ファンタジー小説「Peace Keeper 赤き聖者」第百六話【計画の準備の為に】

           

ほんの一瞬の出来事だったはずなのだが随分と長い間、ピロペレの攻撃の中にいた気がする。

揺れが収まり、大きな音もしなくなった。ただ明るい場所の中にまだいると感じ取れる。

「湖張!ラナナ!」
心配のせいか力の入った呼びかける声が聞こえる。この声はレドベージュだ。
ゆっくりと目を開けると、そこは草原であった。

「あれ?ここって・・・外?」
先ほどまで曇り空だったのだが、晴れ間が見えており目を閉じたままでも感じていた明るさは日の光のものであった。

「大丈夫か!?問題はないか!?」
心配そうなレドベージュに顔を向け、現状が把握できない事をうろたえながら表現する湖張。
「うん、大丈夫だけれども・・・何で外にいるの?」
「まさか・・・私達は天国に来てしまったとかでしょうか?」

湖張の隣でラナナが心配そうにそう言うと首を横に振るレドベージュ。
「馬鹿を言うでない。二人とも生きておる。
・・・どうやら目も見えて耳も聞こえるようだな。
ゴルベージュがピロペレの攻撃を防いで、我は強烈な音と光、そして目が回らないように揺れを防いだのだ。防御壁の中に防御壁を展開させて大分緩和させたのだが、それでも完璧には防ぎきれなかったな」

安堵を見せるレドベージュ。
「そっか、ありがとう。そうだよね。あんなに激しいものに飲み込まれた場合は攻撃を防ぐだけでは目や耳が潰れちゃうもんね。そっちまで気を配ってくれて助かったよ」

礼を言った後に立ち上がり周囲を見渡す湖張。すると信じられない物が視界に入ってくる。
先ほどまでにいたと思われる山の一部が綺麗に削り取られたようなえぐれ方をしていたのだ。

「え!?あれって今までいた山だよね!?あれ!?え?どういう事!?」
「ここまで飛ばされたのだ」
湖張の疑問に答えるように後ろからゴルベージュが話しかけてくる。
「ピロペレは山の中から強力な光線を放ったのだ。その結果、洞窟を含んでいた部分が一瞬にして消滅してしまい、あのような光景になっている。
光線を浴びた時、あの場所で耐えるより激流に飲まれた木の実のように流されてその場から離れた方が良いと考えてな。
なので防御壁を展開してそのまま飛ばされることにしたのだ。
そしてここに飛ばされ転げ落ちた。それが今だ」

どうやらここにいる理由はピロペレによって吹き飛ばされたかららしい。
話を聞くと、よく無事でいられたと思ってしまう。
するとそのタイミングでラナナも立ち上がり山の方をジッと見つめる。

「ピロペレはどうなったのでしょうか?」
腕を組むゴルベージュ。
「分からん。ただキュベーグの目的はピロペレだったのだ。山の中に埋めたままという事はないであろう。きっと今頃は回収をしているに違いない」

「この荒れようを見ると・・・やはりピロペレの力を利用したいと考えても不思議ではありませんね」
難しい顔で考察をするラナナ。その言葉を聞くとゴルベージュは小さく頷く。言葉には出さないが同意したようだ。そしてレドベージュに話しかける。

「レドベージュよ、私は天に戻る。ピースキーパー計画の準備に入ろうと思う」

「え?」
その言葉に同時で驚きを見せる湖張とラナナ。
ピースキーパ・・・平和を保つ最終手段。それを実行しようというゴルベージュの決断に目を大きく見開く。

「・・・うむ、今回の件は人里から離れた場所だから良いものの、それが町や村・・・下手したら首都の様な場所で起こされたら人の世が傾いてしまう。
盲界が何を考えているのか分からないが、ピロペレを入手したのだ。今後も何が有るのか分からぬ。それが良いかもしれぬな」
ゴルベージュの考えに賛同を見せるレドベージュ。

