ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百三十七話【麓での戦い】
- 2024.11.24
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「さて、問題の山の麓まで到着したわけだ」
目の前にそびえ立つ緑に包まれた山の前で腰に手を当てて見上げるタウン。
「もう着いた感じ?でも魔物の姿は見えないね」
周囲を見渡しながら湖張がそう言うと彼女に顔を向けるタウン。
「そりゃそうだ。情報では麓もだが、山の中でも見かけたとのことだ。要するに捜索範囲はこの山全てで、そう簡単に見つかりやしない。」
「うわ、それって今日中には見つからない可能性が高くない?」
「そううんざりした顔をするなって。俺だって正直うんざりだ」
気怠さからくる笑顔のタウン。思わず湖張もつられて同じような顔になる。
「こういう時に、何か良い手はないのですか?」
このタイミングでゼンはレドベージュに問いかける。日頃から魔物退治をやっているのでこういった場面には強いのではないのかという淡い期待からであった。
しかしレドベージュは首を横に振り残念を表現する。
「いや、期待しても無駄だぞ?地道に足で稼ぐしかない」
「そうですか。まあ魔物自体は見つけられなかったとしても、周囲の状況や痕跡を見つける事が出来るかもしれませんので、見て回るのも無駄ではないかもしれませんね」
ゼンが前向きな言葉を返すと、湖張は振り返り薄っすら笑いながらレドベージュに話しかける。
「そう言っておきながら、また見つけちゃうんでしょ?」
またしても首を横に振るレドベージュ。
「これこれ、変な事を言うでない。そんなに都合よく見つかるわけがなか・・・」
そう言いながら右の方を向いたまま固まるレドベージュ。
視線の先には20mほど離れた距離に皮膚の硬い魔物が1匹だけ、ゆっくりと歩いていた。
「これが天将様の力という事ですかね?」
タウンが関心したように言うと、首を横に振るレドベージュ。
「違う違う。・・・まったく、湖張がそう振るといつもこうだ」
「私のせいなの?」
腰を手に当てて反応する湖張。緊張感が全く無い。その一方でタウンはいつの間にか真剣な眼差しに変わっており、魔物を観察している。
「さて、ぼちぼち仕事を始めますかね」
「手順は?」
タウンの後ろから問いかけるゼン。それに視線を向けずに答えるタウン。
「とりあえず俺にとっては初めての魔物だ。様子を見ながら戦ってみたい」
「それって手出しは無用ってこと?」
横にいた湖張が問いかけると頷くタウン。
「ああ。あ、でもピンチになったら駆けつけてくれよな」
「ピンチなんかにならないでしょ?」
真剣な表情を一時だけ崩して冗談を言うタウンに苦笑いで返す湖張。
そして剣を一本だけ抜き歩き始めるタウン。
そのタイミングでゼンは腰につけていた短い杖を手に持ちタウンに向けるが、彼は左手を上げて顔を後ろに向ける。
「ああ、それもまだいい。純粋にどんな感じかを調べたいんだ」
「そうかい」
ゆっくりと杖を下すゼン。そしてタウンは再び歩き出す。
「何をやろうとしたのですか?」
ラナナがゼンに問いかける。すると彼はニコリと答える。
「ピースに入ってから編み出した新魔法だよ」
「新魔法・・・ですか?」
「もし僕たちも戦闘に入ったら、皆にもかけてあげるよ」
そうやり取りをしている間に、タウンと魔物の距離は狭まっていく。
魔物もタウンの事に気が付いたのか、歩くのをやめてジッと彼を見つめ始める。
「オラァ!」
急に大声を上げるタウン。その声に少し驚く湖張。
「え?いきなり何!?」
一方魔物はジッとタウンを見続け微動だにしない。
次にタウンは腰に下げている小さな袋から小さな球体を取り出す。
「あ、みんな目を閉じて下を向いて」
