ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第三十八話【毒の理由】
- 2020.09.01
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「はぁ!?何あれ!?」
男性に向かって走っていた湖張は思わずそう声を上げると、男性も虫に気づき声を上げる。
「うわぁぁぁ!しまった!!」
体勢を崩しながらもその場から離れようとする男性。
しかし虫は男性に向かって襲い掛かろうと素早く迫ってくる。
「ひえええええ!!」
悲鳴を上げる男性。断末魔にも近い声を上げるが虫は無慈悲にも襲い掛かってくる。
と、そのタイミングで男性のもとに駆け寄ってきた湖張は虫を全力で蹴り上げた。
「あっちいけー!」
宙を舞う虫。見た目は大きかったが、重量は然程なく思った以上に飛んでいき水の中に落ちていった。
その様子を確認すると、男性に話しかけるために彼の方を向くが、当の本人はその場にはすでにおらず走ってその場から更に離れていた。
「君たちも早く走ってそこから離れるんだ!!早く!」
男性は一度振り返りそう叫ぶと、更に走って距離を置く。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ!」
想像以上の逃げ足の速さで呆気にとられたが、すぐさま追いかける湖張。
レドベージュとラナナも彼を追うことにした。
走り出してから、どのくらい逃走するのか心配ではあったが、
50m程走った後に男性はその場で立ち止まり、息を整え始める。
どうやら湖張たちから逃げる意思は無いようだ。
むしろ三人を待っているような雰囲気すらある。
「えっと、あそこで何をしていたのですか?」
湖張が様子を窺うように男性に話しかけると、彼は少し怖い目つきで話し始める。
「君たちこそ何者なんだい?
ダメだよあそこで声を出しちゃ!」
事情はよく分からなかったが、相手は少し怒っているようだ。
そして見た感じは悪人ではなさそうであるので、少し落ち着いて話をしてみようと考える。
「えっと、ごめんなさい。
実は私たちはこの街に宿泊をしている旅人なのですが、宿屋で飲んだ水に毒が入っているようで
変な味がしているのですよ。それでひょっとしたら池に原因があるのではと思ってここに来たのです」
正直に経緯を話す湖張。すると男性は「あー」と言って頭を掻きながら少し考え事をする。
「そうか、やっぱり味が変なのが分かっちゃうか。濃度をちょっと上げちゃったからかな」
「濃度?」
疑いの眼差しを向ける湖張。すると男性は腕を組んで話し始める。
「いや実はね、何となく察しているのだろうけど、水の味がおかしい理由は自分なんだよね。
というのもさっきのでかい虫を見ただろう?
あれはダイアントという虫で人を噛む事があるんだよ」
「ダイアント?」
聞いたことが無い虫の名前なので、確認するようにラナナを見ると、知らない事を察してくれたのか簡単に解説をしてくれる。
「ダイアントとは水辺に住む虫で泳ぐこともでき、主に魚を食べます。
ただ、巣に近づくと防衛の為に兵隊役のダイアントが襲ってきて・・・あー」
解説途中に何かが分かったのか、ラナナが話をいったん止めると、男性が話を引き継ぐかのように話し始める。
「どうやらそちらのお嬢さんはダイアントについて詳しいようだね。
そのダイアントだけど実はとても耳が良くってね、外敵が近づくかどうかは音で判断しているんだ。
特に人間の声を聴いたら敏感に反応して攻撃してくるんだよ」
「あー・・・」
男性の話を聞いて、何となく先ほどの流れが分かった湖張。
「ひょっとして私が大きな声を出したからダイアントが出てきて、アナタを襲ったという流れですか?」
頭を掻きながら湖張がそう聞くと、頷く男性。
「そう、その通りなんだよ。というのも実はあの給水管の近くにダイアントが巣を作ってしまってね。
それを自分はどうにかしないといけないと考えているんだ」
「どうにかですか?」
男性の言葉に反応したラナナがそう聞くと、男性は一度頷き彼女に説明をする。
「そうなんだ。さっき見た通りダイアントは大きいだろ?なので給水管には入る事が出来ないから、今のところは大丈夫なのだけれども、
実は1~2週間後から産卵期を迎えるんだ。そして更に3週間後には卵からかえり、小さなダイアントが大量に生まれる。
そこで問題が発生するんだ。というのも小さなダイアントだと給水管にも入る事が出来るので街の中にダイアントが侵入してしまうんだ。
そうなると大問題だ。というのもダイアントは人の声を聴くと襲ってくるだろう?
そんなのが小さいとはいえ、街の生活用水の中から湧いて出たら大惨事の始まりだ。
だから産卵期に入る前の今のうちに追い払うため、ダイアントが嫌う毒を巣の近くに撒いていたんだよ。
ただ1週間前から毎日のように撒いているんだけど効果が無くてね。
そこで3日前から毒の濃度を濃くしたんだ。
この毒は原液で飲まない限り人体には影響が無いのだけれど、酸味が強くてね。
濃くしてしまったから舌が敏感な人には味の違いが分かってしまったのようだね。
なるべく水には入らないように気を付けてはいたのだけれども、
ダイアントの巣は水辺の近くにあって、どうしても水に入ってしまったんだよね」
そこまで話を聞くと、どうやらこの男性は悪い人ではなない事がほぼ確定するが、湖張は腰に手を当てて疑問を投げかける。
「なるほど、そういう背景があったのですね。
でも街の衛兵には相談をしなかったのですか?」
その話を聞くと、男性はため息をついた後に頭をかいて答える。
「当然したさ。ダイアントをどうにかしてくれってね。
でもまだ実害が出ていないから動けないんだと。何考えているんだかね。
被害が出てからでは遅いのに」
「そんな・・・」
ラナナが納得のいかないような表情でそう言うと、腕を組む男性。
「まあ衛兵の気持ちも分からなくは無いんだよね。
というのもこの街って活気に溢れているだろう?
