ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十八話【再びのアッシャー家の食事会】
- 2025.10.05
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
昨日と同じ食堂に案内されると、すでに料理の準備が出来ていた。
入ってきた姿を確認するなりチウルは笑顔で近寄ってくる。
「ほら、席に案内するね、湖張ちゃんはここでラナナちゃんはこっち。」
椅子の位置を移動しながら案内をするチウル。湖張とラナナの間には席が一つ開けられていた。
「あれ?席を一つ開けるのです?」
不思議そうに問いかけるラナナ。するとチウルはうっすらと笑みを見せる。
「うん、ここはタウンの目の前だから。ハルザートさんと“じっくり”お話をしたいんじゃないかって」
その表情から何かを察していると感じる湖張。すると更に案内を続けるチウル。
「レッド君はこちらでお願いしますね」
ラナナの左隣にある箱へ案内されると素直にその上に上がるレッド君。
「レッド君・・・の呼び方は昨夜聞いたのですか?」
湖張の問いかけに首を横に振るチウル。
「ううん、さっきだよ」
「さっき?」
そこで家の前のチウルに駆け寄ったタウンの姿を思い出す。
「あーだからあの時、少し待たされたのか」
湖張が呟くと、ラナナはため息を一つ。
「はあ、本当に食えない人ですね」
彼女も同じように二人が交わした内容を察した様子だった。
するとチウルは二人に問いかける。顔は真剣であった。
「タウンが言っていた。あの人は悪い人じゃ無いと。二人もそう思う?」
昨夜、メーサ教の事を聞いていたので少し不安なのか確認を取ってきたのかと思える。しかし彼女の思考は想像を飛び越える時があるので他にも理由があるのかとも思えたが、ここは安心させた方が良いと感じ首を縦に振る湖張。
「はい、昨夜も伝えた通り悪い人では無いと感じています。今日もそうです。寧ろ良い人の度合いがさらに上がった感じがしますね」
「まあ、真面目だよね。仕事の事を第一に考えているし」
そう言いながら昨夜と同じ位置に座るゼン。そしてチウルをジッと見つめる。
「とりあえず座っちゃったけれども、ここで良いよね?あと何か手伝う?」
「うん、ううん」
「・・・どっち?」
頭を抱えるゼン、先ほどの表情などなくなりキョトンとして答えるチウル。
「席はそこで良いよ。手伝う事は無いよ」
「わかった」
「ほら、二人とも座って」
背中を押されて席に着く湖張とラナナ。すると食堂の扉が開き、タウンとハルザートが遅れて入ってくる。
「・・・なんか新鮮だね」
ハルザートを見ながら話しかける湖張。彼の姿はいつもの鎧ではなく、水色で動き易そうな半袖の上着に、ゆったりとした灰色の長ズボンであった。
「自分でもこの姿で皆の前に出るのは新鮮だ」
少し照れ臭そうに言うハルザートに話しかけるタウン。
「どうだ、似合っているだろ?ほら、席に着けよ」
湖張とラナナの間の席を引き案内をするタウン。
「何から何まですまないな」
「そう思うなら、いっぱい食ってくれな」
にこやかに伝えた後にチウルの背中をポンと優しく叩くタウン。
「ありがとな。俺らも座ろうぜ」
「みんな、今日はお疲れ様だったな」
席に着くなり、果実酒の瓶を片手に持つタウン。そして目の前の客人たちに問いかける。
「ところでハルザート、何歳だ?」
唐突に問いかけるタウン。それに少し戸惑うも答えるハルザート。
「ああ、19だ」
「じゃあ大丈夫だな!おら、グラスを出せよ」
彼に果実酒を注ごうとするタウン。すると慌てるハルザート。
「いや、駄目だろう。酒は20を過ぎてからだ」
そう答えられると不思議そうな顔を見せるタウン。
「ん?何を言っているんだ?ラガースの法律だと18だぞ?」
そこでゼンは何かを思いついたのか発言する。
「ひょっとしてハルザート君って隣国の人?たしかお隣さんは20歳だったはず」
「ああ、そう言う事か」
そこで合点がいった様子のハルザート。
「確かに私は隣国の出身だ。しかし7歳ぐらいからラガースで育ったのだが5年前には再び隣国で過ごしていたのだ。そして半年前に再び活動拠点をラガースに移したのだが、そこでルールを勘違いしてしまったのかもしれない。今まで酒を飲もうとも思わなかったからな」
