ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十四話【斜面の横穴】
- 2025.08.14
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
焚火を消して、その場から離れる一行。とりあえず森を抜けるために崖沿いを沿って進むことにする。
ハルザートの調子は大分良くなったようで、歩き方はしっかりとしていた。
タウンが思うほどには心配をしなくても良さそうではある。
その様子から、歩く速度を落とさずに進む一同。
道の右側は鬱蒼とした木々が並び、左側には岩肌が見えた崖がそびえ立つ。しかしながら不思議と木と崖の間には人一人が通れるくらいの隙間があり、意外とスムーズに進むことが出来た。
道中ではフーギルをはじめとした魔物との遭遇も警戒していたが、特にそのような事はなかった。やはり謎の黒い魔物に狩られた後なのかもしれないと呟くタウン。
しかしながら大地を破った後も見つかる事は無く、ずっと似たような景色が続く。
時折、通りすがる木をジッと見つめるハルザート。立ち止まる事は無かったが
移動しながら顔を向け続けている。
その様子を不思議に思った湖張が問いかける?
「木が気になるの?」
その問いかけに不思議そうな表情を見せるハルザート。
「駄洒落か?」
「なんでよ?」
「・・・すまん」
ばつが悪そうに眉間に手を当てるハルザート。
しかしすぐさま何もなかったような冷静な素振りで話し始める。
「木には魔物や動物の痕跡が残る事がある。それが無いか確認をしていたのだ」
「あー爪痕とか?」
「そうだな」
「何か見つかった?」
その問いかけに少し考える素振りを見せるハルザート。そして答える。
「いや、木には異常は見つからなかった。だが、何か違和感がある」
「違和感?」
そう問われると立ち止まり、先頭のタウンに声をかけるハルザート。
「すまない、少し立ち止まってくれないか?」
「どうした?」
振り返り疑問を投げかけるタウン。すると横方向を見つめるハルザート。
「違和感・・・と言っていいのか分からないが、妙な感じがする」
「というと?」
「未開の地なのに妙に歩きやすくないか?」
今まで崖に沿って進んでいたのだが、大きな障害物にぶつかる事は無かった。
また草木もさほど生えてはおらず、進んできた場所は道のような雰囲気があったと気付かされる。
「確かにそれはあるな。ひょっとして獣道か?」
「ああ、それはありえる。だが、それとは少し違う感じもする」
「というと?」
そこで困った表情を見せるハルザート。
「いや、すまない。笑うかもしれないが・・・勘だ」
「勘?」
不思議そうな表情の湖張。しかしタウンは真面目な顔をして彼を見つめる。
「いや、笑わねえよ。むしろあてにさせてもらう。
お前は多くの魔物を狩っているのだろう?だから肌で何かを感じているんだ。
そういうのは勘っていうんじゃない。経験則だ」
そう返ってくるのは予想外だったとのか、少し目を大きくして若干戸惑うハルザート。
「買い被りすぎだ」
「そうか?・・・で他に何か感じた事は?」
すると少し遠くに意識を向ける様子のハルザート。
「先ほど休憩した場所では水の・・・小川の音がしたが
進むにつれて音が聞こえなくなった。今も聞こえない」
「水辺に通じる獣道を私たちは辿ってきたという事でしょうか?」
そのタイミングでラナナが考えを口にすると、少し考えるハルザート。
「ああ、その線も大いに有り得るな」
そう言った後、彼はその場でしゃがみ込み土を触る。
「踏み固められたような硬さだ」
その話を聞くと、地面を強く踏みつけるタウン。
「確かに。これは何かしらの道だな・・・ゼン、意見を聞かせてくれ」
周囲を見わたすゼン。
「そうだね、情報が少ないから的外れかもしれないけれども・・・」
「ギューギュー!!」
台詞に割り込むように突然、声を出すユカリ。手で今までの向かっていた方向を示している。
するとそこには皮膚の硬い魔物が一匹、ゆっくりとこちらに向かってくる姿があった。
「なるほど、あの魔物が通る道だったというわけか」
腕を組んで観察をするタウン。すると湖張が横から問いかける。
「どうする?退治する?」
さらに後方からラナナも会話に加わる。
「それか敢えて放っておいて、あの黒い魔物を誘い出す要因にしてみるのも手ですよね」
「・・・ゼン、どう考える?」
即決をせずに意見を求めるタウン。
「・・・確かに捕食された実績があるから、餌にするのはありだとは思う。
でもどのくらいで食らい付いてくれるかの見通しが立たないのが痛いね。
