ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百話【デスピエロ】

           

ハルザートの忠告の通り、夜が明けてから早々に町を後にした一行。
特にやましい事が有るわけでは無いのだが、いらないトラブルを避けるためである。
町長には昨夜のうちに挨拶を済ませたところ、朝が早い時間にもかかわらず律義にも町中の住人が総出で見送ってくれた。
感謝をしてもしきれない程の事をしてもらったのだが、大した礼も持て成しもできなかったので、せめて町中で見送らせて欲しいとの事だった。

本日の天気は曇り。雨が降りそうではあるが、隣の村までは何とかこのままでいて欲しいと思いながら歩く一行。
強い日差しが無い分歩きやすくはあるのだが、それでもやはり天気が気になる。

「そう言えばゴルベージュ様、イーサラスの事で何か分かった事はありますか?」
道中で何気なく質問をする湖張。
自分が倒したイーサラスをゴルベージュは調べていたようなので、その後が気になっていたからだ。
するとゴルベージュは首を横に振って答える。

「いや、特段変わった点は無かった。普通のイーサラスだったな」
「そうですか。でも何で急に襲ってきたのでしょうか?」
「確かにそれは不可解ではあるな。
あのメーサ教の騎士・・・ハルザートと言ったか?
その者が最近魔物の動きが活発化しているとも言っていたそうではないか。
どういう事なのだろうな」
「天では魔物が活発化している事は把握していなかったのですか?」

何気なく尋ねる湖張。するとゴルベージュは少し気まずそうな雰囲気を出す。
「随分と痛い所を突いてくるな」
「あ・・・」
苦笑いの湖張。どうやらゴルベージュも知らない事だった様子だ。

「知っての通り天は万能ではない。そしてこの世の全てを知っているわけでもない。
だから赤き聖者として二人の力を借りているのだ。
・・・まあそれではいけないのだが、どうしてもな」
ため息交じりにゴルベージュがそう答えると、湖張は首を横に振る。

「いえ、良いのですよ。そのための私達という事は理解しています。
それに赤き聖者の活動は全然嫌じゃないので安心して下さ・・・」

(何?物凄く嫌な空気に包まれている?)
会話の途中で言葉を止める湖張。というのも恐怖と違和感、そして嫌悪感が混ざったような形容しがたい空気に周囲が包まれていている感覚を体全体で覚えたからであった。

と、その時である。
「ダメ!」
強く叫びながら湖張に抱き着いてくるラナナ。
「いかん!」
湖張達の方に体を向けるレドベージュ。
「退避!」
手を払い全員に指示を出すゴルベージュ。
しかしその声が耳に入るのを待たずに、ラナナは魔法で球体の防御壁を展開し湖張ともども包み込むと、抱きしめたまま高速で上空に飛び上がる。

その様子をレドベージュは確認をすると、後方に飛んで下がる。
またゴルベージュも同様に防御壁を自らに展開しつつ横方向に飛んで退避をし始めた。

そしてその直後、今までいた場所では数多くの爆発が発生し、白い煙が周囲を包み込む。

(さっきの嫌な空気はコレのせいだったの?)
上空で爆発の様子を見つめながらそう考える湖張。
そして自らの魔法で浮き始めた後、ゆっくりとラナナから離れる。

「さっき物凄く嫌な空気に包まれたように感じたのだけれども、原因はコレかな?
ラナナも何か感じたのでしょう?」
頷くラナナ。
「はい、とても殺意のこもった魔力が充満しておりましたので思わず避けてしまいました」
神妙な面持ちで答えるラナナ。どうやら彼女も自分と同じものを感じ取ったようだ。
「ありがとう、助かったよ」
そう言って爆発の煙に目を移す湖張。白く充満した煙が散る事は無く、まるでその場を隠しているかのように停滞し続けている。
先程の連続した爆発は決して弱くなく、避けなければ無事ではいられなかったと考えられる。
なので先ほどの地点はどのような状態になっているのか気になるのでラナナがいる位置より少し下がってから現場をジッと見つめる。
と、その時であった。煙の中から人影の様な物が見えたように思える。

