ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十三話【パンと作戦会議】

           

「さて、ただ食べるだけでは暇だから作戦会議といこう」
唐突に提案をしてくるタウン。注目を集める。

「どうやって倒すかって事?」
湖張が問いかけると頷くタウン。

「まあ最終的にはそうだな。ただその前に色々と考えないといけない事があると思う。
例えばあの魔物には2回ほど遭遇したが、その度に予想を反する行動を取られた。
正直なところ俺らの常識では考えられない事ばかりだ。
だから次に遭遇した時も想定外の行動を取ってくるかもしれない。
そこで今の内に予想できないものかなと思えてね」
「予想なんて出来るの?」

湖張が首を傾げて問いかけるとラナナに視線を移すタウン。
「そこは頭の良い魔法使いたちに期待している」
「・・・無茶を言わないでくださいよ」
ラナナは向けられた視線に対してジト目で返すが、小さくため息をついた後に話し始める。

「私が思うに、頭と思われていたところは口と砂の流れを吐き出す攻撃器官のみなのかもしれません。これは先輩も頭では無いと思っていらっしゃるようなので間違いが無いと思います」

「・・・すると?」
タウンが真剣な眼差しで続きを求めると、真面目な顔で返すラナナ。
「要するに急所ではありません。確実に言える事として目はそこにはありませんね。足が割れて頭と思わえる部分が四本も出てきたじゃないですか?湖張姉さまに切り落とされた部分も新たに生えてきたじゃないですか?もし目がついていたらこの時点で6個の目が付いている事になります。生き物がそんなに目を保有して認識、活用が出来るとは思えません。ましてや足の中に目があったら潰れてしまいます。目は繊細な器官です。体重がかかる部分にあるのは考えづらいです」

「では目は他にあると?」
「はい、おそらくは体のどこかに」

するとこのタイミングでゼンは杖をかざす。
「ちょっとこれで観察しようか」

そう言うと焚火の上に白い光の弾が現れ、そこには魔物の姿が映し出される。

「何これ!?」
驚きの表情を見せる湖張。ハルザートも静かに驚いた表情を見せる。
その反応に小さく笑みを見せるゼン。

「これは目の前の光景を記録して映し出す魔法だよ。保存したい場面になった時は記録の魔法を、見たい時は閲覧の魔法を使うんだ」

「便利ですね、これは」
じっくりと映像を見つめるラナナ。魔物の姿よりも魔法自体の方に興味がありそうだ。

「これだけじゃないよ」
ゼンの声が聞こえると、今度は魔物の姿が急に動き出し、目の前にいた皮膚が硬い魔物を食べるシーンが再生される。

「え?動くの!?」
「そうだよ。目の前のシーンを再現する魔法だからね。動きが見られた方が得られる情報は多いだろう?」

「フム、これは凄いな」
レッド君も同様に感心を見せると、ゼンは天将に認められたと感じ思わず笑みがこぼれる。

「ゼン、お前はどう思う?」
この魔法を見慣れているせいか、タウンは特に感動はせずに淡々と質問を投げかける。
「そうだね、ラナナ君が言う通り目に該当する部分は体の何処かにあるかもしれない。でも、目という概念があるかどうかも怪しいかもしれない」
「どういう事だ?」

疑問を告げるタウンの視線を確認するなり映像を操るゼン。
さっきは軽く流したけれども皮膚が硬い魔物を食べたシーンに戻すね。真正面と思われる位置に魔物がいると、そのままパックリいっているだろう?」

そこで映像を止めて話を続ける。

「本当は次のシーンも見せたかったけれども記録していなかったのだよね。だから思い出して。ハルザート君が撃たれた時の状況だよ。彼に対してはお腹を見せていたよね?それなのに正確に狙ってきた」

「つまり正面から腹の下かけて視界があると?」
「そういう考え方もあるね」

「まさか視覚ではなく音?」
何かを思いついたかのように呟くラナナ。頷くゼン。
「うん、音の反射を利用している可能性もあるよ。蝙蝠のようにね。それに相手はこちら側の常識の外にいるような魔物だよ。ひょっとしたら魔法で周囲を判断している可能性だって否定できない」

「何でもありだな」
ハルザートが呟くと頷くタウン。
「そうだな、そうなると考えるのが馬鹿らしくなってくるな。可能性が広がり過ぎて逆に対策を考えづらくなってきたぞ」
「じゃあどうする?」

湖張が問いかけると少し考えるタウン。そして言葉を絞り出す。
「・・・出たとこ勝負だな」
「うーわ、結局タウンさんも脳みそ筋肉じゃない」
「何だよ、さっきの根に持っているのか?」
呆れる湖張に渋い顔のタウン。一つため息をついた後に話を繋げる。

「とは言ったものの、二方向から魔法で攻撃をして防御壁を出し尽くさせてから本命を叩きこむ戦法で行けるとは思う。ただ次は油断をせずに動かなくなるまで攻撃を続ける。それでいこう」
頷くハルザート。
「そうだな、次は不覚を取らないよう努めよう」
彼の顔を覗き込む湖張。
「ひょっとして引きずっている?」
「・・・意地が悪いぞ」
気まずそうに視線を逸らすハルザート。気にせず次の話題を振る湖張。

