ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百二十三話【タウン・アッシャー】

           

山の中の村から離れ、王都フィルサディアに向かう一行。メーサ教の騎士たちはロダックの処理に追われ、本日も村に滞在しそうな雰囲気であった。
村の付近のロダックだけではなく、昨日遠征にて倒したロダックも処理をする予定とのことだ。

山を下りると道中は穏やかで、風もなく歩きやすい環境であった。
王都の近くという事が影響しているのだろうか、整備された平坦な道はとても歩きやすく作られている。

道中に綺麗な鳥が可愛らしい声を放ちながら飛んでいると、ラナナは心なしか楽しそうな笑みを見せる。
そんな彼女を歓迎するかのように、美しく輝く羽根を持つ可愛らしい蝶が目の前を舞うように通過すると、合わせたかのタイミングで風がなびき近くにそびえたつ背の高い木から花びらが彼女を取り囲むように舞い落ちてくる。

「あはは、何か歓迎されているようですね」
無邪気な笑顔でレドベージュに話しかけるラナナ。すると彼は空を見上げながら呟くように答える。
「うむ、実際に自然から好かれているのだろうな」
「自然に好かれるなんて事、ありえるのですか?」
キョトンとした顔で問いかけると、レドベージュは優しく答える。

「あるさ。実際の所、ラナナは動物から好かれるタイプではないか?」
「・・・そういえば何故か動物が寄ってくる事は多い気がしますね」
そう独り言のようにつぶやいた後に、レドベージュをジッと見つめて問いかける。

「何か理由があるのですか?」
「そんな期待の眼差しを向けるでない。純粋に好かれやすいだけであろう」
軽くあしらうように答えると、少し不服そうな顔を見せるラナナ。
「何か知っていそうな事を言っておきながらそれですか」
「仕方がなかろう」

そのようなやり取りをした後に、今度は湖張をジッと見るラナナ。
「湖張姉さま?」
様子を窺うように声をかけるラナナ。しかし湖張は反応がない。

「・・・湖張姉さま!?」
今度は大きめの声で呼びかけるラナナ。すると少し驚いた表情で顔を向ける湖張。
「うん?・・・どうしたの?」
「いえ、何か反応がなかったので・・・」
「え?・・・ああ、何かボーっとしちゃってね。ごめんごめん」
苦笑いを見せながら頭をかく湖張。その様子をレドベージュはジッと見つめる。

と、その時であった。道から逸れた草原に馬に乗った兵士と思われる四人がこちら側に近づいてくる様子が目に入る。

「近づいてきていますか?」
ラナナが湖張たちに確認を取るようにつぶやいている間に、兵士たちは距離を狭めてくる。
兵士のうち三人は全身を銀色の鎧で身を固め、兜で顔も隠しているほどの重装備である。
しかしながらそれとは対照的に真ん中の男は軽装であった。
鎧のようなものは身にまとってはおらず、位がそれなりに高そうな緑色の騎士服を身に纏い、ブロンドの髪は長めのスポーツ刈りに整えられている。
年は湖張より3つほど上に見受けられ、青い瞳が印象的であった。

「すまないお嬢さん達」
一行の横につけて馬の上から金髪の騎士が話しかけてきたと思うと、返事をする間もなく馬から降りて正面に位置する。服の上からでも、がたいの良さが良く分かる。どうやら鍛えているようだ。

「何か御用ですか?」
ジッと騎士を見つめながら警戒するように問いかけるラナナ。すると騎士は小さな笑みを見せながら話しかけてくる。しかし目は笑っておらず、何かを探っているようにも感じられる。

「いや、少しお話を伺いたくてね。お嬢さん達は旅の方かい?」
「そうです」
端的に答えるラナナ。すると騎士は同じ調子で更に質問をしてくる。
「これからフィルサディアに?」
「はい」
「旅の目的は?」
「・・・何か御用ですか?」

