ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十三話【診療所にて】
- 2021.06.20
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
魔物を倒した後に町の中を改めて見てみると、荒れようは酷いものであった。
大地はえぐれ、家は焼け落ち、そして大勢の負傷者が出ていた。
戦闘に参加していなかったゴルベージュは、視界に入る人たちを治癒した後に消火活動を行っていたらしい。
流石天帝といったところだろうか、火災はあっという間に鎮火されていた。
この何処から手を付けて良いのか分からない状況の中で、一つの問題が解決できたことはせめてもの救いといったところである。
しかしそれでも落ち着ける状況では無く、数多くの負傷者が出ており治療が緊急の課題であった。
町には診療所はあったものの、治癒魔法が使える者はおらず、医者も一人きりでとてもではないが
大勢の治療が間に合う状態では無かった。
そこで湖張達は診療所を借りて治癒魔法による治療を負傷者に施す事になった。
初めに重傷者から治療にあたることにした。
火災があった事、そして何より巨大な魔物が暴れれていた事により想像以上の重傷者が出ており、
深刻な事態の者が少なくはなかった。
4人は手分けをしつつ、時には協力をしつつ治癒魔法を掛けていき、騒然とした状況の中でも
何とか命をつないでいく事が出来た。
ウンバボの治癒魔法を応用したレディーフェを覚えておいて良かったと実感する湖張。
その魔法は大いに役立っていた。
また、ゴルベージュの存在も大きかった。
強大な力を治療に当て、本来ならば助からないような重傷者を一人ずつ着実に癒していった。
同じ永久リビングアーマーであるレドベージュは剣技を得意とする騎士の傾向が強いのだが
ゴルベージュはどうやら魔法使い寄りの存在らしい。各段に治癒する速度が速い。
とは言ったもののレドベージュも流石天将といったところか、
ゴルベージュ程ではないにせよ、次から次へと魔法で治療をこなしている。
そうこうしている間に、重傷者の治療は落ち着き、命に係わる状況からは脱する事が出来た。
しかしそれでも治療が必要な者の数は多く、
現在は診療所内の広い部屋を横長の机で区切り4つの窓口を設け、それぞれが個別に治療に当たっている。
それぞれの列には治療を待つ人が並んでおり、まだしばらくは落ち着けなさそうである。
「はい、次の人どうぞ」
一人の男性の腕のけがを治療した後に次の負傷者に声を掛ける湖張。
まるで医者のようである。
すると、右の頬をタオルで抑えた同世代の娘が今にも泣きだしそうな表情で目の前の椅子に腰を掛ける。
「どうしました?」
顔色を窺いながら覗き込む湖張。すると女性はゆっくりと抑えていたタオルを外す。
するとそこには深く大きな傷が現れる。
「飛んできた破片が当たって怪我をしたのです。
・・・傷痕を残さず治せますか?」
不安そうに問いかける娘。傷を見ると出血は止まっているようだが傷痕に関してはこのままだと残ってしまいそうである。
傷の痛みより傷痕が顔に残る事の方が彼女にとって深刻な問題だと理解が出来る。
「ラナナ、ごめんちょっと良い?」
近くにいるラナナに声を掛ける湖張。すると他の患者の治療を丁度終えたタイミングだったようで
ゆっくりと席を立ち湖張に近づいてくる。
「どうしました?」
不思議そうに尋ねてくるラナナ。すると湖張は目の前の娘を紹介するように指先を軽く揃えて、手の平を相手に向け示す。
「こちらの方なのだけれども、顔に怪我を負っちゃってさ。
傷痕を綺麗にしたいようなのだけれども、お願いしても良い?
