ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百四十二話【ハルザートの過去】

           

背の高い木々に囲まれた森。土が見えており、木々の間隔が空いているスペースのある空間。
木の陰に囲まれて日の光があまり入らないせいか薄暗く少しひんやりとしている。
その中で枯れ葉や木の枝を集めて焚火をしている湖張。明るく灯す火の明かりが
ほんのりと温めてくれる。

倒れていた太い木に腰を掛けて火の番をしながら時折、視線を移動させる。
その先には横たわり気を失っているハルザートの姿があった。

「・・・う・・・ぐっ!」
意識を取り戻したのか、少し苦しそうな声を上げた後にゆっくりと体を起こすハルザート。
「あ、起きた」
持っている小枝を焚火に放り込むと、ハルザートに近づき覗き込む湖張。

「湖張?・・・ここは!?魔物は!?」
慌てる素振りを見せるハルザート。いつもの冷静さはまだ眠っている様子であった。
湖張はその姿に対して小さくため息をついた後に彼の額に手を当てる。

「まあ気にはなるだろうけどさ。取り合えず診察はさせて」
手をうっすらと光らせジッと見つめる湖張。ハルザートは動けずそのまま固まってしまう。

「大丈夫そうだね。まあすぐに治療をしたから問題ないでしょ」
そう言うなり再び木に腰を掛ける湖張。不思議と落ち着いていた。

「ここは一体?」
状況の確認を取ろうとするハルザート。すると湖張は上を見上げる。
「ここは崖の下。黒い魔物と戦っていた事は覚えているでしょ?
ハルザートは魔物に飛ばされて崖から落とされそうになったのだけれども、私が掴んで落下は防いだの。本当はそのまま崖の上に戻りたかったのだけれども魔物が狙ってきていてさ。そしてアナタは気を失っていたでしょ?あのまま回避するのも危なかったし、気を失っている人を戦場に置いてはおけないと思ったから、崖の下までいっその事、逃げてきたという訳」

その言葉を聞くなり驚いた顔を見せるハルザート。
「なんだと!?・・・そうか確かにあの攻撃で気を失っていたな。恥ずかしい限りだ」
「うーん、まあ仕方がないんじゃない?アレは予想できないって」
「しかしな・・・いやそんな事より戻らねば。まだ戦いは終わっていないはずだ」

そう言って立ち上がろうとするハルザート。しかし力が入らず膝をついてしまう。
「あー無理しないで。まだ体が完全に起きてはいないよ」
「しかし・・・」
「大丈夫だよ。残った皆は強いよ。気持ちは分かるけれどもさ、ここは体調を整えよう。もう少し休んだら動けると思うし、焦らないで」

そう言って再び焚火に木の枝を放り込む湖張。
「さっきフーギルは火が嫌いみたいな事を言っていたからさ、火を起こしてみたの。襲われるのは面倒だもんね。それにこれが狼煙になって皆も見つけやすいとも思えたし。ちょっと肌寒いしね」

そう言われると火の前に移動をして地面に座るハルザート。
「すごい落ち着きようだな」
「そんな事ないよ?色々と心配は心配。でも今はこれが最善だと思えたから。それにさっきも言った通り、皆強いし」

そう伝えられると火をジッと見つめるハルザート。
「随分と信頼をしているのだな」
「そうだね、ラナナとレッド君とは一緒に内容の濃い旅をしているからね。タウンさんたちとは知り合って数日だけれども、まあ二人ともやり手だよ。世の中って広いなと感じさせられたね」
「随分と評価が高いのだな」

そう返答があると首を少し傾けてジッと彼を見つめる湖張。そして問いかける。
「ハルザートはさ、国の騎士が嫌いなの?」

少しの沈黙。微動だにしないハルザートであったが湖張に視線を向けると、彼女がジッと自分を見つめている事に気が付く。そして再び焚火に視線を移すと小さく息を一つ吐く。

「そういう風に見えるか?」
「うん」

するとまた再び黙るハルザート。何かを考えている様子であったので、湖張はそのまま言葉を発することをやめる。
しかし2分ほど経つと、ハルザートは落ち着いた口調で語り始める。

