ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十八話【歩きながらのコミュニケーション】
- 2021.05.13
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
一夜明け、早々に宿をチェックアウトした後に町を後にした一行。
次の目的地は東北東の方角にある山の中で、徒歩で3日程の距離にあるらしい。
本日はその途中にある町を目指す事になっており、予定の所要時間は6時間程との事だ。
天気は雲が多めの晴れで、雲の影によって常に日の光を浴びることが無く暑さをそこまで感じない。
また、時折見える綺麗な青空が心を爽やかにしてくれて歩きやすい日でもある。
そんな中でゴルベージュに近づく湖張。
早速声を掛けようとする。
ラナナとの夕食後に話す内容を考えていた事と、
昨夜のうちにこっそりとレドベージュにゴルベージュの事を聞いていたので準備は万端である。
レドベージュ曰く、ゴルベージュは頭が固いタイプに思えるかもしれないが、
実は結構話が分かる方で、意外と冗談も通じる気さくな性格らしい。
また、効率重視で淡々としているのは根が真面目なので自分の責務をしっかり果たそうとしているだけらしく、
特に周りには同じような事を求めてはいないらしい。
また、色々と親身になって接してくれるらしく、話を聞く限りだと意外にも接しやすそうだと感じられた。
「そう言えばゴルベージュ様は何であの町にいらっしゃったのですか?」
何気ない素振りで話しかける湖張。するとゴルベージュは顔を湖張に向け大きな瞳で湖張を見つめる。
「この目で赤き聖者を見たかった事が一番の理由だ」
「私たちを?」
「そうだ。話で聞くのと実際に見るのとでは大きな違いがあるからな。
特にレドベージュは評価が甘いから尚更だ」
ゴルベージュの言葉を聞くと、どうやら自分たちの評価をしに来たようだと感じ、少し固まる湖張。
しかしゴルベージュはすぐさま首を横に振る。
「ああ、勘違いしてくれるなよ?二人の品定めをしに来ているわけでは無い。
レドベージュが同行しているとはいえ危険と隣り合わせである事には変わりない。
だから赤き聖者として旅をしても不幸にならない程の力を持っているのか判断をしておきたかったのだ。
私達のせいで人を不幸にしてはならないからな。
私が知りたいのはそういうところだよ」
「そうですか・・・それでゴルベージュ様の判断はどうなりました?」
不安そうに聞く湖張。ラナナも後ろで聞き耳を立てている。
するとゴルベージュはその短い腕を組むようにして答える。
「どうも何も、聞けば修練場の守護者を瞬く間に倒したそうではないか?
二人が失格ならば、他の候補などそう簡単には見つからないな。
ウンバボも褒めていたし二人の事が気に入っていたようだ」
「ウンバボにも話を聞いたのですか?いつの間に?」
「昨夜のうちだ。そうは遠くない位置だからな。二人が眠っているうちに顔を出してきた」
「そうだったのですか・・・」
少し驚いた表情を見せる湖張。
その表情を見るなり、ゴルベージュは前を向き、後ろにいるレドベージュには聞こえない程の小声で話しかけてくる。
「レドベージュは優しすぎる。もしお前たちに何かあれば深く悲しむだろう。無茶はしないでくれよ」
「え?」
予想だにしなかった事を言われ再び驚きの表情を見せる湖張。
ゴルベージュはその様子を横目に見ると、今度は普通の声の大きさで会話を続ける。
「自分が元気でいなければ、自分を大切に思ってくれる人を悲しませてしまう。
だから自分自身を守り抜く力も必要だ。自分の為だけではなく、周りの為にもな」
(ひょっとしてレドベージュの事を心配してきたのかな?)