(え?人?)
頭の中でそう呟いだ直後、高速で煙から飛び出して湖張の目の前まで一気に間合いを詰める存在が現れる。

それは目と口のみが描かれた嘲笑う表情の白い仮面であった。

余りにも一瞬の事だったため、それしか認識ができなかった湖張。
何か長物の武器で攻撃をしてくると感じると、それが何かを観測する前に飛行の魔法で一気に後方に下がる。
その結果、相手の攻撃を避ける事ができ、何が襲ってきたのか観測する時間を短いながらに得ることが出来た。

上半身には緑色のだぶついたローブの様な服を纏い、下半身はだぶついた白いズボンを穿いている。
両手で巨大な大鎌を握りしめ不気味な笑みを浮かべた白い仮面で素顔を隠している。
その姿はピエロのようでもあり、童話に出てくる死神のようでもあった。

「誰・・・なの?」
余りにも異形な姿なので、戸惑いながら呟く湖張。
しかしそんな事はお構いなしで、ゆっくりと大鎌を構え直す目の前の存在。
どうやら魔法も使えるようで、常に宙に停滞したままである。

そして再び間合いを一気に詰めてくる不気味な存在。
湖張も咄嗟に団扇を手に持ち応戦の構えを取る。
扱いが簡単ではなさそうな巨大な鎌を、まるで軽い棒を振り回すかのように
素早く簡単に、そして正確な狙いで横方向から薙ぎ払ってくる相手。
その刃先を上から団扇で叩きつけて斬撃の軌道を下にずらし、相手のバランスを崩す湖張。
そして流れるような動きで蹴りを入れるが手ごたえがない。
どうやら身を後方に引かれ衝撃を緩和されたようだ。1m程下がらせる程度で終わってしまう。

と、その時であった。上方向から黄色い光線が不気味な白い仮面に向かって飛んでくる。
ラナナだ。しかし電光石火の一撃も白い仮面は反応をし後方に回転しながら避ける。
更には避ける動作の合間に上空にいるラナナに向かって直径30センチほどの赤黒い光の玉を投げつける。
まさかの反撃で虚を突かれたが、反応をしてかわすラナナ。
彼女の横を赤黒い魔法は通過をしていく。

「ラナナ、上!!」
ラナナに向かって叫ぶ湖張。というのも通過した魔法は彼女の更に上の位置で弾け、赤黒い雨のようになりラナナに向かって降り注ぎ始めた。
その状態に慌てながらも全身に球体の防御壁を展開し雨を防ぐラナナ。何とか直撃は凌げそうだ。

湖張はその様子を確認し、ラナナは何とか無事でいられそうと感じた直後、背後からおぞましい気配を感じる。

静かに忍び寄ってきた薄ら笑う白い仮面がピタリと後ろに位置取っている。
このままでは無事では済まない。
そう直観が訴えかけてくると、振り返らずに上方向に魔法で飛び上がる湖張。
すると袖に隠していたナイフで突き刺してきた攻撃をかわす事が出来た。

(危なかった!)
間一髪のところで攻撃をかわした湖張。しかし白い仮面は間髪入れず次の攻撃を仕掛けてくる。
と、その時であった。地上の方から二発の光弾が白い仮面に目掛けて飛んでくる。
それにより攻撃の動作を回避に変える白い仮面。
一方湖張は光弾の出どころに視線を移す。するとそこには手をこちら側にかざしているレドベージュの姿があった。

しかしその援護射撃は無理して行った事だと直ぐに判断がつく。
というのも、レドベージュの周囲には二人の白い仮面がおり、交互に攻撃を仕掛けている。

(他にもいる!?)
その様子に驚く湖張。やり辛い強敵が複数人いる事が危険な状況と思えてくる。

そのタイミングで降り注いでいた赤黒い雨が無くなり防御壁を取り払うラナナ。
そして間髪入れずに湖張のそばにいる白い仮面に向かって光弾を5発放ち回避させて湖張との距離を開けさせる。