「とは言ったものの、じゃあ魔物はどうやって見つける?山は意外と広いし痕跡もよく分からないし。また目の前に現れてくれれば世話が無いのだけれども」

「そう、実はそこが引っかかるのですよね」
湖張の発言に反応するラナナ。
「どういう事?」
「何で私たちは遭遇できたのでしょうか?二回も」

「そうなんだよ、実は俺もそこが引っかかっているんだ」
タウンが腕を組んで同意を見せるなり、話を続ける。

「何で俺らの目の前に現れたんだ?」
「何か引き付ける要素でもあるのかもしれませんね。先輩は何か思う所はありますか?」
ラナナの問いに対して少し考える素振りを見せるゼン。

「そうだね、仮定を出せと言われればいくつかは出せるけれども・・・その前にハルザート君、君はどう考える?様々な魔物と戦っている経験がありそうだから考えを聞きたいな」
急に話を振られたので少し驚いた顔を見せるハルザート。しかしすぐさまいつも通りの冷静な表情を見せ答える。

「まあ単純に考えると食欲を満たすためだろうな」
「食欲?腹が減っていたという事か?」
「ああそうだ。少し皆、頭が固くなりすぎていないか?相手は魔物だ、そこまで複雑な思考で動いているとは私は思えない」

「あーなんかその線で良いかも」
湖張も口に拳を当てて考えながら同意を見せる。
「今思えば最初は魔物を食べていたし、二回目はゼンさんを食べようとしていたよね?しかも登場するなり直ぐに」

「・・・なるほどな。でもこの山には魔物がいないわけでは無い。何で俺らの前に現れた?獲物になるような魔物は沢山いるはずだ」
「まさか食べつくしたとか?」
湖張が答えるが首を横に振るタウン。

「いや、それは考えづらい。今までの奴の登場を見ると地面を割って出てくるだろ?
でも山を登る途中、その痕跡は全然なかったじゃねえか。頂上から見下ろしても全く痕跡は見つからなかった。つまりは山の魔物は食べつくされていない」

「要するに狙われるには何か要因があるという事か」
ハルザートがそう呟くと頷くタウン。
「ああ、そうだろうな」

「あ!」
突然何かを閃いたかのような素振りを見せるラナナ。思わず声も出る。

「お、何か分かっちまったか?」
「微細な魔力を感知しているのかもしれません」

「・・・成程ね」
何かを理解したかのような素振りを見せるゼン。その様子に呆れたように頭を掻くタウン。
「俺らにも分かりやすく説明してもらえませんかね?」
するとラナナは一度ハルザートに視線を移した後に少し考え話し始める。

「まずあの皮膚の硬い魔物ですが、常に良く分からない魔法の力を皮膚に纏っています。本当に微弱ですが」
「そうなのか?」
「はい、しかも生命活動が止まったとしてもその魔法は続きます。つまりそれは魔物自体が魔法を放っているのではなく、皮膚が魔法を帯びている素材であるといえます。魔道具のように魔法を宿した物だと私は考えています」

そこでハルザートに視線を再び向けるラナナ。そして思い切って聞いてみる事にする。

「ハルザートさん、あの魔物に関して・・・むしろその魔物の皮膚に関してご存じでありませんか?メーサ教の騎士は簡単にあの魔物を倒しますよね?何かそのあたりで秘密をご存じなのでは?」
ジッと目を見つめるラナナ。些細な表情の変化も見逃さないといった雰囲気である。しかしハルザートは彼女の心の内など気付かない様子で、いつも通りの素振りで答える。

「すまない、分からない。・・・むしろあの魔物、皮膚に魔法が宿っていたのか?だからあんなにも硬いのか?」
「ご存じないのです?」
「ああ・・・でもそうか、確かにそれであればあの槍だと簡単に倒せる説明がつくな」
「と言いますと?」
「いや、実は私も疑問に思っていたのだ。あんなにも硬い魔物なのに支給される槍ならば簡単に倒せる事が。しかも特に修練を積んでいない、それこそ形だけの騎士達でも簡単に倒せているのだ。余計に首を傾げていた。つまりメーサ教の槍を作った者はあの魔物の皮膚に宿っていた魔法の存在に気づいており、尚且つ解析が出来ていて破る方法を知っている。それを槍に施しているという事か」

(ハルザート、本当に知らないんだ)
彼からは、とぼけている様子を感じ取れなかった湖張。どうやら本当にハルザートは皮膚の硬い魔物がメーサ教と関わりがありそうだという事を知らないようだと思える。
どうやらラナナもそう感じたようで一度湖張と目を合わせた後に話を再開させる。

「すみません、少し話が逸れましたね。もしあの黒い魔物が魔力を感知していると仮定しましょう。そうすると頂上で私たちが襲われた事にも説明がつきます。何で地面から遠く空を飛んでいた私たちを襲ったのでしょうか?地上には私と先輩以外がいたじゃないですか?なのに何故、わざわざ飛び上がって食べづらい位置にいる私たちを狙ったのでしょうか?」

