ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十話【大地から顔を出す異形の魔物】
- 2021.05.25
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
町中に入ると、その騒然さに一瞬戸惑いを感じる事となる。
というのも、確かに至る所で火災が発生はしているのだが、それだけではなさそうな人々の叫び声が聞こえてくるからだ。
声は火の手とは異なる方向から聞こえてくる。まるで何かに怯えている様な雰囲気にも感じられた。
「何だろう、様子がおかしいよ?」
声がする方角を向くが、建物が邪魔でその先が見えない。
そこで湖張は建物を回るように移動をし様子を見に行こうとする。
と、その時であった。突然レドベージュが何かに気づいたのか湖張を静止させる。
「待つのだ湖張!あれを見ろ!」
「え!?」
レドベージュが指さす方向を見ると、そこには細い路地裏で倒れているメーサ教の騎士の姿がある。
「ちょっとアナタ、大丈夫なの!?」
慌てて駆け寄り、治癒魔法を掛けながら話しかける湖張。
しかし騎士はびくともしなかった。
「事切れているのか?」
ゴルベージュが窺う様に話しかけてくると、横に首を振る湖張。
「いえ、気を失っているだけのようです。・・・とは言ったものの傷は深いですね」
「そうか」
そう言うと、治癒魔法を手伝うゴルベージュ。それにより一命はとりとめられそうである。
しかし意識は戻りそうではなく、騎士からは今すぐ情報を得られそうではない。
「一体何があったのだろう?」
魔法を掛け終え、手を下げながらそう呟く湖張。
火災が発生している町で倒れているメーサ教の騎士。どういう事なのかさっぱりである。
と、その時であった。ラナナが何かに気が付いたのか、小声でレドベージュに話しかける。
「レドベージュ、あれ」
彼女が指さす方向には、メーサ教の騎士の槍が持ち手の折れた状態で道端に転がっていた。
「この場合、まさに火事場泥棒になるかもしれませんが、チャンスでもありませんか?」
どうやらラナナは槍を入手する良い機会と判断したらしい。
確かに、皮膚が硬い魔物の性質を知るにあたり槍は欲しいと考えていたので、今はその好機ではある。
しかし後ろめたい状況でもあるので、レドベージュにどうするべきかを委ねたのであろう。
すると彼は少し考えた後に折れた槍の先端部を手に取る。
「まあ褒められた事ではないが、必要悪であろう。ただ手に持っていると今は目立つな」
そう言うなり、地面に手を向けて魔法を放つレドベージュ。
すると1m程の穴が開き、そこに槍を落とす。そして飛び散った土を魔法で集め、上からかけて埋めてしまった。
「後は事が収まったら掘り起こせば良い」
その様子を苦笑いで見る湖張。
「良いの?」
「そんな目で見るでない」
「いや、まあ仕方がないのだろうけどね」
そう言った後、ゴルベージュに視線を移すと「私を気にする必要は無いぞ。悪意は無いのであろう?それは捜査だ。問題ない」
と肯定の言葉が返ってくる。苦笑いが続く湖張。どうやら天帝も天将もガチガチの堅物というわけではないらしい。
「さてと、火事に騒ぎにメーサ教。しかも打ちのめされていると。これはただ事じゃないよね?
急いで声がする方に行ってみようよ」
苦笑いの状態から気を取り直して湖張がそう提案すると、それに賛同した一行は急ぎ足で建物を迂回し、声のする方向へ向かう。
建物からは火の粉が飛び散り近づくだけでも熱を感じるが我慢して突き進む。
若干の煙が目の前を遮るが、全く視界が無くなるわけでは無く何とか前進する事が出来た。
そして建物を通過し煙の壁が目の前から無くなると、町の広場に辿り着く。
するとそこには一見すると信じられないような光景が広がっていた。
「何あれ・・・?」
驚きと疑問が合わさった様子で呟く湖張。それを聞いていたラナナは視線を逸らさず、無言のまま首を横に振る。
元はレンガが綺麗に敷き詰められていて、町の憩いの場所だったと思われる広場であったが、
今は憩いとは全く正反対の状況であった。
地面の至る所には巨大な穴が開いており、無数のレンガが散らばっている。
周囲には近衛兵だけではなく、十数人ほどの一般人と思われる人々も無残に倒れており、まさに惨状である。
そして何よりの異質で信じられない物がそこにはいる。
