ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百二十九話【研究員の話】

           

木でできた建物の中に入ると、まずそこは広めの空間であった。カウンターの他に6人掛けのテーブルもあり、この場でミーティングもできそうではある。研究所とされてはいたものの雰囲気としては宿屋のような感じではあった。

「ここが研究所なんですね」
窓から光が差し込み、明るい雰囲気の部屋を見渡しながら湖張が話しかけると、研究員の男性は左手を広げテーブルの方に向けて案内をする素振りを見せながら答える。

「ええ、とは言ったもののここは主にグリーンドラゴンの生態を観測するための拠点で研究自体はフィルサディアの研究所で行っているのですよ。要するにここは研究員のための宿泊施設といったところです。お茶を用意してきますので、こちらにかけてお待ちください」
そう告げると奥の部屋に入っていく研究員。その姿を見た後に椅子に腰を掛ける湖張とラナナ。彼を待つ間、何か興味深い物が無いかと周囲を見渡すが、これといったものは無かった。

「宿泊施設と言っていたくらいだから、やっぱり研究所という感じでは無いよね?」
「そうですね。でも奥にはそれらしい物があるかもしれません」
「まあそうだろうけど、だからと言って見に行くわけにもいかないよね」

そんなやり取りをしていると、思ったよりも早く戻ってくる研究員。お盆にコップを載せてゆっくり近づいてくる。表情はにこやかで穏やかな性格なのだろうと再度感じ取る。
「お待たせしました。口に合えば良いのですが」

湖張とラナナの前にお茶の入ったコップを並べると、向かい側に座る研究員。そして話しかけてくる。
「さてと、先ほど傷ついたグリーンドラゴンに襲われたと言っていましたが、どのくらいの大きさでしたか?」
両手を合わせて尋ねてくる研究員。その問いに答えるラナナ。

「そうですね、体長は8メートルくらいでしょうか?」
「そうですか。するとまだ幼体ですね」
「幼体ですか・・・確かにもっと大きくなっても不思議はないですね」
「他に何か気づいた点はありませんか?」
「そうですね・・・人の言葉が通じなかったので知能が高いというわけでは無いようです」

考える素振りを見せながら知っている特徴をラナナが告げると、このタイミングで研究員は目を丸くして驚きの表情を見せる。その表情からただ事ではなさそうな雰囲気が感じ取れた。

「何故グリーンドラゴンが言葉を話す事を知っているのですか?」
「え?」
レドベージュから得た知識を何気なく話したところ、意図しないところで反応してしまった研究員。それに一瞬戸惑ってしまうが、すぐに切り返すラナナ。
「言葉を・・・話すのですか?」
「え?」
逆に質問をするラナナ。その返しに不思議そうな顔を見せる研究員。

「いえ、私は言葉が通じると申したのですが、話すとおっしゃったので。グリーンドラゴンに限らず、知能の高い魔物は人の言葉を理解するものです。コボーニなんかは最たる例ですね。むしろコボーニの場合は会話までできますが」

「・・・」
「なので一般的な話として言葉が通じないので知能が高いというわけでは無いと判断したのですよ」

そこまで話すと、研究員はため息を一つ。やってしまったというような表情を見せる。

「あー、やっちゃいましたね。内緒にしておいてくださいよ。
実はここのグリーンドラゴンの中には人と会話をするものがいるのです。ただそれを公にすると、見に来る人が増えて環境が荒れてしまう事が懸念されます。そこで国では機密扱いにしているのです」
「そうだったのですね。確かにそれは問題です」
小さく頷きながらラナナが答えると、小さくため息をする研究員。

「はい。ですから本当に秘密にしておいてくださいね。それにしても魔物に関して詳しいですね」
一本取られたような苦笑いでそう伝えてくる研究員。それに対して首を横に振るラナナ。
「いえ、魔物は私の専門外ですよ。たまたま知っていただけです」
「どこでその知識を?」
「学校です」
「学校ですか?」
「はい、一応ダラを出ております」
その言葉を聞くなり再び驚きの表情を見せる研究員。

「え!?ダラ魔法学校をですか!?」
「はい」
固まったままラナナをジッと見つめる研究員。しばらくした後、恐る恐る質問をしてくる。

「あの、失礼ですがおいくつですか?」
「16です」
「待ってください、あの学校は15歳からでは!?それに卒業にも早くて4年はかかるはずですよ!?」
「えっと、私は特別枠でして・・・」