「湖張姉さま!」
湖張の隣の位置まで近づくラナナ。視線は白い仮面に向けたまま話しかけてくる。

「この状況は良くないです。今、ゴルベージュ様の姿が見えたのですが3人の白い仮面に囲まれています」
「え!?」
ラナナの情報を聞き慌てて地面の方を見渡す湖張。
すると二人の白い仮面を相手しているレドベージュと三人の相手をしているゴルベージュの姿を確認する。
目の前の白い仮面とラナナの事が気になりゴルベージュの事まで気が回らなかったが、どうやら良くない状況のようだ。

「なので急いで目の前の敵を倒して援護に向かいましょう」
目を逸らした湖張の代わりに目の前の白い仮面を監視し続けていたラナナがそう伝えると、視線を元に戻して答える湖張。

「そうだね、ただラナナは目の前の奴に一発だけ魔法を放ったら直ぐにゴルベージュ様の援護に回って。最初に僅かな隙を作ってくれるだけで大丈夫。
目の前の奴は私がどうにかする。その後レドベージュの援護にも回るから」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」

小さく頷くラナナ。そして問いかける。
「タイミングは?」
「いつでも」

その言葉を聞くとラナナは小さく息を一つ吐く。
そして次の瞬間、一気に目の前に手をかざして白い仮面に目掛けて光弾を放つ。
白い仮面は右方向に移動をし、かわす動作に入る。
その動きに反応した湖張は仮面の動きに先回りするように高速で飛び込み、距離を縮め相手の頭上から叩き落す形で拳を振り下げる。
すると白い仮面は拳が触れる寸前ところで下方向にふわりと避けるように降下する。

「もらった!」
湖張がその言葉を発すると同時に彼女の拳の先から白い光弾が放たれる。
拳で叩き落とすと見せかけて、実際は近距離から魔法で突き飛ばす戦法を取った湖張。
先程も攻撃を当てても、上手く力を逃がされて威力を緩和されていたので、
魔法を拳の先まで放つ事により自分の手が届く更に先にまで衝撃が届くようにした。拳で殴ると見せかけて至近距離から魔法を放った形である。

その結果、上手い具合に直撃させられたのか、地面に向かって急降下する白い仮面。
そしてレドベージュと交戦している他の白い仮面のすぐそばに叩きつけられる。

「覇王爆炎弾!」
間髪入れずに上空から叩きつけた白い仮面に向けて渾身の一撃を放つ湖張。
大声で技名を叫んだ事により、レドベージュも反応しやすかったようで後方に飛び距離を開ける。

そしてその直後、着弾した周囲は大爆発を起こした。
巻き起こる爆炎。周囲は煙と砂埃で視界が遮られてしまう。

「レドベージュ!!」
覇王爆炎弾を放ち場の動きが止まったと感じると、湖張は彼の下に急降下して援護に向かう。そして隣に着地をするとレドベージュは視線を煙から逸らさずに話しかけてくる。
「今ので二人は倒したようだ。上手く巻き込んだな。大したものだ」
「そうなの?」
「うむ、気配が地面に沈むように消えた。後は残り一人だ。
いつ視界が悪い中で飛び込んでくるのか分からないから油断はするでないぞ」

そう伝えられると同様に煙を注視する湖張。その中で質問を投げかける。
「ところで一体、この人たちは何者なの?
とても奇妙だけど、物凄く強い。手加減をする余裕が無かったよ」

そう伝えるとレドベージュは一瞬何かを考えた間を持つが返答をする。
「あれはデスピエロ、盲界の精鋭だ」
「え!?」
盲界と言えば足取りを追っているキュベーグの住む世界である。
まさかの言葉に驚きを見せる湖張。