「そうなの?」
不思議そうに問いかける湖張。頷くハルザート。
「ああ、酒を飲むと酔っぱらうのだろう?そうしたらいざという時に対応ができなくなる」
「真面目だねぇ。すると前にロダックを倒した後の宴の時も、周りは飲んでいたのに、ハルザートは飲んでいなかったの?」
「ああ、当然だ」
「真面目だねぇ」
そうやり取りをしていると目の前に酒瓶が近づいてくる。タウンだ。
「と、いうわけで今日は飲んでみろな?」
「いや、だから何かあった時に対応が・・・」
拒むハルザートに呆れ顔のタウン。
「大丈夫だって。だいたいこのメンツが揃っているんだ。酔っ払いが一人二人いようがどうにかなるだろ?」
「いや、しかし・・・」
「おら、湖張も何か言ってやれ!」
「何でよ?・・・でもまあ飲んでみたら?タウンさんの言う通り、いつもとは違って今日は警戒しなくても良い環境ではあるよ?」
そう言われると少し考えるハルザート。そしてグラスを前に差し出す。
「・・・では試してみるか」
「そうこないとな!」
嬉しそうにドバドバと注ぐタウン。予想よりも入ったので気が気ではないハルザート。内心、初めての酒に不安ではある。
「とういかハルザート19歳だったんだ。もう少し上だと思っていた」
湖張が横から声をかけるとグラスを置き、顔を向けるハルザート。
「ああ、何歳に見えていたのだ?」
「んー・・・22とか3くらい?」
「少し上に見られていたな・・・ところで湖張はいくつなのだ?」
「ん?私?17歳だよ。ちなみにラナナは16歳ね」
「んだよ、なんとなくわかっちゃいたが、お前ら飲めないのかよ!」
つまらなさそうな顔を見せるタウン。ため息のゼン。
「まったく、気を付けてくれよ」
そう言いながら果実のジュースを差し出す。
「二人はこっちね」
「うん、ありがとうございます」
受け取る湖張とラナナ。そしてグラスを持ったタウンが全員に伝える。
「今日は本当にお疲れ様な。後は食って寝るだけだ。存分にくつろいでくれ!」
そう言ってグラスを飲み干すとハルザートをジッと見る。
「おら、飲んでみな!」
グラスをジッと見つめるハルザート。しばらく考えた後に意を決して一気に飲む。
するとみるみる色白の顔が赤くなっていく。
「良い飲みっぷりだが・・・大丈夫か?」
「何だやこぇは!・・・こんなもがうまいとおもぇえ」
「ちょっと大丈夫!?」
湖張が慌てて背中をさすると、うつ伏せになるハルザート。そして動かなくなる。
「・・・これは相当に弱いね」
戸惑いの表情のゼン。心配そうに見つめていると、ハルザートは右手を上げる。
「もんらいない、もんだない・・・」
「大丈夫か?」
様子を窺うタウンに大きく頷くハルザート。そして湖張に顔を向ける。
「湖張、食べろ!気にするな!」
そう言ってまたテーブルにうつ伏せるハルザート。
「・・・まあ意識はあるか。問題は無いか。しばらく放っておこう」
予想外の展開ではあったが意識を失っておらず、湖張の事も気遣っていたので大丈夫と判断したタウン。そして湖張とラナナに話しかける。
「二人は構わず食べてくれな」
「はあ」
そう言いつつも食事に手を付け始めるラナナ。ここの食事は美味しい事は知っていたので口に運ぶたびに幸せそうな顔になっている。
その様子をにっこりと確認した後にタウンに話しかける湖張。
「それにしても今日の魔物は大変でしたよね」
「ああ、おっかなかったな。特にお前ら」
「え、こっち!?」
タウンの返しにまさかといった顔の湖張。
「ああ、正直なところ俺らがあれこれやらなくっても二人だけで倒せただろ?」
「いやいやいやいや」
「なんだよあの超威力の魔法は」
「なんだよって・・・でも本当の話、あれは皆が足止めしてくれていたから技の準備が出来て当てられたんだよ。私とラナナだけでは難しいよ」
「謙虚だねえ」
「そんなんじゃないんだって。撃って当てられなければ意味がないもん。というか私から言わせてもらえばタウンさんの方が無茶苦茶すぎ。何なのあの蹴りは!あんな巨体の魔物を遠くまで蹴り飛ばすし、挙句の果てには魔物の部位を切り落とすし!意味がわからないんだけれども!」
キョトンとするタウン。
