ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百三十九話【謎めいた敵を追って】
- 2024.12.10
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「さてと、じゃあどうする?」
全員の前で今後の方針について問いかける湖張。
「何か案がある人は挙手」
そう言った後、タウンは腕を組み全体を見渡し最後はレッド君を見る。
当の本人は視線に気づくと、首を横に振り返答をする。
どうやら特に案はないようだ。
また、誰も手を上げなかった事を確認するなり山を見上げるタウン。
「誰も案は無いようだな。そうしたらまずは山道を使って頂上付近をめざそう。
二時間ほどで到着できるはずだ。
この山は上の方に行くと木がほとんどなくなる。
また山とはいっても綺麗な三角形の山では無く、
ここから反対側は険しい崖、まさしく絶壁だ。
そんな頂上付近から見渡せばあんなに大きな魔物だ、見つけやすいかもしれない。
また何か形跡も見つけられるかもしれないからな」
「よし、じゃあここにいてもしょうがないから早速移動しよう。ハルザートも良いよね?」
湖張が問いかけると頷くハルザート。
「いいだろう。それしかなさそうだ」
「じゃあ決まりだ。頂上まで案内する」
そう言って出発をするタウン。問いかける湖張。
「ここに来たことはあるの?」
「ああ、何度かな。仕事でな」
「仕事?」
「さっき言っただろ、国の管理下でね」
「あー」
そうやり取りをした後、今度はハルザートに話しかける湖張。
「ハルザートは来たことあるの?」
そう問われるとジッと湖張を見つめ、何かを考えるハルザート。そしてため息を一つ。
「さっき言っていただろう、国の管理下だと。
ここで来た事があると答えてみろ、間抜けな事になる」
「あー・・・だよね」
苦笑いを見せる湖張であったが、ここにきてようやく小さく優しい顔を見せるハルザート。
「危うく誘導尋問に引っかかるところだったな」
「別にそういうのじゃないって」
「だと良いのだが」
「そういえばあれから何か魔物退治をしたの?」
「あれから?ロダックの後か?」
「そうそう。まだ日はそんなに経ってはいないけれども、毎日忙しく各地を回っているのでしょ?」
そう問いかけると首を横に振るハルザート。
「いや、特には倒してはいない。少し野暮用があってな。
だがその時にさっきの魔物の話を聞いたのだ。
それで今日だ。まさか湖張に出くわすとは思いもしなかったが」
「それはこっちのセリフ。ところで情報源はやっぱり教団?」
先ほどの険悪な雰囲気は消えていたので、何気なく情報源について聞いてみる湖張。
すると特に警戒することも無く頷き返答するハルザート。
「ああ、そうだ。この山に黒く異形の魔物がいるという情報を得てな」
「それで危なそうだから放ってはおけないからここに来たと?」
「そうだ。だがその情報は何処から出たのかは知らないぞ?」
そう言ってタウンをチラリと見るハルザート。
その姿にクスクスと笑う湖張。
「大丈夫だって。あの騎士の人、案外と話は分かる人だから」
タウンはそれに呆れた顔で反応する。
「おいおい、何か悪者扱いしていないか?安心しな。
そんな事じゃしょっぴかねえよ。それにアンタ、人々の為に戦ってくれているんだろ?