探りを入れてくる騎士に対して威嚇するような強い眼差しで聞き返すラナナ。
すると騎士は再び笑わない目で作った小さな笑顔で答える。
「いやいや、そんな警戒しなくても大丈夫ですよ。見ての通り我々はラガース王国の騎士ですから。・・・それとも王国の騎士が相手だと不都合な事でも?」
こちら側に怪しさをこじつけるような事を言って揺さぶりをかけてくるが、冷静に表情を変えないラナナ。言葉を返す。
「御覧の通り女の旅なのです。警戒しすぎる方が丁度良いのですよ。
それにアナタ方が本当に王国の騎士かどうかも確証がありません。名乗らず証拠も見せない人に騎士だから従えといわれても相手にするわけがありません。そうやって無理やり怪しいとこじつけてくる姿勢を取られると尚更です」

取り付く島もない雰囲気でラナナが返すと小さく苦笑いを見せた後に手の素振りを合わせながら頭を軽く下げて挨拶をし始める騎士。
「これは失礼した。自分はラガース王国ピース所属、タウン・アッシャーと申します」

「ピース?・・・アッシャー?」
小さくつぶやくラナナ。すると騎士は頭を上げて再び話しかける。
「これで信用していただけましたかな?」

「逆です。より一層の不信感を得ました」
腕を組んでジト目で見るラナナ。その素振りには騎士も少し驚いた顔を見せる。
「逆?これまた何故?」
「ピースと言えば王子直属の騎士団です。そんな特殊な部隊はこの辺をふらつくような役回りをしません。それにアッシャー?馬鹿を言わないでください。アッシャー家は建国の英雄の末裔じゃないですか。実在する一族ですがこんな簡単に出会えるわけがありません。有名な名前を使って騙そうという人は数多くいます。設定を盛り過ぎです」

そうハッキリ言われると面を食らった顔を見せる騎士。頭をかいて困った仕草を見せるなり小さくため息をついてから答える。
「参ったな。そういう受け取り方をされるのは想定外だ。本当の事なのだがどうしたものか」

「それではこれで。行きましょう」
湖張にそう告げると、まるで相手にしない様子でその場を立ち去ろうとするラナナ。
「ちょっと待ってくれ」
右手を広げて前にはだかる騎士。
「まだ何か?」
「俺が仕える王子は国民の味方でね。中々腰の重い貴族連中には任せずに我々ピースを使ってフットワークを軽く問題に取り組む方なんだ。だから俺たちはここにいる」
どうしても引き留めようとする騎士をジッと見るラナナ。素を出したのか、少し崩した態度を取り始めた事が気になりつつも、隙の無い雰囲気を維持して問いかける。

「わかりました。それでアナタが本当の騎士だったとして、私たちに何か御用ですか?まだ王国の騎士である事は確証がないのです。下手なことをしたら容赦はしません。これでも腕っぷしは強い方なので」
そう告げられると、小さく笑みを見せる騎士。そして話し始める。

「安心しなさいな。本当に話を聞きたいと思っているだけなんだ。
いやここ最近、魔物が頻繁に活動していてね。それで王子としては警戒を強めているんだ」
両手を広げながらそこまで語ると、横目でレドベージュを見る騎士。
「そんな中、リビングアーマーを連れている人間を見たらそりゃ警戒するだろう?」

ここで視線をラナナに戻すと一呼吸の間をおいて再び話始める。
「リビングアーマー・・・生きている鎧。鎧に魔法を掛けて使役する魔法使いはたまにいる。そして悪事に利用された例もある。正直見過ごせないというのが実情だ」

「これはリビングアーマーのようですが若干違います」
無表情のままラナナが答える。
「違う?」
「はい、これはパペットと言って、リビングアーマーの技術を流用したもので、からくりの人形です」

その答えに不思議そうな顔を見せる騎士。
「何が違うんだ?」
「応用力が違います。リビングアーマーというものは命令された事しか行動が出来ませんが、パペットは様々な思考パターンを用意しておりますので自ら考えて行動できます」

咄嗟にそれっぽい事を言うラナナ。すると騎士は少しニヤッとした後に質問をする。
「自ら考えて行動?すると喋ったりもするのかい?」

「そうだ。これで信じてもらえるか?」
このタイミングで声を発するレドベージュ。騎士の質問に答える事で疑いを晴らせると考えたからだ。しかしその様子を確認するなり、騎士は鋭い目線をレドベージュに向ける。