それにもしこの場で黒い魔物が現れたとしても木々に囲まれた狭い空間だから戦いづらいのはあるね。生け捕りにして開けた場所まで連れて行くのが理想だけれども・・・いや駄目だね。移動中に、それこそ狭い空間を通りがかっている時に出てこられたら、こちらがやられかねない。狭い場所での無駄な戦闘もあれだし、襲われない限りは特に何もせずにやり過ごすのが良いかな」
「・・・じゃあそうするか」
タウンの手による指示で皆は木の陰に隠れる。それに気づいているのかどうかは定かではないが、魔物は警戒をすることも無く目の前を通過していく。
「行っちゃったね」
木の陰から出て魔物の後ろ姿を見つめながら湖張が呟く。
「やっぱり水辺に向かっているのでしょうか?」
「気にはなるけれども、追うのもなぁ・・・」
腕を組んで小さく息を吐く湖張。
「まあ今回はやり過ごすぞ。今は先を進もう」
そう言って歩き始めるタウン。
それに続くように全員歩き始める。
しばらく進むと絶壁だった左側の崖が徐々に急な斜面に、そして次第に緩やかな坂に変わっていく。
また、岩肌ではなく草木に覆われ始める。どうやら崖の下から山の麓付近に変わった様子だ。
周囲を見渡すと大きな木に囲まれ、気づいたら森の中であった。
「何か方角が分からなくなりそうだね。」
「うむ、問題ないぞ。こういう時の魔法だからな」
湖張の呟きに答えるレッド君。するとタウンが話しかけてくる。
「とりあえずこのまま山は登らずに、山道の入り口に戻ろうと考えています。なんとなくは方角を把握しているつもりですが、逸れたら教えていただいてもよろしいです?」
「うむ、良いだろう」
そのやり取りの後方で、周囲を見渡すハルザート。そして斜面の上の方を見つめる。
「・・・あれは穴か?」
全員に聞こえるように少し大きめの声で問いかける。
彼が指さす方向を見ると、山の斜面に横穴のようなものが空いている場所があった。
「あれは魔物の痕跡?」
「いや、違うと思うよ。周囲を破った形跡はなさそうだからね」
湖張の言葉に反応をするゼン。そしてジッと見つめる。
「洞窟・・・かな?」
ゼンの予想に問いかけるタウン。
「こんな所にか?」
「調べる価値はありそうだね」
ここでハルザートもやり取りに加わる。
「私も調査に賛成だ。何かしらの手掛かりがあるかもしれない」
「三人の意見は?」
湖張たちにも確認を取るタウン。湖張は横目でレッド君を見ると軽く頷く素振りが見える。
「うむ、良いと思うぞ」
「決まりだな」
そう言うと穴に進み始めるタウン。他の者も後に続く。
警戒しながらゆっくりと背丈の低い草の斜面を登り、横穴を除きこむ。
するとそこには意外なものが視界に入る。
「扉?」
目の前に現れた物を言葉に出す湖張。
人気が無い場所ではあるのだが、あからさまに人が作った木製の扉が横穴を塞いでいた。
扉をジッと見つめるタウン。そしてゼンに問いかける。
「知っているか?」
「いや、聞いたことは無いね。国の施設では無いよ」
会話にハルザートも加わる。
「ここが立ち入り禁止になったのは3か月前と言ったか?するとそれ以前に誰かが作ったという事か?」
頷くゼン。
「そういう事になるだろうね」
「誰か住んでいるのかな?」
首を傾げて湖張がそう言うと扉を見つめつつハルザートが答える。
「どうだろうな。だが誰かがいる気配はないな」
「よし、入ってみようぜ」
そう言って扉に近づくタウン。湖張は思わず制止する。
「ちょっと、大丈夫なの!?」
「分からん。でも分からないままでも駄目だろう?」
「そもそも、その扉は開くのかな?」
「どうだろうな」
そう言って扉の取っ手に手をかけるタウン。すぐさまガチャっと音がする。
「お、開くじゃねえか」
「鍵はかかっていないの?」
「そのようだ」
扉をゆっくり開けると、先が見えない暗い洞窟が視界に入ってくる。
どうやら洞窟を扉で塞いでいただけの構造のようである。
「ふむ、これでは分からぬであろう」
そう言ってレッド君が左手から光の球を出し天井付近に移動させると、今まで見えていなかった部分が認識できるようになる。
するとまず目に入ってきたものは木製で四角い4人掛けのテーブルと椅子であった。
「机と椅子?休憩場所なのかな?」
机に近づき手を当てる湖張。そしてある事に気が付く。
「埃っぽくないよ、この机」
「つまり人の出入りが最近もあったという事か」
タウンの反応に頷きを見せる湖張。そして今度は壁を見渡す。すると目を大きく開けて驚きの表情を見せる。
「ねえレッド君、アレって!」
壁にあるレリーフを指さす湖張。そこには赤く太陽のような形の刺繡が施されていた。つまりはメーサ教の紋章である。レドベージュと知り合ってすぐの頃に調査した淀みの原因であった小さな家にあったものと一緒であった。
「湖張はこの紋章を知っているのか?」
すぐさまレッド君が反応してくると思っていたのだが、声をかけてきたのはハルザートだった。
「知っているも何も、アナタにだってこの紋章・・・あれ?無い?」