「そうか?」
「そうだよ!・・・まったく、あんな危ない蹴りを私に向けていたの?」
「いや、湖張だってあんなヤベー技を俺にぶっ放したじゃねえか!」
「あれはちゃんと手加減したし」
「それは俺も手加減していただろ!」
そうやり取りをしていると横から冷たい視線のチウルに気がつく。
「・・・湖張ちゃんを蹴ったの?」
ぞっとするタウン。
「あ・・・いや、業務上ちょっとその必要があってだな」
「何それ!?こんなに可愛い子を蹴る必要があるの!?」
「あ・・・う、うーん」
小さくなるタウン。それに慌ててフォローを入れる湖張。
「あ、いえ大丈夫ですよ。それは本当ですから!それに私はそんなに可愛くないですし」
難しい顔で湖張を見るチウル。
「何を言っているの?湖張ちゃん、とても可愛いじゃない?」
「もう、ラナナと同じような事を言わないでくださいよ!」
「いや、湖張姉さまは磨けば磨く程に輝きますよ?」
ここでラナナが参戦する。物凄く嫌な展開になりそうだと感じる湖張は話題を変える。
「この展開、なんかやだ!それよりラナナはチウルさんに聞きたいことがあったんじゃないの!?」
そう言われるとハッとしてチウルに話しかけるラナナ。
「そう!そうなんですよ!今日、タウンさんが青い剣を地面から出していましたがアレは何ですか!?とんでもない切れ味でした!」
するとキョトンとした顔で答えるチウル。
「ジュエルソードだよ」
「そう言えばその名を叫んでから剣を出していましたね。ノリノリで!」
「その表現やめてくれ。ノリノリじゃあない」
タウンが嫌そうな顔を見せた後に酒を飲む。すると目を細めてラナナが言う。
「いや、真実じゃないですか。それよりもあれはチウルさんが作ったと聞きました。とても興味深いのでお話を伺えればと」
するとにっこりと笑顔を見せるチウル。そして二人のやり取りが始まる。
「あれはねー、私が学生時代にタウンのために作ったの」
「学生時代の作品だったのですか」
「うん、好きな研究をして良いよって先生に言われたからプレゼントを作る事にしたの」
「なるほど。だから宝石みたいな質感なのですね」
「うん。キラキラした宝石みたいなものを埋め込むデザインにはしたよ!でも本体の青色とか質感は、ああなっちゃっただけなんだよね」
「そうなのですか?ところで地面から宝石のような剣が出てきたのですが、どんな魔法なのです?おそらくは魔力の塊を剣のように見せているのだとは思ったのですが」
「あれは魔法ではあるのだけれども実体を持つ剣だよ」
「え?じゃあ剣が地面に埋まっているという事です?」
「違うよ。そんなことしたらタウンを追って常に地面の中を移動しなきゃダメだもん」
「まあそれでしたら持ち歩いた方が効率が良いですよね」
「うん。それにやっぱり実体があった方が硬くて強いから。そこで土を利用することを考えたの」
「土を?」
「うん。タウンが持ち歩くのは剣の情報を詰め込んだ魔力の塊だけ。それを地面に埋め込んだら、土が宝石のような見た目で超硬度の金属に代わって剣になるの」
その言葉を聞いて驚いた表情に変わるラナナ。
「それってメキンタニウムですか!?」
「知ってるの?」
「地中から超高度の金属を取り出すなんてそれしかないじゃないですか!?」
「すごいね!この話だけでそこまで分かるなんて!」
「いや、何でメキンタニウムなんて持っているのですか!?」
「ううん、持ってはいないよ?」
「え?でもメキンタニウムなんですよね?あの剣」
「メキンタニウムは流石に貰えなかったよ。だから真似てみたの」
「真似る!?」
「そう。学校にね、メキンタニウムのサンプルがあって見せてもらった事があるの」
「待ってください、学校ってエディアですよね?エディアはメキンタニウムを所有しているのですか!?」
「なぜかあったね」
「何で!?」
「わかんない。秘密って言われたよ」
「秘密にしていませんよね!?」
そこでゼンを見るラナナ。すると彼は「ああ、秘密にしていてね」と苦笑いで答える。そしてチウルの話が再開する。
「流石に言いふらしたりはしていないよ?ラナナちゃんだから良いかなって。むしろ話から材質の事まで分かっちゃったし。それでね、メキンタニウムは貰えなかったのだけれども、近くで見る事は出来たの。だから自分なりに同じものを作れないかなと思ったんだ。その結果出来たのがジュエルソード」
