ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十五話【ジュエルソード】
- 2025.08.27
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
洞窟を後にした後、20分と経たないうちにスタート地点であり最初に黒い魔物と戦った場所へ戻る事が出来た。
当然のようにそこには魔物の姿はなく、戦闘の形跡として地面に無数の穴が残っているだけであった。
「さて、どうする?」
腰に手を当てて全体に問いかける湖張。するとタウンは光を放つ魔道具を取り出す。
「ここで誘き出そう。さっきもここに現れたんだ。行動範囲ではあるだろう。
それに開けた場所だ。下手に斜面より戦いやすい」
頷くハルザート。
「賛成だ。作戦は頂上の時と同じく4人が散開して魔法で攻撃をして防御壁を出し切り、私と貴殿で接近戦を仕掛けるで良いか?」
その言葉を聞くと腕を組み少し不服そうな顔を見せるタウン。
「その内容だと一つだけ問題があるな」
その言葉を真剣な視線で返すハルザート。
「それは?」
「俺の名は貴殿じゃない。タウンだ」
強気な笑顔でそう返すと、面を食らったハルザート。
「呼び名は検討しておこう」
彼が小さい笑顔を見せると、満足そうな顔になるタウン。
そこで呆れた笑顔で近づくラナナ。
「まったく、男の人って楽しそうでいいですね。ほら、魔道具を出してください」
「ん?どうした?」
そう言われると素直に差し出すタウン。するとラナナは魔道具を手に握りしめ一瞬だけ魔法を施す。
「より強い魔力を発するようにしました。誘き出しやすくなるかもしれません」
「ありがとな。やっぱり凄いなお前って」
そう言われると呆れた顔で答えるラナナ。
「私はお前じゃなくってラナナです」
その答えにまたしても満足そうな笑顔を見せるタウン。
「なんだよ、ラナナも楽しんでいるじゃねえか」
小さく笑顔を見せるなり後方に下がるラナナ。
するとゼンは彼女に向けて少し驚いた表情を見せる。
「今のは魔道具の出力を上げたわけじゃないよね?魔力転送の魔法?」
頷くラナナ。そして苦笑いを見せる。
「はい・・・本当に先輩は凄いですよね。見抜いちゃうんですね」
より強い驚きの表情を見せるゼン。
「ひょっとして、君はアルサキエナを完成させている?」
首を横に振るラナナ。
「いえ、それは先生の研究ですし私は完成させてはいませんよ。
ただ卒業の少し前、お手伝いした時にこの程度のちょっとした転送なら出来るようになりました。それは先生もご存じですし研究の進捗にも繋がりました」
「そうか、そうなんだ。でもその進捗は聞いてはいなかったな」
その言葉を聞くと、少し困った顔を見せるラナナ。
「そうですか・・・そうでしょうね」
「どういう事?」
左下に視線を逸らした後、少しだけ考えるラナナ。そして小さな声で答える。
「・・・先生はこの研究を止めると思います」
再び驚きの表情を見せるゼン。
「何故!?」
そう問われると彼の目をジッと見つめるラナナ。
「・・・託されるのではなく、奪えるとしたら」
その一言で恐怖を悟ったような顔になるゼン。顔を背け手で口を押さえる。
彼の様子から伝えたいことが伝わったと感じたラナナは更に付け足す。
「研究の途中で分かったのです。それも可能だと」
「・・・そんな」
「悪い、そろそろ始めても良いか?」
長くなりそうと感じたのか声をかけるタウン。するとゼンもこのタイミングでやり取りをするのは良くなかったと感じたのか、ため息を一つつく。
「はあ、ごめん。とりあえずは仕事に集中させてもらうよ」
そう伝えるとタウンは全員に話しかける。
