ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百十九話【警戒の昼下がり】

           

山の中を切り開き、何とか作り上げた広場に集まる人々。村人たちは目いっぱいの料理を作っては凱旋した騎士達に振る舞っている。
緊張の糸が切れた様子の騎士たちは、大喜びで目の前の料理を楽しんでいる。酒も入っているようで、徐々にテンションが上がっていき、そろそろ羽目を外しそうだ。

昼下がりで木々の間から降り注ぐ日差しが心地よい事が戦いの勝利による気持ちを更に高ぶらせたのか、酒が進んでいるようだ。先ほどまでの硬いイメージで行動を取っていた騎士達の姿は過去のものである。

ハルザートは相変わらずの冷静を装っている様子で、騎士たちの様子を腕を組んで見守っている。騎士たちのフラストレーションを開放することも必要と理解しているのか、特に止める事はしないようだ。

ロダックの討伐を終えた後、歓喜に包まれた騎士達に対してハルザートが合図をすると興奮冷めやらぬ心を強引にしまい込み、規律を守る形で素早く撤収準備に入った。そしてすぐさま村に帰還を果たす。

村人たちは戦果を聞くなり大喜びをし、騎士達を総出で持て成す事にした。その結果が今である。村中がお祝いムードに包まれ、騎士達と共に村人たちも飲食を楽しんでいる。

「これまた賑やかだね。ここも宴会が好きな村なのかな?」
大きな肉を挟んだパンを両手で持ちながら広場の片隅でつぶやく湖張。隣にはラナナが同じ食べ物を持って立っている。
「どうでしょうか、でも主に楽しんでいるのは騎士達であって村人はあくまで持て成している人の方が多いようです。自分たちが一番楽しんでいたあの村とは違いますね」
「あはは、確かに」

苦笑いの湖張。そして手元のパンを口に運ぶ。
「それにしてもこの肉はおいしいね。ハルザートの言っていた山菜料理とは違うけれど、香草の独特な風味が良い感じだよ」
「そうですね、ただ大きくて食べづらい事が難点ですが」
ラナナの小さな口では攻略が難しそうなボリュームであり、思わず皿とナイフとフォークを注文したくなる。
そんな事を思っていると、正面から誰かが近づいてきた。ハルザートだ。

「あ、おつかれ」
目の前で立ち止まったところで話しかける湖張。軽く手を挙げるハルザート。
「ああ、二人とも大変だったな」
「いや、私たちは何もしていないよ。ただ見ていただけ」
「それを言ったら私もだ。結局弓と投石だけで終わってしまったからな」
「ハルザートは全体の指揮をとっていたじゃない。何もやっていなくはないでしょ?なかなかの手腕だったよ」

湖張にそう言われると、ほのかに照れ臭そうにするハルザート。
「そうか、あまり柄にもないのだがな」
「そんな事は無いと思うよ?」
「褒めても何も出ないぞ」
「ひょっとして照れている?」
「からかうな」

二人のやり取りを詰まらなさそうな目で見つめるラナナ。それに気が付いたのか、一度咳払いをした後に周囲を見渡すハルザート。

「そういえば赤い鎧はいないのか?」
「ああ、レッド君の事?それなら周囲を見渡しているよ」
屋根の上を指さす湖張。その先に視線を移すとレッド君が屋根の上から周囲を見渡している姿が視界に入る。

「あんなところで何をしているのだ?」
「だから周囲を見渡しているんだって」
「何のために?」
「ロダックを警戒しているのですよ」

このタイミングでため息交じりに話しかけてくるラナナ。視線を彼女に移すハルザート。
「ロダックを?」
「元々の報告ですとロダックの数は13体だったのですよね?でも討伐したのは7体です。6体の差に疑問があります」

そう言われると腕を組み難しい顔を見せるハルザート。
「確かにそれは私も引っかかっていた。君はどう思う?」
「ロダックの知能は馬鹿に出来ません。残りの6体に関しては警戒を続ける必要があると思ってはいます。ただ、それでどうなるのかは見当がつきません」
「・・・そうか」
右の拳を顎に当て考えるハルザート。湖張はレッド君を見上げながら伝える。
「だから私たちはしばらくこの村に滞在しようと思っている。もう大丈夫だと思えるまでね」