「何で同じものが作れるのですか!?」
「流石に教えられないかなー」
「まあ確かに自分の研究成果は簡単には教えられませんよね」
「ううん、そうじゃなくって伝えられないの」
「どういう事です?」
「精霊使いって精霊が心を感じ取れる人じゃないと力を貸してくれないでしょう?それに近いかな?私だったからメキンタニウムに似せた物を作れたの。他の人では土の力を変化できないの」
「待ってください、チウルさんは精霊使いだったのですか!?」
「ううん、精霊使いじゃないよ。でも素養はあるみたい。そしてジュエルソードは精霊の力を借りているわけでは無くって、精霊が土を操る術を真似ているだけ」
「真似る・・・ですか?」
「そう。メキンタグールは地中の奥底に眠るありとあらゆる金属が集まり誕生したと考えられているの。ただそこらへんに大量の金属なんてないでしょう?だったら土から作れるようにしたのが私の魔法。メキンタニウムは見る角度によって色が変わる虹色の不思議な金属。あくまで金属なの。一方私のは土だから材質が違うし硬さも本家本元よりは劣ると思うよ。でも近い特徴は持っているかな。ちなみに色が違う理由はそこだと思う」
「かなり無茶苦茶な事を成し遂げていませんか?」
「そうかな?それでさっき、清潔の魔法をかけたよね?あれって汚れを圧縮しているだけれども、それと同じようにジュエルソードを構成する要素や情報を圧縮してタウンの腕の中に入れているの。そしてタウンが使いたい時はそれを出して土の中に入れると、圧縮された情報が土の中で散らばって剣に姿を変えて飛び出てくるという仕組みだよ」
「・・・無茶苦茶すぎますよ」
頭を抱えるラナナ。そして言葉を失う。
「ごめん、メキンタニウムって何?」
二人の会話が落ち着いた様子なので湖張が恐る恐る問いかけるとラナナが疲れた表情のまま湖張を見て答える。
「メキンタニウムというのはですね、精霊神メキンタグールの材質とされています。メキンタグールに関しては前に話が出たあれです。金属の精霊でこの世に二体しかいない精霊神と呼ばれる強力な精霊です。その表面は硬い金属とされているのですが、その材質を真似て土から作ったのがチウルさんという訳です。無茶苦茶です。はい」
その解説を聞くと少し考える湖張。
「要するにタウンさんもチウルさんも無茶苦茶って事?」
「おい、何故そこで俺を引き合いに出す?」
不服そうな顔のタウンにため息の湖張。
「いや何度も言うけれども、タウンさんは無茶苦茶だからね?まさか伝記が誇張表現じゃなかったとは思わなかったよ」
「伝記ねえ・・・」
急に冷めた顔になり目を逸らすタウン。
「どうかしたの?」
「ちなみにその伝記、むしろ小さく綺麗に表現されているからな」
「小さく?」
不思議そうな湖張。するとタウンは酒を一口だけ運んでから答える。
「カウントの言葉で“多くの命を失わないために一つの命を刈り取る”とあるが、あれは嘘だ」
「どういう事です?」
探るように尋ねるラナナ。彼女にとってかなり興味深い話のようだ。
タウンは自らをあざけ笑うようにして答える。
「正史には残せないくらいの人間を斬っているんだよ、カウントは。その数はあまりにもきったねえ数字だから表ざたに出来ないんだ」
「え!?」
「実際の所、コミュニティ同士の戦争みたいなのもあったからな。頭領を倒せばそれで終わりなんて事はないからな、現実は」
そう言うと手に持ったグラスを見ながら話を続けるタウン。
「俺の技、見ただろ?蹴りの方でも首みたいなのを切り落としただろ?」
少し溜めてから続ける。
「あの一撃で何人、斬れると思う?・・・密集具合にもよるが、15人は堅いな。つまりな、俺の技、アッシャーの技は英雄の技なんかじゃない。きったねえ人斬りに特化したくだらないもんだよ」
「そんな事・・・」
湖張が否定をしようとするが、タウンは首を横に振る。
「あるよ。それを両手両足で次から次へと繰り出す事ができる。あっという間に何人斬れることやら。だから俺はこの技が好きじゃなくってね。もう俺で断絶しても良いとすら思っているくらいだ。でも、それでも国のために力を役立てて欲しいと王子からは言われているし、代々受け継がれてきた技だ。俺の勝手な我儘で途絶えさせて良いものでもない。だから俺に子供が出来たら教えるとは思うぜ。でもやっぱり心地よくはねえよな」
