ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百七話【メモに記された地】
- 2021.09.26
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
ゴルベージュと別れた後は数キロ東へ離れた村に移動をした一行。
道中、デスピエロに出くわす事は無く、何の問題も無く到着をする事が出来た。
キュベーグの話によると、今まで襲われていた事はピロペレの洞窟に到着するまでの時間稼ぎとの事だったので、用事が済んだ今となってはこの結果は当然と言えば当然である。
また、村では近くの山が一瞬にして削り取られたと大騒ぎになっていた。
ピロペレが眠っていた山の事である。当然のように知らない振りをしてやり過ごす一行。むしろ本当の事を伝えても誰も信じてもらえなさそうではある。
本日も色々な事があったので宿屋に着くなりとにかく一息をつく湖張とラナナ。
今日も今日とて疲労が顔から滲み出ている。
「何か宿屋に入るなりグッタリする事が多くない?」
「多いですよね。気のせいでは無いですよ」
「これって私たちの精神修業が足りないって事かな?」
「いえ、そんなことは無いですよ。むしろ平気な顔で過ごせるほうがおかしいです」
そうやり取りをしていると、いつも通りにタオルを二人に差し出すレドベージュ。
「ほれ、お決まりの物だぞ?」
「あーありがとう、でもちょっと片付けをしてからにするよ」
タオルを受け取るなり、流れるような動作でそのままベッドにそっと置く湖張。
そして腰に携えていた黄金に輝くゴルベージュの軍配を手に取り眺める。
「やっぱりコレ、でっかいなあ」
今まで使用していた覇王の団扇に比べて倍以上の大きさである軍配。
改めて見ると至る所に細かい彫刻が施されており、神聖な雰囲気を感じ取れる。
神々しいという言葉がピッタリだ。
そう感じると、今まで変化していた団扇の雑さ加減を思い出し情けなくなってくる。
目立つのを避ける事が必要だったにせよ、もう少しやりようはあったのではないか。
軍配を託された武闘家に対して思わずため息をつく湖張。
「どのような形にするか決めたのですか?」
軍配を覗き込みながら質問をしてくるラナナ。
スッと横から近づいてくる様子は、まるで新しい物を確認しに来る猫のようだ。
「ううん、まだ。何となく思い描いてはいるのだけれども、まだ決定は出来ないかな?」
「そうなのです?」
「うん、ちょっと落ち着いてからが良いかな」
そう伝えると、今度は魔法で軍配を目の前に浮かせる湖張。
そして両手を広げ何かを確認し始めると、数秒間だけ目の前に小さな青い球体が表れてから消えていった。
「それ・・・ゴルベージュ様の魔法ですか?」
湖張の動作はゴルベージュがピロペレの攻撃を凌ぐ際に展開した防御壁と同じものだった。
それに気が付いたラナナが好奇心を抑えきれない輝く目で質問をしてくると、小さく頷いて答える湖張。魔法を止めて右手で軍配を掴みベッドに腰を掛ける。そして一呼吸置いた後に膝の上にそっと黄金に輝く軍配を置く。
「出来そうなのですか?むしろ今、何かそれっぽいのを出していましたよね?!」
湖張の隣に腰を掛けながら質問をしてくるラナナ。
「そうだね、案外と簡単に出来るかもしれない。
結局はこの軍配を経由する事によって魔法の防御壁を強化しているだけだから
そこまで難しくは無い魔法だよ。ラナナもそうは思わなかった?」
少し考えた後に頷くラナナ。
「そうですね、確かに難しい事はやっていないように思えました。
あの防御壁が強固な理由は軍配の力が大きいというだけなのかもしれませんね」
「いや、そんなことはないぞ」
二人の会話に入ってくるレドベージュ。少し呆れているような目の形をしている。
「そうなの?」
「当然だ。そもそもあの魔法は強力な魔力を繊細に操る事によって出来るものだ。普通に魔法で防御壁を展開しただけで出来るようなものではない。
それを練習もなしに、ましてや見ただけで簡単にこなそうとは・・・呆れるというか恐ろしいな」
「え・・・いや、とは言ったものの、まだ完璧に出来ているわけじゃないから!」
慌てるように否定をする湖張ではあったが、レドベージュの呆れた目は続いている。
「その雰囲気からすると、もう出来るのであろう?さっき軍配を浮かせて小さい球体を出した段階でゴルベージュの魔法と同じような雰囲気が出ていた。後はより多くの魔力を放出するだけといった雰囲気だな」
「あ、あはは」
苦笑いの湖張。ため息のレドベージュ。
「まったく、とんでもない才能だな。まあ頼もしい存在と捉えておこう」
そう言うなり換気の為に窓を開けるレドベージュ。すると窓の近くにある壁に貼ってある近隣の地図を眺め始める。