「空を飛ぶ為に魔力を纏った状態だったから?」
湖張が答えると頷くラナナ。

「はい、その通りだと思います。あの魔物は魔法を纏っているものを食べかかるのかもしれません」
「おいおい、それは本当か?」

ここでタウンが問いかけると首を横に振るラナナ。
「いえ、まだ仮定ですよ?本当かどうかは分かりません。でも的外れでは無いと思います」
「では何故レッド君は襲われない?常に魔法を纏っていそうな存在だろ?」
「それは私も思いました。真っ先に。なのであの魔物は体温も感じているのではないかと仮定します」
「体温?」

「はい、レッド君はいわば鎧です。私たちのような体温は有りません。体温が無い物は食べ物として認知しないのかと」
「なるほどな。そうしたらフーギルはどうだ?あいつらは周囲と同化して見えづらく・・・」
そこまで言うと急に黙り込むタウン。そして拳で自らの頭を軽くコツコツと叩く。

「あークッソ、何で気が付かなかったんだ?」

「どういう事?」
湖張が問いかけるとため息をつくタウン。
「フーギルは既に結構な数が食べられている」
「そうなのです?」
「ああ、この山はフーギルのせいで閉鎖していると言ったよな?それは立ち入ったら高確率でフーギルに遭遇するくらい大量に居座っていたからなんだ。でもどうだ、今日は道中に一体しか遭遇していないだろ?本来ならばありえない。そのくらい湧いていたんだ。居座っていたのが数体だったら俺ら城の騎士が討伐して終わりだったが、それが出来ないくらい湧いていたから封鎖という判断だったんだ」

「でも地割れのような痕跡は見つからなかったじゃない?」
湖張の問いかけに答えるタウン。
「俺らが通ったのはあくまで山道だ。フーギルは山全体、道のない場所にも生息している。つまり俺らが立ち入らない場所にフーギルがいて、そこに地割れの痕跡があるのだろうぜ。それで山の中だ。木があるエリアは上から見ても木の葉が痕跡を隠してしまう。フーギルは周囲と同化するから隠れ易い場所に潜むことが多い。頂上付近の開けた場所にはまず潜まないから木のあるエリアにしかいないはずだ。そうなると分かりっこ無いぜ」

「ふむ、つまりは我らが見えないところで魔物の痕跡が残っていたという事か」
「その可能性は大いにありますね」
ラナナが同意を見せると湖張は腕を組んで上を見上げる。

「じゃあさ、とりあえず魔法で浮いておびき寄せる作戦で良いのかな?」
「いや、空を飛ぶ必要はあるのか?」
湖張の発言に疑問を投げかけるハルザート。
「まあ魔力を纏ったほんのり暖かいものだったらなんでも良さそうだけれども、空を飛ぶことで釣れた実績はあるよ?飛ぶのはまずい?」

湖張が首を傾げて問いかけると首を横に振るハルザート。
「いや、空を飛ぶこと自体は問題ない。だが私は長時間、空を飛ぶことが出来なくてな」
「そしたら私がやるよ」
「駄目だ。釣り役は私がやる」
「何でよ?」
「危険な事は私の役目だ」
「いやいやいや、そんなことは」

「まあまあ、ちょっと待った」
抵抗しようとした湖張を静止するようにタウンが間に入る。
そしてハルザートを見てニヤッと見せて言葉を放つ。

「良い心意気じゃねえか。やっぱり見立て通りお前って良い奴だな」
その発言にハルザートは小さくため息をつく。
「茶化すな」
「そういう訳じゃねえよ」

そのタイミングで真面目な顔になるタウン。
「だが悪いがここは俺に任せてくれないか?本当ならお前の気持ちを尊重したいが
さっきの一撃でまだ本調子は出せないだろ?地面から突然現れる敵なんだ。
一瞬の遅れが命取りになりかねない。目の前で誰も犠牲者を出したくはないんだ。
俺は自分の力は人を守るために使っている。そして今は使い時だと確信している」

力強い言葉にハルザートは思わず言葉を出す事が出来なかった。
その様子を確認するとポケットから金属製で手のひらサイズの球を取り出すタウン。
「これは光を放って明かり替わりなる魔道具だ。使うと魔力を放ち続ける。
これを人間が持っていると良い餌になるだろう?」
「餌って・・・」
呆れ顔の湖張に笑顔で答えるタウン。

「面白いだろう?」
「笑えないぞ」
ため息のハルザート。構わず話を続けるタウン。
「これを開けた場所で使う。そして奴をおびき寄せる作戦でいこうと思う。
ただ敵が現れたら、その時は力を貸してくれ。本調子がどうとか言ってはいたが流石に俺一人でどうにか出来る相手ではなさそうだからな。良いだろう?」

ハルザートに確認を取ると彼は腕を組んでため息を一つ。
「分かった」
「決まりだな」

そのタイミングで手の中にある少し大きめのパンを最後の一口と言わんばかりに詰め込んで飲み込むタウン。

「じゃあそろそろ食べ終わってくれな。日が暮れる前に終わらせようぜ」
「そうだね、それが良いかもね」
同意を見せる湖張。そして彼女も小さく残ったパンを口に運び終えた。

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