その言葉が流れると隣のチウルは曇った顔で視線を下に向ける。しかしその時であった。突然むくりと体を起こすハルザート。真っ赤なままの顔でタウンを指さす。
「ばかものー!!」
大きな声を上げるハルザート。皆、当然のように驚く。しかしそんな事などお構いなしに説教を始める。
「剣も技も同じだー」
「・・・はい?」
驚いた顔で疑問符のタウン。続けるハルザート。
「お前は今まで人を守る為に技を振るってきたのだろう!?そんなやつが人など斬れるかー!だからお前の技は人を斬れない!人斬りの技なんかじゃない、人を守る技だ!剣も技も使い方次第だろうがー!!」
そして再びうつ伏せになり動かなくなる。突然の事で場は固まるが、それは一瞬だけでチウルが立ち上がり酒瓶を両手で持つ。顔は輝いている。
「そうだよ!良い事を言うねハルザート君!飲んで飲んで!」
空になったハルザートのグラスにドバドバと追加の酒を注ぎ始める。慌てる湖張。
「ちょっと追加しちゃ駄目ですよ!」
むくりと起き上がり飲み干すハルザート。
「飲むなー!」
更に慌てる湖張。
「ちょっとタウンさんも止めて!」
タウンに訴えかけると、彼はとても嬉しそうな顔をしながら頭を掻きむしっている。
「なんだよ。やっぱりお前、良い奴じゃねぇかよ」
満足そうな顔で空いたハルザートのグラスに酒を注ぐタウン。
「注ぐなー!」
突っ込む湖張。そんな事などお構いなしに再び起き上がり一気に飲み干すハルザート。
「だから飲むなー!!」
慌てふためく湖張。再び伏せるハルザート。そこにラナナが話しかける。
「まあ良いじゃないですか湖張姉さま。実際にハルザートさんはとても良い事を言ったと思いますよ。だからご褒美のお酒ですよ。正直なところ、私も強い力を自分が持つ事に関して思うところがあったのですが、さっきの考え方を聞いてなんか救われた感じがします。結局は使い方なんだなって」
小さな笑みを見せるラナナ。その姿に湖張が言葉を返す。
「ラナナ・・・だからと言ってお酒は駄目だからね?」
呆れ顔の湖張。酒瓶を手に持ち見つめるラナナを決して見逃さない。つまらなさそうな顔が返ってくる。
「良いじゃないですか。飲みたい気分なのですよ」
「ちょっと。ちょっと・・・。どうにしてくださいよ、先輩」
細い目でゼンに責任を負わせようとする湖張。苦笑いのゼン。
「あーここで僕?まあ、まだちょっと早いかな?ね?」
そう言いながら酒瓶をそっと取り上げるゼン。しぶしぶパンをちぎって食べるラナナ。
そうこうしていると再び起き上がるハルザート。
「・・・ちょっと、行動が怖いのだけれども」
予想の出来ない動きにたじろぐ湖張。しかし彼はお構いなしといった様子でタウンをジッと見つめる。
「答えろタウン・アッシャー。まだ強くなる気はあるのか?」
急に脈絡のない事を聞いてくるので流石に戸惑うタウン。
「おいおい、いきなり何だよ?」
「北の村で会った少女が言っていた。金髪で両手に剣を持った国の騎士が村に出た魔物をあっという間に倒してくれたと。国で一番強い騎士に違いないと嬉しそうに言っていた。身に覚えがあるだろう!?」
更に驚いた顔のタウン。そして視線を右下に逸らして答える。
「・・・悪い。多分それ、俺じゃない」
一瞬沈黙が流れる。会話を繋げるタウン。
「北の村だろ?俺はそっち方面に年単位で行っていない。そしてぬいぐるみを持った女の子だろ?その子の髪色、栗色だろ?俺の部下に金髪で二刀流の奴がいてさ、そいつが北の方の村でぬいぐるみを大事そうに抱えた女の子を守ったって前に言っていた・・・」
冷ややかな目でハルザートを横に見るラナナ。そして一言。
「だっさ」
気まずそうな表情のハルザート。自らグラスに酒を注いで飲み干すと座った目でタウンを見る。
「・・・あれだけの力をもっているのだ。技が気に食わないとか言っていないで、男だったらラガースの御剣くらい目指せ!」
誤魔化しの入ったハルザートの言葉ではあったが、再び驚いた顔を見せるタウン。「おいおいマジかよ」と苦笑いを見せる。一方湖張は頭に疑問符が点灯しているような顔を見せる。