ゴルベージュの言葉からそう思った湖張。
そして少し話しただけであったが、レドベージュから聞いていた通りゴルベージュは接しやすいとも感じられた。
「あの、ゴルベージュ様」
話が終わったと感じた直後に、再び話しかける湖張。
「どうした?」
湖張の声に反応し顔を向けるゴルベージュに、湖張は覇王の団扇を差し出す。
「えっと、この団扇は元々ゴルベージュ様の物だったのですよね?」
ジッと団扇を見つめた後に頷くゴルベージュ。
「ああ、そうだな。懐かしいな」
「これ、お返ししようかなと思うのです」
「え?」
突然、湖張が突拍子もない事を言い出すので、後ろで聞いていたラナナが思わず声を出す。
レドベージュにもその言葉は聞こえていたようで少し驚いているようだ。
一方ゴルベージュは落ち着いた素振りで湖張を見つめる。
「何故、そう思うのだ?」
「そうですね、私には・・・いえ、人には行き過ぎた力だと感じているのですよ」
「と言うと?」
「その言葉そのものです。元々私は強大な力は好きになれないのですよね」
そう答えると、一呼吸置くゴルベージュ。
「とは言ってもつい先日、強力な技を使いこなせるようにしていたではないか?
話に聞く限り相当な力だと思うのだが、それは別なのか?」
首を横に振る湖張。
「いえ、別ではありません。本来ならばあの技を実践レベルまで習得するつもりは有りませんでした。
ただ、そうも言ってはいられない状況なのかなと思ったので仕方無しです」
「ではそれと同様に団扇も必要な力ではないのか?」
そう言われると、少し考える湖張。
「確かにそうなのかもしれません。自分でも矛盾している事を言っていると思いますよ。
ただ本音としては少し怖いのですよね。
芭蕉の力は正しき道の為にあり。小さい時から祖父から正しい事の為だけに自分の力を使いなさいと教えられてきました。
だから私はその教えに従いますし、実際のところそう思います。
でも、もし自分が正しいと思った事が実は間違ったことで、
その間違いに気づかず強大な力を振るってしまうという可能性も捨てきれないと思いませんか?
そしてその時、強力な技も使え、更には強力な武器も持っているとなると、危険では無いでしょうか?」
「湖張・・・」
後ろから心配そうな表情でそう呟くレドベージュの声が聞こえると、苦笑いで振り返る湖張。
「あはは、何か真面目な心配事を言うなんてらしくないけれど、でもそう思う事も事実なんだ」
「過ぎた心配だ」
振り返った湖張の横から声を掛けるゴルベージュ。そして話を続ける。
「そもそも道を踏み外す人間はそのような事を考えもしない。
お前ならば大丈夫であろう。
また、団扇にも人の悪意を見抜く安全装置を設けてある。何かあっても力は振るえないだろう。
気にすることは無いぞ」
そう伝えられると、少し考える湖張。
「・・・そうですか。では私は大丈夫だとしましょう。
でも今後この団扇を他の誰かが受け継いだ時、その誰かが私が危惧した様な人だったらどうしますか?
間違いに気づけないまま、善意のつもりで力を振るってしまったら」
「そこまで視野を広げるのか?」
「つまり私が言いたいのは、人に行き過ぎた力を授けるのは危険だと思うのです。
今は良くても、十年後、百年後となると話は変わってくるはずです」
その言葉には回答をせずにジッと見つめ続けるゴルベージュ。
そして湖張は話を続ける。
「私が小さい頃から何度も読んでいたお話に鉄の巨人というものがあります。
それは、あるところに力の強い鉄の巨人がいたのですが、力が強く触れる物を簡単に壊してしまうので
誰にも会わないように山の中でひっそりと暮らしていました。
ですがひょんな事から近くの村に住んでいる女の子と知り合い、仲良くなりました。
そして女の子が巨人を村に招待したのですが、
巨人が触れる物全てが壊れていき、多くの怪我人を出してしまいました。
結局、巨人は誰とも触れ合えず、悲しみに暮れながら山に帰るというお話です。
このお話のせいで私が強大な力を怖がっているというわけではありませんが、
これって行き過ぎた力は意図しないものまでを壊すという教訓だと思うのですよね」
その話を聞くと、ゴルベージュは視線を湖張から外して語り始める。