「今日はこれから一時間しか待たない。登山に下山、そして戦闘もして疲れが出てきてはいるだろ?日も暮れちまうからな。無理に頑張っても危ないだけだからな。でだ」
一呼吸を置くタウン。
「明日は暇か?」
「ああ、今日中に倒せなかったら明日も討伐につきあえって?」
明日にも続くことは想定外だったので少し目を大きくしながら湖張はそう問いかけた後にレッド君を見る。
「うむ、その方向で良かろう」
答えを聞くなり、今度はハルザートを見るタウン。
「ハルザートは?」
ため息が一つ返ってくる。
「暇ではない。だが見過ごせはしない。予定は合わせるぞ」
「へへ、そうこなくっちゃな」
嬉しそうな顔を見せた後に魔道具をかざすタウン。
「それじゃあ行くぜ!少し離れていてな!」
魔道具が光を放つと手で握りしめ光を遮るタウン。そして周囲の些細な音にまで感じられるように神経をとがらせる。
それは皆も同じで、音を立てず周囲の些細な変化も感じ取る気持ちで集中をする。
僅かな北東からの風に時折、遠くから鳥の声が乗ってくる。雲の影と日の光が入れ替わると何かが起きそうな気がするが、大地は一向に揺るがない。
本当に魔物がこの付近にいるのか疑問に思えるくらい、穏やかな雰囲気が流れている。
その中で突如としてラナナの腕から飛び降り、小走りでタウンに駆け寄るユカリ。
「ん?どうした?」
タウンが問いかけると、上空を見上げ手を指す動作が目に入る。
と、その時であった。レドベージュが大きな声を上げる。
「上だ!」
急いで上空を見上げるタウン。すると目と鼻の先に大きな黒く巨大な口が迫ってきている。
「何!?」
ぎりぎりの所で横に飛び身をかわすタウン。
そして体を反転させ現状を把握するために襲ってきた存在に視線を移す。
ユカリも同様に避けきり、急いで駆け寄りラナナの腕に飛び乗る。
「おいおい、冗談キツイだろ」
目の前にいるのは黒い異形の魔物であった。しかし予想していた姿ではかった。
というのも足の役割をしていた部分が全て首と思われていた攻撃器官に代わっており、地上から3メートルほどの高さで浮き続けていたからだ。
ハルザートを狙い撃った時に変形した足がそのままの様子であった。
「仕掛けるよ、タウンさん!」
様子は変わってはいたが怯むことはなく、行動に移る湖張。
円を描くように移動し、魔物の後方に移動しながら合図をすると他の者も四方に散らばる。
「やってくれ!」
抜剣しながら答えるタウン。ハルザートは既に巨大な青い剣を生成している。
「いけぇ!」
小さな玉の攻撃魔法を放つ湖張。それに合わせるかのようにラナナとレッド君、ゼンが魔法を放つ。そして空高く飛び立つハルザート。魔法が着弾した直後に斬撃を仕掛けるタイミングであった。
しかし魔物は姿と同様に行動も想定外であった。先ほどは防ぎきれなかったはずである四方からの魔法を全て灰色の防御壁を展開し防ぎきってしまう。
「はああああ!」
構わず気合を入れて斬りかかるハルザート。しかし同様に灰色の壁が剣の前に展開され、本体には届かない。深くは攻め続けず後方に飛び距離を取るハルザート。予想外の反撃がある可能性を感じたからだ。
「くるぞ!」
注意を促すタウン。魔物は5本の口を開き攻撃を仕掛けた者に対し、それぞれ別方向に狙いを定める。
直後、放たれる凶悪な砂の流れ。地面に触れると轟音と共に溝が出来上がっていく。
硬いはずの地面が、粘土のように簡単に変形をしていく。
また魔物の攻撃は先ほどより激しく砂の流れをずっと吐き続け、薙ぎ払いを仕掛けてくる。
懸命に躱す一同。固まると逃げ場がなくなると思い、周囲に気を使いながら避け続ける。
余裕のない防戦となってしまう。