「私は元々、隣の国の住人であった。とは言ったものの住んでいた村に隣接をしていた川を挟んだらラガース王国だ。村には橋が架かっており、通行証さえあれば行き来は可能であった。ラガース国側にも村があり、私たちの村はラガースの村と交流があった。

まだ私が7歳くらいの時の事だ。住んでいた村に突如として魔物の群れが襲い掛かってきたのだ。村に常駐の兵士はいたのだが、とても対応しきれる戦力は無かった。強力な魔物であっという間に村は壊滅状態になったのだ。

子供だった私は何もすることが出来ず、とにかく逃げた。とても怖かった。
何処に逃げても魔物が襲ってくると思えた。だから橋を渡ったのだ。
そしてラガースの村に逃げ込むことが出来たのだ。
通行証などは無いが緊急事態だ、村人たちは私を受け入れてはくれた」

そこまで話すと一度話を止め、湖張に視線を移すハルザート。するとジッと自分に視線を向けたまま話を真剣に聞いている姿が目に入る。
その様子を確認すると話を続けるハルザート。

「しかし、それだけだったのだ。私はラガースの兵士に村を助けて欲しいと嘆願した。
だがラガースの兵士は動いてくれなかった」

「どうして?」
このタイミングで湖張が驚いた表情で問いかける。首を横に振るハルザート。
「許可も無く兵士が隣国に侵入すると侵略とみなされるそうだ。
緊急事態であるにもかかわらずだ。馬鹿げているだろう?我々村人は交流がある村だというのに兵士は行き来が出来ない。意味が分からないだろう?」
「何なのそれ?」

湖張が少し怒った雰囲気を見せるとハルザートは不幸をあざ笑うかのような表情を見せる。
「大人になると、確かにラガースの兵士の言い分も分からなくは無くなってきた。軍隊の規則は絶対だ。その場の判断で違反をすると首が飛ぶ。ましてや侵略行為とみなされかねない行動となると国同士の争いの火種にもなりかねない。兵士が許可なく隣国に侵入は想像以上に重い行為だからな。だが、だからといって納得は出来ない」

「そう・・・だよね」
湖張も納得がいかない様子を見せるとハルザートは焚火を再び見つめて話を続ける。

「村は壊滅し家族も失った私はラガースの村に逃げ込むことは出来たものの、その後の行く当ては無かった。憔悴しきっていたので後の事など考える余裕は無かったがな。
だがその中で村に偶然きていたメーサ教の司祭に保護されたのだ。それが私とメーサ教の始まりだった」

ここでメーサ教との関りを聞くことになり、少し驚いた表情を見せる湖張。
「その頃からメーサ教ってあったんだ」
「ああ、当時はまだ活動したての時期ではあったがな。なので信者を集める事に特に力を入れていた時期でもあった。その中で私のような孤児は都合が良かったのだろう」

「そう思っていてもついて行ったの?」
「ああ、あの時の自分には行く当てもなかったからな。だが決してメーサ教は悪いというわけではなかった。というのも私のような孤児にも衣食住だけではなく、十分な教育を受けさせてくれたのだ。そして何より、剣や魔法も教えてくれた」
「え?」

「知っての通り、メーサ教には騎士団が存在するだろう?もちろん元々、戦いの心得がある者が入信し騎士団に加わったパターンはあるが、私のようにメーサ教で修行を積んだ者も少なくはない」

このタイミングで苦笑いを見せるハルザート。
「実は私はな、神などは信じていない。メーサ神なんていないと思っている。だってそうだろう?神がいたらあの時、私や家族を助けてくれたはずだ。生き残った私を救ったのがメーサ神だと司祭は言ってはいたが、それは違う。実際に助けてくれたのは司祭であり、その後も面倒を見てくれたメーサ教の人々だ。だが私は今の立場が気に入っている。メーサ教の騎士団は人々の為に力を振るう事が仕事だ。国の決まりなど関係ない。何にも縛られずに力を振るえる。幼き自分が欲しかった力がメーサ教にはあった。この仕事ならば私のような辛い思いを他の人に経験させずに済むと思えた」