そう伝えると湖張を見つめるハルザート。そして一つ軽くうなずく。
「そうか、では私も残るとしよう」
「うん?」
「大勢の騎士達を滞在させるわけにはいかないが、一人ならば問題ないだろう。それに私
も気にはなるしな」
「忙しいんじゃないの?」
「これも仕事さ」

その言葉を聞くなり、再びつまらなさそうな目になるラナナ。それに苦笑いを見せ話しかけるハルザート。
「というわけだ、よろしく頼むぞ」
「・・・はいはい分かりました」

「そういえば何でロダックはここら辺に集まったのかな?」
空を見上げながら、ふと疑問に思ったことを口に出す湖張。それに対して首を横に振るハルザート。
「それが良く分からないのだ。これも最近の魔物の妙な動きが関連しているのかもしれないが何とも言えないな。君は何か心当たりはないのか?」
このタイミングであえてラナナに話題を振るハルザート。何とかコミュニケーションを取って関係を良くしようとしているのかもしれない。

「・・・正直なところさっぱりです。そもそもロダックがこんなにまで群れること自体が珍しいとも思えます」
「そうなのか?君は魔物に詳しいのか?」
「魔物は専門外です。ただ、基本的に群れない生き物が集まるという事は、そこに何か理由があるはずです。例えば水場があったり食べ物があった・・・り?」

そう言うなり何かに気が付いたのか少し固まるラナナ。ジッと手元のパンにはさまれた肉を見つめている。そして一生懸命に匂いをかぎ始める。

「うん?どうしたの?」
突然の奇妙な行動を不思議に思う湖張。するとラナナは驚いたような表情を湖張に向ける。

「分かったかも・・・しれません!」
そう言うなり走り出すラナナ。
「ちょ、ちょっと!」
声を掛けられるとピタッと立ち止まって振り返るラナナ。そして湖張とハルザートに大きな声で呼びかける。

「こっち!こっちです!」
そう言うなり再び走り出すラナナ。そしてパンにはさんである肉を焼いている広場の出店に駆け寄る。

「ちょっとちょっと、何?まだ食べ終わってないのにおかわり?」
追いついた湖張がそう問いかけると、首を横に振るラナナ。そして自分の手に持っているパンを湖張に渡すなり、鉄板の横にある香草のそばに寄って、じっと観察をする。

「あの!この香草ってここら辺で採ったものですか?」
肉を焼いている村人に勢いよく問いかけるラナナ。すると少し戸惑いながらも答える村人。
「ああ、そうだよ?どうしたんだい?」
「沢山採れるのですか?」
「ああ、そりゃこの村の名産品だからね」
「名産!?それは栽培ですか?それとも山の中ならばどこでも採れるのですか?」
「ああ、山の上の方ならば割とどこでも採れるよ」

「そうですか、ありがとうございました」
このタイミングで少し落ち着きを取り戻すと、湖張に預けたパンを再び手元に戻すラナナ。
そして不思議そうな表情をしている目の前の二人に話しかける。

「えっとですね、この料理に使われている香草なのですが、ロダックが好んで食べるものです」
「え!?」
「好んで食べるとはいったものの、ロダックは基本的に肉食です。香草を沢山食べるというわけではありません。しかしながら体調を整える時にこの香草を食べると言われています」

「そうなのか?」
静かに驚いた表情を見せるハルザート。
「はい、なのでロダックはこの香草が生えている場所を好んで居座ると言われています」
「すると、この山には香草が沢山生えているから多くのロダックが集まったという事?」
湖張が確認を取ると首を横に振るラナナ。

「いえ、そうとも言えません。何故なら香草が理由でしたら今までも多くのロダックが集まっていたはずです。なので香草だけが理由というわけでは無いと思います。ですが、集まるきっかけにはなったと考えられますね」

「なるほどな」
腕を組んで考え込むハルザート。そして少しした後にラナナを見つめる。
「君は知識と洞察力がもの凄く優れているのだな」
小さくため息をつくラナナ。
「褒めても何も出ませんよ」
彼女の反応に小さい笑みを見せるハルザート。
と、その時であった。レッド君がいた場所から何かが破裂をしたような爆発音がこだまする。

「何!?」
慌てて振り返る三人。するとレッド君の真上に何かが爆発をしたような煙が立ち込めている。どうやら何かが起きたらしい。そう感じるなり急いでレッド君の下に向かう三人。

