ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百二十四話【湖張の病状】
- 2022.02.27
- ピースキーパー赤き聖者
- PeaceKeeper赤き聖者, 小説
「お水を持ってきました!」
宿屋の扉を慌てながら開けるラナナ。部屋の中にはベッドで横になる湖張とその傍らにレドベージュが心配そうに立っている。
熱があると判明してからは急ぎ足で目的地であるフィルサディアまで向かい、すぐさま宿をとり湖張を横にした。
何とか楽な服装に着替えさせた後にレドベージュは診察を行うことにした。その間にラナナは水やその他必要そうなものを急いで集めに出かけており、先ほど返ってきたばかりである。
「どうでしたか?何か分かりましたか?」
出かけていた間に診察をしていたレドベージュに心配そうに尋ねるラナナ。すると小さいうなずきの後に答えが返ってくる。
「うむ、どうやらこの地の風土病に罹患してしまったようだ」
「風土病・・・ですか」
顎に手を当てて考えるラナナ。そして小さく頷く。
「確かにこの症状はそんな感じがしますね。するとカテ草で作った薬が必要になりますね」
「やれやれ、本当にラナナは何でも知っているな」
「そんな事はありません。ただフィルサディア周辺の風土病は有名ですから」
「それでも症状や薬について知る者はこの付近に住むもの以外だと数は減るぞ」
そう言われるとため息のラナナ。
「まあとにかく、今はそのような事はどうでも良いです。今から薬屋さんに行ってカテ草の薬を買ってきますね」
「うむ、すまぬな」
「レドベージュはここで湖張姉さまを見ていてください。この風土病、酷い場合は発作から呼吸困難に陥るケースが稀にあります。その時は・・・」
「大丈夫だ、ちゃんと対策は打ってある。本当に何でも知っているのだな」
レドベージュにそう言われると、今度はため息ではなく、不思議そうな顔でジッと見つめてくる。
「対策?何かあるのですか?」
「む?それは知らないのか?部屋の湿度を高めにしておくことで発作は起こらないぞ」
「え!?」
「そうか、確かにこの知識はまだ人々には広まってはいないのだな。原理はあるのだが、まあ今は良かろう。とりあえず薬が先だ。すまぬが頼めるか?」
そう言われると慌てる事を思い出したかのように扉に向かうラナナ。
「そうです、今はそれどころではありませんでした!行ってきます!!」
普段はこんなに慌ただしく動かないのだが、今は焦りを感じてしまうラナナ。思わず道も走ってしまう。
慣れない場所で薬屋がどこにあるのかさえ分からないのだが、とりあえず駆け回って探すラナナ。普段なら場所を調べてから行動に移すのだが、今は調べる時間が惜しいと感じ、とにかく行動が先になってしまっている。
「あった!」
王都という事もあり巨大な街なので、移動していれば薬屋くらいなら見つかるだろうという考えもあった。その結果、予想通り見つけることに成功をする。
息を切らしながら店内に入ると、短い髭を生やした中年の男性がカウンターでラナナの事を見ている事に気が付く。
「いらっしゃいませ。どうしました、そんなに慌てて?」
ラナナの様子を見て心配そうに落ち着いた口調で話しかけてくる店員の男性。するとラナナは近づきながら注文をする。
「すみません、連れが風土病にかかってしまって。カテ草のお薬をいただきたいのです!」
そう伝え終わるころにはカウンターの目の前まで到達し、勢い余って机に両手をバンッとついて訴えかける。すると店員の男性は申し訳なさそうな表情を見せて答える。
「ああ、そういう事ですか。ですが申し訳ございません。実は今その病が流行っておりまして、カテ草の薬を切らしているのです」
「えええ!?」
「申し訳ございません」
驚いた表情を見せるラナナ。しかしその直後に再び店員に問いかける。
「分かりました、そうしましたら他の薬屋さんの場所を教えてください。探してみます」
すると更に申し訳なさそうな顔を見せる男性。何を言い出すのかが少し怖く感じる。
「ああ、薬屋でしたらこの店を出て右にしばらく行った場所にありますが、おそらくそこにもありません。本当に今、品不足なのです」
その回答を聞くなり唖然としてしまう。広い都なので探し回れば何処かにはありそうな気もするのだが、この話ぶりからすると無くても不思議ではない。またあったとしても供給量が追い付いていないのでふっかけられそうでもある。そう考えると、違う方法が頭に過るラナナ。
「そうですか、そうしたらカテ草が生えていそうな場所はどこでしょうか?直接採りに行きます」
何てことを言い出すのかと言わんばかりの表情を見せる薬屋の店員。そして首を横に振る。
「やめておきなさい。カテ草ならば都を出て一時間ほど南下した山に面した森の中に生えてはいるけれども、そこにはカテ草を守る魔物がいるんだ」
「魔物・・・ですか?」
予想だにしていない事を言われ目を大きくするラナナ。しかし魔物程度で怯むような旅ではないので対峙する事を前提に情報を集める。
「何の魔物なのですか?」
「ユカリだよ」
「ユカリ?聞いたことがありませんね」