噂は聞いているぜ」
そう言って歩みを止めて振り返るタウン。
「ありがとう、国民を助けてくれて。礼を言う」
小さく頭を下げられそう告げられると、突然の事で面を食らうハルザート。思わず足が止まる。
「な・・・何をいきなり」
戸惑うハルザートに呆れ顔の湖張が話しかける。
「ああ、タウンさんはこういう人だよ。純粋に国の為に頑張っている騎士さん。だから私たちも強力しているの。
というかハルザートも同じような事を私にしたよね?」
「!?」
そう言われると少し恥ずかしそうな顔を見せるハルザート。
それを見逃さなかったタウン。
「ほほう、貴殿はそういう照れ方をするのか」
にやけて近づいてくるタウンに渋い顔を見せるハルザート。
「からかうな!」
「まあいいじゃねえか、肩の力は抜いて行こうぜ。
ヤバい魔物は放っておけないタチなんだろ?俺と同じだ。仲良くやろうぜ」
そう告げて再び進み始めるタウン。そして湖張はハルザートの背中をポンと叩く。
「ほら行こう、たまにはこういう賑やかなのも良いでしょ?」
「・・・まったく」
一つ息を吐くハルザート。
乱されたペースを取り戻し歩き始める。
「・・・タウンさんってみんなに対してああなのです?」
少し離れた位置でゼンに問いかけるラナナ。
「そうだよ。物凄いコミュニケーション能力だろう?」
「自分のペースで流しているだけな気もしますが」
「それでも自分のペースに持っていけるのは凄いよ」
「確かにそれはありますね」
そう答えた後、ゼンの視線に気が付くラナナ。
その先には左腕にしがみ付き続けるユカリの姿があった。
「やっぱり気になります?」
「うん、そりゃあね。
ピクリとも動かないから一見ぬいぐるみだよね。
実際の所、チウルはユカリだと気付いていないからね」
「あー、やっぱりそうです?」
「うん、ぬいぐるみが好きな女の子というイメージっぽいよ」
「・・・私がですか?」
「そう」
「それはちょっと・・・。今夜、ユカリの事を伝えます。
多分また何かしらの話を求められるでしょうし」
「それは楽しみだ」
ユカリに対して話題を展開していたが、当の本人は気にしていないようで
微動だにしていなかった。
しかし数秒経つと、急にラナナの腕の服を引っ張るユカリ。
急な動作を不思議に思いラナナは視線を移すと山道から外れた左側の茂みを手で指す姿が目に入る。
「ギューギュー!」
少し慌てているようにも見える。しかしユカリが指す方には何も見えない。
「どうしたのですか?何かいるのです?」
不思議そうに問いかけるラナナ。同じようにゼンも様子を窺うが、その直後であった。
彼は慌てた様子で茂みに体を向け、魔法の防御壁を広範囲に展開する。
「走って!」
ゼンがそう叫んだ直後、防御壁に茂みから飛んできた稲妻のようなものが直撃する。
激しく発生する光。爆発の様な音が鳴り響く。
「何!?」
「フーギルだ!全力で走れ!」
響き渡るタウンの指示。するとラナナは魔法で少し浮き上がり高速で湖張に近づき手を引く。
「急いで離れますよ!」
「え?ええ!?」
荷物を浮かせて引っ張る魔法を応用させ、湖張を浮かせてそのまま勢いよく斜面を進むラナナ。当然のように何が何だか分からない湖張。いい様に引っ張られる。
「ちょっと、何!?何事!?」
「フーギルです!ユカリくらいの大きさの魔物です。強力な稲妻を吐きます。肉食で人も普通に襲います。周囲に擬態して見えづらいです。足はそこまで早くはありませんが持久力はあります。聴覚と嗅覚がすごいのでしつこく追ってきます。火は怖いようで近寄りません」
「・・・要するに見えない魔物が襲ってきたけれども足が遅いから急いで逃げようという事?」
「そうなりますね」
一方、後方で走って山道を駆け上がる男性陣。その中で走りながらタウンに問いかけるハルザート。表情は険しい。
「倒さないのか!?」
「倒すよ!」
「ならば何故逃げる!?」
「あそこじゃ狭いだろ?この先に二合目の広場がある。そこならば戦いやすい!」
「見失ったらどうする?」
