ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百二十八話【山のふもとの家】

           

その後は各々が穏やかに過ごし、何事もなく一日が過ぎていった。湖張は読書に慣れていないせいか、途中で二度ほど昼寝を挟んだものの、何だかんだで本を読み切ることが出来た。レドベージュはその様子に何も言わず、ただ温かく見守っていた感じだ。
一方ラナナは槍の分析をしてはいたものの、あまり成果は上がらなかった。なんとなく前日の疲れが残っていたようなので、集中できなかったことも原因のようだった。なので途中からはユカリをいじって遊んだり、ゆっくりと休憩をしたりと骨休めの日と割り切ることにした。

次の日の朝になると、早々に支度をして出かける一行。十分元気になったと判断し、予定通りグリーンドラゴンがいるとされる山を目指す事にした。

「いやー、やっぱり外は気持ちが良いね」
背伸びをして街道を歩きながら呟く湖張。朝露がキラキラと光る草花が背景にあると、空気がより新鮮に感じられる。

本日は山を探索という事もあり、無駄な荷物は無い方が良いと考え宿の部屋をそのまま借りておいて再びフィルサディアに戻る予定にした。距離もさほど離れていないことから、途中で食べる昼食とちょっとした道具類だけの軽装であった。山登りとはいえ、さほど標高も高くはないのとの事なので、それでも大丈夫と判断したが故であった。

「もうすっかり元気になったようですね」
いつも通りの湖張の様子を見たラナナが嬉しそうに話しかけてくる。
「うん、平気だよ。それにしても熱を出したのは久々だったね」
「でもあのくらいで済んで良かったですよ。こうしてすぐさまグリーンドラゴンの調査に向かう事ができましたし」
「うむ、そうだな」

ラナナがグリーンドラゴンの話を持ち出すと、同意を示すレドベージュ。
「傷ついたグリーンドラゴンに襲われたと言っていたよね?心当たりはあるの?」
何気なく問いかける湖張。それに首を横に振って応えるレドベージュ。

「いや、なんとも言えぬ。ただ、何かが起こっているという事は分かる」
「まあそりゃそうだろうね」
「良からぬ事が起きてなければ良いのだが・・・」
「やっぱり心配?」
「そうだな、天との関係を持つ種族なのだ。気にかけなければならぬ」

そのような会話をしつつ先へ進む一行。そして間もなくすると目的地である山のふもとまで到着をする。周囲はユカリがいた森と同じように薄暗い木々で囲まれており、独特の雰囲気を持っている。
しかしながら、山に向かって草木が生えていない道が続いており人の出入りがある様子が目に入ってくる。

「道がありますね」
「獣道・・・というわけでは無いよね?」
「はい、人の行き来がある道のように思えます」
「この道を進んでみる?」
腕を組んでレドベージュに問いかける湖張。
「うむ、そうするとしよう」
その答えを聞くと、ゆっくりと道を進む一行。道を進むにつれて靴の跡や小川に掛かる小さな橋などがある事から、人が通る道である事は間違いがなさそうである。

「こんなところにも人が来るんだね」
周囲を見渡しながら呟く湖張。
「そうですね。ひょっとしたらこの先にもカテ草を採る場所があるのかもしれませんね」
「ギューギュー」

ラナナの呟きに反応して首を横に振るユカリ。どうやら違うと訴えているようだ。
「この先にはカテ草が無いという事かな?」
「ええ、おそらくは」

身を少しかがめユカリの顔を覗き込む湖張。
「こちらの言葉はハッキリと理解しているようだね」
「ええ、そのようです」
「いっその事、人の言葉まで話してくれれば良いのに」
「そうですね・・・でも話したら話したで何か違う感じがしますね」
「うーん、確かに」

そう話しながら進んでいくと、右手に木造の家が目に入ってくる。一階建てで5、6人でも住めそうなくらいの大きさであった。特に柵で囲まれているわけでもなく気軽に近寄れるのだが、山小屋という誰もが利用できそうな雰囲気でもなかった。

「何だろう、ここ」
早速近づき、不思議そうに見渡す湖張。
「湖張姉さま、あれを」
隣にいるラナナが指さす方向に視線を移す湖張。するとそこには小さな看板で、グリーンドラゴン研究所と書かれている。