私よりラナナの方が綺麗に処置が出来ると思ったからさ」
湖張がそう言うと、心底同情するかのように物凄く悲しそうな表情になるラナナ。
「そうですよね、顔に傷痕が残るなんて絶対に嫌ですよね。
任せてください、絶対に治します!」
そう言うなり彼女は娘の頬に左手を当てる。
そして目を瞑り、集中する様子を見せる。
すると左手が薄っすらと黄色く輝き出す。更には力が溢れているのか、
ラナナの長い髪が小さく浮く様になびき始める。
そして光を患部に当て力を移すような動きを見せると、より強い光を発し続ける。
「もう大丈夫ですよ。確認してください」
穏やかな笑顔を見せるラナナ。そして壁に掛かっている鏡を指さす。
すると怪我を負った場所を手で押さえながら慌てるように鏡に近づく娘。
そして恐る恐る手を外し治療した部分を見る。
「・・・ありがとうございます。ありがとうございます」
その場にしゃがみ込み泣き崩れながら礼を言う娘。
先ほどまで彼女の頬に大きな傷があった事など想像がつかない程に綺麗に治療されていた。
「流石ラナナ。お願いして良かったよ」
湖張が笑顔を見せてそう伝えると、ラナナはニコっとしたと思った途端、崩れるようにその場に座り込んでしまう。
「ちょっとラナナ、大丈夫!?」
慌ててしゃがみ込みラナナの肩に手を添える湖張。
「はい、大丈夫です。
・・・えへへ、思わず力を出し過ぎちゃいました」
そうは言うものの、中々立ち上がらないラナナ。
笑顔も無理に作っている様に思える。
ずっと治癒魔法を掛け続けていた中、全力で治療を行ったので疲れが出始めたようである。
その様子に湖張だけではなく、近くで手伝いをしていた町人や治療の順番待ちをしていた者も騒然となる。
「ふむ、よく頑張ったな。もう休むと良い」
その様子に気づいたレドベージュが近寄ってくる。
「そうだね、休んだ方が良いよ。これ以上はラナナの方が体を壊しかねないよ」
レドベージュの意見に賛同する湖張。するとレドベージュは首を横に振る。
「いや、休むのは湖張もだ。これ以上は潰れるぞ」
「え?でも・・・」
自分も休むようにレドベージュに促されるが、治療を待つ者がまだ行列を作っている。
なのでまだ休めないと感じ戸惑う湖張。
と、その時であった。横から誰かの気配を感じる。
「そうです、貴女様はよくやってくださいました。もう休んでください」
声の主は杖をついた60過ぎくらいの白髪の男性である。
後ろには若い男性を二人連れており、何かしらの発言権がありそうな雰囲気を持っている。
「え?」
「申し遅れましたな。私はこの町の町長でございます。
本来ならば直ぐにでもお礼とご挨拶と思ったのですが、この状況でしてな。
お忙しそうでしたので中々声を掛けられませんでした」
「お礼?」
不思議そうな顔を見せる湖張。
「はい、巨大な魔物を倒してくださり、火災を治め、怪我人を治してくださったではありませんか。
皆様がいなければ、今頃この町は壊滅していたでしょう」
そう言われると腕を組みながら治療待ちの列に目を移す湖張。
「いえ、お礼はまだ早いです。ここにいる方々の治療を終えてからにしましょう」
そう答えると首を横に振る町長。
「いえ、そんな事はございません。
むしろ皆様がこれ以上無理をされて倒れられては申し訳がありません。
ここに並んでいる者は軽傷なのです。
今日のところは我慢をしてもらうよう私から言っておきますので
どうかお休みください」
そう言うと少し怒り気味で反論する湖張。
「駄目ですよ!軽傷でも放っては置けません!」
と、その時であった。レドベージュが湖張の前に手を差し出し静止させるようにして割って入ってくる。
「まあ落ち着くのだ。気持ちは分かるが湖張達が倒れても困る。
ここは我が言ったように二人は休むのだ」
「でも・・・」
「問題ない。我とゴルベー・・・金色とで治療は続ける。
町長が言う様に軽傷者ばかりなのだ。窓口が2つだけでも問題ないさ。
それに正直なところ町長が申し出たお礼とやらを受けたいと思ってはいたところだ」
「え!?」
突然お礼を要求するレドベージュの発言に驚く湖張。
今まで無償の活動ばかりだったので予想外であった。
しかしそのような事は知らない町長は首を縦に振り話を聞く姿勢を見せる。
「はい、今はこのような有様ですので出来る事が少ないのですが、
出来るだけの事は致しましょう」
するとレドベージュは町長に視線を移し要求を述べる。
「そうか、ではまず本日はこの診療所を我らの宿として使わせてもらいたい。
この様な状況だから宿屋を開けてもらうわけにもいくまい。
だが流石に野宿をする準備が無くてな」
そう伝えると強く首を横に振る町長。
「いえいえ、滅相もない!
あなた方の様な恩人をこのような場所に宿泊させるわけにはまいりません!