何かに気が付いたゼンが湖張とラナナにそう促すと、素直に従う二人。
すると目を閉じていても一瞬だけ強い光が発せられたのを感じられた。
「何?何があったの?」
ゆっくりと目を開ける湖張。
するとタウンはジッと魔物の観察をしている姿が目に入る。
そしてゼンが代わりに答える。
「多分、大きい音と強い光に対する反応を調べているんじゃないかな?」
「あー」
納得する湖張。腕を組んでジッと見つめるラナナ。
「なるほど、すぐに戦闘に入らず、調べられることは調べるべきですよね」
「そうだね。僕たちはただ魔物を退治するだけではなく
調べるのも仕事だからね。こういう事には慣れたものさ」
ゼンがそう伝えると、ラナナは小さく頷きタウンをジッと見る。
「少し見習うべきですね」
その言葉に小さく笑みを見せるゼン。
そしてそのタイミングでタウンは再び近づき始める。
「さて、悪いが討伐させてもらおう」
歩みを止め、一本の剣を構えるタウン。ジッと魔物を見つめる。
「両手に剣を持たないんだ」
離れた位置から様子を見つめる湖張がそう呟くと、ゼンが隣で話しかける。
「様子見だからだろうね。でも片手だからって手を抜いているわけでは無いよ。
どうしてもフォーアームズを意識しがちだけれども、アッシャーの技の恐ろしさは変幻自在な動き。片手なら片手なりの強さを見せてくるよ」
「そうなんです?」
湖張がそう聞き終わるのを待っていたかのタイミングで魔物に飛び掛かるタウン。
そして横方向に斬撃を魔物に仕掛けると、剣は簡単に弾かれてしまった。
「お?本当に硬いぞ?」
噂通りの硬さに呑気な素振りで反応を見せるタウン。ずっと真剣を続けることはしないようだ。
しかし今の一撃で魔物は戦闘モードに切り替わったらしく、敵意を向けて突進を仕掛けてくる。
迫りくる魔物。頭頂部を向けて頭突き繰り出すが、
タウンは右足を前方に突き出し真っ向勝負を仕掛ける。
ぶつかる足と頭。お互い軽く弾かれ若干体制を崩すがその場で立ち止まりにらみ合いになる。
「なるほど、確かに攻撃は大した事ないな」
余裕な表情のタウン。そして右手で待ての素振りを見せて魔物に話しかける。
「よし、ちょっと待ってろ」
この魔物に言葉は通じないと思ってはいたが、
声をかけた後に魔物に背を向けて小走りでゼンの下に駆け寄る。
「ちょっと、一体どうしたの?」
戦いを止めて後退してきた行動に理解不能だった湖張が問いかけると、
敵前逃亡をしたことなど気にしない顔で答えるタウン。
「ああ、なんか大した事ないけれども不思議な魔物だから捕獲しようと思ってな。
という訳でロープか何か持っているか?」
湖張に返答した流れでゼンにロープの有無を問いかける。
「いや、さすがに持っていないよ。
それに捕縛したとしても檻もないのに、どうやって持って帰るんだい?」
「赤き聖者の皆様が荷物を浮かせて持っているんだ。応用くらいできるだろ?」
そう言ってラナナに視線を移すタウン。薄い目のラナナ。
「それを当てにして私たちを同行させたのです?」
苦笑いのタウン。
「いや違うって。正直なところ捕獲するなんて予定になかった。
ただその方が色々と調べ易いだろ?どうやったら捕獲して連れて帰れるかを考えたら
ふとその方法が頭に過っただけだ」
腰に手を当ててため息のラナナ。
「まったく。でも納得はしました。そうしたら少し案を練りたいのですが、
その間に逃走されても面白くないので、とりあえず今から深い穴を魔法で掘りますので
そこに魔物を落として逃げられないようにしましょう。それから落ち着いて考えませんか?」
「お、そんな事出来るのか?」
「5分程ください」
そう言うなり地面に手をかざすラナナ。しかしその時であった。
「待って、あれを見て」
何かを見つけた湖張が魔物の方向を指さす。
視線を向ける一同。するとそこには10匹ほどの同じ魔物が近づいてきている様子を確認する。