「我々が天に移住し人々から距離を置く際、ウーゾ神は自らの民には自衛の力が足りないのではと危惧をした。
というのも当時は巨大な魔物も今より多く、各地も国としてまとまりが今ほど無かったので危険な状況に陥りやすかったのだ。
そこで自らの民に特殊な武器や魔法、そして戦闘技術に戦術等の戦う術を授けた。それを操るのが死滅の道化師、デスピエロだ」
「ピエロか・・・派手さはないけれど、確かにそんな感じの服装だね。
だけどまあ随分と物々しい名前だね」

湖張がそう返すとレドベージュは一つ小さなため息をつく。
「うむ、そう感じるとは思うのだが死滅といっても実は、もたらされる死を滅するという意味らしい」
「・・・どういいう事?」
「つまり、降りかかる死を無効にする道化師という事だ」
「・・・うん?」
「分かり辛かろう?何でそんな名前にしたかというと、ウーゾ神曰く、かっこいいからだそうだ」
「・・・・・・うん?」

危険な相手がいつ飛び込んでくるのか分からない状況だったが、あまりにも意味不明な事をレドベージュが言うので、呆れ顔になる湖張。
「つまりそれって、悪者の名前じゃないですよって事?」
「まあそんなところだ」
「なんだかなぁ・・・」

若干脱力感を覚えた湖張。その様子を横目で見るなり、レドベージュが注意を促す。
「隙を見せる出ない。名前には遊びが入っているが、ウーゾ神が授けた戦う術は侮れない。隙を見せると一瞬で仕留めてくる。デスピエロは危険な相手だ」
「そうだね、そうだと思うよ」
強い視線で煙の中を見つめる湖張。そしていつ攻撃を仕掛けられても大丈夫なように再び集中をする。

その一方でラナナは上空に停滞したまま左手で右手首を握りしめ、無言のまま狙いを定めている。
ゴルベージュの周囲にいる白い仮面、デスピエロが目標だ。

小さく息を吸った後に、1メートル程の細長い光の矢を高速で撃ち出すラナナ。
真っすぐと進む矢。そして目標の左肩に上から刺さるように射抜く。
上空から高速の狙撃に反応できなかったのか、何が起きたか分からないうちに倒れ込むデスピエロ。力ない様子で崩れると、動かなくなった。

そしてその直後、まるで海に沈む様な感じで地面に沈んでいき、消えていく。
奇妙な光景なので一瞬目を疑うが、攻撃の手を緩める暇はないと考えたラナナは再び光の矢を上空から放つ。

しかし二度目の攻撃は通用しないようで、残りの白い仮面は踊るような動きで回避をする。
だがその動作を見逃さないゴルベージュ。デスピエロの動きを先読みして光弾を飛ばし命中させると小さな爆発を発生させる。
その結果、よろめき動きが止まるデスピエロ。そして再び上空からラナナの光の矢が降り注ぎ地面に沈む事となる。

「残りは一人・・・いやレドベージュの所と合わせると二人か?まあ問題はないな」
独り言を口にしながら目の前のデスピエロに右手をかざすゴルベージュ。
そして次の瞬間、手からは何も出ていないように見えたのだが、何かの衝撃をぶつけられたかのように後方に吹き飛ばされるデスピエロ。そのまま受け身も取れずに地面に背中から滑り込む。

「これで終わり」
上空で呟くラナナ。倒れているデスピエロに狙いを定め光の矢を放ち始める。
高速で突き刺しに向かう光。これで残りは一人となりそうである。

と、その時であった。湖張達の目の前にある煙の中から人影が急に飛び出してきた。
残りのデスピエロである。しかしその者は湖張達に襲い掛かったわけでは無く、倒れている仲間の下に飛び込んでいく。
そして矢が倒れているデスピエロに刺さる直前に、大鎌で魔法を弾き直撃を妨げると
すぐさま仲間の胸元に手を当て、地上の中に沈んでいった。

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