そう言いながら懐から小さなペンダントを取り出すラナナ。青く丸い宝石の周りを銀で装飾されており、それなりに高価そうな雰囲気である。
「これはダラを卒業した者に渡されるペンダントです。卒業の証としても使えると思うのですが、いかがでしょうか?」
前のめりになりペンダントをジッと見つめる研究員。しばらくすると姿勢を戻し、椅子に深く座る。

「間違いなく卒業のペンダントですね。驚きました。ちょうど私の知り合いもその学校を出ていまして、同じものを持っていましたよ」
「信じていただけたようで良かったです」
「そういえば知り合いから聞いたことがあります。若干十二歳で入学してきた天才がいるって。それが貴女だったのですね」
「天才だなんてそんな・・・」
困った顔で両手を振って否定の素振りを見せるラナナ。

「ラナナってひょっとして有名人なの?」
横から湖張が聞いてくると苦笑いを見せるラナナ。
「まあ学校では年齢も年齢ですし、特別枠だったこともあるので目立っていた方だとは思いますよ?ですがそこら中で有名というほどでは。あくまで学校の中だけという事ですよ」
そう答えながらペンダントをしまうラナナ。すると研究員は少し難しい顔をして話を再開する。

「少し脱線してしまいましたが、話を戻させてください。ところで他に何か気づいた点はありませんか?というのも、私たちは研究をしてはいるのですが、保護もしているのです。グリーンドラゴンが傷ついていたとのことですので正直なところ心配な内容ではあります」
その言葉を聞くなり、少し申し訳なさそうな顔を見せるラナナ。
「すみません、実はこれと言っては。むしろ何かご存じの事はありませんか?あの傷つきようは気になるのですよね」

すると研究員は腕を組んで難しい顔を見せ答え始める。
「実はここ最近、グリーンドラゴンを狙っている人間がいるようなのです。というのもどうやら素材が目当てのようでして、牙や角、鱗などが取られた状態で狩りをされた形跡が数件発見されています」

「酷い事をしますね」
腕を組んで答えるラナナ。その横で少し考えた湖張が言葉を発する。

「狩り?するとラナナが会ったグリーンドラゴンは狩りに合ったけど、かろうじて逃げる事が出来たから傷ついていたのかな?」
研究員の話から湖張がそう推理すると、頷くラナナ。
「はい、その線は考えられますね。それならば私たちを見るなり襲ってきた事も納得がいきます。きっと人は襲ってくるものと敵認定していたのでしょう」
「ふむ、だとしたら見過ごせぬな」

二人の仮定が真実ならば問題であると感じたレドベージュはそう呟く。
「どうする?」
判断を委ねる湖張。するとレドベージュは研究員に問いかける。

「狩りをしている者について何か知らぬか?」
その問いに対して困った顔を見せる研究員。
「それが実態をつかめていないのですよ。王国の騎士達も動いているようですが、これといった成果は出ていません。ただここ最近、この山に人が出入りしている形跡がいくつも見られます。ひょっとしたらグリーンドラゴンを探すために入り込んでいるのかもしれません」

「ふむ。ではとりあえずこの山を巡回してみるか。何か手掛かりがつかめるかもしれぬ」
「そうだね。まずは足で稼いでみよう」
レドベージュの意見に賛同をする湖張。ラナナも頷いて考えを示す。一方研究員は戸惑った様子だ。

「ちょっと待ってください。相手は何をしでかすか分からないのですよ?危険です!」
「大丈夫ですよ。これでも私たち、腕っぷしは強い方なので」
いつも通りの答えを笑顔で伝える湖張。
「とは言ってもですね・・・」
「大丈夫ですって。今までも色々な魔物と戦ってきていますから。それよりも今はグリーンドラゴンの方が心配じゃないですか。ここは任せてください」

「そうですか・・・ですが無理はしないでくださいね。ご存じの通りグリーンドラゴン自体も敵視してくる可能性があります。危険は人だけではありませんからね」
「はい、これでも引き際はわきまえていますよ」
そう言って立ち上がる湖張。続くようにラナナも立ち上がると研究員にお礼を告げる。

「お茶、ありがとうございました。ご馳走様でした」
「本当に気を付けてくださいよ」
「はい。何か分かったり、それこそ困ったことがあったら、また立ち寄りますので、その時はよろしくお願いします」
「ええ、そうしてください。待っていますよ」
そうやり取りをした後に研究所を後にする一行。扉を閉めるまで研究員の心配そうな表情がずっと続いていたので、少し申し訳なさを感じてしまった。

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