「ちなみに湖張よ。その話の続きは知っているか?」
「続き・・・ですか?あるのですか!?」
少し驚いた表情を見せる湖張。そして頷くゴルベージュ。
「あるぞ。確かに巨人は山に帰ったのだが、その後しばらくすると巨大な牛の様な魔物が村に迫ってきたのだ。
その魔物が通った近隣の町や村は破壊し尽くされ、少女が住んでいる村も同様に跡形も無くなると誰しもが思った。
しかしその時であった。巨人が村の前に現れ、魔物を撃退したのだ。
巨人は村を守った。少女をはじめ村人たちの命と生活を守ったのだ。
そしてその後も巨人は村の守り神として村の周囲を見回っては、近づく脅威と戦い続けた。
すると鉄壁の守りを得た村は外的要因の脅威に怯えることが無くなり発展をしていった。
また魔物によって住む場所を奪われた近隣の人々が集まった事もあり人口が増え、
村から町へ、そして最終的には国になっていった。
しかし国になる頃には、巨人も寿命というか活動限界がきてな。
村を・・・いや国を守るかのように城門の前で動かなくなったのだ。
最後まで人を守り通す姿勢は天晴であった。天が作った研究物として申し分のない成果であったな」
「え?天が作った?」
「そうだぞ。その巨人は人々を守るために天が試作した研究成果だ。
実験の為に地上で活動させていたのだ」
ゴルベージュから物語の続きを聞くと驚いた顔を見せる湖張。
一方で後ろで聞いていたラナナは目を輝かしている。
その中で湖張は恐る恐るゴルベージュに尋ねる。
「・・・まさか実話なのです?」
「そうだぞ?」
「すごいすごいすごい!?」
淡々としたゴルベージュの回答に大声を上げるラナナ。
そして全員の視線が彼女に集中すると「・・・ごめんなさい」と言って話からフェードアウトしていく。
そんな彼女を横目に見た後、ゴルベージュは話を続ける。
「今となっては童話としてしか伝わっていないようだが、
元々は西に位置するアイヴェイト王国の建国物語なのだ。
時が経つにつれて湖張が話した部分だけになってしまったが、本来は守り神になったところまでが一連の話だ。
ちなみに国旗には鎧を着た騎士の様なものが描かれているのだが、それは巨人がモチーフなのだ」
そこまで話すと、数秒の間だけ湖張を見つめるゴルベージュ。そして会話を再開する。
「巨人の力は強く、初めは村を壊してしまった。
しかしその力があったからこそ村を守る事が出来たのだ。
逆に言えば力が無ければ村を守れなかった。
確かに湖張が考えるように行き過ぎた力は危険だ。
しかしその力によって守れるものがある事も事実だ。
それを知っているからこそ私は軍配・・・いや団扇を人に授けたのだ。
なので今更返品は受け付けるつもりはないぞ」
ゴルベージュにそう言葉を伝えられるが、返答が出来ずに固まってしまう湖張。
するとゴルベージュは話を続けてくる。
「今はまだその時ではないのであろうが、
赤き聖者として旅をしていくと、いずれどうしても力が必要になる時が来る事もあるだろう。
そして力が足りずに辛い思いをする事もあるかもしれない。
だからその時に後悔しないように、その団扇は持っておくと良い。
また、いざという時に使いこなせるように準備もしておくのだ。
緊急時に実力が発揮出来ないと結局後悔してしまうからな。
力は使い方次第という事はお前も理解しているのであろう?
悪を圧倒する力、脅威から守る力、窮地から脱する力。
それらは少しでも強い方が良いであろう。
芭蕉の力は正しき道の為にあり。その言葉を体現するために団扇を使いこなすのだ。
お前なら出来ると私は信じているぞ」
「・・・わかりました」
正直なところ、団扇から感じていた得体の知れない力に怖さに近いものを感じていたのだが、
ゴルベージュの話を聞くと、団扇と少し前向きに向かい合っても良いのかもしれないと感じた湖張。
頭の中ではまだ整理しきれていない部分が残ってはいたが、理解を示す言葉がスッと出た事も事実であった。
そして手に持っていた団扇をゆっくりと戻し、再び腰のあたりにしまうのであった。
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