「ラガースの御剣?」
すると説明をするタウン。
「この国における最大の栄誉だ。国の窮地を救い、最大限の貢献をした騎士に与えられる称号にして英雄の証、それがラガースの御剣だ。とは言ったものの国の窮地なんてそうそう起こる事は無い。だから過去に二人しかいないんだぜ?なりたくてもなれやしないぞ」
しかし腕を組んで薄ら笑みを浮かべるタウン。
「でもまあ“男だったら”って言葉は痺れるねぇ。騎将(きしょう)くらいは目指しても良いかもな」
「騎将・・・」
湖張が言葉を繰り返すと、タウンは解説を始めようとする。
「ああ、騎将っていうのはな」
「それは知っているよ。ラガース王国において最強の騎士に贈られる称号でしょ?」
「お、知っているのか」
「うん。兄弟子が小さい頃、毎日のように騎将になるって騒いでいたから」
興味ありげな顔を見せるタウン。
「兄弟子?てことはひょっとして、湖張みたいに強いのか?」
気まずそうな顔に変わる湖張。
「あー・・・まあ弱くはないね」
歯切れが悪い湖張の様子を見ると、いたずらっ子のような表情で仕掛けるラナナ。
「10秒で一撃ノックアウトでしたっけ?」
「ちょっと!」
焦って止める湖張。呆れ顔のタウン。
「何だよ、一発で伸したのかよ」
「う・・・だって見慣れた技だったし」
「10秒一撃なら相手はろくに技すら繰り出してないんじゃねえか?」
視線を逸らす湖張。頭を掻くタウン。
「図星か。まあさんざん俺の事を無茶苦茶と言ってはいたが、人の事は言えないというわけだ。」
このタイミングで目が座っているハルザートに話を振るタウン。
「ハルザートはどうなんだよ。剣を教えてくれた師匠的な人はいるんだろう?やっぱりお前くらい強いのか?」
「酒に強いぞ」
「いや、酒に弱いだろお前」
「私じゃない、先生だ!」
「そもそも酒の話じゃねえよ。剣の話だ」
「自惚れるとでも思っているのか!?」
「意味わかんねえよ!」
渋い顔のタウン。思わずテーブルにひれ伏す。流石の彼でも何が言いたいのか掴めなかった様子だ。
「多分、自分と先生と比べる事がおこがましいと思っているんじゃないかな?」
精一杯の推測を湖張がする。体を起こすタウン。
「まあ、その線ではあるだろうが・・・」
その呟き対しての反応なのかは分からないがハルザートが酒を口にした後に言葉を出す。
「先生はな・・・」
そこで固まるハルザート。そして再びテーブルにひれ伏す。
「何なのですか、あなたは・・・」
肘をつき、額に手を当てるラナナ。しかし体を振るえさせて笑っている。彼の様子がツボに入ったらしい。
するとむくりと起き上がる酔っ払い。
「先生はなぁ!」
そこで固まる。呆れた顔で上を向くタウン。
「だから何なんだよ!?」
「今も教団で養っている身寄りがない子供たちに剣を教えているのだ。強く生きて欲しいと願いを込めて。だから強いのだ」
そう伝えられるとスッと真面目な表情に変わるタウン。そして聞き返す。
「もう少し詳しく教えてくれるか?」
フッと笑みを見せるハルザート。そして突っ伏す。
「ここでそうなるのかよ!!」
嘆くタウン。それに頬杖をつき仕方が無いかという表情で話しだす湖張。
「なんかさ、メーサ教では行く当てのない孤児の面倒を見ているんだって。そしてしっかりとした教育だけではなく剣や魔法も教えてくれているらしいよ」
「そうなのか」
「うん、さっき教えてくれた」
視線をタウンに移す湖張。言葉を続ける。
「騎将ってさ、その地位を貴族と変わらないくらい強くすることで、騎将自身が持つ強力な力を政治的に利用されるのを防いでいるんだよね。逆に言えば政治的な権力もある程度持つ事でしょ?だったらさ、タウンさんには騎将になってもらって、メーサ教が独自に頑張らなくても孤児が幸せになれるような活動をしてほしいかな」
心が打たれたような表情を見せるタウン。
「こりゃ参ったな。まさか湖張から知的な意見をいただくとはな」
「何それ、酷くない!?」
「でもそうだよな、頑張らないとな」
穏やかな表情を見せるタウン。そして彼はゆっくりと酒を口に運んだ。
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