「それがアナタがメーサ教に所属している理由?」
「ああ、人を助ける事が一番効率的に出来る場所、それがメーサ教の騎士団だ」
「なるほどねえ」

腕を組んで何かを思いながらも湖張が理解を示すと、ハルザートはまた苦笑いを見せる。

「とは言ったものの、あの勧誘は私も胡散臭いと思ってはいる。まあ信者あっての教団という事は分かるのだがな」
「・・・お城に仕えるのは駄目なの?」

湖張が恐る恐る訪ねると、少し考えた後に首を横に振るハルザート。
「駄目だな。やはり幼い時の記憶が強くてな。今となってはあの時の兵士の気持ちも分かるとは言ったが、それでもだ。どうしてあの時助けてくれなかったのかという気持ちが出てきてしまう。そもそも結局は権力を持つ貴族連中が腐っている事は変わりない。その者達がいる限り、私が望む活動は出来ないだろう」

「でも・・・いやなんでも無い」
ここまでの話を聞くとハルザートはメーサ教の信者という訳ではなく、本当に人々の為に動いているだけだと知った湖張。だが肝心のメーサ教には様々な疑惑があるので、どうにかして縁を切れないかと思えてきたのだが、良い案が思い浮かばなかったので言葉を止める。

するとハルザートは何かを感じ取ったのか、湖張に視線を向ける。
「だが今日は私の中で若干だが意識が変わったのも事実だ。あのタウン・アッシャーという男、中々面白いな。王国の騎士にもいるのだな、ああいう者が」

その言葉を聞くと、嬉しくなる湖張。どうやら完全にメーサ教じゃないと駄目では無さそうだと感じる。
「そうだよ!なんかあの人は面白いよね!」
「湖張は、ああいう男が好みなのか?」

「・・・はぁ?」
突然の事で物凄く険悪な表情で答える湖張。思わず戸惑うハルザート。
「いや、気にしないでくれ。そこまで嫌な顔が出てくるとは思わなかったぞ・・・」
流石に少し取り乱すハルザート。そのくらい怖い顔だったようだ。
ため息の湖張。

「あのね、あの人にはパートナーがいるの。不思議な人だけれども一途でカワイイ人だよ」
「面識があるのか?」
「まあね。今日もお弁当を作ってくれたよ。・・・あー上に置いてきちゃった。このタイミングで食べたかったかも。突然魔物が現れたから、戦いの中で潰されないように荷物を放り投げちゃったよ」

そう言って上を見上げる湖張。そして再び話し出す。
「タウンさんはさ、ゼンさんもだけれども王子様直属の騎士団なんだって。ピースっていうのだっけ?その王子様も結構いい人らしくてね、ハルザートがやっているような事を国民の為にと常にピースを動かしているらしいよ。王子様なんだから結構な権力者だよね?ハルザートは国の権力者が腐敗しているような事をいってはいたけれども、中には王子様みたいな人もいるって事は知っていて欲しいかな」

このタイミングでハルザートをジッと見つめる湖張。すると視線を合わせながら答えるハルザート。

「・・・分かった。覚えておくこととしよう」
そこで小さく微笑むハルザート。そして再び話し始める。
「私は教団の情報を基に危険とされる魔物を倒すために様々な街や村を訪れている。しかし何度か私より先に国の騎士が訪れていて倒そうと思っていた魔物を既に退治してくれたという事が度々あった」
「そうなの?」
「ああ、印象的だったのは北の方の村で会ったぬいぐるみを持った少女だった。村に魔物が侵入した時、金髪で両手に剣を持った騎士がさっそうと現れてあっという間に魔物を退治したそうだ。その事を輝いた眼で一生懸命、ぬいぐるみで動きを再現しながら教えてくれてな」

「・・・それって」
「ああ、今日の動きを見て確信した。それは恐らくタウン・アッシャーだろう」
「何だ、知っていたんじゃない。国の騎士もアナタと同じように頑張っているって」

気まずそうにそっぽを向くハルザート。
「私はそこまで素直ではない。その時は国の騎士ならば当然の務めだとしか思えなかった」
「捻くれているなぁ」

「手厳しいな。でも今思うと確かに人々を救った事には変わりは無い。それにあの少女が嬉しそうに話していた姿が何故だか忘れられなかった。だが今日、なんだか分かった気がする。きっと飄々としたあの男の素振りと強さが正義の味方に見えたのだろう。不思議な男だ」
「まあ実際に人と接しないと理解できないというのはあるよね」
「そうだな」