ハルザートの周りをぐるぐると回り体中を見るが同じ紋章は見つけられなかった。今更になってその事に気が付くなり眉間にしわを寄せて問いかける。
「これってメーサ教の紋章でしょ?何でアナタには無いの?」
するとハルザートは特に隠す素振りも見せずに答える。
「確かにこれはメーサ教の紋章だ。だが全員がこの紋章を身に付けているというわけではない。
前にメーサ教でもグループに分かれていると言ったのを覚えているか?その中で勧誘に特化したグループが主にこの紋章を好んで付けている」
その答えに疑問の表情を見せる湖張。
「そんな自由で良いの?紋章なのだから全員つけなさいーって事は無いの?」
首を横に振るハルザート。そして苦笑いも見せる。
「いや、無いぞ。前にも言った通り信仰より正しい事の為に力を振るう事に私は優先しているし、教団もそれを許している。意外とそこらへんは自由なのだ」
「そうなんだ」
ようやく湖張が疑問の表情を解くと、ハルザートは紋章を見ながら更に情報を伝える。
「そしてこの刺繍、赤が使われているな。これは技術部の紋章だ」
「技術部?」
湖張の質問に頷くハルザート。
「ああ、教団用の日用品や衣類、武具等を作るグループだ。それこそさっき槍の話が出ただろう?それも技術部が作ったものだ」
「じゃあここはメーサ教の技術部の施設って事!?」
湖張の問いかけにまたも頷くハルザート。その直後、ハッとした顔を見せる。
「そうなるが・・・そうか!だからか!」
「どうしたの?」
「いや、この山は人気が無い場所だろう?でも何で魔物の出現を知り、討伐の話が教団から出たのか少し疑問だったのだ。だが合点がいったぞ。教団の技術部が魔物に困っていたから私に話が持ちかけられたのか」
その様子を窺うなり、確認を取る湖張。
「ハルザートはこの場所の事を知らなかったという事?」
「無論だ。正直、ここに教団の施設がある事に対して一番に驚いているのは自分である自信すらある」
「そんなになんだ」
その答えに苦笑いを見せる湖張。そして左の方を向くと、タウンがしゃがんでいた状態から立ち上がったように見える。
「うん?どうかしたの?」
問いかける湖張。するとタウンは首を横に振る。
「いや、何でもない。それよりハルザート、ここに俺らが入った事、むしろここを見つけた事は教団に秘密にしておいてはくれないか?」
その申し出に彼は不思議そうな顔を見せる。
「どういう事だ?」
「いや、勝手に人さまの施設に入っちゃったわけだろう?バレたらまずいかなと」
呆れた表情のハルザート。
「今更か?」
「そう、今更だ。こういう細かい所を失点だと突っ込んでくる貴族がいてね。王子に迷惑を掛けたくはないんだ。
それに考えてみろ、お前だって教団に関係ない俺らを無許可で内部に入れてしまったじゃないか。寧ろ自ら進んでまで。ひょっとしたらハルザートにもお咎めがあるかもしれないぞ?それこそ行動制限がかけられて自由に飛び回れなくなるかもしれない」
そう言われると少し困る顔を見せるハルザート。
「・・・確かにそれは困るな」
「だろ?だからここに来た事は秘密な?あと、ここが何の施設かも教団に帰っても探りを入れるんじゃないぞ?そこからバレる可能性があるからな」
そう言われると少し驚いた顔を見せる。
「そうなのか?ここが何かを知るために私から情報を引き出そうとするのが普通ではないのか?」
その問いに腕を組んで答えるタウン。
「そうだな、確かにそれもありっちゃありだが、面倒な問題に発展する方が好ましくない。そもそも俺らはあの黒い魔物を退治できればそれで良いんだ。何でここにメーサ教の施設があるかなんて大した問題ではない」
頷くハルザート。
「確かにそうだな。分かった。ではそうしよう」
その返事を聞くとタウンは出口を指さす。
「じゃあさっさと出ようぜ。それこそ誰かが戻ってきたら厄介だ。ここに黒い魔物はいなかった。それで十分だ」
その言葉が合図になり、一同は洞窟を後にする。
扉を開けると、目の前は再び草木に囲まれた世界へと変わる。
そして木に遮られてはいた僅かな日の光であったが、眩しさを感じられるものであった。
<NEXT→>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十五話【ジュエルソード】
<←PREV>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十三話【パンと作戦会議】
-
前の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十三話【パンと作戦会議】 2025.05.27
-
次の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十五話【ジュエルソード】 2025.08.27