全身が黒く、海にいるゴカイを巨大化させた様な気色の悪い生物が、そびえ立つ巨木のように
地面から半身を出してうごめいてたのだ。
昨日、湖の王のところにいたシーサーペントと同じくらいの大きさと思える程巨大で、太さは3mくらいはあり、体長も10mは優に超えそうである。
「あれは何か知っているか?」
ゴルベージュに問いかけるレドベージュ。しかしゴルベージュも知らないようで、ゆっくりと首を横に振る。
「分からん。今まで見てきた魔物と比べても異質だ。
穴が開いているという事は、地面からあれが這い上がって来たという事か?」
「まあ、そうであろうな」
ゴルベージュの話に賛同しながら鞘から剣を抜くレドベージュ。そして一同に指示を出す。
「とにかく今は目の前の魔物を仕留めるぞ。
ただ周囲には人が倒れている。広範囲の魔法は巻き込むので無しだ。良いな?」
「分かった、やってみよう」
そう言いながら拳を強く握りしめる湖張。ジッと強い視線で魔物を見る。
(とは言ったものの、倒れている人を巻き込まず、且つ守りつつ戦うのは難しいよね。
・・・でも弱音を吐いていられる状況でもないか)
湖張は心の中でそう呟いた後に、一度深く息を吐く。
そして大きく息を吸って一気に集中力を高め、意識を真剣勝負に切り替える。
「行こう!」
大き目の声で湖張がそう言うと、それが合図の代わりになり
魔物に向かって飛び込む湖張とレドベージュ。
そして魔物のそばに辿り着く前に、ラナナが放った無数の小さな光弾の魔法が弧を描く様に飛び、
魔物の全体に命中する。すると魔物は強く小刻みに震えるようにうごめく。
「気持ち悪!」
間近で見た湖張はそう言いながら垂直方向に飛び上がり先端部分まで到達し、
魔物に目掛けて至近距離から白い光の塊である覇王拳を放つ。
命中した部分は先端の方だったので、体が埋まっている部分を中心にして弧を描く様に倒れ込む。
そして更に震える魔物。動きがとても気持ち悪い。
「試してみるか!」
そう言いながら上空に飛んだレドベージュが下降しながら剣で魔物に斬りかかると、
硬い木を切りつけたような音がし、軽く傷をつけた。
「む、意外と硬いぞ?」
そう言いながら後方に下がるレドベージュ。彼の斬撃はあまり通らなかったらしく、魔物はゆっくりと体を起こし、
頭と思われる部分をレドベージュに向ける。
すると、頭の様な部分は蕾が開き花になるように、瞬く間に五方向に開き星型の様な形になる。
しかしその姿はあまりにもおぞましく、花と形容するにはあまりにも無理があった。
そして星形の中心には口の様な穴が開いており、
いかにも何かを吐き出しそうな状態にである。
「これは避けた方が良いぞ」
少し離れた位置から、独り言のように声を出すゴルベージュ。
当然のようにその声は聞こえないのだろうが、まるでアドバイスに従うかのようなタイミングで
レドベージュは上空に飛び上がる。
そしてその直後、魔物の口からは強力な砂の流れが吐き出され、今までレドベージュがいた場所には大きな穴が開いてしまった。
「そんなのアリですか!?」
魔物の攻撃に驚愕するラナナ。その隣でゴルベージュは落ち着いた声で言葉を発する。
「いや、無しだな。歓迎は出来ない。
どれ、私は少し近づくとするがお前はこの位置で待機しているのだ。
もちろんじっくりと観察をしながらな」
「え?」
「見たことのない魔物だ。相手を制しつつ記録も欲しい」
「・・・分かりました」
ゴルベージュから情報の収集を命じられたラナナは小さく頷く。
その様子を見るなりゴルベージュはゆっくりと10センチほど浮き上がった後、高速で湖張に近づく。
「ゴルベージュ様?!」
急に隣に位置取る天帝に疑問を持つ湖張。
「湖張よ、この魔物をどう見る?」
「どう・・・ですか?」
漠然とした質問を突然投げかけられ戸惑う湖張。そして何とか言葉を絞り出す。
「一言で表現すると気持ち悪いですね」
「気持ち悪い?まあ確かに気持ち悪いだろうな。こういう巨大な蟲のようなものは苦手といっても不思議ではない」
そう返されると湖張は首を振る。
「いえ、そういうのじゃなくって・・・いえ、それもありますけれども、
あまりにも異質すぎて何があるか分かりません。ひょっとしたら毒があるかもしれません。
なので下手に触れる事も気が引けます」
「なるほど、そういう事か。良く分からなくて不気味という事だな。では団扇を使えば良かろう?