「研究所?」
「今の私たちにとって、おあつらえ向きの場所のようですね」
「まあそうなんだけれどもさ・・・気軽に入っていっても良いのかな?」
「確かにアポイントは無しですね」
「それもあるけど、前みたいに妙に強いのが出てくるとかはないかな?」
「あー。そう言えばアールスリーがいたところも研究所でしたね」
「ふむ、そう考えると確かに慎重に動いた方が良いかもしれぬな」
「まあ、あんな感じの研究所の方が稀だとは思うのだけれどもさ・・・」
「ええ、あの施設が特別なだけですよ」

そう話しながら方針を立てられないまま家の前で佇む三人。すると家の中から何かの物音がする。それは人の気配で、徐々に音が近づいてくる。どうやらこちら側に気づいているようだ。

「あーどうしよう?」
少し戸惑いながらレドベージュに視線を移す湖張とラナナ。そうこうしているうちに扉がゆっくりと開く。すると中からは茶色い髪の色をした20代半ばといったところの男性がひょっこりと顔を覗かせてきた。

「・・・こんなところに珍しい。いかがいたしました?」
顔だけを覗かせ、決して体を出さない男性。少し警戒をしているようだが穏やかそうな人に見える。出てくるまではどうしようか迷ってはいたが、こうなってしまった以上、話をすることに腹をくくる湖張。

「あの、グリーンドラゴン研究所という看板が見えまして、ここはどんな事をしている所なのかなと不思議に思っていまして」
そう伝えると湖張をジッと見つめ少し考えた後に返答が返ってくる。

「ここは主にグリーンドラゴンの生態を観測する施設です。この山にはグリーンドラゴンが生息していましてね。その研究と保護を私たちは行っています。これでも一応は王国の施設なのですよ」

話を聞く限り、どうやらここは警戒していたような怪しい施設ではない様子である。寧ろ自分たちの目的の助けにもなるのではないかとも思えるので、更に突っ込んだ話をしてみようと思うラナナ。

「あの、実は私たちは先日、すぐそこの森にカテ草を採りに行ったのですが、その時に傷ついたグリーンドラゴンに襲われました。何とか追い払ったのですが、その事が気がかりで今日はこの山に様子を見に来たのです。何かご存じではありませんか?」
その言葉を聞くなり、研究所の男性は真剣な眼差しになり扉を開け全身の姿を見せる。

「詳しく教えていただけますか?」
「そうですね、カテ草を採り終わったところで、上空から大きな叫び声を上げながらボロボロになったグリーンドラゴンが降りて・・・いえ落下に近かったかもしれません。そして私たちに向かって襲ってきました」

そこまで話した後に左腕のユカリをチラリと見るラナナ。ここでユカリについては話さない方が良いと思う。

「そして何とか殺めないように打撃を与えると、再び飛び去って行きました」
そこまで話すと難しい顔のまま言葉を発する男性。

「そうですか、そんな事が。それにしても打撃を与えて退散させるなんて・・・相当な腕前なのですね。ひょっとしてそちらのリビングアーマーが戦ったのですか?」
レドベージュに視線を移して尋ねる男性。

「そうだな、確かに戦ったが勝因は我以外のもあった。我だけの力では無いな」
突然喋りだすリビングアーマーに驚きを見せる男性。

「これは驚いたな。最近のリビングアーマーは喋るんですか?」
「ああ、ちょっと違います。彼はリビングアーマーの技術を使ったパペットというもので、からくり人形みたいなものです。私たちは彼の動作テストを兼ねて旅をしているのですよ」
慌ててフォローするように話す湖張。

「へぇ、パペットですか。喋るだけではなく、グリーンドラゴンとも戦える程の戦闘能力を秘めているのですよね?これは凄いな」
難しい表情が消え、興味深さを表情に出しながらレドベージュをまじまじと見つめる男性。

「ところで何で傷ついたグリーンドラゴンが降ってきたのでしょうか?何か心当たりはありますか?」
すっかりと警戒心が解けたような雰囲気だったので問いかけるラナナ。するとその質問を聞くなり三人をジッと見る男性。そして扉の中に案内をする仕草を見せる。

「そうですね、立ち話も何ですし良ければ中にどうぞ。お茶でも出しますよ」
「では休憩がてら話を聞かせてもらうとしよう」

やわらかい表情で家の中に男性が入ると、その後に続くレドベージュ。湖張とラナナも彼に続くように家の中に入っていった。

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