「大丈夫だ、そんなに諦めが悪くないヤツだ!」
そのやり取りを聞いていた宙を浮いて移動しているレッド君は速度を上げラナナに追いつく。
「ラナナ、この先の広場で迎え撃つようだ。広場の中心を過ぎたあたりで止まるのだ」
「分かりました!」
そうこうしている間に二合目の広場に到着する一行。先についたラナナ達がレッド君の指示した当たりに着地をして待機していると、タウンたちもそこで立ち止まり振り返る。
「はぁ・・・はぁ。みんな、息は上がってないな?」
「・・・いやタウンさん、上がってるよね?」
「そりゃそうだろ!?坂道を全力ダッシュだぞ!」
「遊んでいる場合ではないだろう」
薄い目でつっこむ湖張。呆れて頭を抱えるハルザート。それを後目に深く息を吐いて呼吸を整えるタウン。
「ちげーよ。これもわざとなの」
「・・・」
「なんだよ、お前らのその目は?」
二人して疑いの眼差しを向けられると不服そうな顔になるタウン。
「良いか?フーギルは耳が良いんだ。バタバタ走って息を上げていた方が追ってきやすいだろ?」
そう言われると驚いた表情を見せる湖張。ハルザートも少し驚いた表情を見せる。
「え?わざと?」
「ああ、・・・半分な」
「半分だったら偉そうにできないよね!?」
そうつっこまれるが気にも留めないタウン。横でハルザートが問いかける。
「追ってきているのか?」
「ああ、迫ってきていると思うぜ」
「思う?」
「・・・来るぞ」
そう言って真剣な表情に切り替わるタウン。剣を両手に持つ。
すると目の前の景色が若干ゆがんだような気がする。
「アンタの噂は聞いている。頼らせてもらう」
「良いだろう」
そう言って抜剣するハルザート。
「俺とハルザートが前に出る。ゼンとラナナは両側に分かれて援護、湖張はゼンを、レッド君はラナナを傍で守ってくれ!」
「相変わらず指揮を執り慣れていますね」
「まあ良いんじゃない?悪くない布陣だし。ラナナはどっち行く?」
「そうしましたら向かって右に行きます」
「了解。じゃあまた後でね」
そうやり取りをしてゼンに近づく湖張。
「私たちは左に陣取りましょう」
「よろしくね。でもその前に・・・」
そう言って片手の杖を若干歪んだ空間に向けるゼン。そして桃色に光る魔法の玉を放つ。
すると歪んだ空間に到着するなり玉は弾けて桃色に光る大型のトカゲのような姿が映し出された。
「え?何アレ!?」
「フーギルの輪郭だよ。あのままじゃ見えづらいから目印の魔法で何となく見えるようにしたんだ」
「・・・なるほど。ゼンさんの魔法って直接的に攻撃をしないまでも、かなり役立つものばかりですね。勉強になる」
感心している湖張に小さく微笑むゼン。
「そう言ってもらえると嬉しいね。さあ、持ち場につこう。
とは言っても、そんなに出番は無いだろうけれどもね」
少しだけ宙を浮いてスッと移動を始めるゼン。湖張も小走りでついていく。
「始めるぞ」
足を一歩前に出すタウン。その直後、フーギルから稲妻が放たれるが二人の騎士は余裕の素振りで回避を行う。
「遠慮すんな!一気に片をつけて構わない!」
タウンがそう大声で伝えるとハルザートは大きく飛び上がり剣に巨大な青い光を纏わせて上空から魔物に向けて斬りかかる。
しかしフーギルはとっさに横方向に飛び斬撃をかわす。
「あ、意外と素早い?」
「瞬発力はあるからね」
ハルザートの斬撃が大地を斬りつける様子を見て湖張が呟くと魔物の特徴を解説するゼン。
攻撃がかわされた様を見てはいるのだが、余裕そうな素振りである。
「なるほど、簡単にはいかない相手か」
かわされはしたが同様に動じないハルザート。着地をしながら次の一手の準備をする。
その間に今度はタウンが仕掛ける。
「おらぁ!」
両手の剣で二回、流れるように斬りつけるが、これもまた横に飛ばれてかわされる。
「ハルザート!怯ませろ!」
名前を呼ぶタウン。というのも魔物が飛んだ方向にはハルザートがおり、攻撃のチャンスが生まれている。
「そういう事か!」
力強く剣を振るハルザート。そして魔物の胴体を横から斬りつけるとやわらかい物を叩いたような鈍い音がし、フーギルの輪郭は仰け反る姿を映し出す。