「おいおい、いつの間に仲間を呼んだんだ?」
タウンはそうぼやくが、焦りの素振りは微塵もなく、余裕の表情である。
「いや、そのような素振りは無かった。音も発してはおらぬ」
レドベージュが救援の説を否定すると、少し考える素振りを見せるタウン。
「・・・なるほど。ではたまたま群が通った可能性もありですか?」
「うむ」
レドベージュの回答を聞くと今度は剣を両手に持つタウン。
「よし、それじゃあ一匹を残して後は討伐だ。
・・・で、良いですよね?」
勢いで全体に作戦を告げた後、レドベージュに確認を取るタウン。
頷くレドベージュ。
「うむ、それで良かろう。あと気を使う必要はないぞ?」
「そうはいきませんよ」
苦笑いを見せるタウン。そしてゼンに話しかける」
「ゼン、出番だ。アレを頼む」
「アレ?」
アレとは何なのだろうと疑問を持つ湖張。
そう思っているなり、ゼンは片手の杖を頭上にかざす。
すると彼の魔法が始まる。
杖の先端から赤い光の玉が発生すると、
そこからさらに小さな光の玉がふわりと出てくる。
そしてそれらは湖張たち全員の体に飛び込んでくるなり、
スッと体の中に溶け込んでいった。
「え?・・・何コレ?力が・・・湧き上がる」
両手を見ながら呟く湖張。光の玉が溶け込んだ途端、
身体が軽く、そして力がみなぎる感覚を覚える。
「強化魔法だよ。身体能力を上げるだけではなく打たれ強さの向上、
毒や細菌に対する免疫力の効果、疲労の軽減、魔法抵抗力の強化など
ありとあらゆる効果があるんだ」
にっこりと答えるゼン。
「これが先ほどおっしゃっていた先輩の新魔法ですか?」
問いかけるラナナ。
「そうだよ。わりと自信作なんだよね」
「確かに、これは凄いですね」
ラナナが関心をしていると湖張も頷いて同意する。
「うん、これは凄いよ。
そして何より、どうやっているのかがさっぱり分からない。
かなり複雑な作りの魔法だね。・・・むしろわざと?」
「え!?」
湖張の分析に驚きの表情を見せるゼン。
「おら、とりあえず状況を落ち着かせるぞ。話はそれからだ」
「あ、ゴメン!」
中々戦闘に入らなかったのでタウンが声をかけると慌てて前進する湖張。
ゆっくりと進み始めるタウンの後ろについて行く。
「複雑な魔法・・・と湖張君は言ったよね?」
その場に残ったゼンは隣にいるラナナに問いかける。
すると湖張を見つめながら彼女は答える。
「はい、湖張姉さまは格闘家なのですが天性の魔法の才をお持ちです。
一度体験した魔法は単純であればすぐに覚えてしまうのですよ」
「なんだって!?」
驚きを見せるゼン。
「でも全部が全部覚えられるという訳ではないようです。
特に複雑な魔法は難しいようです。そう、今の魔法みたいに」
そう言ってゼンをジッと見つめるラナナ。
ため息のゼン。
「まったく、君も同じく複雑な魔法と感じ取れていたというわけだね?
まあラナナ君ならそう感じるだろうと思ってはいたけれども、
まさか湖張君までとはね・・・」
そう言って少しずつ遠のいていく湖張の背中を見つめながら話を続けるゼン。
「この魔法はどんな人でも強化するのだけれども、
その性質上、悪用されると厄介だ。だから誰でも気軽に扱えないように
敢えて複雑な作りにしているんだ」
「ふむ、賢明な判断ではあるな」
解説を聞くと納得をするレドベージュ。その姿をじっと見つめるゼン。
「そう言えばレドベージュ様にも効果はありますか?」
「ある程度はな」
「そうですか!?」
彼の回答に嬉しそうなゼン。どうやら人以外にも効果がある事に喜びを感じたようだ。
その一方で魔物にゆっくりと近づくタウンと湖張。
タウンは後ろをチラリと見た後に湖張に問いかける。
「レドベージュ様は戦われないのか?」
首を横に振る湖張。
「いや、そんな事はないよ。ただラナナとゼンさんは後方支援だよね?
