ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百三十八話【黒く謎めいた敵】
- 2024.12.01
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
地面を突き破るように次から次へと黒い何かの体がはい出てくる。
小さな地面のかけらがいくつも打ち上げられては周囲にまき散らされていく。
その度に発せられる硬い物が割れる音。
揺れる大地。まるでこの世の終わりを告げる強大な魔物が現れるかのような雰囲気を出す。
そして巨大な体が現れたと思った直後、蛇のような長い何かが地中から飛び出してきて
生き残っていた皮膚の硬い魔物を一飲みしてしまった。
「何だよ、これ・・・」
剣をゆっくりと下ろし唖然とするタウン。
突如として目の前に現れた巨大な何かは一目で異形で異端であることは明白であった。
大きさは縦横高さ全てにおいて10m近くある。
蜘蛛のような体ではあったが脚は4本で異様に長く、そして太い。
また蛇のような長い頭が前方に一本ついてはいるが
その表皮は爬虫類的な雰囲気は無い。
というのも虫を彷彿とさせる硬そうな黒い外殻で全身が覆われていたからだ。
「気を抜くでないぞ!この外殻、西の町で遭遇した謎の魔物に近い!」
「本当ですか!?」
レドベージュの発言に驚き聞き返すゼン。
「確かに、色も似ているね」
湖張も同意を見せると、タウンは剣を再び構えジッと目の前の異物を見つめる。
「つまり、本気を出せという事か」
そう呟いた後に視線は向けずに湖張に問いかける。
「湖張、注意点は?」
「硬いよ。そして口みたいなのを開いて向けてきたら強力な一撃を吐いてくるから
絶対に避けて。付け加えてラナナとゼンさんが射線に入らない位置取りを常に意識して」
「分かった」
そう簡単に済ますと、全体に聞こえる声を上げるタウン。
「ゼン、ラナナ。俺と湖張で隙を作る。魔法で仕留めてくれ!レドベージュ様は二人を守ってください!」
その姿を後方でジッと見るラナナ。
「リーダーシップが随分とある人ですね」
「気に食わないかい?」
「そういうわけではありませんよ。妥当な采配ですし。ただ・・・」
「ただ?」
ゼンとそうやり取りをした後、少し間を置いてから彼女は答える。
「今までに関わったことが無いタイプの人です。
最初は陰湿で腹黒そうなイメージでしたが、実際は真逆のような行動が見受けられます」
そこで小さく笑みを見せるゼン。
「今の姿が本来のタウンだよ」
「でしょうね」
小さく微笑むラナナ。
「期待に応えられるよう頑張ります」
そして長い杖を両手で構え、先端を魔物に向ける。
「俺は左から攻める」
一方で魔物の左側に回るタウン。湖張は反して右に回る。
すると魔物の首は湖張を追っているようで、顔を横に振る姿を確認するなりタウンが飛び込む。
そして右前脚に向かって両手の剣で2回切り付けると、
硬い木を切りつけたような音がして浅い傷だけが残る。
「本当に硬いな!」
斬撃の後に後方に飛び距離を取るタウン。しかしその衝撃に反応したのか
魔物は首をタウンに向ける。そして口を大きく開けて狙いを定める。
「避けて!」
湖張が大声で訴えると、すぐさま回避行動を取るタウン。
「これか!?」
直後に今までいた場所は魔物が吐く強力な砂の流れにより
大きな穴が空いてしまった。
「これはヤバイ奴じゃねえか!?」
穴を見てタウンは顔をしかめる。
魔物の危険度が計り知れないと感じるなり自然とその表情になっていた。
「でやぁぁぁ!」
そのタイミングで飛び上がる湖張。扇子を開き魔物の横方向から首の中間点を狙う。
上から下に向かって目いっぱいの力で斬りかかる。
以前とは違い、今回は迷いのない一撃。
レドベージュがやったように斬り落とす気持ちで振りかざす。