聞いたことが無い名前が出てきたので思わず難しい顔をしてしまう。すると店員は腕を組んで更に教えてくれる。
「そうだろうね。体長は3m程で全身が灰色の毛で覆われている。大きな耳と黒くて縦長の鼻が特徴的で、気怠いような目をしている。
カテ草を金儲けの為に乱獲する者に鋭い爪で襲い掛かると言われているんだ」
「乱獲する者に対して・・・ですか?すると乱獲さえしなければ大丈夫なのでは?」
首を横に振る店員。
「そう、おとぎ話通りだとね。でも実際はどうなのかは分からないよ?」
「おとぎ話?どういう事ですか?」
不思議な事を店員が言い始めるので興味がありそうな目で尋ねるラナナ。すると店員は嫌な顔をしないで親身な姿勢で教えてくれる。
「実はこのユカリなのだけれども、元々はおとぎ話で伝えられていた魔物なんだ。
おとぎ話自体は、カテ草は病気の時に使う大切な薬草なのだから大事にしなくてはいけないという内容だ。
その戒めの為にユカリが登場しているのだけれども、実際にその姿によく似た魔物が森の中で発見されてね。それでいて乱獲しようとした小悪党どもをぶっ飛ばしているんだ」
「ぶっ飛ばす・・・ですか」
「そう。なのでユカリの存在は本当だったんだと今では考えられている。でも話の内容が全て真実だとは思われていない。というのも実際の所、ユカリは魔物だろう?乱獲する者とそうでない者の区別なんてつかないとは思えないかい?」
そう尋ねられると、少し考えた後に頷くラナナ。
「確かにそうですよね・・・」
「そう、だからただ単に縄張りに入ってきた人間を襲っているだけかもしれない。つまりはどうなるか分からないんだ。だから薬屋は手提げの籠に入るだけの少量しか収穫をしない。少量ならば短時間でその場を立ち去れるし、もし本当に乱獲する者だけを狙うのであれば狙われずに済むからね」
「つまり収穫する量が少ないのに病が流行ってしまっているから薬不足になっていると?」
「そういう事」
「そしてユカリが襲ってくるかもしれないから行くのを止めた方が良いと?」
「そうだよ。ましてやカテ草が生えている場所も初心者では分からないだろう?滞在時間がいたずらに長くなると襲われる確率も高くなるだろう」
「なるほど、分かりました。ありがとうございました」
そう言うなり頭を下げて店を後にするラナナ。そして早歩きで宿屋に向けて進路を取る。
(ユカリか・・・少し気になるな。)
このタイミングで小走りになるラナナ。急がないといけない気持ちにユカリに対する興味が加わり、すぐにでも森に向かおうという思いが強くなる。
「出かけてきます、レドベージュ!」
部屋に戻るなり扉から数歩だけ入った場所からレドベージュに訴えるラナナ。流石に突然の事だったので驚いた表情を見せるレドベージュ。
「・・・いきなりどうしたというのだ?」
「薬が売り切れていました。どうやら今、風土病が流行しているようです。そこで今から南の森に行ってカテ草を採ってきます!そして謎の魔物、ユカリを見ることが出来たら見てきます!」
端的に現状と今後の方針を伝えるラナナ。急いで帰ってきた勢いが残っており、病人が寝ている部屋にはふさわしくない声量で伝えてくる。すると不思議そうな顔を見せるレドベージュ。
「ふむ、色々と情報を詰め込んできたが・・・まずは薬どころかカテ草が無いようだな。それは仕方がないから採りに行くとしよう。それでユカリか?聞いたことが無い名だな」
「レドベージュもですか!?」
天将ですら知らない魔物という事に驚きの表情を見せるラナナ。心なしか目に輝きを見せた気がする。
「・・・いやちょっと待て。ユカリとはこの地に伝わるおとぎ話に出てくる空想上の魔物ではないか?」
「その話はご存じなのですね?」
「知ってはいるのだが・・・む?そのユカリが森にいるのか?」
勢いよく首を縦に振るラナナ。
「はい、そのようなのです!どうやらユカリに似た魔物がいるとか」
「ふむ・・・」
「なので私は今から森に行ってカテ草を採ってきます。そしてあわよくばユカリを見てみたいなと。あ、でももちろんカテ草が優先です。カテ草を採ったらすぐに戻ります!」
「そうか、では我も一緒に行くとしよう」
「え?」
不思議そうな顔を見せるラナナ。しかしすぐさま静止する。
「駄目ですよ、レドベージュはここにいてください。湖張姉さまの様態が悪化したら大変じゃないですか!」
首を横に振るレドベージュ。
「いや、その心配はない。この様子だと今は熱に苦しんでいるだけだ。発作が起きないようにもしているし問題はないさ。それよりもラナナを一人で森に向かわせる方が心配だ。カテ草も我がいた方が判別がしやすかろうて。それにユカリの事も少し気になる」
そう告げるなり眠りについている湖張の額に手を当てるレドベージュ。
「すまぬが少し出かけてくる。すぐに戻るから大人しく寝ているのだぞ」
扉に向かうレドベージュ。そしてラナナに話しかける。
「休憩はしなくて平気か?」
「はい!」
「では行くぞ。今から向かえば夕方には戻れるであろう」
元気な様子を見せるラナナと共に部屋を出るレドベージュ。扉の鍵を閉めて気になる南の森を目指すのであった。
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