だからもし二人に敵が迫った時に守る役をしているんだと思う」
「なるほどな、ありがたいことだ」
「レドベージュは心配性なお父さんみたいな感じだからね」
「なんだそりゃ?」
苦笑いを見せるタウン。しかしその表情は束の間で真面目な雰囲気にスッと切り替わる。
「一匹だけ残す。なるべく元気な状態でな。後はこの場で討伐だ。出来るか?」
「はいはい、了解」
そのやり取りが終わるなり鉄線を、開き目の前の魔物に飛び掛かる湖張。
斜めに切りかけると魔物は真っ二つとなって倒れる。
「うお!その武器、そんなに斬れるのか!?そんなものを俺に向けていたのかよ!?」
「だから閉じてたでしょ!?そもそも剣も同じだから!私も剣を向けられていたから!しかも2本も!!」
目を大きくして大声で訴えかけるタウンに同じく大きな声で反論する湖張。
相変わらずすぐさま緊張感が解ける戦闘である。
「まったく、おっかねえなぁ。まあ、俺もおっかないけれどもな」
魔物に向かって走り出すタウン。前方には3匹が固まっており、
目の前まで到達するなり低く飛び上がり、地面と体が水平になるような態勢になる。
そして魔物の頭上付近に到達するなり体を一回転させた後に3匹を飛び越えて着地する。
「・・・次だ」
そう言って更に奥にいる魔物に向かって走り出すタウン。彼が次の一歩を踏み出すと同時に3匹の魔物から大量の血しぶきが上がり倒れ込んだ。
(速い!?)
タウンの攻撃に目を見開く湖張。あまりにも鮮やかな攻撃に驚く。
(最小限の動きで3匹を同時に?しかも仕留めるのにも必要最低限の力しか出していない。最初の攻撃で硬さを見極めたとでもというの?それにあんなに速い動き、昨日は見られなかった。やっぱり私との戦いでは手加減をしていたんだ・・・この人、本当に強い)
「おら、動きが止まってんぞ!?元気がないとみなして晩飯を大量に食わせるぞ!?チウルに言いつけるぞ!?」
「はぁ!?何なのそれ!!」
動きが止まった湖張に檄を飛ばすタウン。意味の分からない内容に思わず声が大きめに出る湖張。そして魔物に向かって走り出す。
「私はそんなに食が太く無いの!」
そう言って1匹の魔物の目の前に迫ると強く蹴り飛ばす。
すると硬い魔物の体は宙を舞い5匹が固まっている場所で落下する。
「離れていて!覇王爆炎弾!」
湖張の手から放たれる力の塊。その姿にギョッとするタウン。
思わず魔物に向かうのを止めて身構える。
炸裂する魔法。飛び交う光と轟音。それらが収まる頃には技を直撃した地点は
地面に空いた大きな穴だけになっていた。
「タウンさん、残り1匹!捕獲対象はそれだよ!」
大声で呼びかける湖張。一方タウンは引きつった顔を見せている。
「お前、そんなやばい技を俺に向けたのか!?俺を消滅させる気だったのか!?」
「そんなわけ無いでしょ!ちゃんと加減はしていたって!現に昨日はこんなに強力じゃなかったでしょ!?それより逃がさず捕まえて!!」
やはりここでも緊張感がないやり取りをする二人。
余裕の表れでもある。
「・・・まったく、本当におっかないやつだ」
そうぼやきながらゆるりと残りの魔物に体を向けるタウン。
「何か言った?」
スッと隣に位置する湖張。呆れた顔で彼女に視線を移すタウン。
「何で聞こえるんだよ?」
「あいにく耳は良い方なんで」
「・・・すみませんでした」
素直に謝るタウン。苦笑いの湖張。
「いや、そんな謝らなくても。誉め言葉として捉えておくよ」
「そうかい。チウルとは違って怒られなくて楽だな」
「そういう余計な発言があるから怒られるのだと思うよ?」
そうやり取りをしていると、後方から三人が近づいてくる。
「あっという間に片付きましたね。お疲れ様です」
ラナナがそばに近づくと笑顔を見せる湖張。
「うん、今日は楽な戦いだったかな?あとは捕獲だけだね」
残りの一匹に視線を移す湖張。するとタウンはラナナに話しかける。
「これでさっきの状態に戻ったわけだ。悪いが穴を頼めるか?」
「分かりました」
そう言って近くの地面に手を向けるラナナ。
しかしその時であった、突如地面が激しく揺れ始める。
「え!?何!?」
周囲を見渡す湖張。
「これ、お前の魔法か!?」
「違います!」
慌てて問いかけるタウンに驚きの表情で答えるラナナ。
そうこうしている間に、より強くなる揺れ。地面が割れるような音まで加わってくる。
「何か来るぞ!?」
注意を促すレドベージュ。すると次の瞬間、目の前の地面が盛り上がり
中から黒く巨大な何かの一部分が湧いて出てきた。
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