宿屋を開けるよう指示いたしますので、どうぞそちらに!」
慌てるようにそう申し出る町長であったが、レドベージュは小さく手を上げて制止させる動作を見せる。
「いや、良いのだ。宿屋もこの町の住人なのだ。
この様な状況の中で宿泊客の面倒を見る余裕などあるまい。
それに夜中、急に容体が悪化する者も出てくるであろう。
その様な場合、我らが診療所にいた方が対処が早かろう。
要するに理にかなっているのだ。ここならばベッドもあるしな」
そう伝えると、少し考えた後に頷く町長。
「そうですか、分かりました。本当に申し訳ありませんな」
渋々レドベージュの要求を受け入れた町長。しかしながら安心したような表情から何処となく有難さも感じ取れる。
そんな中、レドベージュは更に話を続ける。
「まだあるのだが良いか?
外で炊き出しをしているであろう?それをこの二人に持ってきてくれぬか?
この町についてからというもの、今まで飲まず食わずでな」
今度は湖張とラナナに食事を提供するように伝えるレドベージュ。
確かに喉は乾いていたのでありがたい要求ではある。
しかしながら再び首を強く横に振る町長。
「これまた滅相もない!
外の炊き出しなど粗末なものをお出しできません!
今から何か作らせます!」
「いや、良いのだ。このような状況でいらない手間は掛けたくない。
外の炊き出しで良いのだ。大量に作った食事は美味しいものだ。
そうであろう?」
途中から湖張に同意を得るように話を振るレドベージュ。
「え?ええ・・うん炊き出しが良いです。良い匂いがしますし。
それに今すぐ食べたいから、もう出来ている炊き出しが良いかな?」
湖張としても変に気を使っては欲しくなかったので、何とか炊き出しにしたい理由を絞り出して伝えると
町長は申し訳なさそうな顔を見せながら、後ろにいる若者に支持を出す。
「今すぐ二人分の炊き出しをお持ちするのだ。
せめて多めにするのだぞ!」
そう指示を受けるなり、急ぎ足で外に向かう若者。この様子だとすぐにでも食事にありつけそうである。
そして更にレドベージュは町長に話しかける。
「では最後の願いだ。
この町で何があったかを教えてはくれぬか?
だが治療を待っている者もまだいる。
我とあの金色は治療をしながら聞くので、そばで話していて欲しい。
とは言ったものの、そっぽを向かれながら話すのもやり辛かろう。
なので我らの後ろに席を用意し、そこで湖張とラナナに食事を取らせながら二人に何があったのかを話して欲しい。
我はその話を聞くとしよう」
その要求を聞くなり、その場に残ったもう一人の若者と顔を合わせた後に机を用意するように指示を出す町長。
「分かりました、他に何かございますか?」
その質問に首を横に振るレドベージュ。
「いや、以上だ。頼めるか?」
「ええ、もちろんでございます」
そうやり取りを終えると、レドベージュはラナナの肩にそっと手を当てる。
「立てるか?食事を取って休むと良い。
落ち着かぬかもしれぬがな」
「ええ、大丈夫です。もう落ち着きました。ありがとうございます」
そう告げるなり、ゆっくりと立ち上がるラナナ。
そして近くの椅子に腰を掛ける。
レドベージュの要求はどれも彼らしい内容のものばかりで、最初に驚いて損をした感じがする。
そうこうしている間に、湖張達の食事が運ばれてきた。
「お口に合うか分かりませんが、どうか召し上がってください」
診療スペースの後ろに用意された席に二人の炊き出しが並べられ案内される湖張とラナナ。
スッとお腹に入りそうな雑炊の匂いを感じると、忘れていた空腹の感覚が目を覚まし始める。
「良い匂いがするね」
「はい」
暖かい食事を口に入れると、不思議とホッとした気持ちになり今まで感じていなかった張り詰めたものがほどけたと気が付く。
どうやら無意識のうちに緊張をしていたようである。
巨大な魔物だけではなく、傷ついた多くの人々を目の当たりにしていたので、当然かと自己完結する湖張。
町長の言う通り粗末な食事なのかもしれないが、暖かく優しい味付けが体に染み渡る感じがし、
一口、また一口と続いていく。先ほどまで感じていなかった空腹がゆっくりと目覚めてきたようだ。
「すみません、やはりお食事は早めに用意するべきでしたね」
黙々と食事を取る姿を見て申し訳なさそうに告げる町長。
その言葉にがっつき過ぎた姿を見せてしまったと少し恥ずかしくなり、ゆっくりとスプーンを置く湖張。
「ごめんなさい、お話・・・ですよね?」
「いえいえ、どうぞ召し上がってください。私は私で、話をさせていただきますので。お代わりも用意いたしますので申し出てください」
そう言うなり、町長は二人に向かって何があったかを語り始める。
またレドベージュとゴルベージュに聞こえるように大き目の声で話す事を心掛けていた。