「君たちだね、西の町で謎の巨大な魔物やイーサラスの群を退治したのは」
「?!」
突然そう伝えられると、当然のように驚きの表情を見せるラナナ。声には出さないが目で心情を物語ってしまう。

「君がラナナ、そして黒髪の彼女が湖張。そして赤い鎧がレッド君といったか?報告では金色の鎧もいたようだが・・・今はいないのか?」
「・・・一体何者ですか?」
名前まで言い当てられたので、警戒心が最高潮といった雰囲気で問いかけるラナナ。
しかし騎士はそれに気が付いたのか、崩した雰囲気で笑顔を見せながら答える。

「いや、だから王国の騎士だって。ピースのタウン・アッシャー。王子の命令であの町に行ったら全てが終わっていた。だが君たちの話を聞くことは出来た。だから知っているんだ」
そう言ってレドベージュに近づき、目の前でしゃがみ込む。

「町人の証言では若い娘の二人組がしゃべる鎧を引き連れていたというのがあってね。遠巻きで君たちを見たらもしやと思って声をかけたんだ。でもまさか本当にしゃべるとはね」
「・・・それで、私たちをどうしようと?」

どうやら話の内容的に本当に王国の騎士、ましてや王子直属の特殊な騎士と確信すると、接触してきた意図が気になる。今までの話の流れ的に、会話の隙を見せられない相手だと感じると、不用意な事は言えないと心で呟く。
しかしそんな思いとは裏腹に、タウンは笑顔を見せる。それは今までとは違った、警戒を解いたような雰囲気を不思議と出していた。

「いや、どうもしない。しいていえば町を救ってありがとうと頭を下げるくらいか?」
「・・・そうなのです?」
「そりゃそうだ。だって君たちがいなければ町は壊滅していたんだ。本来は俺らがやらないといけない事を代わりにやってくれたんだ。頭を下げるのが普通だろう?」
そう告げた後にまるで心の動きを探るかのようにラナナをジッと見るタウン。そして振り返り再び馬にまたがる。

「では今日の所はここで失礼するとしよう。何かあったら駆けつけるからその時はよろしく。ようこそフィルサディアへ」
そう言い残し、この場から鎧の騎士達を連れて走り去るタウン。その後ろ姿が点になるまでその場から動かず監視をし続けるラナナ。

「何かあったら駆けつける・・・つまり監視をしているから、下手なことはするなという事でしょうか?」
深読みの発言をラナナがすると、レドベージュは小さくうなずく。

「そうとも捉えられるような雰囲気であったな。食えないタイプの人間だ。我も良いように扱われたな」
「悔しいです?」
「そんな事はないさ。人は良くも悪くも賢くあるべきだ」
「良くも悪くもですか?でもまあ良いです。とりあえずフィルサディアでは大人しくして次の場所へ向かいましょう。あんな人がいると何か疲れちゃいますよ。そう思いません?」

先ほどから静かな湖張に話題を振るラナナ。しかし湖張は返事をせずにボーっとしている。
「湖張姉さま?」
様子がおかしいと感じるラナナが不安そうに近づく。そして手に触れるなり驚きの表情を見せる。

「ちょっと、熱があるのでは!?」
湖張の手から妙に高い熱を感じるなり慌てて湖張の額に手を当てるラナナ。その結果、更に慌てる様子を見せる。
「やっぱり!凄い熱ですよ!」
大きな声でそう訴えかけられると、湖張はボーっとした笑顔を何とか見せる。

「あーやっぱり?なんかボーっとすると思った」
「もう、早く言ってくださいよ!」
「むう、静かだと思ったらこれが原因か」
流石のレドベージュも少し慌てた様子を見せる。そして手を湖張にかざすなり、まるで空気で出来た椅子に座らせるようにして湖張を浮かせる。

「とりあえずフィルサディアへ急ぐぞ。このまま我が運ぼう。病気は怪我と違い魔法で簡単に治るものではない。宿屋で何の病かを診断するぞ」
「はい、急ぎましょう」
「・・・ごめん」
いつも元気な湖張が力なくあやまると、余計に心配さが増してくる。その結果、一行は急ぎ足でフィルサディアへ向かうのであった。

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