すると魔物の首は見事斬り落とされ、灰色の液体が大量に流れ落ちる。
「やった?」
少し離れた位置から様子を見ていたゼンがそう呟く間に、湖張は魔物の前に着地をする。
しかしその時であった、首を落としたはずの魔物の前脚が急に振りあがり、湖張に目掛けて振り下ろされてきた。
「しまった!?」
着地の隙を突かれた湖張。首を落としたというのに、まさか攻撃を仕掛けてくることは想定外であった。
「湖張!」
駆け寄ろうとするタウン。しかし間に合いそうにない間合いであった。
と、その時であった。目の前に高速で移動する影が横切った事に気づく。
湖張にぶつかる影。その直後、振り下ろされた魔物の脚は地面に穴を空けていた。
巻き上がる砂埃。周囲の視界が悪くなるが、すぐに収まる。
すると魔物から少し離れた位置に足を延ばして座った状態の湖張と、その横で彼女の上半身を支えているハルザートの姿があった。
「・・・え?ハルザート!?」
「立てるか?今は悠長な事をしている暇はない」
驚く暇もなく立ち上がる湖張。そして魔物を見つめる。
「ごめん、ありがとう」
「礼なら後だ」
剣を抜くハルザート。心なしか少し怖い表情をしている。
と、その時であった。切り落とされることが無く残っていた首の根元付近の部分が魔物の体の中にヌルっと吸い込まれ、新しい首が生えてくる。
「そんな!?」
驚きの表情を見せる湖張。確かに切り落としたはずの首だったが、どうやら急所ではなかったらしい。
「下がっていろ湖張。私が仕留める」
そう言ってゆっくりと魔物に向かい始めるハルザート。しかし湖張は薄い目で彼を見る。
「むりー。指をくわえて見ているワケないでしょ?」
「恐怖は無いのか?」
「無いよ」
その返答にフッと笑うとそれ以上は拒まないハルザート。
言っても聞かない事は重々承知といったところだ。
「無理はするなよ」
「そんな事、言っていられないで・・・え?」
ハルザートとそうやり取りをしていると、
急にタウンが魔物の目の前に位置取りをして、右脚で回し蹴りを浴びせる。
するとまるで軽いボールを蹴り飛ばしたかのように魔物が後方に吹き飛ぶ姿が視界に入る。
勢いよく転がる巨体に思わず言葉を失う。
「おら今だ!撃て!!」
射線を空けながら指示を出すタウン。
するとラナナとゼンは魔法を放つ。
「メガトン!」
炸裂するラナナの魔法。周囲に爆風が散らばる。
「エアスラッシュ!」
ワンテンポ遅れてゼンの放つ風の刃の魔法が魔物に襲い掛かる。
魔物を包み込む爆炎と砂埃を風で吹き飛ばしながら
深い傷をつける」
「さすが先輩。ワンテンポ遅らせて風の魔法を使う事で視界を確保しつつ
連続で攻撃を与え続けたというわけですね」
「どうしてもサポートが中心の生活をしているからね。
でも感心している場合じゃないよ。君の魔法でもまだ相手は健在のようだ」
ゆるりと立ち上がる魔物。しかし次の瞬間、脚をバタつかせたと思ったと思ったら
あっという間に地中に潜ってしまった。
「逃げるか!?」
飛び込もうとするハルザート。しかしタウンは静止する。
「深追いするな!違う攻撃に転じた可能性もある。
俺達も急いでこの場から離れるぞ!得体が知れなさすぎる!」
「何!?」
納得がいかなさそうなハルザート。しかし彼の腕に触れて話しかける湖張。
「ここは言うとおりにしよう。確かに何があるか分からないよ」
「・・・分かった」
するとおとなしく剣を鞘にしまうハルザート。そして歩いて近づいてくるタウンを見つめる。
「貴殿は?」
問いかけに反応するタウン。
「ああ、初めましてだな。俺は・・・」
と、その時であった、湖張は話を遮るようにハルザートに話しかける。
「ほら、あっちにラナナとレッド君もいるから。まずはこの場から離れよう。
自己紹介はそれから。何が起こるか分からないよ?ね、ハルザート」