事の発端だが、突如として魔物が出現した事かららしい。それは本当に不意を突かれたとの事だった。
何の前触れもなく突然地震が起こったと思ったら、急に広場の地面から巨大な魔物が現れたらしい。
その出来事に町はパニック状態になった。そして常駐していた衛兵達が打って出たのだが、
呆気なくやられてしまったそうだ。
しかもその戦闘を機に魔物は大きく暴れ始め、衛兵だけではなく周囲の人までも襲い始めたらしい。
更に不幸は続いたようで、魔物を退治するために衛兵たちが火矢を放ったのだが弾き返されてしまい、
それが近隣の家に飛び込み火災が発生したとの事。町の火災はそれが原因のようだ。
そしてこの状態になってからは成す術もなく町の放棄を覚悟したのだが、そのタイミングで湖張達がやって来たらしい。
ここまでの話を終えたところで、深々と改めて町長から礼を言われる。
ただこのままお礼を言われ続けると、また何か持て成しを提案してきそうではあったので、あえてメーサ教の騎士について問いかけた湖張。
すると快く答える町長。
どうやらメーサ教の騎士は数週間前から訪れていたようで、
布教活動も盛んに行われていたようだ。
その中での今日である。元々、信者が増えれば町を守ると言っていた事もあり、魔物に立ち向かったとの事。
しかしながら無残にも呆気なく弾き飛ばされてしまったらしい。
町にいたメーサ教の騎士は一人だけで、魔物の攻撃により重傷を負ってしまい、助けも来ない中で足を引きずりながら退避したそうだ。
おそらくそれが、湖張達が介抱した騎士に起きた事であろう。
町長自身は胡散臭さを感じてはいたようだが、町民の中には信じ始めていた者もいたらしい。
どうやらこの町にもメーサ教が侵食し始めているようだ。
メーサ教の姿を見た事と、表面が硬かった事もあり謎の巨大な魔物もメーサ教が絡んでいるのではとも思ってはいたのだが、
呆気なくやられたようなので、関連性は薄いと考えられた。
もしメーサ教と関りがある魔物であれば、騎士ならば簡単に対処が出来る相手であるはずである。
なので一応メーサ教の騎士自身にも話を聞きたいところではあるが
まだ目を覚ましておらず、今日は無理な様子だ。
「ふむ、事の流れを大まかに把握する事が出来た。感謝する」
ここまで話を聞くと、治療の合間を見て話しかけてくるレドベージュ。
「いえいえ、このくらいの事でいしたらお安い御用ですよ。
他に何かございませんかな?」
積極的に何か要望を引き出そうとする町長。しかしレドベージュは首を横に振る。
「いや、もう大丈夫だ。お主も疲れたであろう。
立場上、ゆっくりとは出来ぬであろうが休めるときには休むと良い。
これから町の復興があるのだ。長期戦になるぞ?」
労いの言葉を掛けるレドベージュ。すると町長は神妙な顔になり、少し考えた後に問いかける。
「ありがとうございます。
ところで私からも一つ宜しいですかな?
失礼ですが、貴方様は一体・・・?」
(ああ、まあそう思うよね)
心の中でそう呟く湖張。
ただでも魔法生物であるリビングアーマーが町中を歩いているというだけでも珍しいというのに
考えながら喋り、尚且つ相手を思いやる様な発言までする。
更には人々を延々と治療し続け、戦闘もこなしている。
不思議な存在と思われるのも仕方がない事だ。
最初に取り決めをしていたパペットという設定を強引に通すしかないのだが、
上手く行くかどうかが心配である。
また、この件に関してゴルベージュと打ち合わせをしていなかった事がここに来て悔やまれる。
「詳しくは言えぬが、まあ人助けの為に旅をしているだけだ。
深くは考えないで欲しい」
湖張が苦し紛れの説明をする前に、レドベージュが言葉を伝える。
それは要するに詮索するなという風にも聞こえた。
すると町長も理解したのか「分かりました」と答え一礼をし、その場を立ち去る。
どうやら空気を読んでくれたようだ。
「さて、戻るとするか」
そう独り言を言うと、治療待ちの町民の下へ戻るレドベージュ。
大分治療待ちの列は短くはなってきたが、落ち着くまではもうしばらく掛かりそうであった。
<NEXT→>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十四話【夜更けの診療所前】
<←PREV>
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十二話【思い切りの斬撃】
-
前の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十二話【思い切りの斬撃】 2021.06.07
-
次の記事
ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第九十四話【夜更けの診療所前】 2021.06.24