あれならば直接触れずに攻撃できるぞ?」
何気なく提案をするゴルベージュ。すると一瞬考えた後、腰に携えている団扇を手に取る湖張。
「ああ、まあそうですよね」
「そんなに団扇が嫌いか?」
「いえ、そういう訳では・・・」
「何をしている!」
ゴルベージュとやり取りをしていると、横から突然レドベージュが大きな声を上げる。
その声にハッとし魔物に視線を移すと、魔物が二人にめがけて大きな口を開き狙いを定め始めている事に気が付いた。
「やらせんよ」
落ち着いた様子で魔物に向けて手をかざすゴルベージュ。
そして次の瞬間、掌から数多もの光の弾を縦に綺麗に一列になるよう、連続で放ち続ける。
光の弾が魔物に命中する度に小さな爆発が発生し続け、魔物を襲い続ける。
それによろめき動く魔物。しかしゴルベージュの狙いは正確で、動き続ける魔物を常に捉え続け攻撃の手を止めない。
「すごい・・・」
湖張がそう呟いていると、ゴルベージュは彼女に話しかける。
「ほら何をしている?攻撃していない部分はがら空きだぞ。
早く切りつけにいかんか。これだけで倒せる保証はどこにもないのだ」
「は・・・はい」
慌てるように魔物に接近する湖張。そして穴付近の根元の部分を団扇で切りつける。
するとレドベージュと同様に大木を切りつけたような音がしてちょっとした傷跡を作るのみだった。
「やっぱり硬い!?」
有効打にならなかったので、すぐさま反撃がある可能性を考え後方に下がる湖張。
その位置は意図せずゴルベージュのそばであった。
「上手く斬れなかったようだな」
攻撃の手を止め、湖張に話しかけるゴルベージュ。
「はい、やっぱり凄く硬いです」
「そうか?」
疑問を投げかけるなり、右手を目の前に出して、見えない棒を掴む様な素振りを見せるゴルベージュ。
すると魔物は首元を掴まれた様な状態になり、頭を空に向け動かなくなる。
そしてゆっくりとゴルベージュは手を上げると、その動作に合わせて魔物もゆっくりと地面から引き抜かれていく。
「う・・・そ」
目の前の状況に唖然とする湖張。ゴルベージュが頭上まで手を上げ終えると
魔物は首を掴まれ吊るされた蛇のように宙に浮いた状態になった。
「ほれ何をしている。早く魔物を切り落とさないか」
何気なく湖張に伝えるゴルベージュ。しかし当然のように戸惑う湖張。
「切り落とすって、あの魔物はとても硬いのです。到底できませんよ」
その言葉を聞くなり首を横に振るゴルベージュ。
「いや、その様な事はないぞ。その団扇ならばこの程度の魔物を切断する事は可能なはずだ」
「でも・・・」
「それはお前が本気で斬ろうとしていないからだ」
「え?」
ゴルベージュの言葉に固まる湖張。
「先程、団扇の力が怖いというような事を言っていたな?
その心が無意識のうちに団扇の力を抑制しているのであろう。
団扇は持ち主の心をしっかりと受け止める。
お前が強大な力を恐れるのであれば、その望みを叶えるように強大な力を発揮しない。
しかし力を望むのであればその声に応え、想像以上の力を発揮するであろう。
周りをよく見てみると良い。
人が倒れ、町が壊されているだろう?
この魔物を倒さない限り被害はより拡大するぞ?
しかも周囲を巻き込むので強力な技も魔法も使えない。
何を躊躇う?今こそ団扇の様な周囲を巻き込まない強力な力が必要な時ではないか?」
そう指摘をされると言葉を失ってしまう湖張。
ゴルベージュの話はもっともだと頭では理解できるのだが、それでも直ぐ行動に移せないでいた。
と、その時である。左手をそっと引っ張る力を感じた湖張。
その方向を見ると、レドベージュが心配そうに優しく手を引いていた。
「あまり深く考えなくて良いぞ。ここは我が少し本気を出せば良い」
そう告げると、今度はゴルベージュに話しかけるレドベージュ。
「そのまま抑え込むのだ。直ぐに終わらせる」
「・・・まあ良いだろう」
ゴルベージュがそう返すと、高速で飛び上がるレドベージュ。
そして魔物の中心位置の高さまで到達すると、薙ぎ払う様に斬撃を仕掛ける。
するとその位置から下の部分が見事に切断され地面に落下し、灰色の体液が大量に流れ落ちた。
「・・・」
先ほどは傷をつけた程度だったのだが、少し本気を出しただけでこの変わりようである。
この状況に湖張は驚き、言葉を失ってしまった。
「さて、これで終わりか?」
そう呟くと、何かを握りしめていた様な手を広げ術を解くゴルベージュ。
すると宙に浮いたままの魔物の半身は、力なく地面に落下した。
<NEXT→>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十一話【団扇の調整】
<←PREV>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十九話【訪れた町の異変】
-
前の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第八十九話【訪れた町の異変】 2021.05.15
-
次の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十一話【団扇の調整】 2021.06.02