チラリとタウンを見た後にハルザートに視線を移す湖張。
するとタウンは腕を組んで答える。
「そうだな・・・そうするか。レッド君のところに行くぞ」
(やっぱりタウンさん、の察する力はすごい)
レドベージュの正体をハルザートには明かしていなかったので、
タウンがうっかりレドベージュという単語を出すのではないかと思い
先手を取ってレッド君という名前を出す。
すると察してくれたのか復唱して理解を示すタウン。
元々西の町で得た情報からレッド君という単語を聞いていたので
すんなりと理解が出来ていた。
「あの首・・・僕たちでいうところの首ではないのかもしれないね」
湖張たちが向かってくる姿を見ながら離れた位置で分析をするゼン。
すると袖を引っ張る感触を感じる。ラナナである。
「先輩、あの男の人がハルザートさんです。
顔見知りではありますが、レドベージュの正体は知りません。
あくまでパペットのレッド君という事でお願いします」
頷くゼン。
「分かったよ。でもタウンは平気かな?」
「平気ですよ。空気を読む力はこの数日間で理解できていますから。
レドベージュの設定も最初に会った時に聞いてはいますし。
レッド君という名称も、きっと西の町で聞いてはいるでしょう」
そこまでやり取りをすると、ジッとラナナを見つめるゼン。
「それにしても随分と落ち着いているね。結構危険な場面だったと思うよ?」
「・・・そうでうね。確かに一瞬は冷っとしましたが、
ハルザートさんの姿が見えましたので。
魔法で援護して巻き込む危険性を考えたら、任せた方が良いかなと。
それにこういうの、慣れてきちゃいました」
苦笑いを見せるラナナ。
「・・・逞しくなったね」
「そうかもしれません。ダラを出た時、こんな未来は想像していませんでしたよ」
そうこうしているうちに近づいてくる三人。
そのタイミングでレッド君は地面に手を添える。
「何しているの?」
不思議そうに問いかける湖張。するとレッド君は立ち上がり答える。
「振動が全くない。どうやら魔物は遠くへ去ったようだ。
どのような原理なのだろうな」
「じゃあとりあえずここは安全という事ですかね?」
腕を組み周囲を見渡すタウン。それに「うむ」と簡単にレッド君から答えが返ってくる。
「そう言えばなんでハルザートはここにいるの?」
このタイミングで問いかける湖張。
すると彼女をじっと見た後に答えが返ってくる。
「それは湖張と同じだと思うぞ?魔物退治だ」
苦笑いを見せる湖張。
「あはは、相変わらずだね。でも驚いたでしょ、急に見たことも無い魔物まで現れちゃって。まさかあんなのが出てくるなんて思わなかったよ」
その言葉を聞くと不思議そうな顔を見せるハルザート。
「確かに見た事は無い魔物ではあったが、それを退治にきたのだが・・・湖張は違うのか?」
「うん?」
腕を組んで首を傾げる湖張。
「湖張は何を退治しにきたのだ?」
「私?皮膚が硬くってメーサの騎士が簡単に倒せる魔物だよ?」
「あれか?あれがここら辺にいるのか?」
「え?じゃあハルザートはそうじゃないの?」
頷くハルザート。
「ああ、私はここらへんに黒い異形の魔物・・・先ほどの魔物の情報を聞き退治しにきたのだ」
そこまで聞くと、タウンに顔を向け問いかける。
「そんな情報、あった?」
首を横に振るタウン。
「いや、初耳だ・・・どこの情報筋か大いに関心があるな」
そこで目が合うタウンとハルザート。
「そういえば仲間が増えたのか?」
湖張に問いかけると小さく首を横に振る湖張。
「いや、そういう訳じゃないよ。今日は特別にお手伝いをしているだけ。
こちらはタウンさん」
「ラガース王国ピース所属のタウン・アッシャーだ。よろしく」
にこやかな表情で握手の為に手を差し出すタウン。
しかしハルザートは急に険しい顔を見せる。
「王国の騎士とつるんでいるのか?」
(・・・この顔、嫌っている?)
