねえのか?」
「・・・まったく」
「決定だな。じゃあ今夜はゆっくりできるだろ?家に泊まっていけな」
慌てる表情のハルザート。
「いや、それとこれとは別だ。私が知っている魔物の情報は伝えるがそこまで甘えるわけには・・・」
ムスッとするタウン。
「だからこれは礼なんだって。それに今日は湖張たちも飯を食って泊まっていくんだ。なあ?」
その言葉に驚きを見せるハルザート。
「そうなのか?!」
うなずく湖張。
「そうだよ」
「おら、湖張からも何か言ってやれ!」
「何って・・・まあハルザートも泊まっていけば良いと思うよ?今日は疲れたでしょ?タウンさんの家って大きいから大して迷惑じゃないと思うよ?チウルさんの料理もおいしいし」
そこで不思議そうな顔のハルザート。
「ところで度々でてくるチウルというのは誰なのだ?」
少し考える時間を設けた後に横目でタウンを見ながら答える湖張。
「・・・タウンさんの婚約者?」
「おーさーなーなーじーみー!」
強く否定してくるタウン。その様子にラナナは小さく笑っている。
その様子を見た後に穏やかな表情でハルザートに話しかけてくるゼン。
「まあ今日は一緒に行動したんだ。慰労の意味も込めて一緒にどうかな?このゼン・ポーターからもお願いするよ」
そう伝えられると小さく息を一つ吐くと、観念した小さな笑顔を見せるハルザート。
「分かった。私の負けだ。今夜は世話になる」
その言葉が出ると嬉しそうな笑顔を見せるタウン。
「よし、決まりだ!さっさと帰ろうぜ!!」
先頭を切って移動を始めるタウン。そろそろ日が暮れそうな時間になるのだが、明るい雰囲気がそこにはあった。
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