それ故に色々と軽犯罪も多くてさ、日々問題で溢れているんだよ。
だからまだ事件が起きていないところにまで手が回らない事も事実なんだ」
「ふむ、それは問題だな」
この街の実態を聞くと、そのタイミングでレドベージュが突然、会話に入ってくる。
新しく喋れる設定を作ったのだが、今まで人前では喋らない事を通してきたので湖張は驚くが、
男性の方が驚き方は上であった。
「な!?え?リビングアーマーが喋った!?」
「あ、ああこの子はリビングアーマーの技術を応用して作ったパペットというからくり人形で、最新技術によって
ある程度の会話も出来るようにしているんですよ!」
慌ててフォローする湖張。すると男性はゆっくりと湖張に視線を移す。
「パペット?聞いたことは無いけど凄い技術なのだろうね。驚いたな」
「ははは」
この様子だと何とかやり過ごせたようだと感じていると、レドベージュは更に話しを続ける。
「街の治安があまり良くは無いのであれば何かしらの対処が必要ではあるが、
今はダイアントをどうにかする事が先決ではあるな。我らで対処をするしかなさそうだ」
そう言うと、湖張とラナナを見るレドベージュ。
「そうだね、じゃあとりあえず私たちでダイアントを退治しようか」
「分かりました。でもどうやります?」
ラナナがそう聞くと、湖張は男性に顔を向けて質問を投げかける。
「あのすみません、巣にいるダイアントって何匹くらいいるか分かりますか?」
そう尋ねられると、少し考える男性。
「そうだね、通常のダイアントであれば30匹くらいかな?
でも具体的な数字は観察をしているわけじゃないから分からないよ」
男性が知識と想像を合わせた上でその答えを出すと、レドベージュは頷きながら話し始める。
「うむ、ダイアントは一つの巣に30匹前後が住み着いていることがほとんどだ。
30匹と仮定して問題なかろう」
その答えを聞くと、湖張は腕を組んで何かを計算しているような素振りを見せた後に軽く頷く。
「うん、その数なら大丈夫かな?よし、倒しに行こう」
そう言って給水管の方に意気揚々と歩いて戻る湖張。その様子を見て慌ててついていくラナナ。
「ちょっと待ってください湖張姉さま。倒しに行くといわれましても、どうするつもりなのですか?」
「どうって・・・おびき出して片っ端から?」
「え?」
何を言っているのか理解が出来ず、変な笑顔で首を傾げるラナナ。一方湖張は彼女の表情にはお構いなしの様子である。
「さっき蹴った感じだと、ダイアントは大した事は無いと感じたよ。
それが30匹程度なんでしょ?多分全部倒せるよ」
「全部蹴り飛ばすのですか?」
「うーん、そこは臨機応変かな?」
湖張がそう答えると、男性が止めに入る。
「待ってくれ、それは危険だよ。
というのも、さっきは一匹だけしか出てこなくて幸運だったけれど、基本的には声に反応して複数のダイアントが襲ってくるんだ」
その話を聞いても、問題ないと言わんばかりの笑顔で答える湖張。
「複数出てくるのでしたらもっと効率よく倒せそうです。まあ任せてくださいよ」
「えええ?」
困惑をする男性。心配そうな表情のラナナ。
そんな事も気にせず自信満々で湖張は進み続け、ついにはダイアントの巣の近くまで戻ってきた。
「何か策があるのか?」
レドベージュが湖張にそう聞くと、彼女は軽く頷く。
「うん、あるよ。ダイアントって人の声に反応して襲ってくるんだよね?
だったら声を出しておびき寄せて順番に倒していけば良いよ。
更にそれが複数のダイアントが出てきたのならば、魔法でまとめて倒せば良いだけ」
「それは策と言って良いのか?」
「良いと思うよ?そもそもダイアントってそこまで強くて危険な虫でもないんでしょう?」
「いや、十分危険だが・・・まあ湖張ならば問題はない相手ではあるな」
「なら大丈夫。変に策を講じるよりは単純なやり方の方が手っ取り早く事が運ぶ時もあるよ」
湖張がそう言うと、レドベージュは少し考えた後に頷く。
「うむ、確かにそうかもしれんな」
その答えを聞くと、体を給水管の方に向けて深く息を吸う湖張。

「おーい!出てきなさーい!!」
両手を口に添えて大きな声を出す湖張。
その様子を見るなり、うろたえる男性。
そして彼の心配通り、5匹のダイアントが給水管付近に開いてある大きい穴から湧いて出てきた。
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