表情の変化と少し怒ったような口調から何か理由を抱えていると感じ取れる。
簡単に険悪な様子と捉えられたのだが、ここはあえて穏便に済ませようとする。
「だからお手伝いだって。王国としても魔物は放置できないけれども
やる事が多くて手が回らないんだって。だから私たちはそのお手伝い。
魔物が徘徊している話を聞いたら放ってはおけないでしょ?」
「だからと言って、湖張たちが手伝う案件なのか?」
そう言われると握手を差し出していた手を頭を掻く動作に変えて話に加わるタウン。
「まあ確かにそう思われることもごもっともだな。
ただ恥ずかしい話、本当に手が足りない事も事実なんだ。
どうもフットワーク軽く魔物退治に足を運べる部署も人材が不足していてね」
その言葉を聞くと、顔をそらし、そのまま背を向けるハルザート。
「今日はここで失礼する。」
「ちょっと、何処へ行くの?」
湖張の問いかけに対し、顔を向けて答える。
「魔物を追う」
その問いに少し驚きを見せる湖張。
「ちょっとちょっと、本気?さっきの見たでしょう?一人じゃ危ないよ」
「大丈夫だ。今までも一人で多くの魔物を退治してきた」
「いやいや、でも今回のは危ないって」
「問題ない」
「いや、問題あるな」
二人のやり取りに割って入るタウン。
それが気に食わなかったのか、ハルザートは再びこの場を去ろうとする。
「待てよ、このままアンタを行かせるわけにはいかない」
腕を組んで制止を促すタウン。ピタリと止まるハルザート。緊張が走る。
「どういう事だ?」
背後を見るハルザート。ジッと見つめるタウン。
しかし数秒後、ため息交じりにタウンが答える。
「あのな、この山は王国の管理下で許可無き者は入れないの。
勝手に入ったら不法侵入。そんなの俺が黙認できるわけないだろ?」
「そうなのです?」
話を聞いていたラナナはゼンに問いかける。
「そうだよ。まあ麓くらいだったら黙認しちゃっているけれどもね」
そのやり取りを横目で見た後に両手を小さく上げて参った素振りを見せるタウン。
「と、いう訳だ。一般人は立ち入っちゃ駄目だ。
・・・と言いたいところだが、先ほども伝えた通り人手不足でね。
湖張たちのような民間人にも手伝ってもらっている現状だ。
そして先ほどの魔物、危なくて放ってはおけない事は明白」
そこでニヤリと見せ、話を繋げる。
「そこでだ、アンタも今日だけ俺たちを手伝わないか?
そうしたら山には入り放題。危険な魔物退治も一人より俺たちとやった方が
色々と助かるだろう?これでも俺、結構強いんだぜ?」
(そう出るんだ)
心の中で呟く湖張。タウンがまさかハルザートにまで協力を促す事に少し驚くが、
また隙あらば情報を引き出そうとしているのだと感じ取る。
すると自分もタウンの協力をした方が良いと思えてくる。
「断ると言ったら?」
冷静に反応するハルザート。それに苦笑いのタウン。
「そしたら帰ってもらおうかな」
「それも断ると言ったら?」
「それは犯罪だよ」
呆れた目でハルザートに訴える湖張。
「な!?」
「だってそうでしょ?不法侵入!王国の騎士にダメだって言われているのに破ったら弁解の余地はないよ?」
ため息のハルザート。
「だがな・・・」
「というか別にいいじゃない、一人じゃなくっても。
今日は一緒に頑張ろうよ」
ジッと見つめる湖張。それをしばらく見ると、再びため息のハルザート。
「分かった。今日は特別だ・・・協力しよう。つまらない事で捕まるのも面白くないしな」
そう返答すると、にこやかに再び手を差し出すタウン。
「そうか、ありがとうな。改めてよろしく。タウンだ」
その手をジッとみるハルザート。
その姿に手を腰に当てて不服そうな顔を見せる湖張。
「せめて名乗りなさいよ」
「さっきから湖張が私の名前を呼んでいるだろう?それで知れているはずだ」
「人から聞く名前と自分で名乗る名前は意味が違うの」
そう言われると面を食らった表情のハルザート。更にため息が出るが
タウンと目を合わせて口を開く。
「ハルザートだ」
握手は交わさないものの、その姿勢に満足したのかタウンは笑顔で答える。
「ああ、よろしくな!」
「・・・ひょっとして小悪魔?」
少し離れた位置で小声でラナナに問いかけるゼン。
腕を組んで頷くラナナ。
「アレは素でやっているので、質が悪いのですよね」
「そうなの?」
「はい」
半分呆れた顔のラナナ。しかし彼女の表情など誰も気づく事は無かった。
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