「ゼン、とどめ!」
「あれ?出番?」
予想外だったのか行動がワンテンポ遅れるが、大地に向かって杖を振り下ろすゼン。
すると魔物の真下から大きな棘状の巨大な岩が突き出し、魔物を一突きにする。
「うわぁ、痛そう」
引きつった顔でゼンを見る湖張。それには苦笑いのゼン。
「ああ、そうかもね。でもフーギルは皮が厚くて剣で斬りかかっても攻撃が通りづらいんだ。
同じように魔法も効きづらい。だから物理的であり大げさな方法で体を貫く事が一番手っ取り早いんだよ。こんな感じでね」
「そうなんですか・・・最初は出番がなさそうな事を言っていたのに、しっかりと活躍しましたね」
「ああ、タウンが急に振ってきたからね。
でも最初はハルザート君と二人で片付けるつもりだったと思うよ。
ただ彼は状況によって柔軟に作戦を変えるからね。
あの時の最適解は僕に任せる方法だったのだろうね」
「良くそれで反応出来ましたね」
「まあ付き合いは長いし、こんな事ばっかりやっているからね」
そうやり取りをしている一方、タウンはハルザートに笑顔で近づく。
「お疲れさん。やったな!」
「いや、止めを刺したのはそちらの魔法使いだ。私はやっていない」
「そんな事ないだろ?良い動きでアシストをしたじゃねえか」
「それを言うのならば貴殿もではないか。攻撃の際、避けられたのではなく、
こちらに誘き出したのだろう?」
そう言われると腕を組んでニヤッと見せるタウン。
「なんだよ、しっかり見えているじゃねえか。流石だな。
でもまあアンタが良い動きをしたことは事実で、お陰で簡単に討伐が出来た。
戦いは個人技だけじゃない。チームの力が重要だ。
そう考えると十分な活躍だったと思えないか?」
そう問われると目を合わした後に、剣をしまいつつ顔を逸らすハルザート。
「どうだろうな」
そう言い残しはするものの、彼の口角が少し上がっていたように見えたタウンは、
それ以上は言わず、全体に対しての声に切り替える。
「はいはいお疲れさん。とりあえずコイツの討伐は完了だ。先を急ぐぞ」
「このままで良いの?」
走り寄ってきた湖張が串刺しになったフーギルを見ながら問いかける。
このタイミングで見ると周囲に合わせた擬態が解けており、白い肌の大きなトカゲのような姿が露わになっていた。
「ああ、別に良いぜ。国の関係者しか立ち入る事は無いはずだからな。
後日、片付けに兵を派遣しておく。
とはいったものの、岩の棘は邪魔ではあるな」
「はいはい、分かったよ」
タウンの視線にため息をついた後、杖を振りかざすゼン。
すると岩の棘は崩れ落ち、フーギルの体は大地に落下する。
「よし、コレで問題ないな」
腰に手を当てて問題がない事を確認するタウン。すると今度はラナナが問いかけてくる。
「ひょっとしてここを国が管理している理由って、フーギルが生息しているからです?」
「・・・ご名答。今、戦ってみて分かったと思うが、厄介な魔物だろ?
実は3か月前までは誰でも入れる山ではあったのだが危ないから国の管理下にして封鎖させてもらった。だからハルザートが国の管理下と知らなくても何ら不思議ではなかったんだ」
「そういう事か」
腕を組んで少し不服そうな顔を見せるハルザート。それに対して困った笑顔で釈明するタウン。
「まあそう言いなさんなって。さっきも言った通りヤバい魔物が生息しているんだ。
安全第一。だろ?俺たちだってどうやれば魔物の被害を最小限に出来るか奔走しているが故の結果だ」
「・・・ふん。まあ理解はしよう」
その言葉を聞くと小さい笑顔を見せるタウン。
「よし、じゃあ行くか。まだ目的は果たしていないからな」
そう言って山道を再び上がる一行。
「お疲れさま」
ハルザートの左腕を人差し指でチョンとつつく湖張。
「ああ」
小さな笑みを見せるハルザート。
しかしラナナは小さな不服の表情を見せていた。
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