「・・・どうかした?」
思わず問いかける湖張。今まで感じた事のない不思議な空気になったので言葉を放つ。

「本当に湖張の目は綺麗だな」
「・・・え?」

急に思いもよらない事を言われたので驚いた表情を見せる湖張。
とその時であった、上空から何かが落下して木々の枝を突き抜けてきた音が発生する。

「いたー!湖張姉さま!!」
「ラナナ!?・・・と皆?」

目の前には直径5m程の緑がかった半透明の球体に上に残っていたメンバーが全員包まれた状態で地面すれすれの部分を浮いている。
ラナナが両手を叩くと球体は消え、大地に足を付けるなり彼女が駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか?怪我はありませんか!?」
「ああ、うん。私は平気。ハルザートがちょっと傷ついて気を失っていたけれども、魔法で治しといたから。今は気絶から目を覚ましたばかりで、少し休ませていたの」

そう言うとキッとした顔でハルザートを睨みつけるラナナ。
「湖張姉さまに何かしなかったでしょうね!?」

「するわけが無いだろう・・・」
顔を逸らすハルザート。すると湖張に顔を向けるラナナ。
「本当ですか?」
「んー多分?」
「ガルルルルッ」

気性が激しい小型犬のように威嚇をしてくるラナナ。ため息のハルザート。
「湖張、わざと紛らわしい事を言っているだろう?」
「まあ賑やかなのは嫌いじゃないし」

「で、本当に大丈夫なのか?」
このタイミングで話しかけてくるタウン。頷く湖張。
「うん、大丈夫・・・だよね?もう歩けそう?」

そう問われると立ち上がるハルザート。そして軽く体を動かす。
「ああ、問題ない。世話を掛けたな。・・・ところで魔物はどうなった?」

タウンにその後を問いかけるハルザート。
すると腕を組み参った表情を見せるタウン。

「ああ、また逃げられた。ピンチになったら潜って逃げるのな。
まあ二人の事も気になっていたから深追いはしなかった」
「そうか、すまなかったな」
「んあ?別にお前のせいじゃないだろう?まあ二人が無事だったのだから問題なんて何もないさ。次に出くわした時に倒せばいい。だろ?」
「・・・そうだな」

「にしても焚火をしてくれていて良かったぜ。煙が見えたからすぐ見つける事が出来た」
「あーやっぱり正解だった?フーギルは火が嫌いみたいなことも言っていたから、居場所を伝える事も兼ねて火を焚いていたんだ」
「上出来だ」

そうやり取りをすると焚火に向かって手をかざす湖張。
「もう行くよね?そうしたら消さないと」
「いや、待ってくれ。そのままで良い」
「え?何で?」
湖張に問われるとタウンは焚火の前に座り弁当を広げ始める。

「メシだメシ。時間的にも丁度良い。休憩もしたいからここで食べようぜ」
そう言うなりハルザートにも弁当を差し出すタウン。

「おら、お前も食えよ。味は保証する」
彼の差し出した紙の袋には肉と野菜が挟まれたパンがいくつも入っていた。一つ一つが小さめに作られており食べやすく、そして配りやすい形であった。

「いや、それは悪いだろう?」
遠慮するハルザート。しかしタウンはつまらない顔を見せて反論する。
「んなワケないだろ。それにもし立場が逆だったとしよう。お前だって俺に配っただろ?」
そう言われると小さく息を吐くハルザート。

「そう言う事か」
「そう言う事だ」
そして素直にパンを受け取ると口に運び始める。

「すまないな」
「ありがとうだろ?」

「私たちもいただきましょう」
ラナナはそう言うなり、同じようにパンを取り出して湖張に差し出す。
上に置いてきたパンは彼女がちゃんと持ってきてくれたようだ。

「ありがとう。持ってきてくれたんだ」
「はい、潰れていないと良いのですが」
そうやり取りをしながら横たわった大木に座る二人。そしてパンを口に運び始めた。

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