その中で、何とか打開策を見出そうとするラナナ。魔物より少し高い位置に魔法で飛んで攻撃を回避しつつ観察をする。
「ぎゅー!」
「え!?何!?」
突然左腕にしがみ付いていたユカリが声を上げると空高く飛び上がる。いきなりなので驚くラナナ。ユカリの軌道を見上げる。
「何かするの!?」
ユカリの意図がハッキリとは分からなかったが、何かしら仕掛けると感じたラナナ。体制を立て直すチャンスと感じ、全員に向かって大声を上げるラナナ。
「離れる準備をして!」
他の者達が何事かと思った次の瞬間、魔物の上空から急降下してくる影が目に入る。
それは本来のサイズに戻ったユカリであった。前両足を丁字型に広げながら揃えた後両足で踏みつけると、灰色の防御壁に防がれ続けるが決して引かないユカリ。
双方ともに押し続ける攻防をする。直接的なダメージを与える事は出来てはいないが、砂の流れを止める事は出来た。
10秒ほど押し付けた後にユカリは少し距離を置いた地点に着地をする。そして再び前両足を丁字型に広げると高速回転をして魔物に向かい、何度も攻撃を仕掛け続ける。
「打ち合わせすっぞ!集合だ!」
この機を逃さないタウン。全員に言葉を投げると、50m程の距離まで離れて集まる一同。しかし再び砂の流れで狙い撃たれかねないので、ゼンは魔物から視線を逸らさずに、いつでも防御壁を展開できる準備をする。そして提案をする。
「ここは一度、退かないかい?想定外すぎる。取り返しがつかない事が起こりかねないよ」
しかしタウンは首を横に振って返す。
「いや、ここで退いたとしても完璧な対策を取れるかといえば答えはノーだ。城に帰って大勢の兵を連れてきたとしても、無駄に損耗するだけだろう。むしろ大物の討伐だったらこのメンバーの方が優位だと思うぜ」
「随分と評価が高いね」
湖張が何気なく問いかけると呆れた顔で返すタウン。
「40人以上、うちの兵をボコったくせによく言うぜ」
何をやっているのだという顔で湖張を見るハルザート。
「何をやっているのだ?」
気まずそうな表情の湖張。
「だってさ・・・。というかじゃあどうするの?」
すると真面目な顔で逆に問いかけてくるタウン。
「湖張、俺に向けた最後の技あるだろ?本気だとあの何倍の威力だ?」
少し考えた後に答える湖張。
「そうだね・・・10?いや20倍くらい?」
「マジかよ、おっかねー女」
「はぁ!?何それ!?」
冗談を交えつつ少しニヤッとした後、今度はハルザートに問いかけるタウン。
「なあハルザート、まだ俺らに全力の一撃は見せていないよな?」
「何が言いたい?」
「飛んでるアイツを地面に叩きつけられるよな?防御壁なんて関係なく丸ごと。行けるだろ?」
期待とも取れる挑発の表情で問いかけるタウン。それに小さく笑みで答えるハルザート。
「面白い、やってやろう」
「決まりだ」
そう言って右手の剣をしまうタウン。そして作戦を告げる。
「俺がアイツの5本の首っぽいのを斬り落とす。そうしたらハルザートはアイツを叩き落としてくれ。防御壁ごとだ。そこを湖張以外三人が魔法を連続で当てまくる。その中でワンテンポ送らせて湖張が全力でぶっ放す。湖張の20倍だったら防御壁なんかも吹き飛ばせるだろう」
「はぁ!?そんな確証ないよ!?」
慌てる湖張に自分の頭を掻いて答えるタウン。
「いや、平気だろ。さっきお前らが魔法を仕掛けていた時、離れて見ていたら気づいたんだ。確かに全部の攻撃を防がれてはいたが、後の方になればなるほど防御壁の色が薄くなっていた。つまり限界はあると思える。ユカリが踏みつけた時もそうだ。少しずつ色が薄くなっていた。多分だが破れるぜ、アレ。それに世の中、壊れないものなんてないだろ?たとえそれが魔法であったとしても」