するとそこで話したいことは終わったようで、ゴルベージュはピースキーパーについての話を止めて、湖張に近づき軍配を目の前に差し出す。

「すまない、お前の団扇を元の姿に戻してしまった。余裕が無い状況だったから私にとって一番使いやすい形状に戻させて貰った」
慌てた様子で首を横に振る湖張。

「あ、いえ!良いんですよ!むしろコレって元々はこんな姿だったのですね?
・・・むしろこのままお返ししましょうか?」
「それはよい。理由は前にも伝えた通りだ。再び人の手に・・・お前の手に戻そう」
「はあ、そうですか」

そう言って両手で受け取る湖張。
そして片手で持ち上げてみると、どっしりとした重みを感じる。

「この状態だと結構な重みがあるのですね」
「ああ、団扇の状態だと軽かったな。もちろん元の形に戻して良いぞ?」
「へ?戻す?」
不思議そうな表情の湖張。

「元々その軍配は使用者が使いやすい形に変えられるように細工をしている。
再び団扇の形に戻す事もできるぞ」
「え?でもどうやって?」
「軍配を見つめ意識を集中し、こういう形になって欲しいと頭に思い浮かべれば良い。思いは力になる。試してみろ」

「え?ええ!?」
ごく簡単な事のように言うゴルベージュに戸惑う湖張。
その様子を見るなり少し考える素振りを見せるゴルベージュ。

「いや、ちょっと待て。別に団扇にこだわる必要も無いな。
湖張よ、この際だ。お前が使いやすい形にしても良かろう」
「私が使いやすい形?」
「そうだ、剣でも槍でも良い。自分に合った姿にすると良い」

そう言われると少し考える湖張。
そしてゴルベージュを数秒間見つめた後に質問をする。

「あの、この軍配の形だと先ほどのゴルベージュ様が使った防御壁の魔法は使えるのですか?」
首を横に振るゴルベージュ。

「いや、別に軍配でなくても使えはするぞ?それこそ剣でも槍でも。ただやりやすさの差は出るな。
あの魔法は自分から発する魔力を軍配に注入して増強し拡散させて展開するのだ。そして展開する際には表面積が広い方がやりやすい・・・つまり表面積が広い軍配が一番効率良く出来るというだけだ。後は使用者にとっての扱いやすさの問題であろうな」

「そうですか・・・。あのすみませんがもう一度だけ、さっきの魔法を見せて頂いても宜しいでしょうか?」
そう言って軍配をゴルベージュの前に差し出す湖張。流石のゴルベージュも少し驚いた顔を見せる。

「まあ良いが・・・面白いやつだな」
そう言って軍配を手に取るゴルベージュ。そして先ほどとは違いゆっくりと防御壁を展開し、10秒ほどで魔法を終える。

「これで良いか?」
そう言って軍配を湖張に返すと、湖張は笑顔を見せる。
「はい、ありがとうございます!」
手に取った軍配を見つめる湖張。そしてその傍らに近づいて来たラナナが話しかけてくる。

「湖張姉さま・・・まさか?」
「うん?・・・まあ多分予想通りの事を考えているよ?」
「出来るのです?」
「さあ?」
そう言うなり軍配を腰に携える湖張。

「とりあえずこの軍配ですがどのような形にするか少し考えてみます。
確かに団扇から違う形に変化させられるのでしたら、私もそうしたい気もします。
でもいつまでに変えなくてはならないとかは無いのですよね?」
頷くゴルベージュ。

「ああ、もちろんだ。ただ我ながらその軍配は黄金に輝くから目立つと思う。
早めに姿形を変えた方が良いぞ?」
「あはは、分かりました」

苦笑いを見せる湖張。その様子を確認するなりゴルベージュはふわりと浮き始める。

「では私は行く。ここでお別れだ。旅の無事を祈っているぞ」
そう言葉を残し、空高くに飛んでいくゴルベージュ。
その姿が見えなくなるまで一行は天を見上げていた。

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