「地図?ここら辺の地図なのかな?」
湖張がベッドの位置からそう尋ねると「そのようだな」と返すレドベージュ。
するとラナナは次の興味対象が地図に移ったのか、小走りでレドベージュの隣に移動して地図を眺める。
「・・・あれ?ひょっとして今ってここの村です?」
現在地を指さして問いかけるラナナ。
「うむ、その通りだ」
簡単に肯定するレドベージュの言葉を聞くなり、ラナナの目は表情まで輝き始める。
「という事は次の目的地は更に東の隣街ですよね!?」
「む?いや、別に決めているわけではないのだが・・・」
「えー」
戸惑うレドベージュの返答につまらなさそうな表情のラナナ。普段の大きな目が半分以下の面積になっている。
「隣の街に何かあるの?」
不思議そうに問いかける湖張。輝きの目をしながら手を組んで訴えるラナナ。
「ファッション文化の発信地です!」
「・・・へ?」
「隣の街には数多くの衣料品や装飾品が集まる場所なのです。
デザイナー、職人、お店、材料の生産など全てが集まる流行の塊のようなところなのですよ!建物や食べ物も見た目重視で、その場にいるだけで心が躍ると言われています!」
「要するにオシャレな街だから行ってみたいという事なのかな?」
苦笑いで問いかける湖張。本質はカワイイが好きな女子であるラナナの性格を考えるとテンションが上がるのは当然だと思える。
「むしろ湖張姉さまは行きたくないのですか!?」
目を細めながら接近してくるラナナ。座りながらであったが、思わずたじろいでしまう。
「え?あー・・・えーとレドベージュさん!?」
ラナナの圧力に思わず負けそうになってしまったのでレドベージュに投げかけると、娘の我儘を苦笑いで許す父親のような雰囲気で答える。
「分かった分かった。まあ元々は東を目指す予定ではあったから、その街に向かうとしよう。
しかしその前に寄りたい場所が一つある。良いな?」
「寄りたい場所ですか?」
普段のパッチリとした目に戻ったラナナが不思議そうに質問をすると頷くレドベージュ。
「うむ、湖張は我と初めて会った日に戦った回復が早い魔物の事を覚えているか?」
突然の話で戸惑いつつもうなずく湖張。
「え?・・・ええ、そりゃあ覚えているけど一体どうしたの?」
「うむ実はな、その魔物がいた研究所にメモが残っていてな。
どうやらその研究所なのだが一か所だけではなく数か所あるようなのだ。
そのうちの一つがこの村の近くにあるようでな。そこに行ってみようと思う」
「そうなの?!」
突然、思いもしなかった事を提案されて驚きを見せる湖張。そして続いて質問をする。
「そこに何があるの?」
「うむ、それが分からないのだ。
実はメモを回収した研究所にいた者をしばいたのだが、どうやらその者は助手のような立場でな、研究の手伝いはしていたのだが詳しくは知らないとの事だったのだ。
なのでもう研究に関わらない事を条件に開放したのだが、そのお陰で大した情報がなくてな。そこで折角なので見に行ってみようと思う」
「なるほどね」
腕を組んで納得の素振りを見せる。一方ラナナは難しい顔をしている。
「ほれほれ、そんな顔をするでない。直ぐに用件は終わるだろうから街にはすぐに行けるぞ?」
なだめるような事をレドベージュが言うと首を横に振るラナナ。答えはそれではないらしい。
「違います!それって作られた魔物のお話ですよね?そんな施設がこの付近にあるのですか?」
「メモからすると、そのようだな」
拳を手に当てて考えるラナナ。
「そもそも魔物を作る事、改造する事とは相当の知識と技術、何より設備が必要なのです。
それがここら辺にあるなんて、考え辛いですよ。
ましてや改造となると、いくら魔物だとしても倫理観から禁忌の研究でもあります。
魔法学校でやるにしても相当な議論がなされた後ではないと許可は下りません。
でもまあ悪い人には倫理など無意味なのかもしれませんが」
「でも実際に作られた魔物がいたよ?しかも私の村の近くには、そんな大した施設なんてなかったよ」
湖張が思い返しながらそう返すとラナナは更に難しい顔になる。
「メーサ教が絡んでいそうな魔物に関してもそうなのですが、最近は変な魔物が多くて何かおかしいです」
「ひょっとして裏で繋がっていたりして」
湖張が何気なくそう言うと、ゆっくりと視線を向けるラナナ。
「ありえそうですね・・・とりあえず行ってみましょう。気になって服を見るどころではありません」
「そうだな、行ってみない事には何とも言えぬ。今日はゆっくり休んで明日に備えるとするぞ」
レドベージュの言葉に真剣な顔で頷く湖張とラナナ。どうやらオシャレを楽しむにはまだ早かったようだ。
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