「だとしても、どうやってタウンさんは首っぽいのを斬り落とすの!?」
湖張の問いかけに人差し指で自分の頭をトントンと叩きながらニヤッと見せ答える。
「脳みそが筋肉なものでね、力づくでやるわ」
「え?言っている意味が分からない!?」
湖張の言葉には反応せずに右手を広げ、前方に出すタウン。そして声を上げる。
「ジュエルソード!」
突然大地の中から剣が飛び出してくる。それは青く輝く宝石のような剣の中に7色の宝石が数か所に装飾されている。その美しさは剣というよりは芸術作品であった。
ゼン以外の者は驚きの表情を見せるが、剣に対する言葉が発せられる前にラナナに声を投げる。
「ラナナ、ユカリを下げられるか?」
「やってみます・・・ユカリ、下がって!」
タウンの要請に答えるため、大声で呼びかけるラナナ。するとユカリは後方に大きく飛び上がり距離を取る。
「作戦開始だ!」
剣を右手に握りしめ突進するタウン。
「もう、予想外の事をやり過ぎ!どうなったって知らないよ!」
呆れながらも距離を縮める湖張。両手を前に突き出し覇王爆炎弾の構えに入る。
同様に他の者もそれぞれが適正な位置取りをし始める。
「うおおおおらぁあああああ!」
上空の魔物に飛び込みながら目一杯の力でジュエルソードを右下から切り上げる。
すると当然のように灰色の壁が剣の妨げとなるがタウンの勢いは止まらなかった。
一瞬だけ拮抗状態になるが、すぐさま灰の壁は切り裂かれ正面の攻撃器官が切り落とされる。
回転する動きを止めず体を反転させ魔物に背を見せた状態になると、左脚で下から上へと回し蹴りを繰り出す。すると脚から衝撃波のようなものが発生し左前脚だった攻撃器官を根元からそぎ落とす。
体勢を崩し右方向に体が向く魔物。左後脚だった部分が目の前に現れると、タウンは左手の剣を振り落とし切り落とす。
(攻撃が早すぎて防御壁が出せないんだ)
タウンの猛攻に驚きつつも冷静に観察をする湖張。このまま倒しそうな気もしたが、技の準備は止めない。
「おらぁ!」
右足で横から蹴りを決めるとさらに回転をする魔物。そして右側面の攻撃器官を目の前に持ってくると、両手の剣で残りの二本を切り落とす。
「ハルザート!!」
そのタイミングで魔物よりさらに高い位置から降りかかる巨大な青い剣が姿を現す。
ハルザートだ。
「はあああ!」
渾身の力で剣を振り下ろすハルザート。すると魔物は攻撃器官を失ったものの、一瞬の合間があった事で灰の防御壁を展開し攻撃を防ぐ。発生する強い衝撃音。進まない斬撃。しかしハルザートは引かず更に力を加える。
「おおおおおおおお!」
より強く、大きく輝く剣。普段の冷静な彼はそこにはなく、気迫の塊のような雰囲気である。
巨大な木が割れたような音が鳴り響く。
すると防御壁に少しずつひびが入っていき、終いには砕け散る。
壁を破壊し魔物に到達をするハルザートの剣。
そして魔物は硬いもので叩かれたような轟音と共に地面に叩き落とされる。
「今だ、撃て!!」
距離を取りながら三人に合図を送るタウン。すると三方向に分散していたラナナとレッド君、ゼンは大量の小さな光弾を連続で放つ。
すると再び防御壁は展開されるが、魔法が放ち続けられるとタウンの観察どおり次第に色が薄くなっていった。
「湖張!」
タウンと同様に巻き込まれないために距離を取りながら合図を送るハルザート。すると湖張は技を解き放つ。
「覇王爆炎弾!!」
巨大な白い球体が赤い爆炎を纏い魔物にぶつかる。
発せられる強い光。激しい轟音。これまでにないほどに遠慮せずに全力で解き放たれた技は防御壁など関係無しに魔物を飲み込んだ。
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