「どうしたの?何が起こったの!?」
建物の下に到着するなり大声で問いかける湖張。するとレッド君は慌てた様子で答える。
「多くのロダックがこちらに向かってきている!それを知らせるために爆発を起こし注目を集めたのだ」

「なんだと!?」
レッド君の言葉に驚きを見せるハルザート。すると湖張は自分とハルザートの足元に緑色の光の粒を展開する。
「魔法を掛けた。これで屋根まで飛び上がれるからついてきて!」
そう言い残してレッド君の元まで飛び上がる湖張。
「もう、私にも魔法をかけてくださいよ!」
ぼやきながら自分で魔法を掛けて飛び上がるラナナ。突然の事で出遅れるハルザート。

「な・・・待ってくれ!」
半信半疑のまま飛び上がるハルザート。すると意図せず屋根の上まで簡単に飛び上がったので面を食らうが、すぐさま冷静な素振りを見せて湖張たちに近づく。

「ロダックは何処にいるの?」
周囲を見渡しながら問いかける湖張。向かってきていると伝えられたのだが、姿が見えない。するとレッド君は山を背にして、やや上空の方角を指さす。村は山中で木々に囲まれている場所であったのだが屋根の上からだと空や周囲の絶景が見渡せる環境であった。しかし指がさされた場所には肝心のロダックの姿が見えない。

「いないよ?」
「来るぞ」
その言葉を合図にしたかのようなタイミングで、左から右へと6体のロダックが旋回して飛んでいる姿を目撃することが出来た。

「いた!・・・けどまた旋回してどこか飛んで行ったよ?」
目でロダックの姿を追うが、背にしていた山に隠れてしまう。
「うむ、今はああやって山の周囲を回っているのだ」
「うん?ここに向かってきているんだよね?」
「うむ、山を周回しながら少しずつ距離を狭め、こちらに近づいてきているようだ」
「え?」

説明されているうちに、再び姿を見せるロダック。レッド君の言う通り確かに先ほどよりは近い位置を飛んでいるような気がする。
「こちらを・・・狙っているというのか?」
目で追いながら呟くハルザート。するとラナナは呟きに答えるような形で考えを伝える。

「そうですね、こちらを狙っていると考えられます。ロダックは知能が高いです。恐らく私たちが討伐をした時に遠くで観察をしていたのでしょう。ロダックたちにとって人は害をなす者と認識したのかもしれません。なので人を倒して居場所を確保しようとしている可能性があります」
「その可能性は高いな」

ラナナの考えに賛同を見せるレッド君。するとハルザートは何かを決めたような少し怖い表情になり、屋根の上から下にいる騎士達に指示を出す。
「ロダックの生き残りが攻めてくるぞ!村民を安全な場所に避難させるのだ!家の中は駄目だ。食物を保存させる洞窟に避難だ!投石機は間に合わないので投石班は避難の誘導を、弓班は迎撃の準備、槍班は避難する村民の護衛に当たれ!」

ハルザートの号令に慌ただしく行動を開始する騎士達。村民たちは混乱状態になりそうな雰囲気ではあったが、騎士達が手際よく避難を誘導している。
「間に合うのか?」
下には聞こえないようにつぶやくハルザート。指示を出したのは良いが、避難が間に合わないのではないかという考えが頭をよぎる。

「・・・間に合わなくても、守ってみせる」
不安を振り払うように剣を抜き、左上から右下へと振り払うハルザート。少し強めの声で決意を示す姿をジッと見るラナナ。そして湖張の右隣りから小声で話しかける。

「やっぱり悪い人ではないのですね」
「だから悪い人じゃないんだって」
苦笑いを見せながら答えが返ってくると、腰に手を当てて小さくため息をするラナナ。

「湖張姉さまの方針は、あの人は悪人ではないけれども警戒は続けるというものですよね?」
「うん、まあそんなところだね」
「・・・そうですか」
何かを考えている様子を見せるラナナ。その様子を横目で湖張が確認している間に、再びロダックが旋回してきて姿を現す。

「だいぶ近い位置を飛んでいるね」
巨体が視界から空を隠したと感じると、ロダックは翼を羽ばたかせて上空に停滞をし始める。それは上空からじっくりと獲物を狙っているようにも捉えられた。

「来るぞ!」
警戒を促すハルザート。その声が響くと同時に、3体のロダックが急降下をして襲い掛かってきた。

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